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【現地レポート】DCON2026本選が開催。AI・ディープラーニング×ハードウェアの掛け合わせと、事業プランを考える「厳しさ」

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【現地レポート】DCON2026本選が開催。AI・ディープラーニング×ハードウェアの掛け合わせと、事業プランを考える「厳しさ」のサムネイル画像

2026年5月8日(金)、9日(土)にDCON2026(第7回 全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト2026)の本選が渋谷ヒカリエホールにて開催され、厳正なる審査の結果、豊田高専のチーム「Kanro AI」が最優秀賞を受賞しました。

DCONは高専生の「ものづくり」とディープラーニングを活用した事業創出コンテストです。主催である(一社)日本ディープラーニング協会は、「AI・ディープラーニングとハードウェア(ものづくり)の掛け合わせが、今後の日本の勝ち筋になる」という考えのもと、ハードウェア領域に強みを持つ高専生に注目し、2019年にDCONのプレ大会を開催。参加校は11校、18チームでした。

それ以降、起業家のメンターと社会人アドバイザーによる伴走支援、「AI実践ブートキャンプ」といったオンラインプログラムなど、起業とAI技術のサポートを充実させていったことで、出場チーム・作品数は年々増加。高専・産業界からの注目が非常に高いコンテストとなり、DCON2026では過去最多となる119作品(40高専/91チーム)の応募が集まりました。

そして、一次審査・二次審査を通過した10チームが本選に出場。8日(金)に技術審査会、9日(土)に本選プレゼンテーションが行われました。その模様を、月刊高専で以前公開したDCON実行委員会事務局マネージャーの海野紗瑶さんへのインタビュー記事内で取り上げた以下の2点の特徴から振り返ってみることにします。

・AI・ディープラーニング×ハードウェア(ものづくり)
・事業プランを考える厳しさ

▲DCON実行委員会事務局マネージャーの海野紗瑶さんへのインタビュー記事

AI・ディープラーニング×ハードウェア(ものづくり)

AI技術の中で現在特に注目されているのは「フィジカルAI」です。これは、ロボット等の機械にAIを活用した「実体を持つAI」であり、現実世界を認識し、そこで計測されたデータ等を用いて自律的に現実世界に作用していきます。2019年にDCONが掲げた「AI・ディープラーニング×ハードウェア」と今のAIトレンドは、見事に重なり合っていると言えます。

また、DCON実行委員長の松尾豊先生(東京大学大学院工学系研究科 教授)は「AI・DLを学んだ人がハードウェアを学ぶのには時間がかかりますが、ハードウェアを学んだ人がAI・DLを学ぶのは早く、半年〜1年で習得できます」とコメントされています。すでに高いハードウェアの技術力を持つ高専生は、短期間でAI・ディープラーニングの技術力を習得することができるということです。

DCON2025本選概要発表のプレスリリースより

8日(金)の技術審査会では、事業プランにおける「AI・ディープラーニングとハードウェアを掛け合わせた技術」について、チームからの発表がありました。本選技術審査員も務めている松尾先生は、本選終了後の囲み取材で以下のように技術審査会を振り返っています。

多くの方がおっしゃるところの「AIを使う」は、OpenAIやAnthropic、Googleなどが提供しているプロダクトを使用することを指していますが、高専生の場合は基本的にディープラーニングのプログラムを組み、学習データを入れてトレーニングし、それをハードウェアに組み込むという「開発」を指しています。さらに、ユーザーとの会話ではLLMをうまく活用するなど、縦横無尽にAI技術を組み合わせて開発するレベルが非常に高いと思いました。

技術審査会での松尾先生
▲技術審査会での松尾先生

今回の技術審査会を見ると、ディープラーニングのプログラムを組み込む点での特徴の1つとして、画像認識や物体検出を高速で可能にするAI技術のモデル「YOLO(You Only Look Once)」を用いているチームが複数あったことが挙げられます。最優秀賞を受賞した豊田高専のチーム「Kanro AI」が発表した下水道の自動点検ロボット「Pipe Eye」でも用いられていました。

