木更津高専を卒業され、筑波大学・大学院を経て、NTTデータ、ランサーズ、メルカリといった企業でキャリアを積み上げてきた木下慶さん。現在はノンアルコールクラフトビールBRULO(ブルーロ)の輸入・販売を手掛けるBeverich株式会社を起業され、適正飲酒の普及に努めています。今回は、木下さんのこれまでのキャリアや起業のきっかけ、ノンアルコールビールにかける思いについてお話を伺いました。
黎明期のインターネットに触れた経験から、高専へ
―高専に進まれたきっかけを教えて下さい。
中学3年生の進路を決める際、母から高専の存在を教えてもらったのがきっかけです。当初は普通科への進学を考えていたのですが、私の地元である千葉に木更津高専があるので受験してはどうかと母が提案してくれたことで興味を持ちました。ただ、少し珍しい進路だったこともあり、担任の先生に相談した上で受験を決めました。
その背景には、中学生の頃からパソコンやインターネットが大好きだった自分の興味があります。学校の授業でパソコンを触る機会があり、それがとても楽しかったんです。一方で、家にはパソコンがなかったため、もっとパソコンやインターネットに触れる機会を増やしたいと強く思っていました。
そんな時、母からそういったことをしっかり学べる学校があると教えてもらい、自分の好きなことを本格的に学べる場所があるなら挑戦してみたいと思い、高専への進学を決めました。
―インターネットのどういうところに惹かれて、学びたいと思ったのでしょうか。
そうですね、もともといろいろなことを調べて知るのが好きな子どもでした。それまでは本を読んだり、人に聞いたりして情報を得ていたのですが、インターネットで検索すれば何でも答えが出てくる、という体験がまず衝撃的ですごいなと思いました。それが一つ目の理由です。
もう一つは、当時はまだアプリやリッチなWEBサービスが少ない時代で、シンプルな掲示板サイト(CGI)などが主流でした。私が中学3年生だったのは2000年頃なのですが、その頃、自分でもHTMLを書いて簡単なものをつくることができました。画面上で自分が書いたコードがそのまま反映されて動くのを見たとき、「これはものづくりとしてとても面白い」と感じたんです。
―実際に高専に入ってみていかがでしたか。
インターネットに触れたいという思いから高専に進学しましたが、実際に授業で使うパソコンはインターネットに接続されていませんでした(笑) 授業中にウェブブラウジングができる環境ではなかったので、家でインターネットが使えない分を高専で補えるかなと思っていた期待は、正直いってまったく満たされませんでした。
ただ、一方で、入学前に自分が知っていたパソコンやインターネットの世界は、いわば「表面」の部分にしかすぎないことに気づきました。その背後には、ターミナルでコマンドを入力したり、プログラムを書いたりすることで成り立つ仕組みがあり、それを高専で学んだことは大きな「プラスのギャップ」でした。
授業は自分が学びたいことを教えてくれるので、とても楽しかったです。試験勉強にも真剣に取り組みました。学年が上がるにつれて専門科目の比率が増えていき、その分だけ興味のある内容に深く入り込めるようになり、成績もどんどん良くなっていきましたね。特に4、5年生になると、ほとんどの授業が専門科目になり、自分が興味を持っていることばかり学べる環境が本当に楽しくて、充実した毎日でした。
―高専でのご友人とのエピソードがあれば教えてください。
友人で永嶋という同級生がいます。彼は現在、イタンジという会社で社長として活躍しているのですが、高専時代からのつながりが今でも続いていて、とてもありがたい存在です。また、同じ大学に編入した仲間が4人ほどいましたし、同級生はそれぞれが面白いことをしています。高専で一緒に勉強した仲間たちが、10年、20年経ってもそれぞれの分野で活躍しているのを見ると、本当に良い出会いだったと実感します。
スタートアップでの経験から起業へ
―筑波大学に編入学されたそうですが、どうして進学を決めたのですか。
もともと大学に行きたいという思いは、小さい頃からずっと漠然と抱いていました。それは特に具体的なきっかけがあったわけではなく、親から「大学には行くものだよ」と言われていたり、なんとなく一般的にそうするものだと感じていたりしたからだと思います。高専入学時は既に「大学編入」という選択肢があることを知っていましたし、進路として自然に考えていました。
情報工学を専門的に学ぶことを考えた際、筑波大学が非常に充実した環境を提供していることを知りました。自分が本当に学びたい分野で選んだ結果、関東圏内で情報工学の優れた研究室や先生が多く所属する筑波大学に進むことを決めました。

