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マテリアルは全ての製品の源! 仙台高専での複合的な学びと、マテリアルコースで身につく自発性

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仙台高専の浅田格先生は、東北大学で磁性に関する研究に取り組み、1997年に宮城高専(現:仙台高専 名取キャンパス)の教員になられました。現在は鉄鋼の窒化・浸窒焼入れの研究を続けながら、II類長、マテリアルコース主任として未来のエンジニアを育てています。教育と研究を両立されてきた浅田先生にお話を伺いました。

オーディオへの興味から、材料の世界へ

―浅田先生は東北大学の材料物性工学科を卒業されていますが、「材料」に興味を持ったきっかけは何ですか。

きっかけはオーディオの趣味でした。大学進学を検討していた頃は音声レコーディングのメディアとしてカセットテープが脚光を浴びていた時代で、高音質なオーディオに憧れてカタログを眺める日々を送っていました。その中で、カセットデッキの磁気ヘッドが「アモルファスヘッド」であるとPRしている製品が多いことに気付いたんです。

アモルファスとは、固体ではあるものの、原子や分子が規則正しく配列した結晶とは異なり、ランダムな状態の固体を指します。その代表例として、石英ガラスなどが挙げられます。このアモルファス合金は優れた軟磁気特性を持つことから、トランスなどの磁性材料に応用されています。

これをきっかけにアモルファスや材料分野に興味を持った私は、東北大学でそうした研究ができると知り、進学を決めました。

―高校の教員も志していたそうですね。

両親とも中学校の教員でしたので、身近な職業でした。また、人に教えることは楽しかったので、教職も良いなと思っていたんです。一方でエンジニアの道にも興味があり、東北大学に進学したら、どちらの道も選択肢として残せると考えました。結果的に在学中に教員免許も取得することができました。

大学の混声合唱団で歌っている浅田先生。写真はモノクロであり、モノクロ写真が趣味だった先輩が撮影している
▲大学では混声合唱団に所属されていた浅田先生(中央)。趣味がモノクロ写真だった先輩が撮影

―大学卒業後は同大学院に進学されています。どのような研究をされましたか。

結晶状態とアモルファス状態におけるコバルトの磁性について研究をしていました。

磁性を研究するうえで極めて重要なのが原子配列です。同じ成分であっても、配列が異なっていたら、まったく違う磁性を示すことがあります。原子配列において、アモルファスと結晶状態は対極に位置します。

私の研究では、どちらの状態でも13個の原子からなる正二十面体を基本構造に持つ特殊な化合物に着目しました。この「同じ基本構造で両者を比べることができる点」に着目し、コバルトを主成分とする物質の磁性がアモルファスと結晶状態でどのような変化を生じるかについて研究をしていました。

―大学院卒業後は、宮城高専の教員になられました。その経緯を教えてください。

私の出身である神奈川県での教員採用がほとんど行われていない時期と重なったこともあり、いったんは研究所のある企業への就職を考えていました。そんなとき、研究室の先生から「宮城高専が教員を探している」とお話をいただいたんです。

神奈川県には高専がないため、私自身は高専のことを当時はよく知らなかったのですが、研究だけでなく、部活動も含めた学生教育もできる環境であることを知り、非常に魅力的に映りました。大学院生のときは教育実習もしていたので、その姿を先生がご覧になっていて、声をかけてくださったのだと思います。

―現在の研究について教えてください。

2009年頃から、鉄鋼の窒化・浸窒焼入れの研究に取り組んでいます。きっかけは、当時本校にいらっしゃった自動車メーカー出身の先生との共同研究でした。

鋼材の表面を硬化させる処理には浸炭焼入れや高周波焼入れなどがあります。その中で窒化は、疲労や摩耗に対して強みがあります。特に高トルク・高回転の車載用モーターなど、駆動系部品の長寿命化に貢献する技術として、改めて注目されています。

―窒化・浸窒焼入れの優位性について、もう少し詳細を教えてください。

浸炭焼入れと窒化は、硬くする仕組みが違うんです。浸炭焼入れは、マルテンサイト変態させて硬い金属組織にしています。一方、窒化は硬い窒化物の層をつくったり、鉄原子の隙間に窒素を溶け込ませたりして硬くすると同時に、内部に大きな圧縮の力(圧縮残留応力)を生み出します。無理やり縮めたようなイメージですね。そのため、外からの衝撃を受けても割れにくく、浸炭焼入れ以上の高い耐久性を発揮します。

しかも、ガス窒化法で使われるアンモニアは、分解しても窒素と水素しか生成しません。処理の段階でCO₂を排出しないのも、大きな利点です。

ただ、窒化は硬化層が薄くなるという欠点があります。表面硬化処理の主流が浸炭焼入れや高周波焼入れなのは、そうした理由のためです。

―その窒化・浸窒焼入れの研究では、合金元素の影響を調べているそうですね。

はい。鉄鋼に特定の性質を与えるために添加する元素が「合金元素」です。代表例としてはクロムやニッケルが挙げられます。

これらの合金元素は、窒化や浸窒焼入れで重要な役割を果たします。合金元素の種類が違うと、窒化の際に全く異なる金属組織の硬化層が形成されて、硬さの分布もガラリと変わるんです。特にアルミニウムは面白く、アルミのみの添加ではほとんど硬化層ができないのに、他の元素と組み合わせると優れた特性の硬化層が現われます。

