パナソニックITSの電気設計部門に所属し、車載領域の先行開発に携わる秋山健一さん。沼津高専で培った設計の基礎を武器に、海外メンバーとともに開発を進めています。高専時代は寮生活のなかで仲間と学び、部活動やアルバイトにも積極的に挑戦。そんな学生時代の濃密な日々が、いまの仕事や海外での挑戦にどう繋がっているのか、その足跡を伺いました。
第三希望が「好き」に変わるまで
―高専に入ったきっかけについて教えてください。
数学や理科がもとから得意で、技術の授業でつくったランプやプログラミングが工学の原体験です。学校で習った知識や経験が、モノとして形になっていくことに心が動かされました。そこで高専に行けば「もっと得意なことに力を注げるのではないか」と思い、進学を決めました。
高専を知ったきっかけは、中学校で配布されるパンフレットでした。担任の先生が高専について紹介する際に「難易度が高い」と話していて、そこに対するちょっとした反抗心というか、「それなら挑戦してやろう」という思いもありました。
結果的に入学した電気電子工学科は、実は第三希望で、第一志望は制御科でした。希望した学科ではありませんでしたが、今となってはこの道に進んで本当によかったと思っています。
―入学後、高専生活はいかがでしたか。
難易度が高いことは覚悟していたので、不安もあったのですが、入学後、初めての電気のテストで上位に入り、「自分はできるのかもしれない」と自信を持ってスタートすることができました。意外だったのは、思っていたよりも「国語」や「社会」といった理系以外の授業もあることです。今考えると、あって当たり前なのですが(笑)。
高専の良さは、1年生から専門科目に触れて、深く突き進めるところだと思います。2年生で交流回路を扱うようになってからは、コンセントを見てその仕組みを考えたり、電線や電柱を見て電圧の違いに疑問を持ったり。3年生あたりからは、授業で学んだ知識と身の回りの製品や景色との繋がりも見えてくるようになりました。
仕組みがわかると世界の見え方が変わって、理解が深まるのが面白かったですね。特に音楽が好きだったので、音響製品は見ても触っても楽しくて、夢中になっていました。

寮・部活・バイト・音楽——“やり切る力”を育てた5年間
―高専生活で大変だったのはどんな時ですか。
やっぱり試験前です。テストはいわば「協力ゲーム」。友達や寮の先輩、部活の先輩の繋がりをたどりにたどって過去問を集め、みんなで共有して万全の対策を講じます。沼津高専の1年生は全寮制で、友達や先輩がすぐ近くにいるため、勉強しやすい環境でした。夜の8時から深夜まで共用スペースでひたすら自習し、わからないところは成績の良い友達や先輩にも教えてもらいながら、みんなで山を乗り越えました。
―部活にアルバイトと余すことなく打ち込まれたそうですね。
はい。部活動は、小・中学校と続けてきたサッカー部へ。放課後は毎日練習があったので、「毎日出席」を目標に練習に励みました。4年生の時、全国大会で3位に入賞したのは良い思い出です。
アルバイトはアパレルの販売業やピザの宅配、塾講師などさまざま経験しましたが、もっとも印象に残っているのが1年生の夏休みに始めた地元のイタリア料理店でのアルバイト。音楽好きの店長との出会いでした。
―ご自身で音楽を始めたきっかけがそのアルバイト先だったんですね。
はい。そのイタリア料理店の店長が、店に飾ってあるギターで僕が「好き」と話した曲をその次の日に弾いてくれて、「そんな簡単にできるの?」と衝撃を受けたんです。店長はオーディオも好きで、屋根裏みたいな部屋に機材があって、いろいろ聴かせてくれたり見せてくれたりしました。そこで音楽が一気に面白くなって、バイト代でギターを買いました。
ちょっと早く来て掃除をしたり、新しいメニューを積極的に覚えたりして、そのたびに店長に評価してもらえるのがうれしかったですね。仕事を通して大人と同等の扱いをしてもらうのも新鮮で、大変な時もありましたが、働くことの面白さを感じることができました。
―その後、本格的な音楽活動のために休学されたともお聞きしました。
4年生を終えたタイミングで1年間休学して、音楽に集中した時期がありました。5年生に進むと進路決定が迫るので、その前に一度、悔いのないようにやり切ってから決めたかったんです。

ソロで作詞・作曲・歌まで一人で担当し、一応インディーズでの活動まで進みましたが、そこで初めて見えてきたものもありました。音楽は今も大好きですが、これ一本で食べていく自信はあまりなくて。むしろこれを仕事にすると決めたら、音楽が嫌いになってしまうかもしれないとも思ったんです。そこまで経験して、「卒業したら就職しよう」と前向きに決断できました。

