広島商船高専の航海学科(現:商船学科 航海コース)を卒業後、IT業界で技術者・営業として研鑽を積まれ、現在は株式会社ISAPの代表取締役を務める中山隆志さん。広島商船高専校友会の会長、(一社)全日本船舶職員協会 代表理事会長として、商船系高専の維持・発展にも力を注いでおられます。帆船での航海実習で培われた「困難に立ち向かう力」を原点に、海と陸の両面から、今も高専を支え続ける中山さんにお話を伺いました。
叔父への憧れと、離島での全寮制生活
―広島商船高専に進学されたきっかけを教えてください。
叔父が外航船の機関長をしていたんです。当時の日本郵船グループの会社に勤めていまして、船に乗って帰ってくると1カ月ほど休みがあって、悠々自適に過ごしていました。金銭的にも余裕があって、絵を描いたり趣味を楽しんだりと、子どもの目から見ても、とても充実した暮らしぶりでした。
それと、私は広島県の三次市という中国山地のど真ん中のような場所の出身で、外の世界に出てみたいという気持ちもありました。親元を離れたかったんですね。広島商船高専は同じ県内にありましたので、船長を目指して進学を決めました。
―ご家族の反応はいかがでしたか。
実はすごく反対されました。普通の県立高校に行って大学に進学しなさいと、親戚まで集まって議論になったんです。警察庁に勤めていた親戚のおじさんまで出てきて、「普通校に行って大学を出て警察庁に入りなさい」と言われまして。結構な大事になりましたね。
肝心の船乗りの叔父は航海中でその場にいなかったのですが(笑)、最終的には自分の意見を押し通して入学しました。
―広島商船高専はどのような場所にあるのでしょうか。
竹原市からフェリーで30分ほど行った大崎上島という離島にあります。橋がかかっていないので、アクセスはフェリーだけ。島の人口は今でも7,000人弱くらいです。当時は完全な全寮制でした。
―どのような学生時代を過ごされましたか。
軽音楽部でギターを弾いていました。自分で作詞作曲もしていましたね。学園祭でコンサートをしたり、岡山の女子大の学園祭に呼ばれて演奏したりもしました。
当時はフォークソングが盛んな時代でした。吉田拓郎さんも広島市育ちですね。明るい曲も暗い曲もやりましたが、MCで語りを入れてお客さんを盛り上げる工夫をしていました。拍手をもらえるときは本当に楽しかったです。

―航海実習はいかがでしたか。
航海実習は4年半の座学を終えた後に1年間行われました。まず練習帆船「海王丸」でハワイを目指すのですが、これが本当に大変でした。1月頃に出港して北太平洋を回っていくので、冬場の荒れた海を帆走するわけです。

また、毎朝ヤシの実を削ったもので木の甲板をひたすら磨いて掃除しました。航海中ですので、リタイアはできません。技術を学ぶというよりも、精神を鍛えるための修練という色合いが強かったですね。帆船のマストが大きく傾けば、その下は海ですから、沈没の危険はゼロではない。そういう緊張感の中で過ごす日々でした。ハワイに着いたときは夏の気候で、現地の方々にもすごく歓迎されました。
その後は「銀河丸」に乗って世界一周の実習に出ました。エジプトやイタリア、シンガポールなどに寄港しましたが、特に印象的だったのはエジプトですね。有名なピラミッドやスフィンクスって、実は一箇所にまとまっていて、少し離れると普通の商店街が広がっていました。写真で見ていたイメージとの違いに驚きましたね。
―長い航海を通じて、何か気づかれたことはありましたか。
やはり自分の小ささがわかるということでしょうか。海の真ん中にいると、自分は何者でもないんだなと感じるんです。あの広大さの前では、人間はとても小さな存在だと実感しました。
この経験があるから、陸に上がってからの仕事で困難に直面しても、あの航海に比べればどうということはないと思えたんです。乗り越えられないような困難に見えても、「結局はなんとかなる」という感覚を掴みました。
船酔いからIT業界へ、そして経営に
―卒業後にIT業界へ進まれたのは、どのような理由からだったのでしょうか。
実はですね、私は船酔いがひどかったんです。航海実習中、最初から最後までずっと毎日酔い止めを飲んでいました。結果として船が嫌いになってしまったんです。「船は自分には合わないな」と思って、卒業後は陸で働くことに決めました。
ただ、ITにまったく馴染みがなかったわけではありません。卒業論文でIBMのホストコンピュータを使ってデータ入力のシステムを扱っていました。1980年頃の話ですから、当時としてはかなり先端的な環境でしたね。先生の推薦で東芝関連のIT会社に入社しました。
―その後のキャリアの変遷について教えてください。
最初の数年はCADソフトの開発、その後はCIM(コンピュータ統合生産システム)の開発を手掛けました。その頃、技術もわかって営業もできるということで東芝に出向し、営業としてのキャリアが始まりました。
大きな転機は2018年、57歳のときです。当時すでに広島商船高専校友会の役員をしていたのですが、会長から「自分で会社を持てば、そういう活動もやりやすくなるよ」と言われたんです。会社にオフィスがあれば校友会関係の書類や部材を置ける場所ができますし、商船高専出身のIT技術者を受け入れる会社があってもいいなという思いもありました。
ちょうどその頃、東芝OBが経営していた株式会社ISAPを個人M&Aで譲り受けないかという話があり、2020年に株式を100%取得して、代表に就任しました。
―現在のISAPの事業内容について教えてください。
大きく二つの柱があります。一つは東芝様や日立ソリューションズ様といった大手メーカー系SIerのパートナーとして、基盤系・運用系・エンジニアリング系チームの技術者を提供する事業です。
もう一つが「Maritime-iSAP」という海事業界向けのデータベースサービスです。大学の蔵書管理で広く使われているOPACというシステムのOEM提供を受けて、海事系の団体に安価に提供しています。IT企業としての本業は海とは直接関係がないので、少しでも海に関わる仕事をしたいという思いから立ち上げました。
商船系高専の存続を支え続ける
―現在は広島商船高専 校友会の会長でもありますが、どのような活動をされていますか。
校友会は広島商船高専の卒業生約4,000人で構成されていまして、全国に7つの支部があります。入学式や卒業式への臨席と会長挨拶、教職員との交流会、入学志願者の広報活動支援、学生の課外活動や競技会への経済的支援など、活動は多岐にわたります。
ロボコンやプロコンへの出場支援もしていますし、各支部ではゴルフ大会や、校友会員がメインで構成する軟式野球チーム「瀬戸内ジャガーズ」の支援及び応援も行っています。ぜひ校友会のホームページも定期的にご覧いただきたいですね。

