2017年4月に国家戦略特別区域制度を活用し、愛知総合工科高校の専攻科が全国で初めて公設民営化されました。名城大学附属高校の学校長を経て、2022年度から専攻科の責任者を務められている岩崎政次(いわさき まさじ)さんに、高専にも似ていると言われる学校の特色についてお話を伺いました。
モノづくり県だからこそ必要な「第一線で活躍する技術者育成」
―愛知県立愛知総合工科高等学校の専攻科について教えてください。
愛知県におけるモノづくり人材育成の中核拠点として、2016年の4月に県内初の専攻科として誕生し、2017年4月には、全国初の公設民営化を行った教育機関です。高等学校卒業者を対象とし、2年制課程で各学年40人の学生が在籍しています。
「モノづくり現場の第一線で活躍し、リーダーとなりうる人材の育成」を行い、愛知県の産業振興に貢献することが本校の目的です。設置しているコースは、2022年度の学科改変に伴い、既存のコースであった「自動車・航空コース」「電気・制御コース」に加え、「情報・ITコース」と「電子・ロボットコース」の4コースとなっています。
カリキュラムは講義・コース別実習・総合実習の3つに区分されており、教育課程のうち40%は実習科目であることが特徴です。
また、教員にも特色があります。高度な研究スキルと知識を有する大学の教授や、生産現場のプロとして社会から高い評価を受けている民間企業の技術者、技能五輪メダリストがチームとなって授業を行っているんです。
例えば、自動車・航空コースでは、レーザー加工やプレス板金、CADが実習科目としてあります。トヨタ自動車など愛知県を代表する企業から招かれた技術者たちに師事し、最新の工作機械の操作方法など、各コースにとって必要な技術が習得できるカリキュラムなんです。
卒業後の進路としては、製造業の技術系職種を中心とした幅広い就職先に加え、4年制大学への進学も可能となっています。
―専攻科を設置することになった理由を、詳しく教えていただけますか。
愛知県は自動車や航空機が有名ですが、ロボットや繊維など様々なモノづくり産業が集積することにより、製造業で日本一のシェアを誇っています。自動車・航空宇宙の国内最大のモノづくりの集積地として規制改革を行うことで、産業の担い手を育成し、「成長産業・先端技術の中核拠点を形成すること」を目指しているんです。
また、国家戦略特区の認定も受けているので、例えば同じく国家戦略特区の認定を受けている新潟市であれば「大規模農業の改革拠点」など、地域性に応じたテーマが定められています。こういった背景から、愛知県は新しい教育システムの構築が始まったんです。
企業の技術者が直接指導する、新しい教育の形
―公設民営による学校運営は全国初です。
学校の設置者ではない民間事業者に委託しての管理運営を可能にするのが公設民営化のコンセプトです。本校では、学校法人名城大学が愛知県から指定管理法人として認定を受けて管理運営しています。私は理事長から専攻科の責任者を依頼され、2022年度に着任しました。
公設民営化の狙いとして大きいのは、企業の技術者が育成側にまわり直接指導することです。企業技術者が教えるのは公立学校だと給与や教員免許の関係で難しいので、これは他の学校ではできない教育体制だと思います。民間のネットワークを活用することで、現場の即戦力となる人材育成を目指しています。
ただ、全国初の試みであるため、先行事例が日本にはなく、手探りで進めている状況です。企業とのコネクション作りや情報収集を自ら行い、企業への協力を要請しています。地道な取り組みではありますが、着実に教員数を増やし、教育の質の向上に繋がっていると考えています。
―高専と教育スタイルが似ているかと思いますが、いかがでしょうか。
モノづくり人材を輩出するという観点では似ていますが、学校運営システムや教育手法の多くは異なる点があると思います。
本校は各コース1学年10人という少数精鋭のクラスとなっており、より少人数教育で次世代を担う高度なプロフェッショナル人材を育成しているところが高専との違いだと思います。
また、学生数に対する教員数も異なります。総合実習1つとっても、生徒数40人に対し、22人の講師陣が年間を通じて授業を受け持っています。大学のゼミでは、教授1人に対し、学生数はだいたい10人ですよね。本校では、民間企業の技術者から1対1の指導を受ける学生もいます。人件費と教育内容という観点では、他の教育機関ではマネできない強みだと認識しています。
大学と比較した強みを挙げるならば、「技術のスペシャリストを育てる」ことに注力している点です。そのためには、技術に触れる経験が重要です。最新機器の導入なども躊躇なく行い、例えば、最新ロボットを学生が1人1台使える環境を整えたり、数千万以上するレーザー加工機の導入を行っています。学生はもちろん、技術者でもなかなか使用できない機械に触れる経験を得ることが、将来活躍する高度な技術者育成につながると思っています。
好きなことをとことん突き詰める! 専門性の高い技術者へ
―専攻科の学生たちは座学に実習と、濃密な時間を過ごされますね。
総合実習は学科やコースの枠を越え、それぞれ研究テーマを設定して行います。小型衛星の制作、鳥人間コンテストへの挑戦、競技用ロボットの開発、燃料電池車の制作など多岐にわたります。
本年は、技能五輪全国大会の3種目(ウェブデザイン、メカトロニクス、機械製図)に5名の生徒が出場を果たしました。その中でウェブデザインに出場した生徒は、昨年に引き続き金賞を受賞し2連覇を果たしました。
1年生の総合演習では、企業との共同開発で、COBOTTA(産業用人協働ロボット)を使用した「パンケーキが焼けるNCマシン」の開発を行っている班もいたんです。現在はトッピングができるような開発を進めていますね。
実習がある日は9時から16時までフルで動けるスケジュールにしており、実習の片づけを含めると、終わりは17時近くになります。私からみると、専攻科の学生は普通の大学生より忙しいですし、正直遊ぶ時間が少ないかなと思いますね。
ですが、「自分のつくった飛行機で飛びたい」や「技能オリンピックで優勝したい」など、多くの学生は具体的な目標をもって入学している印象です。自分のやりたいことをとことんできる環境を整備することが私の役割だと思っています。
そのためには、民間企業の方が持っている技術経験を教えてもらえる場をつくること、そして、自身のやりたいことを持ちつつ、本校がそれをかなえる良い場所だと思って入学してくれることが、私の一番願うところです。
―最後に、岩崎さんが目指す理想の教育についてお聞かせください。
全国初の公設民営の学校であり、公設民営だからこそできることを実現したいです。モノづくりをしたいという学生に対して、できる限り高水準かつ技術者育成に向けた直接的な教育を提供する。学生の目的、県や企業が目指すもの、大学法人の教育に関するナレッジ、すべてがうまく組み合わさって、初めて新しい価値が生まれる、素晴らしい学校がつくられたんだと思います。
ですが、社会の変化についていき、その都度求められる役割を更新していくべきだとも考えています。変化に対し柔軟に対応していくことで、学生が必要とするものをできる限り置いてある学校=社会にとって意味のある場所がつくられるのではないでしょうか。
◎愛知県立愛知総合工科高等学校 専攻科
〒464-0808 愛知県名古屋市千種区星が丘山手107
HP:https://www.aichi-te-ad.jp/
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