Pipe Eyeは下水道管内を通り、画像認識によって点検した後、報告書を自動で作成するロボットです。下水道管内の点検の現状をヒアリングしたところ、「人手不足」「作業効率の悪さ」「作業員の高齢化」を肌で感じ、Pipe Eyeを考えたとのことでした。

豊田高専「Kanro AI」の技術審査会の様子。本選技術審査員の佐々木雄一さん(SpiralAI株式会社 CEO)が審査中
▲技術審査会での豊田高専「Kanro AI」の様子。左は本選技術審査員の佐々木雄一さん(SpiralAI株式会社 CEO)

そのPipe Eye内でYOLO(YOLO26)が下水道管内の異常をリアルタイムで検知するために用いられていたほか、報告書用の高精度な画像認識を行うためにAIモデル「SAM3」が、その異常を報告書としてまとめるために視覚言語モデル「Qwen3-VL」と大規模言語モデル(LLM)「Qwen3.5」が用いられていました。このYOLO×SAM×Qwenの組み合わせを見つけるまで、さまざまな苦労をされたそうです。

「AI・ディープラーニングとハードウェアを掛け合わせる」そして「縦横無尽にAI技術を組み合わせる」点において、Kanro AIは高い技術力を示したと言えるでしょう。

事業プランを考える厳しさ

DCONではAI・ディープラーニング×ハードウェア(ものづくり)の技術力だけでなく、それを事業プランとして昇華させることも求められます。どのように産業界で活用するのかまで考えること、つまり高い技術力をビジネスに変えることに価値があるとDCONは捉えているからです。

そのため、DCONのもう1つの特徴として「厳しさ」が挙げられます。審査員はVC(Venture Capital、投資ファンド)の方が“いつもの仕事のように”企業評価額(円)を付けるほか、審査員から十分な評価を得るために、国内外で事業創出や技術実装の最前線に立ち成功を収められている一流の方々がメンターとして本選出場10チームにそれぞれ就き、“いつもの仕事のように”事業プランやプレゼン方法を考えながらチームを指導します。本気でビジネスを考えてほしいからこそ、DCONは「厳しさ」を大事にしているのです。

プレゼンテーション前に紹介された、企業評価額についての説明スライド。本物のスタートアップと同じ基準・世の中と同じ物差しで評価することが明言されています
▲プレゼンテーション前に紹介された、企業評価額についての説明スライド。本物のスタートアップと同じ基準・世の中と同じ物差しで評価することが明言されています

一見するとそのビジネスの「厳しさ」は、高専生にとってハードルが高いかもしれません。しかし、過去の月刊高専の受賞者取材では、「厳しいからこそ良かった」とおっしゃっていたことが印象的でした。

▲西谷 颯哲さん(DCON2024最優秀賞。株式会社ToI Nexus 代表取締役)の取材記事
▲佐藤 羽瑠さん(DCON2024本選7位。株式会社HIBARI 代表取締役)の取材記事

DCON本選の審査には、技術審査会でアイディアの実装力・プロトタイプの技術を評価する「技術審査」と、事業プランを評価する「プレゼンテーション審査」があります。プレゼンテーション審査では、審査員5名がプレゼンを聞き、質疑応答を経て、技術審査の結果とプレゼンテーション内容を総合的に評価して、投資するかどうか○×の札を上げます。

○を付けた審査員は企業評価額も付けますが、その額は表彰式の際に発表。「最も高い企業評価額を付けた審査員がいたチーム」が最優秀賞となります。実際にスタートアップを起こす際に重要なのは、高い企業評価額をつけてくれるVCの方を1人見つけることであるため、○の数でも企業評価額の合計でもなく、「最も高い企業評価額を付けた審査員がいたチーム」が最優秀賞となるのです。

プレゼンテーションでは厳しい審査が繰り広げられ、中には審査員5名全員が×を上げる場面もありましたが、豊田高専のチーム「Kanro AI」では全員が○を上げました。10チームで唯一の満票です。そして、審査員の松本真尚さん(株式会社WiL General Partner & Co-founder)が最も高い企業評価額5億6000万円をつけ、最優秀賞受賞となりました。

