ロボットをつくりたいという憧れから阿南高専に進学した藤本健司先生。勉強が苦手だった高専時代、寮生活で“仕方なく”始めた勉強が転機となり、今ではAI研究や教材開発に取り組みながら、神戸高専で学生たちの「学ぶ楽しさ」を育んでいます。そんな藤本先生に、研究と教育、そして学生への思いについて伺いました。
汎用型ロボットに憧れ、高専の世界へ
―阿南高専へ進学したきっかけを教えてください。
高専を選んだのは、ロボットアニメ『機動警察パトレイバー』がきっかけです。そこでは戦闘などの派手な活躍ではなく、土木作業や警備といった私たちの日常の中で活躍する「働くロボット」が描かれていました。そのリアルな世界観に惹かれ、「自分もこんなロボットをつくってみたい」と思ったんです。

ちょうどその頃、高専のパンフレットに「ロボット」という文字を見つけて、ここなら学べるかもしれないと直感しました。卒業後すぐに就職できるという点にも魅力を感じ、迷わず進学を決めました。
ただ入学してみると、実際には5年間でロボットを触る機会はほとんどありませんでしたね(笑)。最初は「ロボットはひとりで全部つくれるもの」だと思い込んでいましたが、次第にその難しさを知っていきました。

―高専時代は勉強が嫌いだったそうですね。転機はあったのでしょうか。
はい。入学して、最初の2年間は勉強が本当に嫌いで仕方ありませんでした。ですが、寮にはテレビもなく、何もすることがないので、暇つぶしに勉強を始めてみたんです。
そこから転機が訪れたのは3年生のときでした。授業に専門科目が増えた頃、偶然にもテストで高得点を取り、クラス1位になってしまったんです。先生から「カンニングじゃないよな?」と冗談まじりに言われ、そのプレッシャーから「次も良い順位を取らなければ」と思いました。
それをきっかけに、初めは15分しか続かなかった勉強時間が30分、1時間と次第に伸びていき、いつの間にか暗記ではなく、「なぜこうなるんだろう」と考えること自体が面白くなっていました。理解できれば自分で公式さえ導き出せるんだと、その感覚が勉強を「嫌いなこと」から徐々に「楽しいこと」に変えてくれました。

また、この頃から人に教えることにも楽しさを感じるようになりました。人によって理解のスピードや得意分野が違うので、「どう教えれば伝わるか」を考えるのが楽しかったんです。ただ、最初の頃は、教えた友達の方がテストでいい点を取ってしまうこともありました。なぜだろうと不思議に思っていたのですが、結局は自分自身が十分に理解できていないまま教えていたんですね。それに気づいてからは、より深く理解できるようになりました。
―高専卒業後はどのような進路を選ばれたのですか。
当初は、自分が理想とする汎用型ロボットをつくっていた企業に就職するつもりでしたが、ちょうどバブルが崩壊し、状況が一変しました。

そんな中で、大学編入も選択肢にできるほど成績が上がっていたこともあり、進学を決意しました。ちょうど高専時代にお世話になった先生が徳島大学におられて、「来るなら面倒を見る」と声をかけてくださったんです。そのご縁もあって徳島大学に編入し、AIや医用生体工学の研究に取り組みました。その後、より深く学ぶために、同大学の大学院へ進学しました。
―博士課程中に、香港での研究留学を1年間経験されたそうですね。
はい。もともと私は英語が大の苦手だったんですが、指導教員はそんな私にあえて外国人留学生のホスト役を任せることが多くありました。
あるとき、研究室にフランスから留学生がやってきました。最初は英語で話したくないと留学生を避けていたのですが、帰国2週間前にどうしても会話をしないといけない状況になり、思いきって英語で話してみたんです。
すると、彼は私の拙い英語を一生懸命聞き、わかりやすくゆっくりと話してくれました。その優しさに触れて、「なぜ今まで彼を避けていたんだろう」「なぜ英語を嫌っていたんだろう」と心から反省しました。彼にいろいろな言葉で感謝の気持ちを伝えたかったのに、「Thank you」の一言しか知らない。その悔しさが、英語を学び始めるきっかけになりました。
それから留学にも興味を持ち、専門分野の最前線に触れられる香港の大学を選びました。そこでは、まさに研究漬けの日々。さまざまな国や文化の人々が集まり、カルチャーショックも多くありましたが、「世界のどこに行っても研究でつながれる」という実感を得た、忘れられない1年でした。
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―高専の教員を目指したきっかけは何だったのでしょう。
大学院では、研究だけでなく後輩の実験を手伝ったり、アドバイスをしたりする機会が増えました。人が成長していく姿を見るのが楽しく、「教えるって面白い」と自然に思うようになったんです。研究室全体が、後輩を育てる文化だったことも大きかったですね。

