木更津高専をご卒業後、長岡技科大に進まれ、今は母校で教壇に立たれている水越彰仁先生。「大学院までの進学」と「高専教員になりたかった」というお父様の夢も同時にかなえられている先生に、高専時代の思い出や研究のお話、今後の展望を伺いました。
父の勧めで、木更津高専に進学
―木更津高専に進学されたきっかけを教えてください。
父が木更津高専の出身でしたので、その影響で高専の存在を知りました。実は私はあんまり父の学生時代を知らなかったんですけど、進路選択を考える時期に、いきなり「俺は高専に通っていたんだ」と言われて(笑)
父は大学に編入しており、本当は大学院まで行きたかったらしいんですけど、金銭的な理由で行けなかったらしく。「大学院まで行けるなら行ってほしい」ということもあり、進学にも強い高専にしました。
「高専に来たら、諦めて勉強しなさい」の意味
―木更津高専に進学されてみて、いかがでしたか。
実は1年生の最初の中間試験で、とんでもない点数を取ってしまって(笑) 中学生の頃は理系も得意で、そこそこ成績も良かったんですけど、この中間試験で「高専は本気で教えにきている」と感じました。
また、3年生の物理の授業で、「物体が動くときの速度や距離の関係は、微分や積分の式で表せる」というのを聞いたときに、ビビッときたんです。「そこで数学と繋がるんだ」と思いました。それまではただ公式を丸覚えしていて、物理と数学はそれぞれ独立している印象でしたが、そこで物理と数学が結びつくイメージができ、勉強が楽しくなりましたね。
あとは5年生の時に、定年退職される先生の「高専に来たら、諦めて勉強しなさい」というあいさつも印象に残っていますね。「高専に入ったら、高専でしかできない勉強がある。まずやってみて、どうしても合わなかったら進路を変えればいい」という意味で捉えています。
私みたいに専門科目の面白さにあとから気付く人もいるので、「勉強についていけない」ばかりではなく、1回はがんばって勉強してみることが大事だと思いましたね。
-高専時代は、どのような部活に所属していたのですか。
3年生の時に友達が「ダンスをやりたい」と言い出して、ダンス同好会を立ち上げました。設立メンバーは10人ぐらいいて、私もその1人です。下校時間まで、それぞれ好きな曲を踊っていました。
もともとすごいダンスが上手いわけではなかったのですが、身体を動かすのは好きで。EXILEの「Rising Sun」を踊った記憶がありますね(笑) 4年生からは研究に専念したかったので、1年ほどで辞めてしまったんですけど、楽しかったです。
発電に興味があり、電気が生まれる原理が面白かった
-卒業研究は、何をされたのですか。
石川先生の研究室で「振動発電」の研究をしました。スピーカーは電気を加えることで振動(音を発生)します。そして、逆に振動を加えることで電気を発生させることができるのです。この「圧電素子」の発電特性について研究していました。
もともと発電に興味がありましたし、電気がどうやって生まれるのかがとても面白かったんです。ただ、「どういう力が加わったら、どう発電するのか」という物理と電気の間の話がすごく難しくて、高専の5年生の1年間では全然研究できませんでしたね。
クラスメートの一言で、高専教員を志す
-長岡技科大を選ばれたきっかけを教えてください。
高専生の時に「先生になりたい」と思い始めました。先生方が楽しそうに授業されている姿を見て、「私も教壇に立てたら楽しいだろうな」と思いまして。でもきっかけは、クラスメートの「水越、高専の先生とかいいんじゃね?」の一言でした(笑) それで大学院を目指したんですよね。
長岡技科大を選んだ理由は、高専と長岡技科大で連携する授業に参加したのがきっかけです。もともといくつかの高専と長岡技科大が連携していましたが、そこに木更津高専が加わったのです。
この連携授業では、イノベーションやマーケティングを中心に学びました。そこで他の高専の5年生だった同級生たちに出会って、「みんなで長岡技科大に進もうぜ!」と約束しましたね(笑) 長岡技科大は「高専生が進学する大学」というコンセプトでやっているので、高専に近い環境で研究に集中できるところが魅力でした。
-長岡技科大でどのような研究をされたのですか。
パワーエレクトロニクスの研究室に入りました。電気自動車には動力源としてバッテリーが使われるのですが、実は電気自動車の中で、バッテリーが比較的早く寿命がくるのです。バッテリーの寿命が短くなる原因は「熱」なのですが、その発熱の要因の1つが「半導体電力変換装置(インバータ)」なんですよ。
インバータは、バッテリーの電源を細かくオンオフすることで、平均すると一定の電力を出す仕組みです。ただ、オンオフを繰り返すとバッテリーに負担がかかるので、その負担を減らす必要があります。しかし、バッテリーの負担を減らそうとすると、今後は電気エネルギーを回転エネルギーに変換するモータの負担が増えてしまうので、その両方の負担をインバータの回路や制御を工夫することで減らせないかが私の研究でした。
電気回路や制御器を使って実験するのですが、その前に理論的な計算をしてシミュレーションします。私が研究していたシステムは半導体素子の数が多く、計算にたくさんの要素が絡んでくるので、すごく大変でしたね。そんな状況だったので、計算と実験で同じ結果が出た時は、達成感がありました。
母校に着任し、父の夢も同時にかなえる
―その後、水越先生は母校の木更津高専に着任されているんですね!