―当時の筑波大学には起業家マインドを持つ人が多かったと聞きましたが、大学時代の影響で起業を考えるようになったのでしょうか。
確かに筑波大学にいた頃は起業家マインドを持っている人が周りに多く、刺激的でした。ただ、そのときは特に自分が起業することを具体的に考えていたわけではありません。本格的に起業を意識するようになったのは、むしろ就職してからです。就職してからいろいろな経験を積む中で、「自分で何かをつくりたい」という気持ちがどんどん強くなっていきました。
最初に就職したNTTデータでは大企業の安定した環境で働きましたが、ランサーズやメルカリといったスタートアップに移ったことで、物をつくる面白さや、世の中に直接インパクトを与える感覚を肌で感じるようになりました。特に、スタートアップで働いていると、サービスの立ち上げや人の集め方、マーケティングのやり方を間近で見ることができたので、「自分でもできるかも」というイメージが湧いたんです。
また、NTTデータで働いていたときに趣味でカフェ検索サービスをつくったことがあり、それを実際に使ってもらえたことが「自分ひとりでもサービスをつくれるんだ」という自信につながりました。そういう経験が積み重なって、「いつか自分でもやりたい」という気持ちが自然と強まっていった感じです。

タージ・マハルにて
―起業を決意された際に、これならいけると確信した瞬間やきっかけは何だったのでしょうか?
起業したいという思いはありつつも、具体的な事業内容は後から決めたんです。
起業準備のためにお酒を控えていた頃、BRULOというイギリスのノンアルコールクラフトビールに出会いました。その美味しさにとても驚き、これを日本で広めたいという強いモチベーションが生まれたんです。実際に販売を始める前は不安もありましたが、売れ始めてニーズを実感したとき、世の中に求められるものかもしれないという思いに変わりました。
ただ、飲料の輸入や販売は全くの未経験だったため、輸入手続きや費用の見積もりにかなり苦労しました。また、卸販売を行う中で、酒屋や飲食店との取引の仕方や業界の慣習ルールを理解するのにも時間がかかり、慣れるまでには多くの試行錯誤が必要でした。
―ノンアルコールビールに特化した理由は何ですか。
当初はワインやジン、コンブチャなども扱っていましたが、在庫管理や賞味期限の課題が多く、ノンアルコールビールに特化した方が合理的だと判断しました。また、私自身クラフトビールが好きで、ノンアルコールの美味しいビールを広めたいと思ったことも理由の一つです。
また、ノンアルコールビールの販売を通じて、適正飲酒を広めることが私の目標です。お酒は楽しいものですが、飲みすぎると健康リスクを伴います。ノンアルコールビールを飲酒習慣にうまく取り入れることで、適量飲酒を実現し、健康を維持しながら長くお酒を楽しめる文化をつくりたいと考えています。
いまは適正飲酒をサポートするアプリも開発しています。ユーザーが飲酒記録をつけることで、適量を超えたときにアラートを出したり、休肝日を設定してくれたりする機能を実装する予定です。インターンも募集していますので、一緒に開発したいという高専生がいらっしゃれば、ぜひご連絡ください。
―高専生にメッセージをお願いします。
高専で学ぶ情報工学や技術は、これからの時代に非常に求められるスキルです。勉強は大変かもしれませんが、その知識は必ず役に立ちます。そして、外の世界と関わることも大切です。インターンシップに挑戦したり、自分でアプリをつくったり、実践的な経験を積むことで、より広い視野を持てるようになります。ぜひ積極的に挑戦してみてください。
木下 慶氏
Kei Kinoshita
- Beverich株式会社 代表取締役

2006年3月 木更津工業高等専門学校 情報工学科 卒業
2008年3月 筑波大学 第三学群 情報学類 卒業
2010年3月 筑波大学大学院 コンピュータサイエンス専攻 博士課程前期 修了
2010年4月 株式会社NTTデータ
2012年6月 ランサーズ株式会社
2016年6月 株式会社メルカリ
2019年7月 株式会社メルカリ 国内フリマ事業 Head of Product
2021年10月 株式会社メルロジ(株式会社メルカリ100%子会社) CPO
2022年10月 Beverich株式会社 創業
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