最優秀賞が発表された瞬間の豊田高専「Kanro AI」
▲最優秀賞が発表された瞬間の豊田高専「Kanro AI」

Kanro AIの「事業プランとして優れていた箇所」としては、主に以下の3点が挙げられます。

①下水道点検における歩掛制度

全国の下水道の工事・点検等の費用は、国土交通省の土木工事積算基準を基本とした「下水道用設計標準歩掛表」(発行:公益財団法人日本下水道協会)に基づいて各地方公共団体が算出しており、点検量に比例して売上が積み上がる制度となっています。つまり、点検すればするほど、そのぶん売上が上がるのです。

また、Kanro AIがターゲットとしているのは、人が入ることのできない150~600mm径の下水道管(小口径管)であり、全国の下水道管のおよそ90%を占めています。人手不足や高齢化等の理由で全国の下水道管を点検することが難しくなってきていますが、ここにKanro AIはPipe Eyeでアプローチ。審査員の松本真尚さんは表彰式で以下のようにコメントされていました。

今回の時価総額5億6000万円という数字は、AIの進化に即した「メーター単位の課金」という革新的なビジネスモデルのポテンシャルを正当に評価した結果です。ハードウェアへの初期投資さえ済めば、事業の成長とともに自然と黒字化へ向かう極めて合理的な設計であり、今のAIトレンドにこれほど合致した稀有な事業案は他にありません。

「これで終わらせてはもったいない」と確信していますので、一刻も早く起業に踏み切って欲しいです。

豊田高専「Kanro AI」によるプレゼンテーションの様子
▲豊田高専「Kanro AI」によるプレゼンテーションの様子。左の学生が手にしているロボットがPipe Eyeです

②ウォーターPPPの動向への合致

ウォーターPPP(Public Private Partnership)とは、上下水道の維持管理等において行政と民間企業が協力して取り組む官民連携手法のことで、2022年から2031年までの間で段階的に移行を進めています。つまり、下水道管の点検も民間企業への委託が進む、ということです。

そして2027年度以降、各地方公共団体は「ウォーターPPPの導入決定済み」であることが下水道管更新時の国の補助要件になるため(見込み)、今後さらに民間委託が進みます。民間企業による下水道点検の効率化は、まさに今求められている技術と言えるのです。

松尾先生は、本選終了後の囲み取材で以下のようにお話しされていました。

今回上位に入賞したチームは、社会情勢や法律の変化を非常によく捉え、そこに技術力を合わせて事業プランをつくっていました。そのノウハウが高専全体に広がっていくと良いと思います。

③下水道管そのものへの理解

下水道管は文字通り下水が通る管であり、環境としては悪く、心理的にもあまり点検したくないところではあります。また、下水道は地面の下という見えない場所を通っているもので、身近な社会課題として捉えられにくくもあります。だからこそ、そこに目を付けて解決する事業プランを考えたKanro AIは評価されたと言えます。

審査員の川上登福さん(株式会社先端技術共創機構(ATAC) 代表取締役)は、下水道管に着目した点も含め、プレゼンテーション後、以下のようにお話しされていました。

上水道管ではなく下水道管の事業プランである点が良かったです。なぜなら上水道管と下水道管では、配管の考え方が異なるためです。上水道管は上下に配管されていて、水圧によって水を送っていますが、下水道管は自然勾配によって水を流しています。そのため、下水道管の方がロボットを動かすのに適しているのです。

また、下水道は泥臭い現場ですので、耐久性高くロボットを動かせるのなら良いと思い、○を上げました。現場をよく理解し、目を付けるべきところに目を付けていると思いました。

選審査員紹介でのクイズコーナーの様子。川上さんは「技術開発・事業開発を進める上で大事にするべき要素」として、3つの選択肢すべてが大事だが、「現場の実態をしっかりと理解すること」が最も大事であるとおっしゃっていました
▲本選審査員紹介でのクイズコーナーの様子。川上さんは「技術開発・事業開発を進める上で大事にするべき要素」として、3つの選択肢すべてが大事だが、「現場の実態をしっかりと理解すること」が最も大事であるとおっしゃっていました