実は、父に「木更津高専に着任が決まった」と報告した時に、「俺も本当は高専の先生になりたかったんだ」という話を初めて聞きました。父の夢を同時にかなえることになり、嬉しかったですね。
入学式で、新入生に教員が1人ずつあいさつするのですが、そこで新入生の姿を見た時に、「私も昔はそこに座っていたんだ」と感慨深かったです。教壇に立って「教員になったんだ」と改めて意識しましたね。
学生には「自主的に動いてほしい」と思っています。私が高専1年生の時、単位を落としそうなほど数学の成績が悪かったのですが、先生のところに直接出向いて、「教えてください」って言ったんです。1回言ってしまえばプライドがなくなるというか、気軽に先生に質問できるようになりましたね。ですので、学生には「自分から聞きに行こう」と伝えています。
でも、実際学生に自主的に動いてもらうのは難しくて。口で言ってもなかなか伝わらないので、試行錯誤しながらやっていこうと思っています。
専門性を広げ、趣味と研究をつなげていきたい
―現在はどのような取り組みをされているのですか。
着任したばかりでこれからですが、大学院でやっていた研究に関連することを進めていこうと思っています。大学院の続きだけだと視野が狭まってしまうので、少し分野を広げて「再生可能エネルギー」の分野にも挑戦したいですね。
私は「筋トレ」と「アクアリウム」が趣味なのですが、趣味と研究もつなげていければ楽しくなると考えています。例えば筋トレだと、「重りを持ち上げる」動作がありますので、モーターで重りを動かしたり、モーターを重りの代わりにしたりすることもできますね。
アクアリウムですと、水槽の水温管理が難しいことが課題になっています。水用のクーラーには電子回路が使われていますので、そういう部分で貢献できたらいいなと思っていますね。
研究室の学生がまだいなく、今年の9月から入ってきますので、今から楽しみです!
高専に入って、専門が楽しくなる場合もある
―小中学生や現役の高専生にメッセージをお願いします。
「好きなことを見付けてほしい」が1番の思いですね。実は高専1年生の時、柔道部に所属していました。勉強に集中したくて1年間で辞めてしまったんですけど、その時に体を動かす楽しさを知ったんです。筋トレはその頃からの趣味ですね。
アクアリウムは、大学院時代の研究室の後輩がやっていて、それで私も始めたんです。勉強だけでなく運動したり、仲間と楽しく遊んだり、趣味を広げたりすることは、そのまま「人生を楽しむ」ことにつながると思います。
小中学生も、理数系に興味があれば高専を受けてくれればいいと思いますし、専門にまだ興味が持てなくても、私みたいに高専に入って専門が楽しくなる場合もあります。高専には大学教授レベルの先生方がたくさんいらっしゃいますので、5年間その環境で過ごせることはメリットだと思います。気軽に高専のことを調べてもらえたら嬉しいですね!
水越 彰仁氏
Akihito Mizukoshi
- 木更津工業高等専門学校 電気電子工学科 助教
2015年 木更津工業高等専門学校 電気電子工学科 卒業
2017年 長岡技術科学大学 電気電子情報工学課程 卒業
2022年 長岡技術科学大学 技術科学イノベーション専攻 修了(5年一貫制博士課程)
2022年より現職
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