高専教員教員

産官学の経験を活かして「まず自ら動く」を母校で実践。高専でいつでもモノづくりで「やってみる」環境を当たり前に

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小山高専の電気電子創造工学科で准教授を務める飯島洋祐先生。産官学での経験を経て母校へ戻り、現在は地域に寄り添うディジタル活用の研究やスタートアップ教育のほかにも、学内のモノづくり拠点「思索(おもひ)Factory」の運営を務めています。これまでの歩みを通して、飯島先生の教育への思いをお伺いしました。

産総研・民間企業での経験を糧に

―小山高専に進学したきっかけを教えてください。

栃木で育ち、小学生の頃に親戚から勧められたのがきっかけでした。幼いころから工作や絵を描くことが好きだったので、当時の私は素直にその助言を聞き入れ、電子制御工学科の門を叩きました。1996年のことです。高専在学中は自宅から高専までは自転車で15分ほど。私服で通学できる自由な環境が新鮮でした。

入学後に待っていたのは、電子制御工学科のユニークで厳しい先生方による刺激的な授業でした。まだ数学で習っていない微分積分の数式が、専門の授業で当たり前のように出てくるんです。そのたびにクラス全体がザワつくのですが、先生は平然と授業を進めていくので、私たち学生も疑問を持つ間もなく、授業に必死についていきました。

▲高専5年生のときの卒業研究で製作した回路。回路基板設計から半田付けまでを苦労した経験が、今のディジタル信号処理研究の原点となっているとのことです

―高専在学中には、産総研で技術研修を経験されていたそうですね。

はい。5年生の時に指導教員のつながりで、つくば市の産業技術総合研究所(産総研)へ技術研修生として行くことになりました。その後、群馬大学、同大学院、そして筑波大学(産総研連携大学院)の博士課程へと進学し、産総研での研究を実に8年間続けることになりました。

群馬に住んでいたころは、週の半分は群馬、半分はつくばという生活で、アパートを2つ借りて毎週車で往復していました。本当に多忙でしたが、自分自身の研究だけでなく、産総研での研究サポートや回路設計の仕事を通じて、早い段階から社会人と同じような経験を積めたことは、自分の大きな強みになりました。

▲産総研の頃から今でもずっと回路の知識や技術を教えてくれる研究者(中央)の方と、同じく学生で研究していたメンバー(右)とでアメリカに行った際の1枚(左:飯島先生)

―博士課程修了後は、民間企業で研究開発に携わる道を選ばれています。どのようなお考えがあったのでしょうか。

その当時は、直感的に「今は一度産業界に出てみることが将来の強みになるはずだ」と考えたからです。太陽誘電株式会社で電子部品の研究開発に4年間従事し、大学との共同研究や事業部などとのモノづくりに携わる中で、それぞれの考え方や時間軸の違いを学びました。

―民間企業での経験を経て、母校である小山高専に戻ろうと思われた理由を教えてください。

実は、心の中でずっと高専教員に対する憧れを持っていました。高専生時代に、先生たちの圧倒的な「技」を目の当たりにしたからです。実験や回路製作などで私たちが失敗しても、臨機応変にさっとリカバリーしてしまう。理論と技術を兼ね備えた頼れる姿に魅了され、なんて楽しく素敵な仕事なんだろうと思っていました。

もう一つ、警察官だった父の影響も大きいです。父は定年まで駐在所に勤務していました。駐在所がずっと我が家だったので、ドア1枚隔てた向こう側で父が地域の人と関わり、さまざまな出来事に向き合って、人のために働く姿を30年間ずっと間近で見てきました。

そういったこともあり、「自分も人とのかかわりの中で役に立つ仕事がしたい」という思いが自然と芽生えていたのだと思います。「とにかく栃木が好きで、母校が好きだった」という思いもあり、2012年に小山高専の教員公募が出たタイミングで迷わず手を挙げ、母校へ戻ってきました。

失敗してもいい。挑戦することが大切

―先生のご研究テーマについて教えてください。

高専時代から続けている、アナログとディジタルの架け橋となるような「ディジタル信号処理」です。USBやLANケーブルなどの電気配線の通信技術から始まり、最近ではディジタル化されていない地域課題を解決するためのAIアプリケーション開発に力を入れています。

現在は、さまざまな所でAIの活用が進んでいますが、地域の工場や見守りの現場などでは、まだまだ多くの作業が人手で行われています。ここに高専ならではのフットワークの軽さで入っていき、名もないような作業を代替できる使いやすいAI技術を開発したいと考えています。

特に最近力を入れていることは、カメラなどの映像ではなく、加速度や音といった「振動情報」をAIで処理することです。映像を使わないことでプライバシーの問題を低減し、工場の作業支援や建物の診断など、フィールドワークを中心に現場での実験を重ねています。

―教育面では、スタートアップ教育やSTEAM教育にも取り組まれています。特に大切にされていることは何でしょうか。

アントレプレナー教育推進室の室長を経て、2026年4月に新設された、学内でスタートアップ教育やSTEAM教育を推進するセンターのアントレプレナーシップ教育部門長として、学科横断の新しい授業を仕掛けています。小山高専のアントレプレナーシップ教育はまだまだ成長過程です。結果よりもどのように成長していくかを大切にし、今は学内の土壌をしっかりつくっていくことに力を入れています。

