国立高専機構と月刊高専が主催した「第3回高専起業家サミット」のスタートアップ部門で優秀賞を受賞し、大分高専卒業後に大分高専発AIスタートアップ「株式会社NeurestX(ニューレストエックス)」を設立した、九州工業大学3年の佐藤光河さん。AIとの出会いからAI枕の開発、起業、現在に至るまでの歩みに迫ります。
ロボット研究部で実感した数学の実用性
―大分高専に進学したきっかけを教えてください。
中学生のころから数学や理科といった理系科目が好きで、高専に入ればそうした専門分野をより深く学べると思い、進学を決めました。高専といえばロボット研究部というイメージがあり、「せっかく高専に入るなら挑戦してみたい」という気持ちから、1年生のときに入部しました。
ロボット研究部では制御班に所属し、ロボットの制御を担当しました。そこで初めて実感したのが、数学の実用性です。中学までは理論として数学を学んでいたものの、それがどのように役立つかはイメージできていませんでした。ロボット制御の現場では、数学の知識が直接モノの動きに影響します。この体験は今でも強烈に記憶に残っており、情報・AI分野へ進んでいく上での原点になったと感じています。
3年生まで制御班のメインプログラマーとしてロボコンに打ち込みましたが、地区大会で敗退したことを機に、次のチャレンジを探し始めました。そこで出会ったのが全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト(DCON)です。技術力だけでなくビジネスの視点も問われるDCONに魅力を感じ、「次はここで勝負しよう」と決意しました。ここからAI枕「FAIP(Future Artificial Intelligence Pillow)」開発への道がスタートします。
AI枕開発の原点とは
―AI枕「FAIP」を開発することになった経緯を教えてください。
もともと自分が枕難民だったことが始まりです。テスト期間中に少しでも睡眠の質を上げたいと思い、市販の枕をいくつも試したり、オーダーメイド枕もつくってみたりしました。しかしながら、市販品はどれもしっくりこず、オーダーメイドはビーズを自分で詰め込む作業が面倒。「これが自分に合っているのか」という確信も持てませんでした。
ホテルに泊まる際も枕の高さが合わないと感じることが多く、「自分から枕に合わせに行くのではなく、枕側から自分に合わせてきてほしい」という思いが膨らんでいきました。そんな課題意識を持っていた時期にDCONを知り、「AIなら、この問題を解決できるのではないか」と直感しました。
調べていくと、睡眠不足による経済的損失は年間20兆円規模にのぼるとされ、日本はOECDに加盟している先進国の中で最も睡眠時間が短いことも分かりました。個人的な不満が、社会全体の課題と重なった瞬間でした。
―プロトタイプ開発で苦労したことを教えてください。
最も苦労したのは、空気袋の調達です。「FAIP」では空気袋を用いて枕の高さを調整する仕組みを採用したのですが、自作では必ず空気漏れが起きてしまいました。外注しようにも、金型をつくらない少量発注は単価が非常に高く、研究室にも所属していなかった当時の私たちには到底払えない金額でした。

そこで、チームで手分けして、空気袋を製造できそうな企業をリストアップして一つずつ当たっていくことにしました。風船、ビーチボール、消防用ホースのメーカーなど、思いつく限りを幅広くリストアップし、電話とメールで100社近くにアプローチし続けたのです。
その結果、静岡のある企業が「学生たちの研究に役立てるなら」と無償で提供してくださることになり、ようやくプロトタイプを完成させることができました。開発が完了したのはDCON提出締め切りの2日前。ピッチ登壇よりも先に、仲間と一緒にやり遂げた達成感を強く感じました。

DCON2024では総合3位に入賞することができました。技術力はもちろん大事ですが、それ以上に得られたのはチームマネジメントの難しさと面白さです。全員のモチベーションを保ちながら、資金調達や企業との交渉、開発、プレゼン資料の作成と、役割を分担しながら泥臭く乗り越えていく経験は、起業後の今でも生かされています。技術だけでなく、事業としての可能性を考え抜くことの大切さも、このとき初めて実感しました。
―第3回高専起業家サミットへの参加経緯と、そこでの学びを教えてください。
DCON2024への参加をきっかけに、同じ枠組みのコンテストとして高専起業家サミットの存在を知りました。DCONで総合3位という結果を得た後も研究開発を続け、技術力と事業性の両面で評価していただき、スタートアップ部門での優秀賞受賞につながりました。

