2026年3月14日(土)、15日(日)の2日間にわたって、久留米高専で「第三回 高専マテリアルコンテスト」が開催されました。参加校は、開催地である久留米高専のほか、鹿児島高専、佐世保高専、奈良高専、鈴鹿高専、群馬高専(2チーム参加)、仙台高専の計7高専で、前回から3高専増えました。
高専マテリアルコンテストは、与えられた材料をテーマに沿って加工した試験片を各チームが持ち寄り、材料試験の結果や加工方法等のプレゼンの良さによって競うコンテストです。しかし、本コンテストの最大とも言っていい魅力は、学生や大人(教職員、協賛/協力企業・団体のみなさん)の表情が豊かな点であると、第二回 高専マテコンのレポート記事で紹介しました。
結論から述べますと、第三回 高専マテリアルコンテストもそうでした。材料試験のときはもちろんのこと、昨年に引き続いて実施された安全講習や交流会でも、みなさんのイキイキした表情が見られました。
そういった、ある意味「コンテストらしくないところ」にフォーカスを置いたのが第二回のレポートでした。しかし、それは裏を返せば「コンテストらしいところ」にはそこまで踏み込めていなかった、ということです。そこで今回のレポート記事は、前半で「コンテストらしくないところ」を、後半で「コンテストらしいところ」をご紹介し、“マテコン”のさらなる側面を見出そうと思います。
材料は料理だ! いや、焼肉だ!
第三回高専マテコンで実施される安全講習や交流会は、第二回同様、ただ単に安全を“講習“したり、“交流”したりするものではありません。
安全講習では、群馬高専の高山雄介先生(機械工学科 准教授)が講師を務めました。材料加工における熱処理などはもちろんのこと、材料試験でも危険なポイントがたくさんあります。
今回の高専マテコンで行う材料試験は、「ビッカース硬さ試験」と「シャルピー衝撃試験」です。文字通りビッカース硬さ試験は「硬さ(強度)」を測る試験、シャルピー衝撃試験は「粘り強さ(靭性)」を測る試験で、シャルピー衝撃試験は前回も実施された試験でした。



今回の安全講習では上記2つの試験を安全に行うため、KYT(危険予知トレーニング)のグループワークを、学生・大人混合の9班に分かれて行いました。KYTとは、作業などに潜む危険性を発見し、その解決方法を考えるスキルを高めるために行われる訓練です。「装置の安全」と「使用者の安全」の観点から、2つの試験で危険だと考えられる点をあぶりだし、その対策方法も検討されました。



グループワークの発表では、以下の危険性・解決方法が挙げられました。
ビッカース硬さ試験で、顕微鏡とダイヤモンド圧子を切り替えるときに、試験機のステージ(台)とダイヤモンド圧子が接触して、ステージを傷つけてしまう可能性がある。
→圧子が顕微鏡よりも長くなっていないか注意する。
シャルピー衝撃試験は振り子で材料を破壊する試験なので、材料の金属片などが飛び散る可能性があるが、写真の使用者は特に目立った保護をしていない。
→保護メガネやマスクなどを身につけるほか、長そでのシャツを着ることで、肌の露出を避ける。
→(さらに別グループからの意見として)試験機の方も改良し、振り子の周りを柵で覆うことで、安全性を高める。

シャルピー衝撃試験の写真を見ると、左側にホワイトボードがある。使用者がホワイトボードの足に引っかかって、こけてしまう可能性がある。
→試験中は、周りに不要なものを置かない。
学生による発表を受け、高山先生は「グループで意見を出し合うと、こんなにたくさんの意見が出るんだなと、大変感動しています。事前に私一人でも考えましたが、こんなに思いつきませんでした」と、少々恐縮した様子も見せながら締めくくっていました。

交流会では、「中学生に材料のおもしろさを宣伝するとしたら、どんなアピールをする?」をテーマとしたグループワークが行われ、最後にはポスター発表を実施しました。


グループワークやポスター発表を見ると、特に「材料の加工方法の多様さ」「想像もしていなかった加工結果」「材料が壊れる瞬間の音や、断面の違い」などに着目し、「料理」に例えていたグループが多かったように見受けられます。高専マテコンの参加者のみなさんは、材料への知見が増えてもなお、材料加工の無限のバリエーションに魅了されているのかもしれません。