このように高い技術力で優れた事業プランを提案したKanro AI。本選終了後の囲み取材でリーダーの学生は「1年間ずっとモノ・AI・資料をブラッシュアップして、このような結果まで持ってこられたのは、めっちゃ楽しいですし、嬉しいです」と、最優秀賞の受賞を喜んでいらっしゃいました。

本選の結果は以下です。

No学校名/チーム名作品タイトル企業
評価額
受賞
1豊田工業高等専門学校
Kanro AI
Pipe Eye5億6000万円最優秀賞
フソウ賞(ゴールド企業賞)
2沖縄工業高等専門学校
Rewave
通信の空白地帯を消す!
AIで被災地を可視化する災害デバイス「アドフォン」
4億円2位
経済産業大臣賞(大臣賞)
セブン銀行賞(ゴールド企業賞)
3沖縄工業高等専門学校
Seesar Labs
HIKES3億円3位
トピー工業賞(ゴールド企業賞)
4神山まるごと高等専門学校
codell
KiDUKi2億4000万円文部科学大臣賞(大臣賞)
トヨタ自動車賞(ゴールド企業賞)
5沼津工業高等専門学校
SOUTA
Gourmeet3000万円NECソリューションイノベータ賞(ゴールド企業賞)
6舞鶴工業高等専門学校
mAIzuru
ことの葉2700万円農林水産大臣賞(大臣賞)
アクセスネット賞(ゴールド企業賞)
ポーラメディカル賞(ゴールド企業賞)
7仙台高等専門学校 広瀬キャンパス
それいけ!運搬マン
Nego Delivery1500万円
8久留米工業高等専門学校
Atelier-I
あゆみ1000万円
沖縄工業高等専門学校
Omoide.lab
VocaSense 〜声の揺らぎが知らせる認知症のサイン〜
釧路工業高等専門学校
超音サンマ
Pulsar
▲DCON2026本選の結果。企業賞はゴールド企業賞のみ掲載
表彰式の様子。最優秀賞の豊田高専「Kanro AI」、2位の沖縄高専「Rewave」、3位の沖縄高専「Seesar Labs」
▲表彰式の様子。右から最優秀賞の豊田高専「Kanro AI」、2位の沖縄高専「Rewave」、3位の沖縄高専「Seesar Labs」

企業評価額を見ると、上位4チームとそれ以外のチームで、少し差が離れたように見受けられます。松尾先生は囲み取材で以下のようにコメントされていました。

上位チームはビジネス的に見ても文句のつけようがなく、確かに成功しそうだと思いました。一方、少し下位のチームになると、途中のロジックがうまくつながっていない箇所が見受けられました。学生同士でお互いに指摘しながら事業プランをブラッシュアップすることで、もっとレベルが高くなると思います。

さて、DCON2026の本選は終了しましたが、DCONのもう1つの特徴として、大会終了後の支援「DCON Startup 応援1億円基金」が挙げられます。これはDCONの一次審査を通過したチームを対象に、「自己資金0円での会社設立」「最大200万円の資金提供」「日本ディープラーニング協会ネットワークの活用」「創業バックオフィス支援」「事業メンタリング」が受けられるもの。DCONで発表した事業プランを、本当に起業して実現するためのサポートが整っています。

囲み取材で「DCON卒業生によるスタートアップの中から上場企業が1社でも生まれることが、数年前からの唯一の課題です」とお話しされていた松尾先生による、本選での締めくくりコメント(抜粋)を最後に記します。

スタートアップにおける真の「勝利」とは、単なるコンテストの順位ではありません。実際にプロダクトを作り、それが社会で成功して初めて価値になります。今日の結果を一つの糧とし、実際の社会という大きな舞台でチャレンジし続けてください。

○イベント情報
【第7回 全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト2026 本選】
開催日:2026年5月8日(金)、9日(土)
場所:東京・渋谷ヒカリエホール
主催:日本ディープラーニング協会、全国高等専門学校連合会、NHK、NHKエンタープライズ
後援:内閣府、デジタル庁、文部科学省、農林水産省、経済産業省、環境省、渋谷区、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)、一般財団法人高専人会、株式会社日本経済新聞社

公式サイト:https://dcon.ai/

▲DCON2026本選の模様は、日本ディープラーニング協会の公式YouTubeよりご覧いただけます

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