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工学で地域課題に挑む。沖縄高専の実践教育が生み出す「地域創生」のかたち

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沖縄高専の専攻科では、学生が地域へ出向き、課題を見つけ、工学的なアプローチで解決に挑む必修科目「創造システム工学実験」が行われています。子ども支援、伝統文化の継承、観光、福祉、リサイクルなど、多様なテーマに取り組む中で、学生たちは何を学び、地域にはどのような変化が生まれているのでしょうか。

今回は、取り組みをコーディネートする神谷康弘先生(写真左)と、そこに関わる学生の代表として、専攻科2年の市村日喜さんにお話を伺いました。

沖縄高専の専攻科が地域で育む、実践型の学び

―まず、沖縄高専の専攻科で行われている「創造システム工学実験」の全体像を教えてください。

神谷先生:沖縄高専の専攻科に「創造システム工学実験」という授業があります。地域に学生が直接出向き、現場の困りごとを聞いて、その課題を工学的なアプローチで解決していく実践型の授業です。アイデアを出して終わるのではなく、できれば社会実装まで行って、「困っている人たちを工学の力で支える」ことを目指しています。

学生にとっては負荷の大きい授業ですが、地域課題と向き合いながら、提案から実装、発表まで一連のプロセスを経験できる点が大きな特徴です。

―かなり本格的ですね。授業としては、どのような位置づけなのでしょうか。

神谷先生:専攻科の必修科目です。前期のみの、期間としては約半年間ですが、週4コマあり、専攻科の学生30名ほどが4、5チームに分かれて役割を決め、それぞれが地域の課題に対して知恵を絞って取り組み、最後は発表まで行います。

現在、課題となるテーマは4つほどですが、1つのテーマの中でも課題は本当にたくさんあります。その中から半年で取り組めるものを見極める必要があって、そこがこの授業の難しさの一つです。学科横断型なので、学生はそれぞれの専門性を持ち寄りながら一つの課題に向き合っていきます。

―具体的にはどのようなプロジェクトに取り組んでいるのでしょうか。

神谷先生:例えば、オリオンビールさんの製造工程で出る麦芽や酵母の残渣(ざんさ)を活用した商品開発、虫歯の多い子どもたちの口腔ケアのためのアプリ開発、特別支援学校で使う教材づくり、廃プラスチックを使ったアップサイクル企画、そして沖縄の伝統船を後世に伝えるためのサバニプロジェクトなどがあります。

▲これまで「創造システム工学実験」で取り組んできたプロジェクト

テーマはそれぞれ異なりますが、共通しているのは、地域の困りごとを丁寧に拾い上げて、学生が自分たちの専門を持ち寄りながら実装の形を探っていくことです。

―この授業は、神谷先生が個人で関わってこられた名護子ども食堂や学習支援の活動ともつながっているとお聞きしました。どのような経緯だったのでしょうか。

神谷先生:はい。もともとは2015年ごろ、私個人が名護市で始まった子ども食堂に関わるようになったのが一つの出発点でした。

内閣府「沖縄のこどもの貧困対策に向けた取組」によると、沖縄県の子どもの相対的貧困率は、平成27年(2015年)度時点で全国平均13.5%に対して29.9%と、約2.2倍の数字でした。平成28年度からの取り組みなどにより、沖縄の子育て世帯に占める困窮世帯の割合は、令和6年度には29.9%から21.8%まで改善したものの、沖縄県の子どもたちを取り巻く状況は依然として厳しいとされています。1人当たり県民所得は全国で最も低く、母子世帯の割合は全国で最も高い状況です。

実際に現場に入ってみると、食の支援だけでは解決しきれない、複雑な課題を抱えた子どもたちがいることが見えてきました。これは個々の家庭だけの問題ではなく、地域全体で向き合っていくべき課題なのだとあらためて実感したんです。

一方で、私自身は地元企業や団体と連携した企画にも携わっていて、その中で沖縄を代表する飲料メーカーであるオリオンビールの限定商品のプロジェクトに関わる機会がありました。地元市民も巻き込んだ地域活性化の取り組みです。そういった取り組みを通して「いいものを作るだけではなく、どう社会につなげていくか、どう届けるかまで考えることが大事だ」と考えるようになりました。