現在は実験に加えて、計算状態図を用いた熱力学計算や文献調査も並行しながら、合金元素の組み合わせ効果とその理由を調べているところです。これによって、窒化・浸窒焼入れの性能向上とメカニズム解明につながると考えています。アルミやクロムに関する知見は、かなり積み上がってきました。

研究室の5年生に、アンモニアガス窒化の実験指導中
▲研究室の5年生に、アンモニアガス窒化の実験指導中

鉄鋼は金属材料の代表格であり、窒化そのものは確立された技術ではあります。しかし、近年の高度な観察・分析技術のおかげで、窒化層の金属組織を調べてみると、新たな発見に出くわす場面が多々あるんです。

そうした言わば発見の種を、実験に挑む学生たちと一緒に一つひとつ検証していく作業には、真の発見への期待感と面白みを感じます。もっとも、学生は期待感よりも、「調べ方を間違えたかも?」と、内心ドキドキしているかもと思いますよ(笑)

ものづくりを横断的に学ぶII類と、その中のマテリアルコース

―仙台高専のII類について教えてください。

これからのものづくりは、専門領域を横断した複合的な知見を持つ技術者が担うことが望ましいと考えています。それは、幅広い基礎力と言い換えることもできます。

そのため、II類では「電気電子」「マテリアル」「機械システム」「情報と創造」の4コースを設置し、各分野の基礎から応用までを融合して学べるカリキュラムを構築しているのが特徴です。例えば3年生ですと、9科目が他コースとの合同授業です。さらに半導体、環境、ロボットなど関心のある分野の科目を、コースを超えて横断的に履修できる仕組みも整えています。

中でも「情報と創造」は、ものづくり分野で情報技術を生かせる人材を育成するため、2025年に新設したコースです。情報の専門科目とともに「ものづくり」に関わる授業やフィールドワークを並行して展開しています。仙台駅前や大崎市のサテライトを拠点にして企業や地域を実際に巡り、ものづくりの最先端を学びつつ、そこでの課題発見やその解決に寄与する「回遊型授業」を実施しているのが特徴です。

新築の「情報と創造棟」コラボレーションスペースとワークスペース(教室)。ものづくり作業やプレゼン場所としても活用されています
▲新築の「情報と創造棟」コラボレーションスペースとワークスペース(教室)。ものづくり作業やプレゼン場所としても活用されています

―複合的な学びが、仙台高専の特徴なんですね。

本校の複合教育の歴史は、宮城高専時代の1991年に設置された「2専門履修コース」まで遡ると思います。これは、一つの学科を5年で卒業した後、別の学科へ4年次編入し、7年間かけて2つの卒業証書を取得できる仕組みのコースでした。当時としては非常にチャレンジングな試みだったと思います。

この制度は専攻科ができた1998年に終了しましたが、複合教育の思想はその専攻科へと受け継がれます。専攻科も当初から、機械、電気、材料工学科の卒業生が生産システム工学専攻へ、建築、情報デザイン学科の卒業生が建築・情報デザイン学専攻へ進学する形で、複数の分野を束ねた教育課程として発足しました。

―II類の中にあるマテリアルコースの特徴についても教えてください。

多様な素材からなる製品に囲まれた現代社会において、材料の知識と技術を駆使して新たな価値を創造できるエンジニアを育てるコースです。金属、有機、無機材料に関する授業と実験を密接に連動させたカリキュラムが特徴で、「PBL(課題解決型)実験」や「最新の科学技術を取り入れた学習内容」など、日々アップデートしています。

PBL実験は、2年生と4年生で実施しています。4〜5人のチームをつくり、学生たちが調査をしながら、社会に役立つ材料や科学についてのテーマを決めます。その後、試料の作成や分析機器での評価などを行い、最終的には発表会まで行う内容です。来年度は、実施学年を変更して3・4年生の混合チームで取り組む形態へ進化させる計画です。

チームの中には休暇期間を利用して実験活動を継続し、マテリアルコンテストや、日本金属学会の高校生・高専学生ポスター発表、環境甲子園などにエントリーして受賞している学生もいます。

4年生のPBL実験で、作製したサンプルを走査電子顕微鏡で観察している様子
▲4年生のPBL実験で、作製したサンプルを走査電子顕微鏡で観察している様子

このPBL実験によって、チームで考え、調べる活動を通したコミュニケーション力向上はもちろん、個々が自発的に行動できるようになるのが印象的ですね。私個人の考えですが、学生には自立的に研究活動を行える能力の「ステージ」と言うのがあって、そこに乗るためには基礎力や問題解決力の習得が欠かせません。装置の使い方をとってみても、単に操作方法を学ぶよりも、どんな原理で測定できるのか、何のためにその実験を行い、何が明らかになるのかを理解することが重要だと考えています。