安全講習や交流会で学生と大人が混じってイキイキとトークを交わすのは、高専マテコンの「コンテストらしくない」シグネチャーです。それは、材料に対して真摯であることから生まれるものであり、ただ笑っているだけではありません。そのような材料愛を抱いた学生・大人が1か所にたくさん集まっているからこそ、この熱量が生まれるのでしょう。
学生たちの試行錯誤が生んだドラマ性と、生まれ始めた歴史
それでは、今度は高専マテコンの「コンテストらしいところ」、つまり材料加工を競う点に注目していきます。今回は、昨年11月頃に材料として与えられたCu添加鋼(0.2C-0.8Mn-0.2Cu-0.03P-0.025S-0.18Si)をマテコンまでに加工し、強度(硬さ)と靭性(粘り強さ)をともに高めることがテーマでした。
現在の世界の鉄鋼業では、CO₂排出削減に向けて「電炉」と「スクラップ利用」へ大きくシフトしていますが、スクラップ利用は環境負荷を抑えられる一方で、銅(Cu)に代表される不純物が混入してしまい、鋼の品質を下げるとみなされていました。しかし、近年の研究により、Cuが鋼の靭性や信頼性を高める方向に働く可能性が示されるようになりました。Cu添加鋼は、材料業界における最前線のトピックスなのです。
では、強度と靭性についてはいかがでしょうか。一般的に、強度と靭性をどちらも高めることは非常に難しいです。ダイヤモンドは非常に強度が高いですが、衝撃に弱くて割れやすい(靭性が低い)のが、その典型です。強度と靭性は「あちら立てれば、こちらが立たぬ」関係であり、基本的には「必要とされる環境に最も適した強度・靭性のバランス」になるように材料は加工されます。そのどちらも限界まで高めることが、今回の高専マテコンでは求められました。

各チームは加工した2つの試験片を用意し、各試験片に対して以下の計算式でポイントを算出します。その結果1位となった試験片のチームが、栄えあるマテコン大賞(1位)となります。
[ビッカース硬さ試験による硬さの値(単位:HV)]×0.7+[シャルピー衝撃試験による吸収エネルギー(単位:J)]+[プレゼンテーション(80点満点)]
ビッカース硬さ試験は、高専マテコン初日に行われました。待機中も、他チームの学生や大人の方々と、試験結果などについて熱心に話し合う場面が見受けられました。


ビッカース硬さ試験の結果は以下となりました。群馬高専Aチームの試験片①が他チームを圧倒する硬さを記録しましたが、奈良高専の試験片②も3位以下を大きく離した硬さを記録しているといえます。

ちなみにですが、群馬高専Aチームと奈良高専は前回とほぼ同じメンバーであり、そのときも群馬高専Aチームが1位、奈良高専が2位と、上位を争っていました。今回のビッカース硬さ試験でもこの2チームが上位になったことから、2日目のプレゼンやシャルピー衝撃試験への注目度は、いやが上にも高まります。
その2日目は、まずプレゼンが行われました。各チームは「Cu添加鋼の高強度×高靭性」のテーマのもと、どのような材料加工を施してきたのでしょうか。チームによって加工方法はさまざまでしたが、主な傾向としては以下の3点が挙げられると思います。
①材料表面を高強度に、材料内部を高靭性にする
多くの高専で採用していたのは、材料そのものを高強度・高靭性にするのではなく、材料表面を高強度に、材料内部を高靭性にする加工方法でした。
例えば、群馬高専Aチームでは、700℃で1週間加熱して脱炭させて空冷したのち、930℃で15分間加熱して表面のみ浸炭させることで、外側は固く、内部は粘り強い試験片①にすることを目指しました。
さらにもう1つの試験片②では、試験片①と同様に浸炭までさせたあと、900℃で5分間だけ加熱して短時間焼入れをし、その後サブゼロ処理を行うことで、①よりもさらに高強度になるように加工。しかし、試験片②よりも試験片①のほうがビッカース硬さ試験の結果が良く、シャルピー衝撃試験の結果も予想に反するのではないかと懸念されていたのが印象的でした。