▲名護市の地元有志とオリオンビールが連携し、名護市の魅力を詰め込んだビールを開発・販売する地域活性化プロジェクト「75BEERプロジェクト」の様子

こうした子ども支援の活動と、地域活性化にまつわる一連の活動に沖縄高専側が関心を持ってくださり、専攻科の授業で何かおもしろいことができないか、とご相談をいただいたのが、私がこの授業に携わるようになったきっかけです。

そして2022年に、「創造システム工学実験」の授業のテーマとして、「地域の子どもたちの課題」への取り組みが本格的にスタートしました。沖縄高専の学生たちが学んでいる工学の力を、困っている子どもたちや地域のために生かせないか——子ども支援の現場で見えてきた課題意識と、地域と連携しながら実践を組み立てる視点がそこでつながりました。

―子ども支援の活動を起点に、伝統や観光といった地域課題にも取り組みが広がっていったのですね。

神谷先生:そうですね。子どもたちの学習支援として一緒に沖縄の本物の伝統に触れていく中で、今度は伝統文化の存続にも課題があると分かってきました。担い手の高齢化が進み、継ぐ人がいない。そこで、伝統を守ることと、観光や福祉をどう結びつけるかという視点が出てきました。観光の収益を暴力を受けている子どもたちなどの支援につなげられないか、といった発想もそこから生まれています。

地域課題は一つずつ独立しているわけではなくて、実際には複合的に絡み合っています。その複合性に、学生たちが向き合う授業になっていったということですね。

授業を通して見えてきた地域とのつながり

―今回は、実際に「創造システム工学実験」に取り組んだ専攻科生の市村さんに来ていただきました。市村さんが関わったプロジェクトについて教えてください。

市村さん:私は2025年度に「サバニプロジェクト」のリーダーを務めました。専攻科に入った当初は、正直、この授業で何をやるのかよく分かっていなかったのですが(笑)、4つほどテーマが提示され、その中からこのプロジェクトを選びました。

サバニは沖縄の伝統的な木造船で、担い手不足や継承の難しさといった課題があります。私たちのプロジェクトでは、それを観光や教育、子ども支援と掛け合わせながら、伝統の継承と子どもたちの学びの両方につなげられないかを考えてきました。

具体的には、VRでサバニ体験を作って、子どもたちに安全に魅力を伝えたり、そうした体験をどう地域の収益につなげていくかも含めて、数年間にわたって取り組みが続いています。私はその流れを引き継ぐ形で関わりました。

▲「創造システム工学実験」で実践した内容の引継ぎの様子。先輩から後輩に向けて話し合い

―市村さんご自身の専門は、もともと観光や教育ではないのですよね。

市村さん:はい。私の所属は生物資源工学コースで、普段は亜熱帯の資源や生物を活用して、人の健康や環境問題にどう役立てるかを学んでいます。研究としては酵素を扱っていて、観光や教育、情報分野は専門ではありません。ただ、この授業では「その課題に対して何ができるか」を考えて、必要であれば専門外のことにも手を動かしていきます。そこがすごく特徴的だと思います。

▲研究中の市村さん

各テーマの中で私がサバニプロジェクトを選んだのは、以前から続いている取り組みで、ある程度ノウハウも蓄積されていると聞いていたこと、そして何より子ども支援に関われる点に惹かれたからです。私自身、子どもの頃に支援を必要としていた時期があったので、何らかの形で子どもに関わる活動をしたいと思っていました。

―実際に子どもたちと関わる中で、印象に残っていることはありますか。

市村さん:すごく印象に残っているのは、自分にとっての当たり前が、相手にとっては当たり前ではないと気づいたことです。帆づくりの作業で、「“ブルー”と書かれた段ボールから青いシールを持ってきて」とお願いしたことがあったのですが、その子にとっては文字の“ブルー”と色の“青”が結びついていなかったんです。そこで初めて、「私が普通に伝わると思っていることは、必ずしもそうではないんだ」と実感しました。