―授業に反映している最新の科学技術について、最近だとどのようなものが挙げられますか。

私が担当する機能材料の授業では、「磁性材料」と「水素」を扱っています。磁性材料ではスピントロニクスの知見を充実させた授業内容など常にアップデートしています。水素の分野では水素吸蔵材料をベースにしながら、水素の製造から応用まで一連を学べるよう意識しています。さらに、窒化にも利用されているアンモニアは、次世代エネルギー源としても注目されており、水素と関連付けて授業で取り上げています。

II類の共通科目である5年生の機能材料の授業で、磁性材料について説明中の浅田先生
▲II類の共通科目である5年生の機能材料の授業で、磁性材料について説明中の浅田先生

マテリアルコースでは、単なる知識の積み重ねに留まらず、多角的な視点を組み合わせて活用する力を養っています。物質の特性やその原理を深く理解し、新たな材料の創出に応用できる知識・技術と創造力を兼ね備えた人材を育成していきたいです。

高専生と、高専を取り巻く環境の変化

―日本において「マテリアル」の重要性をどう捉えていますか。

マテリアルは全ての製品の「源」です。一つの新素材を生み出すための研究には長い時間を要するものの、それが実用化されると社会全体が大きく変わります。

中学生に対してマテリアルコースをPRする際にも、「源を創る魅力」を強調しています。「マテリアル」や「材料」という言葉は、「電気」や「ロボット」などに比べて、少しイメージしづらいと思っているんです。しかし、社会を大きく変える可能性を秘めている分野だと知ってもらえれば、マテリアルへの興味につながると考えています。

また、「源」を扱うゆえに、環境に配慮することもマテリアルの知見を持つエンジニアにとっての責務です。ライフサイクルアセスメントは国際規格となっていますし、国内でも今年度から一部事業者の年間CO₂直接排出量の制限も始まりました。今はどの製品もリサイクルまで考えて設計がなされていますが、更なる技術開発も必要とされています。

―学生の環境への意識はいかがですか。

以前は「環境」がキーワードであり、それを意識して入学する学生が多かったです。しかし最近は、「環境に配慮するのは当たり前」という意識が定着してきたと感じています。

本校も以前は「マテリアル環境コース」という名称でしたが、2025年のコース改組で「マテリアルコース」へと改称しました。あえて「環境」という言葉を外したことは、環境への意識が学生たちに、また、社会に浸透したと判断した表れでもあります。

―浅田先生が高専教員になられてから約30年が経ちました。高専生や高専を取り巻く環境に変化は見受けられますか。

今も変わらず「高専らしさ」を持った学生が入学していると、ずっと思っています。よく「最近の子は」と言う声も耳にしますが、私は「そうかな?」と疑問に思っているんです。自分の意思を持ってやりたいことを決めて、自発的・自立的に行動している——その高専らしい強みはずっと変化していません。

女子バスケットボール部の顧問も務めている浅田先生。部活動指導ため、日本バスケットボール協会公認のコーチライセンスC級を取得されたそうです。写真は、高専大会の試合直前の様子
▲女子バスケットボール部の顧問も務めている浅田先生。部活動指導ため、日本バスケットボール協会公認のコーチライセンスC級を取得されたそうです。写真は、高専大会の試合直前の様子

一方で最近は、保護者の方や知人、中学校の先生、地域の方々など、高専の教育を理解してくださる「高専サポーター」が増えている実感があります。中学校訪問の際にも、以前は高専という学校そのものについての説明が必要でしたが、最近は入試制度の変更点とともに学校の様子を伝えることが主になってきました。ある保護者の方からは「学費が抑えられて、専門性が身につき、就職先も良いので、こんなに魅力的な学校はないですよ」とおっしゃっていただいたこともあります。

―最後に、高専を目指している中学生の方にメッセージをお願いします。

中学生にとって「高専を選ぶ」ことは、周囲の仲間とは異なる道を歩む、大きな決断だと思います。科学が面白そう、エンジニアや研究者に興味がある、そんな中学生のみなさんは、ぜひ高専へ見学に来て、先輩たちが生き生きと活動している姿に、未来の自分を重ね合わせてみてください。そして、大きな期待感を抱いて高専という選択肢を選んでもらいたいです。

浅田 格
Kaku Asada

  • 仙台高等専門学校 総合工学科 教授

浅田 格氏の写真

1995年3月 東北大学 工学部 材料物性工学科 卒業
1997年3月 東北大学大学院 工学研究科 材料物性工学専攻 修士課程 修了
1997年4月 宮城工業高等専門学校(現:仙台高等専門学校 名取キャンパス) 材料工学科 助手
2003年3月 博士(工学)取得(東北大学)
2003年4月 同 助教授
2007年4月 同 准教授
2009年10月 仙台高等専門学校 マテリアル環境工学科 准教授
2012年12月 同 教授
2017年4月より現職

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