やりがいは、入学式で希望に満ちた新入生の顔を見られることと、卒業式で新たな船出に向かう卒業生の顔を見られること。加えて、学校が抱えている課題に真摯に取り組んで解決できたときの充実感は大きいです。
―これまでの活動で、特に印象に残っている取り組みはありますか。
最も力を注いだのは、商船系高専5校の練習船の更新です。いずれも老朽化が進んでいたのですが、1隻あたり約50億円、5隻で約250億円規模の予算が必要でした。全日本船舶職員協会(全船協)の前々会長の酒迎和成様、前会長の広重康成様、そして全船協の顧問である前参議院議員の赤池誠章先生のご尽力もあり、国の予算を確保して全校の練習船の更新が実現しました。最後となった広島商船高専の広島丸の代替船も今年3月に起工式を終えて、あとは就航を待つばかりです。

直近では母校の女子寮の新設も進めています。文部科学省の予算で建物自体は建てられるのですが、内部の什器備品に5000~6000万円ほど必要で、それは自分たちで賄うよう言われています。今まさに寄付を募っているところです。
―2026年6月には全日本船舶職員協会の代表理事会長にも就任されました。こちらではどのようなことに取り組まれるのでしょうか。
全日本船舶職員協会(全船協)は90年以上の歴史があり、もともと全国に11校あった地方商船学校の卒業生たちの集まりとして発足しました。
本協会の役員は会員から出しているのですが、商船系高専5校から会長以下の役員を選出しており、商船系高専との繋がりが非常に強い組織です。全船協会員である現役船員を商船系高専へ派遣して、海事産業への職業観を育てるセミナーを行ったり、商船学科振興協議会では、商船教育や海事産業の後継者の課題を協議したりしています。
日本の海外との物流は、90%以上が海上輸送に依存しています。国内の基幹物資の輸送も同様に船が担っています。ところが、外航船には外国人船員が多く乗っているのが実態です。
コスト面では確かに日本人船員は高いかもしれない。しかし、安全運航、海難事故防止という観点では、しっかり船員教育を受けた日本人船員が乗船していることの価値は非常に大きいんです。シミュレータだけではなく、目視(見張り)による航海が出来るよう実航海にて実地教育がされていますからね。商船系高専の維持と学生数の確保は、海洋立国としての日本の根幹に関わる問題だと考えています。
―高専生や高専を目指す方へメッセージをお願いします。
高専に入れば、やりたい業種に就ける即戦力が身につきます。それだけでなく、縦と横のつながりがしっかりあるので、どこに行ってもサポートしてくれる人がいるんです。
商船系高専は特にその結びつきが強く、航海実習では5校の学生が混ざって乗船しますので、一度に全国の仲間ができます。そして、その関係は卒業後もずっと続きます。何カ月ぶりかに会っても自然に飲みに行けるような絆が、一生残っていくんですね。
もしやりたいことがわからなくても、高専にいれば必ず誰か面倒を見てくれる人がいます。高専で培った力と絆を胸に、自信を持って未来に漕ぎ出してほしいと思います。
なお、私が副会長を務めています全国高専同窓会連合会では、現在会員校を募集しております。毎年11月に総会を開催していますので、まだ加盟されていない高専の同窓会の方々もぜひ一度ご参加ください。
中山 隆志氏
Takashi Nakayama
- 株式会社ISAP 代表取締役
広島商船高等専門学校 校友会 会長
一般社団法人全日本船舶職員協会 代表理事会長
全国高専同窓会連合会 副会長

1982年9月 広島商船高等専門学校 航海学科(現:商船学科 航海コース) 卒業
卒業後、東芝関連IT企業に入社し、技術者・営業として勤務。その後、東芝をメイン顧客とするIT会社で営業として勤務。
2020年6月 株式会社ISAP 代表取締役
2024年5月 広島商船高等専門学校 校友会 会長
2024年11月 全国高専同窓会連合会 副会長
2026年6月 一般社団法人全日本船舶職員協会 代表理事会長
2026年6月 公益社団法人日本海難防止協会 理事
2026年6月 公益財団法人海技教育財団 理事
2026年6月 公益財団法人日本殉職船員顕彰会 理事
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