自分が当たり前だと思っていることを、そのまま当たり前として押しつけない。その子がどこでつまずいているのか、何が苦手なのかを見ながら、背景も含めて理解しようとするようになったと思います。そうやってギャップを少しずつ埋めていくことは難しかったのですが、同時に大きな学びになりました。

▲サバニの帆の制作に向けて、子どもたちも交えて打ち合わせ中

―この授業を通じて、市村さんご自身はどんな成長を感じましたか。

市村さん:大きく三つあると思っています。一つは、多様なステークホルダーと調整する力です。自治体や企業の方と関わる中で、こちらの取り組みや目的をどう伝えるか、どんな段取りで進めるかを常に考えるようになりました。スケジュールマネジメントも含めて、プロジェクトを動かす力が身についたと感じています。

二つ目は、発信の力です。フォーラムやコンテストで発表する機会が多かったので、どうしたら相手に伝わる資料になるか、どのくらいデータを入れて、どのくらい伝えたい背景やメッセージを前に出すかを考えるようになりました。

三つ目は、地域を自分ごととして捉える感覚です。私は沖縄県民なのに、このプロジェクトに関わるまでサバニのことをよく知りませんでした。ですが、活動を通して地域の文化に触れ、自分が暮らす場所への愛着が強くなったと感じています。

▲出来上がった伝統船(サバニ)の進水式

学生と地域が支え合う中で生まれる変化

―神谷先生から見て、学生たちが関わることで、子どもたちにはどのような変化がありましたか。

神谷先生:子どもたちの変化はかなり顕著です。やはり年齢の近い高専生や大学生の存在は大きくて、子どもたちにとって“少し先の自分”を想像できるロールモデルになっています。

学生たちは遊びの中に自然と学びを入れていくのが上手で、「勉強」と言うと逃げてしまう子でも、しりとりや工作、科学の話などを通して少しずつ興味を持つようになります。そうしているうちに、「どうしたらお兄さんやお姉さんのようになれるの」「どうやったらそういう仕事に就けるの」といった問いが出てきて、学びへの意欲につながっていくんです。

▲サバニの帆をこども達と作っている様子

最近では、週1回の活動だけでなく、土曜の勉強の時間に来る子も増えてきました。学校に行けるようになった子もいます。私たちは「学校に行きなさい」と直接言うことはありませんが、勉強が少し分かるようになると、子どもたちにとって学校で過ごす時間が少し違ってくるんです。これまで積み重ねてきた中で、そうした変化は確実に増えてきていると感じます。

―最後に、この取り組みを通して、学生に持ち帰ってほしいことを教えてください。

神谷先生:やはり自分たちが学んできた専門性が、社会の中で誰かの役に立つのだと実感してほしいですね。高専に限らず、学校での学びは、どうしても教室や実験室の中で完結してしまう面もあるのですが、実際には地域に出たときにこそ、その知識や技術が意味を持ちます。

この授業では、学生が地域の人々と向き合いながら、「自分には何ができるのか」を考え、形にしていきます。その経験を通して、学問は成績のためだけにあるのではなく、自分が社会とつながるためのものだと感じてもらえたらうれしいです。

▲帆船の帆をどのように作るか、学生同士で打ち合わせ

―地域にとっても、学生にとっても、互いに学び合う関係になっているのですね。

神谷先生:そうですね。沖縄の子どもたちを取り巻く課題はとても大きく、一つの授業や一度の取り組みだけで解決できるものではありません。果てしない目標ではありますが、だからこそ地域の方々の深いご理解とご協力、そして学生たちが真剣に関わってくれることに、私自身も本当に支えられています。

学校の外に出ることで、学生はそれまで見えていなかった社会の姿に出会います。一方で地域の側も、学生たちの力や可能性に出会う。そのつながりを大切にしながら、この取り組みを通して、少しずつでも子どもたちや地域にとってプラスになるものを返していけたらと思っています。

同時に、地域のために一生懸命取り組んでいる学生たちの姿も、ぜひもっと多くの方に知っていただきたいです。工学の力によって、自分だけでは抜け出せない状況にいる子どもたちへの支援の手が、少しでも広がっていくように。こうした地域ぐるみの取り組みと、そこに真剣に向き合う学生たちの姿が、より多くの方に伝わればうれしく思います。

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