全学的なアントレプレナーシップ教育に加えて、学生と企業の担当者が伴走して「正解のない課題」に取り組む、3年生向けの「アントレチャレンジ」も実施しています。昨年は、小山高専の目の前にあるイオンモール小山店に協力していただき、フィールドワークで課題を探しました。実際に現場を見ながら、例えば「商品を戻すときに正しい場所に戻せていない」といった、見たり聞いたり、学生自身の手が届く身近な課題を見つけ、その解決策を考えるのです。

▲2025年12月に実施したアントレチャレンジでの集合写真

この教育をスタートする上で私が何よりも大切にしたのは「うまくいかない姿もあえて見せること」でした。失敗に目を瞑り、見栄えを意識して失敗を隠してしまうような環境は、間違った成功体験を生んでしまう可能性があります。高専生は十分に大人ですから、「できなくてもいい。今は失敗を恐れずチャレンジすることに意味がある」ということをしっかりと伝えていきました。

今、5年生になった当時の学生たちが「アントレチャレンジでの経験は本当にためになった」と言ってくれるようになり、手応えを感じています。その時には実感できなくても、学生たちが年を重ねる中で「やってよかった」と思える経験になれればと思っています。

モノづくりを日常にする「思索Factory」の運営

―先生が運営を主導されている「思索Factory」について教えてください。

「思索Factory」は、学内にあるモノづくりコワーキングスペースです。私がその運営を主導し、10台以上の3Dプリンタを設置し、学生が順番待ちをせずいつでも自由に使える環境を構築しました。

▲ある日の思索Factoryの様子

日常の不便を解決するツールをつくったり、学園祭のパーツをつくったりと、使い方は学生次第。今ではほぼ毎日3Dプリンタが動き、誰かが活動をしている場所になってきています。「モノづくりが当たり前」になる環境や習慣をつくり、設備的・心理的な障壁を崩していくことが私の役目です。

さらに最近は、地域の企業と連携し、誰もが幼い頃に触れたことのある「段ボール」を使ったリサイクル可能な循環型モノづくりプロジェクトにも注力しています。学生たちの自由なアイデアには、日々驚かされています。また、幼児や小学生を対象にした公開講座などを企画し、次世代の小さなクリエイターの子供たちにも、3Dプリンタなどでの「モノづくりが当たり前」となるようなイベントを実施しています。

▲地元企業に資材を提供いただき、思索Factoryで学生がつくったダンボールの机。子どもたちが自由に「らくがき」できる大きな机をテーマにしました

高専にいると、毎年15歳から20歳の新しい世代が入ってくるので、一緒に過ごしているとアイデアが尽きることがありません。世代を超えた関わりが自分を豊かにしてくれますし、高専での教育を本当に楽しませてもらっています。いつか、自分の息子たちを含めて、地域の多くの子供たちが「この学校に来たい」と目標にする場所の一つにするのが私の目標です。

▲オープンキャンパスでの思索Factoryの様子

―今後、学生たちにどのような力を身につけてほしいと考えていますか。

学生たちには、まず自分から動き、実際に人と会って対話する行動力を身につけてほしいと考えています。最近の学生をみていると、同じ学内にいても、チャットメッセージだけで用件を済ませてしまうことが多いのです。教員室に直接会いに来る学生が減った印象があります。

チャットは手っ取り早いのですが、これから生成AIがさらに進化すれば、画面の向こうの相手が人間かAIかも分からなくなる時代が来ます。だからこそ、実際に動いて、見て、聞いて、利害が一致しない相手とも対面で気持ちを感じ取りながら刺激を得る価値を知り、そのスキルを培うことが、これからの技術者に最も必要だと考えています。

▲飯島先生の研究室メンバーのみなさんと、卒業式後に記念写真

―学生と過ごす上で、飯島先生が大切にされていることを教えてください。

教員自身が実技を持って実践し、矛盾のない背中を見せることです。そのため、私は毎日ノートPCを持って学内を歩き回り、相談があれば、なるべくチャットではなく直接会いに行くようにしています。まず自ら動く。そして、授業、研究、部活動も全力で取り組む。何でも全力でこなす高専教員の姿を見せて一緒に成長することが、私の体現したい教育のあり方です。

私自身、産総研や企業で多くの研究者たちの姿を見て「敵わないな」と落ち込んだ時期もかつてありましたが、研究を進める上でのフットワークの軽さを褒められたことで、自分の強みに気づけました。研究も教育も、座学だけが勉強ではありません。新しい発見のために、まずは面倒くさがらずにたくさん動く。そんなチャレンジを、私自身も学生たちと楽しみながら一緒に続けていきたいと思います。

飯島 洋祐
Yosuke Iijima

  • 小山工業高等専門学校 電気電子創造工学科 准教授

飯島 洋祐氏の写真

2001年3月 小山工業高等専門学校 電子制御工学科 卒業
2003年3月 群馬大学 工学部 電気電子工学科 卒業
2005年3月 群馬大学大学院 工学研究科 博士課程前期 修了
2008年3月 筑波大学大学院 システム情報工学科 博士課程後期 修了
2008年4月 太陽誘電株式会社
2012年4月 小山工業高等専門学校 電子制御工学科 助教
2013年4月 小山工業高等専門学校 電気電子創造工学科 助教
2017年4月 同 講師
2019年10月より現職

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