また、当時は高専卒業後の進路は就職が一般的でしたが、自分自身がそうではない道を選び、いろんな世界が広がっていることを知りました。それを次の世代に伝えたい。そんな想いで「高専で教員として働きたい」という夢を持つようになりました。そうして博士課程修了後に、神戸高専に着任したという流れです。
AIを活用した研究と教材づくりの両輪
―現在の研究内容を教えてください。
もともと大学時代は、AIに関する研究を続けていましたが、博士課程の最後の方は、留学時代に学んだ医用生体工学の分野で生物実験やその結果をAIに組み込むことを中心とした研究に取り組んでいました。ただ、その当時、生物実験を日本で続けていくことが難しいかったということと、AIが時代の流れとともに注目されるようになり、今ではAIが研究の中心になりました。現在では、教育・医療・工学など、さまざまな分野に応用の幅を広げています。
例えば医療分野では、骨折診断のAIを開発しています。地方の病院ではCTのような精密機器が使えないケースもあり、現場の医師がレントゲン画像だけで判断しなければならない状況があるんです。そこで、骨が折れている画像と折れていない画像をAIに学習させ、医師と同じレベルで診断できるようにすることを目指しています。
さらに、「なぜ折れていると判断したのか?」という「理由の見える化」も大事にしており、注目している箇所が熱画像のようにハイライトされる仕組みを入れ、説明性のあるAIにしようと取り組んでいます。
―AIを活用した教材づくりにも力を入れているそうですね。
教材づくりは、研究というよりも開発に近いかもしれません。子どもの「理系離れ」が進む中で、特に低年齢層の子どもたちが理科や技術に興味を持てるような教材をつくりたいと思っています。
神戸高専は地域とのつながりが深く、小中学生に教える機会が多くあります。小中学生のうちは目をキラキラさせながら話を聞いてくれる人が多いのですが、年齢が上がって高校生や高専生になると、理系科目に対して「苦手」「つまらない」という印象を持つ学生は少なくありません。その背景には、「学んでいる内容が何につながるのかが見えづらい」という問題があるからだと感じました。だからこそ、「学ぶって楽しい」「理科って面白い」と実感してもらえるような教材をつくりたいと思うようになりました。

教材は見た目にもこだわっていて、「ワクワクする」教材にするのが重要だと感じています。内容がどれだけすごくても、パッと見て面白そうじゃなければ手に取ってもらえません。資料が「凝りすぎ」「多すぎる」と言われることもありますが(笑)、せっかくつくるなら、ちゃんと伝わるものにしたいと思っています。
教材はオープンキャンパスなどでも使用しています。理系科目は世界の見え方が変わるくらい面白いんだと、子どもたちにとって、そういう気づきになればと思っています。その結果、神戸高専にも興味を持ってもらえたら、こんなに嬉しいことはないです。
―教育や研究において、どんなところにやりがいや面白さを感じますか。
共通しているのは、「人の成長に関われること」です。学生が自分で考えて、工夫して、新しいアイデアを形にしていく。そのプロセスを見られるのはとても楽しく、自分自身も彼らと一緒に学び直しているような感覚になります。
異分野の方との研究も刺激的です。医療や産業界の方たちと話すと、自分にはない視点や考え方に触れることができ、「こういう切り口もあるのか」と学びが広がっていきます。学生たちにとっても、自分たちが学んできたことが、教室の外の現場につながっていく感覚は、貴重な経験になっていると思います。
教育も研究も、正解がひとつではありません。試行錯誤しながら、「ああでもない、こうでもない」と一緒に悩み、考え、新しいものを創り出していく。その過程こそが、この仕事のいちばん面白いところです。

「失敗しても大丈夫」と伝えられる存在でありたい
―学生への教育・指導で大切にしていることはありますか。
私はいつも、「学生時代は失敗してなんぼだ」と伝えています。もしひとりでは抱えきれないような失敗をしたとしても、私たち教員がちゃんと支えます。そんな環境をつくるのが私たちの役目ですから。
私自身、高専生だった頃は失敗をとにかく恐れていました。でも、今振り返ってみると、成長のきっかけとなったのはいつも、うまくいかなかった経験でした。
当時は、古い実験器具で正常な値が出ずに、「自分のせいではない失敗」というものも経験しました。レポートを突っ返されたり、実験で感電しかけたりしたこともあります(笑)。 しかし、何度も失敗を重ねるうちに、「死ぬことはないから、まずはやってみよう」と思えるようになったんです。思い切って振り切れたからこそ、今につながるいろんな経験ができたと思っています。
今の学生たちは、失敗を過度に怖がっているように感じます。これまで大きな挫折なく過ごしてきた学生が多く、初めての失敗を社会に出てから経験し、心が折れてしまうケースもある。だからこそ、学生時代にたくさん失敗して、そこから立ち直る経験を積んでほしいと思います。