②前回大会で発表されたアイデアを参考にする
前回の高専マテコンでは材料の強靭化・弱靭化がテーマであり、いかに複数の試験片の靭性差を大きくできるかを競いました。結果、群馬高専が非常に優れた強靭化を実現し、それが優勝に直結したのですが、その強靭化の加工方法は「700℃で1週間加熱して脱炭させて、その後に空冷させる」でした。この方法は今回の(前回とメンバーが同じ)群馬高専Aチームにも引き継がれていたほか、鹿児島高専も同様の加工を行程前半で行っていました。

また、前回の高専マテコンで特徴的なアイデアを見せていたのは佐世保高専の「骨付き肉構造」の試験片でした。これは、靭性を高くした材料(肉)の中に強度を高くした材料(骨)を差し込んだものでしたが、結果は思ったほど良くなかったとのことで、前回終了後すぐに改善点を検討し、焼き嵌めをしようという結論に至りました。
その改良版骨付き肉構造の試験片を②として今回持ってきた佐世保高専。今回のトレンド「表面を硬く、内部を粘り強く」とは真逆になりますが、「試験片②については、勝負のことは全く考えなかった」とプレゼンしており、自分たちで考えたアイデアに対する執念を感じる一幕となりました。

そんな群馬高専による1週間の熱処理、佐世保高専の骨付き肉構造に着目した高専があります。それは、前回も出場していた奈良高専です。
「NeBar・Give in」と名付けられた奈良高専の作戦は、550℃で1週間焼きなましてネバネバにした棒状の材料(NeBar)を、888℃で加熱したあとにフラーレンを用いて浸炭させたスリーブの穴に挿す(Give in)ことで、外側は固く、内側は柔らかい試験片を目指すというもの。それが試験片①でした。ちなみに、試験片②は生材を同様に焼きなまし、Give inせずに浸炭させたもので、結果、ビッカース硬さ試験では試験片②の方が良い値を出していました。

加工する材料は前回と異なるものの、前回で良さそうだった加工方法を参考にしている点において、高専マテコンの継承の意義と、学生同士による切磋琢磨が感じられました。


③Cu(銅)が添加されていることへのアプローチの難しさ
今回与えられた材料はCu添加鋼でした。この「添加されたCu」に対してどのようなアプローチをとるのかが注目ポイントでしたが、苦戦しているチームが多く、Cuのことをあえて考慮せずに加工方法を検討しているチームも見受けられました。
Cuへのアプローチとして最も多かったのが析出硬化です。析出硬化によって表面を硬くしようとしたり(佐世保高専、奈良高専)、表面に析出した銅を折り返し鍛造によって材料内部に入れ込んでみようとしたり(久留米高専)、銅の析出を制御してみようとしたり(鹿児島高専)と、最適な加工方法を探るためにさまざまな検討が行われていましたが、いずれも採用には至らず。高専マテコン終了後、Cuをどう扱えばよかったのか引き続き思案している高専生がいらっしゃるかもしれません。

このようにさまざまな加工方法を検討したうえで、各チームは最適だと考えられる加工を施してきました。その結末は、最後のシャルピー衝撃試験に委ねられます。
シャルピー衝撃試験でまず注目されたのは、強度を測るビッカース硬さ試験で最も良い結果を収めた群馬高専Aチームの試験片①でした。「あちら立てれば、こちらが立たぬ」関係である強度と靭性。その靭性はどうなるのかと固唾を呑んで見守る試験会場で出された結果は「17J」。値としてはかなり低く、強度と靭性を高い水準で両立させることの難しさが感じられた瞬間でした。

しかし、群馬高専Aチームの試験片①の強度の結果が非常に良かったことから、2つの試験結果の合計を超えるチームはなかなか出てこず、シャルピー衝撃試験のトリまで行き着きました。トリは、ビッカース硬さ試験で2番目に良い結果を収めた、奈良高専の試験片②です。

結果、奈良高専の試験片②は「219J」という、全体で3番目に高い靭性を記録。プレゼンの結果はまだ発表されていませんが、試験結果2つだけを見たら奈良高専がわずかに上回る形になりました。強度と靭性でどちらも上位の成績を残した奈良高専のマテコン大賞の可能性が高くなりました。



