高専教員校長

異分野を掛け合わせると、新しい発見に──校長になった今も、社会に役立つ技術を追い続ける

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2026年4月に鶴岡高専の校長に就任した長谷川章先生。八戸高専での学生時代から研究者としての歩み、社会実装につながる研究への思い、そして鶴岡高専で育てたい技術者像まで伺いました。異分野を組み合わせる発想や、技術を社会へ届ける大切さに迫ります。

高専で出会った、分野を越える研究の面白さ

―先生が八戸高専を知ったきっかけを教えてください。

中学生の頃、兄の友人に八戸高専の卒業生がおり、その方がフィリピンの化学工場の立ち上げに携わっていました。化学プラントや海外で働く話を聞き、「化学とはどんなことをするのだろう」と興味を持ったことが、高専を知るきっかけでした。

―実際に入学してみて、高専生活はいかがでしたか。

私には、とても合っていました。実際にものをつくったり、化学反応による色の変化を目の当たりにしたり、分析装置で目に見えないものを調べたりと、体験を通して学べる面白さに夢中になりました。個性的な先生方のもと、15歳からこうした環境で学べたことは本当に良かったと思います。

授業だけでなく、高専祭にも熱中しました。八戸高専では毎年、本格的なねぶたを制作しており、私は1年生の頃から参加していました。寮で夜遅くまで作業し、ねぶた制作の責任者や高専祭実行委員長まで務めたことも、大きな思い出です。

▲高専祭でねぶたを制作したときの1枚

―卒業研究では、縄文遺跡の土壌を分析する研究に取り組まれています。

縄文遺跡の土坑(土を掘った跡)が墓として使われていたかどうかを、土壌中のリン酸濃度から検証する研究を行いました。

日本の酸性度の高い土壌では人骨が残りにくい一方、リン酸は土壌中に残ります。そこで周辺の土壌とリン酸濃度を比較することで、土坑が墓だった可能性を科学的に検証しました。

当時は分析方法も確立されておらず、指導教員と議論を重ねながら分析法をつくり上げていきました。そうして分析を進めた結果、土坑から高い濃度のリン酸が検出され、墓として使われていた可能性が示されました。

これは「異なる分野を組み合わせることで、新しい発見が生まれる」という面白さを実感した研究です。考古学だけでは推測にとどまっていたことも、化学という視点を加えることで、より客観的に検証できるようになります。高専時代に分野を横断する研究の面白さを経験できたことは、その後の研究人生の原点になりました。

―その後、豊橋技術科学大学へ進学されています。

当時から、豊橋技術科学大学は高専からの進学先として非常に魅力的な存在でした。多くの研究室がありましたが、特に、触媒化学の研究内容に惹かれて研究室を決めました。

大学卒業後は企業の研究所でセラミックスの研究に携わりました。しかし恩師から「高専で教員をやってみないか」と声を掛けていただき、会社を退職して八戸高専へ戻りました。自分で研究テーマを考え、学生とともに研究に取り組める環境に、大きな魅力を感じていました。

最初は「自分に教員が務まるのだろうか」という不安もありましたし、初めての授業はとても緊張しました。卒業して間もなかったので、自分が学生時代に知っていた後輩もまだ在学していて、「先生」ではなく「先輩」と呼ばれることもありました(笑)

▲八戸高専の助手時代の長谷川先生

研究を社会へ。実用化を諦めない歩み

―八戸高専で教員になってから、本格的に研究者として歩み始められました。

高専に戻って最初に取り組んだのが、スピンコーティング法を用いてガラス基板上に厚さ数百ナノメーターのアルミナ薄膜を形成し、性質を調べる研究です。あるとき、その薄膜を熱水に浸けると、平らだった表面がスポンジのような多孔質構造へ変化する現象を発見しました。

この発見が、その後20年以上続くアルミナ研究の出発点となり、最終的には国際特許の取得にもつながっています。

―先生の研究は、エネルギーや環境など、社会課題とも深く関わっています。

私が大切にしてきたのは、社会課題をどう解決できるかという視点です。

例えば、自動車の排気ガスを浄化する触媒や、水素を効率よく製造する触媒など、一般の方の目には見えない材料ですが、社会を支える重要な役割を担っています。その基盤材料として、アルミナの研究を続けてきました。

