
大分高専を卒業後、筑波大学に進まれ、現在は株式会社スクウェア・エニックスで働かれている里井大輝さん。高専時代は、意外にも悩みが多かったのだそう。そんな里井さんのターニングポイントや、また、今だからこそ高専生に伝えたいメッセージについて、お話を伺いました。
オープンキャンパスで、将来が身近になった
―里井さんが大分高専に進学されたきっかけを教えてください。
小さい頃からゲームやコンピューターが好きで、宿題が終わった後はゲームばかりして遊んでいました。だからといって将来ゲームクリエイターになりたかったわけでもなく、中学生になっても自分の将来のイメージが全然想像できてなかったです。
そんな折、中学2年生の頃に立ち寄った大分高専のオープンキャンパスで「こんな面白い学校があるのか!」と衝撃を受け、早くから情報工学やモノづくりを学んでみたいと思いました。今まで、自分の好きだったゲームは「雲の上の人がつくっている」という感覚でしたが、そこが一気に身近になりましたね。
―大分高専に進学されてみて、いかがでしたか。
インパクトの強い先生方が多かったですね(笑) 1年生の時の担任の先生が中国から来られた先生で、ホームルームで学生の名前を読み間違えるんですよ。それがいまだにあだ名になっている友達もいます(笑) あとは、哲学の授業を教えていただいた、堀栄造先生も面白かったですね。独特のイントネーションや例え話をしていただいて、哲学の授業は目が覚めるんです(笑) 毎回すごく楽しみでした。
また、松本慎平先生にもすごくお世話になりました。プログラミング系の授業を担当されていたので、色々と相談に乗ってもらっていましたし、松本先生の家が高専から徒歩3分ほどの距離だったので、バーベキューにも呼んでもらいましたね(笑)

-高専時代は悩みもあったそうですね。
情報系の勉強はしていたものの、将来についてはすごく迷っていました。先生方に「モノづくりを仕事にしていくんだよ」と言われても、「何のモノづくりを、どうするのか」ということがよく分からなくて。当時はゲーム業界に対しても、別の業界に対しても、漠然としていました。
そんな時に、松本先生から2人の先輩を紹介していただいたんです。東大に進学して学生起業をされていた先輩からは、会社でどういったことをやっているかを教えてくださいましたし、京大に進学して研究者を志していた先輩には、大学や研究室の中を案内していただいて、研究者ルートについて相談に乗ってくださいました。当時の自分にとってはまぶしくて仕方なかったですね。
悩んだ末に、総合大学である筑波大学に進みました。結果的に、企業の「開発者兼研究者」という先輩2人の中間的な道を進むことになったのも、先輩方の影響かもしれません。
「生き物らしさとは何か」を追求する
-大学時代はどのような研究をされたのですか。
「アニメーションで魚をリアルに動かすには、どうすればいいか」という研究をしました。魚のアニメーションをつくるのって実はけっこう大変で、人と違ってモーションキャプチャが使えないので、手作業でアニメーションをつくるしかないんですよね。魚の種類によって骨格も動き方も全然違いますし、アニメーションを手作業でつくるのは大変なので、そこをプログラム化できればという研究でした。
それにあたって、「生き物らしさとは何か」ということをすごく考えましたね。どうやったら「生き物らしさ」という、人間の主観的な感覚をつくり出すことができるのかが課題でした。
人は姿かたちだけでなく、動きからでも「生き物らしさ」を感じられることが分かっていて、例えば熱帯魚の突発的な加速や、急な停止などの動きに着目して研究を行いました。水族館にビデオカメラと三脚を持っていって撮影してしまい、先輩と一緒に怒られたこともありましたね(笑)

博士課程の時は、熱帯魚だけでなく、大型魚も同じ仕組みで扱うためにはどうすればいいかの研究をしました。熱帯魚は突発的な動きが見られるんですが、大型魚はゆったりした動きが多いので、最終的に行きついた形は、「魚が頭の中で何を考えて泳いでいるのかをモデル化する」ということでした。
人間から見て生き物らしく見えるかを追求することによって、実は魚が何を考えているのかを自分の中で探ることになったところが面白さでもあり、難しさでもありましたね。