ここで、各チームの2つの試験結果の相関を表したグラフを以下に示します。

審査員のお一人である国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)の津﨑兼彰先生からの講評によると、高専マテコンの協力企業である山本科学工具研究社の標準試験片よりも、各チームの加工材料の方が試験結果が上回っていたそうです(ただし、標準試験片は室温0℃での結果、各チームは室温21℃での結果であることには注意するべきともおっしゃっていました)。各チームの努力が成果としてしっかり表れたことになります。

そして、プレゼンも含めた最終結果は、マテコン大賞が奈良高専、優秀賞(2位)が群馬高専Aチームとなりました。その得点差は、たったの7点。ギリギリの戦いとなりました。そんな奈良高専の表彰式でのコメントが以下です。
昨年が2位という悔しい結果だったので、今年は絶対に1位を取るという気持ちでやってきました。本当に嬉しいです。初日の群馬高専Aチームのビッカース硬さ試験の結果を見て「勝つのは無理かも」と思ってしまった瞬間もありましたが、僕らにはプレゼンがあると、初日の夜中までずっと練習した甲斐がありました。本当にありがとうございました。

奈良高専のコメントに「昨年が2位という悔しい結果だったので」という言葉がありましたが、これは3回開催したからこそ生まれ始めている歴史といえるでしょう。悔しさから生まれる執念、あるいは怨念めいた感情は、「あちら立てれば、こちらが立たぬ」材料加工に通じるものであり、技術者としての根底に流れる大きな信念の形成につながるかもしれません。今回の高専マテコンは、「受け継いでいくこと」を感じる場面がいくつもあったように見受けられます。
また、高専マテコンは、試行錯誤しながら加工した材料が本当に目論見通りの試験結果になるのかを確認する場でもあります。プレゼンや、ビッカース硬さ試験・シャルピー衝撃試験での学生の反応を見る限り、おそらく目論見通りの結果を出した高専は少ないように思われます。交流会で「知りたくば食らえ‼」というポスター発表がありましたが、思っていた焼肉ではなかったということです。そこから新たに生まれる「肉を完璧に焼きたい」という感情もまた、材料工学の明るい未来に向けた重要な想いになるはずです。
次回の高専マテコンは、第一回から3年連続で開催された久留米高専から場所を移し、群馬高専で開催予定です。

<取材後記>
第三回高専マテコンから1週間経った3月21日(土)と22日(日)、九州大学伊都キャンパスで「ワークショップコレクションin福岡2026」が開催され、多くの企業が出展されている中、久留米高専 材料システム工学科も出展されていました。

子どもたちの想像力や表現力を刺激する独自のワークショップが集まった博覧会イベント「ワークショップコレクション」。当日は多くのお子さん・保護者が来場されており、久留米高専のワークショップにもたくさんの方が訪問されていました(2日間合計で516名のお子さんが参加)。
そんな久留米高専のワークショップでは、高専マテコンで作成したポスターや、吉利先生が作成されたミニチュアのシャルピー衝撃試験機がさっそく展示されていました。


また、異なる5つの金属棒の重さの違いを体感するコーナーや、何の顕微鏡写真なのかを当てるコーナー、ハサミ・釘・パチンコ玉の金属表面を顕微鏡で観察して違いを実感するコーナーなどがあり、子どもたちが没頭しながら取り組んでいました。それは保護者も同様で、「お父さんの方が勉強になったわ」と、子どもに語り掛ける場面もありました。
シャルピー衝撃試験機を前のめりに見たり、顕微鏡のピント調整のつまみをゆっくり回したりする子どもたちの姿は、どこか執念や「知りたい気持ち」の萌芽を感じます。高専マテコンのスピリットがワークショップなどの高専外に伝播し、お子さんたちにつながっていく。材料の楽しさは、決して学生・大人だけが享受するものではないことを改めて実感したイベントでした。

○イベント情報
【第三回 高専マテリアルコンテスト】
開催日:2026年3月14日(土)、15日(日)
場所:久留米工業高等専門学校
参加高専:久留米高専、鹿児島高専、佐世保高専、奈良高専、鈴鹿高専、群馬高専、仙台高専
主催:高専マテリアルコンテスト企画委員会
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