研究テーマそのものよりも、「社会に役立つ材料をつくりたい」という思いが、私の研究の軸になっています。

▲八戸高専の教員時代の長谷川先生。研究室の学生のみなさんと。触媒をごま煎餅に例えてのポーズ(ごまが貴金属で、生地がアルミナ)

―一方で、社会情勢の変化によって研究が中断する経験もあったそうですね。

天然ガスから水素を製造する触媒は、実用化まであと一歩でしたが、二酸化炭素を排出するため「グレー水素」と呼ばれるようになり、公的資金が打ち切られました。その後取り組んだ自動車排ガス浄化触媒も、EV化の流れを受けて資金が途絶えています。

悔しい経験でしたが、積み重ねてきた技術は無駄にはなりません。現在はその技術を応用し、企業と連携して二酸化炭素と水素からメタンを合成する触媒の実用化を目指しています。

社会の変化を捉え、自分たちの技術をどう生かすかを考え続けることも、研究者の役割です。研究成果を論文として発表するだけでなく、実際に社会で使われ、人の役に立つところまで実現することは、研究者にとって大きな夢だと思っています。

―20年ほど前には、アルミナ薄膜の知見を応用し、空気清浄機用の光触媒の開発にも取り組まれています。

国立研究開発法人であるNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)による1年間のプロジェクトで、限られた期間内に成果を出す必要がありました。専門外の光触媒に、アルミナ研究で得た知見を応用できないかと挑戦していましたが、研究終盤になっても成果は出ず、「あと1か月しかない」と焦っていました。

そんなある日、卒業研究生と評価実験をしていたところ、それまでにないほど高い性能を示す試料が現れたんです。分析装置の前で、思わず小躍りしながらガッツポーズをしました(笑)

調べてみると、それまで知られていなかった角柱状の酸化チタン粒子で、悪臭成分を分解する性能が非常に高いことが分かりました。アルミナの知見を異なる分野へ持ち込んだからこそ生まれた成果であり、光触媒だけを研究していたら、たどり着けなかったかもしれません。

▲NEDOプロジェクトで開発した光触媒の電子顕微鏡写真

―その技術を使った空気清浄機が実際に商品化されたときは、どのようなお気持ちでしたか。

開発した光触媒を搭載した空気清浄機が発売され、八戸市内のお店で実際に使われているのを見つけたときは、本当にうれしかったですね。子どもを連れて行き、「これ、お父さんがつくった技術なんだよ」と話したこともあります(笑) 研究成果が製品となり、社会で役立っている姿を見ることは、研究者としてこの上ない喜びでした。

―校長になられた今も、研究は続けていらっしゃるそうですね。

現在は自分で実験することが難しいため、八戸高専や企業さまと共同研究を行い、研究員の方に実験をお願いしながら、私はオンラインで結果を確認して方向性を示す方法で続けています。

研究は、これからも続けていきたいです。研究成果を社会へ発信するだけでなく、「校長も研究を続けている」という姿を教職員や学生に見せることにも意味があると思っています。

技術を伝え、分野を越える技術者を育てる

―2026年4月に鶴岡高専の校長に着任されました。これまで勤務されてきた八戸高専や福井高専と比べて、どのような特徴を感じていますか。

全国の高専にはそれぞれ異なる特色があると実感しています。

鶴岡高専は研究活動が非常に活発で、地域からの支援も非常に手厚い学校です。「鶴岡高専技術振興会」は鶴岡市長が会長を務め、市や地域企業が一体となって教育・研究活動を支援してくださっています。地域と高専との結び付きの強さは、鶴岡高専ならではの魅力です。

―鶴岡高専では、「総合工学」という独自科目に力を入れられています。どのような授業なのでしょうか。

鶴岡高専では、「理魂工才・自学自習」を校訓に掲げ、自ら考え、本質を理解し、それを実践できる技術者の育成を目指しています。その中核となるのが、1年生から継続して取り組むPBL(課題解決型学習)の「総合工学」です。この授業では、専門知識だけでなく、課題解決力や創造力、主体性、コミュニケーション力といった「人間力」や「ジェネリックスキル」を育てます。

テーマもユニークなものに設定しているのが特徴です。例えば、「素材の肌触りをどう数値化するか」といった、正解のないテーマにグループで取り組みます。フェルトやレザーの「すべすべ」「ざらざら」といった感覚を、どのように客観的な数値で表現できるかを考え、仮説を立て、実験を行い、コンテスト形式の発表会を行っています。