―卒業研究について教えてください。
卒業研究は、プラズマ用高電圧電源の設計について研究をしました。目的に合わせて回路を設計して、シミュレーションや測定を繰り返すという作業は、今考えると、「設計」の仕事にとても近いことに取り組んでいたと思います。
設計技術者として海外の現場へ
―パナソニックITSへ入社を決めた理由を教えてください。
音に関係する製品に携われる仕事を探す中、クルマのオーディオなど車載製品の開発をしている点に惹かれ、ご縁をいただきました。当社ではクルマの利便性や安全性を高め、カーライフの楽しみを提供しています。「音響に携わりたい」という思いと、変化が激しく、かつ安全性の観点で設計の質を求められる自動車業界。その両方を追求できる点に魅力を感じました。
―現在のお仕事について教えてください。
入社後、すぐに車載オーディオアンプや車内オーディオチューニングなど、高専での学びを活かせる事を経験させてもらいました。技術者としての幅を広げたいという希望から、海外向けの先行開発部署へ異動を希望して、現在はアメリカ向けの先行開発で現地に出張して、メンバーと開発を進めながら日々奮闘しています。
初めて出張先のアトランタに行った時は一作業員でしたが、今ではリーダーという立場になりました。年々、担当の範囲が広がり、責任も増えていきますが、その分やりがいを実感しています。

―アメリカでのお仕事は、日本と何が違いましたか。
日本とアメリカでは、業務内容は一緒ですが、言語の壁はもちろん、開発のスタイルが違います。日本では準備やシミュレーションなどのプロセスを大切にしますが、アメリカでは「まず試してみる」のがスタンダード。うまくいかない点が出てきたら、その場で話したり手を動かしたりして解決していく開発スタイルです。
そういった文化の違いがむしろ「自分に合っている」と感じることもあり、海外で働く面白さを知り、やりたいことや目標が明確になってきました。今春からは、インドに3年間駐在予定です。電気以外の領域の知識や経験を深め、技術者としてさらに成長して日本へ帰りたいと思います。
―あらためて、高専に進んでよかったと思うことは何でしょうか。
ひと言で表すと「自分で選んだ道を進めること」です。高専では自主性や自治制を重んじているので、1年生から自由度が高く、学校でも寮でも自分で選択する経験ができました。服も髪色もバイトも自由という中で、勉学とのバランスを取りながら自分のやりたいことに挑戦してきました。
きっと周りの友達より、150%で自分をフル稼働させ、学生時代を存分に謳歌できたと思います。縛られることなくいろんな経験ができたからこそ、自分が本当にやりたいことや目指したいものを明確にできたと感じています。
また、寮で友達と過ごす時間は、シンプルに楽しかったですね。食事も勉強も、お風呂も一緒。今でもみんなで集まったり、結婚式に出席したり。同じ価値観を共有できる友達ができたことは大きな財産になりました。
―仕事で「高専の学びが活きている」と感じるのはどんな場面ですか。
設計の仕事では、高専で学んだ内容がそのまま土台になりました。教科書の応用が出てきますし、意外と「基本の積み重ねなんだな」と感じる場面も多いです。高専では回路図を描いたり、手を動かして確かめたりとアウトプットの機会が多かったので、実務でもその経験に何度も助けられました。

また、入社したばかりでも上司の説明を感覚的に理解できて、会話についていきやすかったのは大きかったですね。評価してもらえる機会も多く、自信に繋がりました。「この製品ではこうやって理論が使われているんだ」と腑に落ちる瞬間があると、技術への興味もさらに深まっていきました。
加えて、高専で培った自主性も社会に出て活きていると思います。上の立場の方との距離感や、相手から自分がどう見られているかを意識して動く感覚は、学生時代に自然と身についた部分が大きいです。
―最後に、高専生へのメッセージをお願いします。
高専という特殊な環境を選べたことはチャンスだと思います。専攻した科目に苦手意識を感じたり、挫折を感じたりする経験はあると思いますが、社会に出ると、その分野では確実に「できる人」でいられるはず。選んだ道を正解にしていけるのは自分自身だけです。勉強も遊びも、目いっぱい詰め込んで走り切ってください。
秋山 健一氏
Kenichi Akiyama
- パナソニックITS株式会社

2019年3月 沼津工業高等専門学校 電気電子工学科 卒業
2019年4月より現職
※「パナソニックITS株式会社」は2027年4月1日付で「モビテラITS株式会社」へ社名変更いたします
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