日本の高専生と同様に5年間の教育を受け、技術者として社会に羽ばたくモンゴル高専生たち。社会のグローバル化と同様に、高専のグローバル化も進展しています。今回は先日オンラインで行われた、日本企業向けモンゴル高専セミナーでの内容をギュッと凝縮し、「モンゴル高専はこんな高専なのか!」となるよう、みなさんの疑問を一緒に解決していきます。
海外で注目される「KOSEN」
高専といえば、中学卒業後の進路のひとつとして、社会的認知も近年では徐々に広がっているでしょう。また、早期段階から専門的な教育を受けて卒業する高専生は、「技術者」として日本産業界を支える担い手として活躍しており、それは企業からの需要をみると明らかです。
他の教育機関とは特異な存在の高専ですが、このような「日本型高等専門学校の教育制度(KOSEN)」は、国内だけにとどまらず、海外にも広がりを見せているのはご存じでしょうか。
今回ご紹介するのは、海外で展開されているKOSEN教育のうち、モンゴルの高専です。「モンゴルの高専ってどんな学校?」「日本の高専と何が違うの?」「そもそも、どうして海外に高専が?」など、疑問に思うことも多いでしょう。
ですので、本記事を通して、モンゴル高専のことや日本の国立高等専門学校機構(高専機構)の取り組みを深く知れるよう、魅力をお伝えしていきます。なお、今回のセミナーは新モンゴル高専のツェンデスレン校長と、高専機構の茶山さんにお話しいただいています。
日本との歴史から見る、モンゴルに高専ができた理由
―モンゴルと日本の関係性とは?
モンゴル高専について説明する前に、まずはモンゴルという国について少し説明したのち、どうしてモンゴルに高専を設立する必要があったのか、についてお話しいたします。
モンゴルと日本の間で活発に交流が行われるようになったのは、1990年代に遡ります。モンゴルでは1980年代の終わりから1990年以降にかけて、それまでの社会主義体制をやめ、民主主義へ移行する動きがありました。
そんな中、国として「技術者」を育てようという意識が高まっていきました。その1つの方法としてあったのが「若者の海外留学を通した専門技術の習得」でした。日本とモンゴルは1972年に外交関係を樹立しており、文化や教育を通して交流を行っていたので、そのモンゴルの若者の留学先として人気の高い国の1つが日本だったのです。
こうして、モンゴルの若者が日本で教育を受け、帰国後に国の産業に従事していくという構図が出来上がりました。立派な技術者となった若者たちは、その後の国を引っ張っていく重要な人材となっていきます。
―両国の協力で、日本式高専をモンゴルにも!
国として着実な成長を見せていく中、モンゴルに高専をつくろうという動きが見られるようになったのは2009年のことでした。日本への留学経験者が実践的技術者の育成を教育理念として掲げている高専に魅力を感じ、モンゴルと日本が協力し合うため、「モンゴルに日本式高専を創る支援の会」が設立されます。
そして2014年9月、ついにモンゴル初の高専「モンゴル科学技術大学附属高専」「モンゴル工業技術大学附属高専」「新モンゴル高専」の3つが開校しました。これらの高専は日本の高専と同様、技術者の育成にフォーカスして教育を行い、2019年に初の卒業生を輩出し、以後、これまで合計で約400名が卒業し、2023年6月には第5期生が輩出されます。
より高い水準の教育を学生たちに
―高専機構がモンゴルにリエゾンオフィスを開所
モンゴルと日本、双方の尽力の末に開校された3つの高専ですが、日本の高専の教育システムと同様の学校をつくって完成というわけではありません。日本での高専教育と同じ水準の教育を行い、同じ質の学生を育てるためには、さらなる努力が必要となります。
高専機構では、2016年にモンゴルのリエゾンオフィスを開所し、より高い水準の教育を施すため、両国での交流を通して様々な取り組みが行われてきました。
現在のモンゴル高専の支援体制としては、協力支援幹事校を中心に、協力支援校が全国に存在しています。協力校の教員がモンゴルの高専へ出向き指導支援を行ったり、反対にモンゴルの高専教員が日本の高専教育を学びにきたりすることで、日本式高専教育を伝えているのです。
―支援の内容
日本の高専の大きな特徴は、教育課程の中で理論と技術を同時に学ぶ場であるということでしょう。このような姿勢は工業高校にも大学にもない、高専という高等教育機関ならではのことです。
これらの特徴をモンゴルの高専にも反映させるため、高専機構では、授業、実験実習の実施方法の改善に向けた指導等の教育研究力の高度化のための支援を行っています。また、教育面だけにとどまらず、学生の国際交流の促進、キャリア教育支援等も同時に目指しています。
日本の高専では、どの学校にも学生の進路をサポートする体制が整っていますが、モンゴルでは異なります。一般的にモンゴルの学校は教育のみが求められるため、キャリアについては“学生自身で”決定していかなければならないのです。