▲素材の手触りを説明する鶴岡高専の1年生

また、2年生と4年生がチームを組み、地域企業へインタビューし、働き方などを調べる取り組みもあります。異学年で協働することで、4年生は経験を伝え、2年生は早い段階から進路を考えられるのが利点です。3年生では、顧客の課題やコストまで考えたビジネスプランを作成し、外部専門家の助言を受けながら、実社会に近い事業づくりを体験します。

▲考案した「勉強スペース混雑状況の確認アプリ」について説明する鶴岡高専の3年生

―こうした教育を通して、学生にはどのような力を身につけてほしいと考えていますか。

技術者には、専門知識だけでなく、それを相手に分かりやすく伝える力が欠かせません。

私自身、触媒の研究を続けてきましたが、研究費を申請するときや企業へ説明するときには、専門外の方にも理解していただける説明が求められます。どれほど優れた技術でも、その価値を伝えられなければ社会には広がりません。

社会に出れば、多くの仕事はチームで進みます。だからこそ、自分の考えを発信する力と、相手の意見を受け止めながら協働する力の両方が必要です。学生のうちからこうした経験を積み、技術を社会へ届けられる技術者へ成長してほしいと思っています。

―今後、鶴岡高専でさらに力を入れていきたいことはありますか。

2025年度の学科改組で、新たに「デジタルデザインコース」を設置しました。これからは、機械や電気・電子、情報、化学・生物といった専門分野に加え、AIやDXなどといったデジタル技術を組み合わせられる人材が求められます。

同コースのデジタルデザイン実践工学では、学生自らが課題を設定して研究を行います。例えば「AIを使った獣害検知システムの開発」といった地域課題に密着したテーマがあげられます。企業と連携したこのテーマは、赤外線センサーで感知した画像をAIが解析し、クマやイノシシを識別、管理者のスマートフォンに通知するものです。このテーマを研究している2年生の学生は、将来、人のためになるモノづくりをしたいと抱負を語っていました。

▲獣害検知システムを研究するデジタルデザインコース2年の学生。テレビユー山形(TUY)でも紹介されました

1つの専門だけではなく、複数の専門性を持つ技術者を育てることが、これからの高専には重要です。現在は新しい校舎の整備も進めており、この改組をきっかけにデジタル分野の教育をさらに充実させていきたいですね。

―休日はどのように過ごされていますか。

庄内地域には温泉がたくさんありますので、妻と一緒に近隣の温泉巡りを楽しんでいます。月山や鳥海山を望む自然豊かな環境も魅力ですね。

実は妻とは八戸高専時代の同級生で、子ども3人も全員八戸高専に進学し、私と同じ化学系を学びました。子どもたちは小さい頃から研究室へ遊びに来ることも多く、実験や研究に触れる機会が自然とありました。そうした経験が、高専や化学に興味を持つきっかけになったのかもしれないと思うと、うれしい限りですね。

―最後に、高専生や高専を目指す中学生へメッセージをお願いします。

これからの社会では、正解のない課題に挑み、1つの専門だけでなく、異なる分野を組み合わせて新しい価値を生み出す力が重要になります。自分の専門をしっかり磨きながら、異分野や海外にも積極的に目を向けてほしいです。

これから国が成長を目指す戦略17分野には、AIやサイバーセキュリティなど、高専生が得意とする領域が数多く含まれています。高専生が活躍できる場所は、今後さらに広がっていくはずです。現在学んでいる分野だけにとらわれず、自分の技術をさまざまな領域で生かしてほしいと思います。

中学生の皆さんが大人になる頃には、技術者不足がさらに深刻になるでしょう。技術者は新たな価値を生み出し、社会を変えられる面白い仕事です。高専という環境を生かし、失敗を恐れず、未来の技術を生み出す人になってください。

長谷川 章
Akira Hasegawa

  • 鶴岡工業高等専門学校 校長

長谷川 章氏の写真

1985年3月 八戸工業高等専門学校 工業化学科 卒業
1987年3月 豊橋技術科学大学 工学部 物質工学課程 卒業
1987年4月 株式会社コパル(現:ニデックプレシジョン株式会社)
1987年7月 八戸工業高等専門学校 工業化学科 助手
2009年3月 豊橋技術科学大学 博士(工学)
2019年4月 八戸工業高等専門学校 副校長
2023年4月 福井工業高等専門学校 校長
2026年4月より現職

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