サミットを通じてとりわけ大きかったのは、メンターとして関わってくださった株式会社Fusic(本社:福岡市中央区)の方々との出会いです。「誰に何を届けるのか」という事業の基本設計を徹底的に問い直していただき、そこから生まれたのが「世界の枕難民を救う!」という商品コンセプトでした。
それまでの技術起点の発想を、ビジネス起点の視点から組み立て直すことで、事業プランが大きく進化しました。価格戦略やターゲット戦略、キャッチコピーの考え方など、技術畑にいるだけでは決して学べなかった知識を、実践の中で吸収することができました。現在もFusicの方々とは定期的に情報交換を続けています。
「仲間が戻ってこられる場所」をつくりたい
―株式会社NeurestXを2026年4月に設立した経緯を教えてください。
実は、最初から起業を目指していたわけではありませんでした。DCONも高専起業家サミットも、最初は「チャレンジしてみたい」という気持ちで参加しただけでした。しかし、コンテストを重ねる中で多くの起業家や投資家の方々と話す機会が増え、「スタートアップという生き方」を具体的に知るようになりました。
各地のビジネスコンテストや発表の場に月3回ほど足を運ぶ中で、苦しいことがあっても最後に得られる仲間との達成感がたまらなく、気がつけば起業家マインドが育っていました。
そして2026年4月13日、日本ディープラーニング協会(JDLA)の「DCON Startup 応援1億円基金」の支援採択を受け、株式会社NeurestXを設立しました。AI枕の社会実装を主軸に、福岡・大分を拠点としたAI/DXコンサルティング、データ分析、AI受託開発も展開しています。

現在、代表の私を含めてメンバーは8名。大分高専の仲間が筑波大学や千葉大学などに進学した後も、仕事を通じてつながり続けられる場所をつくることが、起業を決意した動機の一つでもあります。「コンテストは一過性だけれど、会社というコミュニティをつくれば、仲間とずっと一緒にいられる」という思いが経営の根底にあります。

―大分高専卒業後の歩みについても教えてください。
編入学試験を受験し、現在は九州工業大学の情報工学部に在籍しています。大分へ比較的移動しやすいこと、AI・ロボティクス分野の研究環境として魅力を感じたことが九工大を選んだ決め手です。現在はキャンパスがある福岡県飯塚市に住みながら、事業の都合で月数回は大分を往復する生活を送っています。
―事業内容と今後の目標についても教えてください。
AI枕の研究開発を継続しながら、温泉地として知られる大分県別府市のホテルや旅館での実証実験を近く開始する予定です。別府は宿泊施設が多く、AI枕の社会実装の場として最適だと考えています。将来的には、利用者の睡眠データをクラウドで管理し、どこの施設に泊まっても同じ睡眠環境を再現できる「睡眠環境の持ち運び」を実現することが目標です。
並行して、地域企業向けのAI受託開発事業でしっかりと経営基盤を整えていくことも直近の課題です。製造業・保険・建設・不動産・ホテルなど幅広い業種の企業にアプローチし、各社の現場課題に合わせたカスタマイズ型AIの提供を進めています。大分高専発AIスタートアップという看板を汚さないよう、大分・別府から世界へと事業を広げていくことが目下の目標です。

―最後に、高専生へのメッセージをお願いします。
まずは興味があれば飛び込んでみることをおすすめします。高専1〜3年生は大学受験に向けた勉強がない分、時間を自由に使えます。その時間を使って、ぜひビジネス系のコンテストに挑戦してみてください。
起業を意識していなくても、コンテストを通じて起業家や投資家、さまざまなバックグラウンドを持つ大人たちと出会い、「就職だけが選択肢ではない」という生き方に触れることができます。リスクはゼロです。もし少しでも起業やスタートアップに興味があるなら、ぜひ一歩踏み出してみてください。一緒に頑張りましょう。
佐藤 光河氏
Koga Sato
- 株式会社NeurestX 代表取締役
九州工業大学 情報工学部 3年

2026年3月 大分工業高等専門学校 情報工学科 卒業
2026年4月 九州工業大学 情報工学部 3年次編入(現在)
2026年4月 株式会社NeurestX 設立、代表取締役就任(現在)
【主な受賞歴・実績】
全国高等専門学校ロボットコンテスト2022全国大会 準優勝
第5回全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト(DCON2024) 総合3位
第3回高専起業家サミット スタートアップ部門 優秀賞
次世代リーダー育成プロジェクト「Ent-X」 Ent-X賞
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