高専機構では、支援目標の中に学生のキャリア教育まで組み込むことで、モンゴル国内の高等教育機関とも異なる、「高専ならでは」の教育を実現しています。このことは、学生たちの進路希望にも反映されているのではないでしょうか。
広がりつづけている、学生の選択肢
―卒業生の進路について
これまで、モンゴルに高専が設立された経緯や、高専教育での取り組みについてお話ししてきました。そのような高専を卒業した学生は、どのような進路を選択しているのか見てみましょう。
近年ですと、モンゴル国内での大学進学者が20%、就職者が40%、日本の大学や高専の専攻科への進学者が若干名、日本企業への就職者が25%、その他進路未定者が15%となっています。モンゴルの高専を卒業した後、日本に来る学生の割合の高さに驚く方も多いのではないでしょうか。実際、日本企業への就職希望者は、全体の50%を超えています。
それほど、モンゴルの高専生は日本企業に対し魅力を感じているのです。学生たちは、高専時代に培った技術を活かす場所を求め日本にやってきます。そしてその多くが、日本での就労環境の良さから、従来の予定よりずっと長く日本で働いています。
―日本での就労を可能にする「技人国」
日本企業への就職を希望しているモンゴルの高専生たちは、特別な技術や知識を必要としない「技能実習」ではなく、基本的に「技術・人文知識・国際業務」の在留資格での就職を目指しています。
この在留資格は、「技能実習」の在留資格と異なり、大学や高専などの高等教育機関を卒業した外国人が、自身の有する技術・知識を必要とする業務につき、日本人と同等以上の報酬を受けること等の条件で認められるものです。実際、これまでに日本企業に就職したモンゴルの高専卒業生の多くが「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を持って働いています。
技能実習生と技術者としての就労では、採用側にとっても労働者にとっても大きな違いを生みます。技術者として採用されるモンゴル高専生は、技術を生かした仕事を行うことが求められる一方で、付与されている在留期間の範囲内で、日本人と同様に、期限なく勤めることができます(在留期間更新の回数に上限はありません)。
また、条件を満たせば、モンゴル国内に居住している配偶者や子どもを日本に呼び寄せ、一緒に暮らすことも可能となります。
企業側は待遇について、日本人の学生と同様に扱わなければなりません。給与、昇進、昇格、福利厚生など、他の労働者と同じように迎え入れることが求められます。
―モンゴルの高専生を採用することの意義
アジアから日本への就職希望者が多い中で、モンゴルの高専生を採用する意義とはなんでしょうか。それは、高専という環境で5年間を過ごした学生という点に着目すると見えてくるでしょう。
モンゴル高専生が高い技術を持っているのは当然ですが、1年生から5年生まで日本語の授業を受け、日本での就職希望者は日本語能力試験N2〜N3相当の語学力を目指しています。そのため、就職直後からコミュニケーションにおける壁は低くなります。
また、勤務地に対しても特別なこだわりがないことも特徴でしょう。就職するために国境を越えてきた彼らにとって、数時間あれば移動できる日本国内ですから、どうしてもここでなければ働きたくないという、場所に対するこだわりが少ないように感じます。
―外国人を採用するというハードルを取り払うための取り組み
技術やコミュニケーションにおける不安が少ないとはいえ、それでも心配事は尽きません。文化や習慣の違いから職場に馴染めるかどうかの不安はありますし、採用時における手続きも日本人とは多少異なってきます。
そうした課題を解決するため、高専機構でも、モンゴル高専生のインターン派遣や、日本企業のためのセミナー開催のための支援等をしています。学生にとっては就職前に日本の企業を知ることができ、企業にとってはモンゴル高専生を採用することに対して理解が深まります。
また、高専機構だけでなく、今年度では、オンラインで学生と企業があらかじめ交流できる「モンゴル高専生のための企業研究セミナー」(主催:メディア総研株式会社)も予定されています。
高専生は、どこの国でも高専生である
はじめは、「モンゴルに高専?」「日本の高専は違うのでは?」と思われた方もいるでしょう。しかし、モンゴルにも高専の教育システムを導入したいという強い意志のもと開校された3つの高専は、日本式の教育システムを取り入れた高専であり、そこで学ぶ学生たちは高専生であるといえます。
日々技術と知識の習得に励むモンゴル高専の学生たちは、モンゴル国内に限らず日本での活躍も期待されます。高専という教育システムが両国の架け橋となることに今後も注目していきます。
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