-大学時代に、分岐点があったそうですね。
学部3年生の時に、「生活を豊かにするエンターテインメント」というお題のもと、モノづくりを企画して、外部コンテストに応募するという選択科目を受講しました。
そこで、友達とチームを組んで、電子工作のおもちゃをつくったんですよね。ペットボトルの中にマイクやスピーカーが入っていて、ボトルの中に声を吹き込んで、蓋を閉めて振り、蓋を開けると加工された声が出てくるというおもちゃでした。

大人になって出来なくなったことを、普段の生活の中で出来るようにしたいと、「カラオケ×炭酸飲料」からアイデアを得ました。実は子ども受けがすごく良くて、とても喜んでもらえたんです。
それまで人に喜んでもらえる経験をしたことがなかったので嬉しかったですし、衝撃でもありました。僕の場合は「人に喜んでもらえることが重要なポイント」ということに気付いたことが、大きなターニングポイントでしたね。
「面白さとは何か」を追求し、ユーザーに喜ばれたい
―現在はどのようなお仕事をされているのですか。
株式会社スクウェア・エニックスにて、ゲームAIの研究開発とゲーム作品への導入をしています。特に「メタAI」という、ゲームの状況に応じて、より面白くなるようにゲーム内容を変化させる仕組みを専門にしています。

アクションRPGの終盤では、キャラクターレベルが高いプレイヤーもいれば、低いプレイヤーもいますし、アクションが得意なプレイヤーも苦手なプレイヤーもいます。ですので、幅広いプレイヤーに対して、「できる限りあらゆるプレイヤーが、少し苦戦するけど最終的には乗り越えられるような体験ができる」という、狙い通りの難易度を実現するのは困難だという課題がありました。
そこで考えたのが、「2次元感情マップに基づくメタAI」です。これはプレイヤーの感情をリアルタイムに分析し、その分析結果に基づいてプレイヤーの感情が揺さぶられるように、敵キャラクターの行動を調整するシステムです。
2次元感情マップというのはプレイヤーの感情を「勝利への期待感」と「敗北への不安感」の2軸で表現するモデルで、たとえば勝利への期待感と敗北への不安感が両方とも高ければ「興奮・うれしい」、両方とも低ければ「落ち込んだ・退屈」となります。

プレイテストの際には、人の感情とメタAIが出す計算結果にズレがある場合もあり、その修正は大変でしたが、最終的に手法の実装や検証、調整などを経て、実際に発売されるゲームで動くよう仕上ることができました。
学生時代は「生き物らしさとは何か」を考えていましたが、今は「面白さとは何か」ということを追求しています。非常に大きなテーマですが、研究だけではなく、自分が関わった部分がユーザーに刺さって、記憶に残るような仕事が出来ればいいなと思いますね。

―最後に、現役の高専生へメッセージをお願いします。
高専生には、「モノづくり自体にハマれなくてもいいんだよ」と伝えたいです。僕自身、決めた道をずっと突き進んでいるタイプではなくて、20歳過ぎまで悩んでばかりでした。
「人に喜んでもらえる」という、自分の中で重視しているポイントが実はあるにも関わらず、それに気付けないまま過ごすのはすごくもったいないです。「自分が何に楽しみを見出すのか」というきっかけを得るために、いろいろとチャレンジしてもらえたらと思います。
高専に来る人たちはモノづくりが好きな人が多くて、早くから成果を出してキラキラしている友達を羨ましく思う瞬間があるかもしれませんが、「だから高専に向いていない」と思う前に、少し違った視点で見ると、また道が開けてくると思います。「モノづくり自体」に今ハマれなくても、いろいろなキャリアルートが待っていることを知ってほしいですね。
里井 大輝氏
Daiki Satoi
- 株式会社スクウェア・エニックス AI部 AIリサーチャー

2011年3月 大分工業高等専門学校 制御情報工学科 卒業
2013年3月 筑波大学 情報学群 情報メディア創成学類 卒業
2014年3月 筑波大学大学院 システム情報工学研究科 博士前期課程 修了
2017年3月 筑波大学大学院 システム情報工学研究科 博士後期課程 修了
2017年4月 株式会社スクウェア・エニックス テクノロジー推進部 AIリサーチャー
2022年1月より現職
大分工業高等専門学校の記事


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