それと、学生たちには「夢ややりたいことがあれば、口に出しなさい」と伝えています。周りからバカにされることもあるかもしれませんが、人の夢を笑う人の多くは、自分がかつて叶えられなかった悔しさを抱えているのかもしれません。しかし学生にとっては、いま目指していることが「当たり前に叶う未来」かもしれないんです。
夢は口に出して良いし、言葉にすることで応援してくれる人も現れます。それに、努力すれば、規模は違えども意外と叶うものです。だからこそ、学生が「やってみたい」と言ったときには、できる限りサポートしてあげたいですし、その環境を整えるのも、私たち教員の役割です。
―今の高専生に対して、どんな印象を持っていますか。
まずは「今の高専生はおしゃれになったなあ」ということです(笑)。私たちの時代とは、だいぶ雰囲気が違いますね。でも、根っこの部分はまったく変わっていないと感じています。
今の高専生も、自分の「好き」や「やってみたい」に対して、とても素直です。それが高専の良さでもあるし、時に危うさでもあります。その気持ちをうまくコントロールする力を、5年間の中で育ててほしい。そうすれば、知識や技術と合わせて「鬼に金棒」状態になれるでしょう。

―最後に、高専生に向けてメッセージをお願いします。
高専の5年間は、本当にあっという間です。だからこそ、「これだけはやった」と言える何かをひとつ、見つけてほしいと思っています。
私にとってのひとつは勉強でした。最初は嫌いでしたが、続けるうちに楽しくなり、気づけば誰よりも勉強していた。それが進学や留学のチャンスにもつながり、今の自分の軸になっています。
突き詰めるのは、勉強でなくても構いません。遊びでも趣味でもいいんです。私も高専教員になってから、妻とオンラインゲームにのめり込み、一緒に全国トップになったことがあります。「ただのゲーム」と思われるかもしれませんが、他の参加者など新たな出会いもあり、今でも良い関係が続いています。何かに真剣に向き合った経験は、いつか必ず自分の力になります。
高専生のみなさんには、たくさん失敗して、たくさん挑戦して、よく学び、よく遊んでほしい。そして、「自分の武器だ」と思えるものを見つけてください。
そして、もうひとつ大切にしてほしいのが「出会い」です。人生には良い出会いもあれば、時には苦い経験につながる出会いもあります。それでも、どんな出会いも自分自身の成長につながっていくものだと思っています。
私自身、決して能力が特別に高かったわけではありません。けれども、小学校、中学校、高専、大学、留学、そして現在に至るまで、人生の節目ごとにいろいろな人と出会い、たくさんの人たちに支えられてここまで来ることができました。
だからこそ、学生たちには言葉遣いについてもよく指摘しています。もしかすると、かなりうるさく言っている教員かもしれません(笑)。でもそれは、言葉遣いひとつで、その学生の人生を変えるような出会いを失ってほしくないからです。人生は一期一会ですから、たとえ完璧にできなくても、常に相手に敬意を持って接する姿勢は、きっと良い出会いを引き寄せてくれると思っています。
―これから高専を目指す中学生には、どんなことを伝えたいですか。
中学生のみなさんには、「とにかくぜひ高専に来てください」とは言いません。高専は少し特殊な環境ですし、合う人もいれば、そうでない人もいると思います。
ただ、ものづくりや実験が好きな人、自分の手で何かをつくってみたい人、あるいは「なんで?」「どうして?」と考えるのが好きな人には、間違いなく楽しい場所です。文系・理系というよりも、「好奇心があるかどうか」が大事だと思います。
少しでも興味があれば、ぜひオープンキャンパスや公開講座に足を運んでみてください。実際に見て、体験して、「面白そう」と感じられるかどうかを大切にしてほしいです。
私たちは、みなさんが5年間を全力で楽しめるように準備しています。高専で、密度の濃い時間を一緒に過ごしましょう。
藤本 健司氏
Kenji Fujimoto
- 神戸市立工業高等専門学校 システム情報工学科 教授

1996年3月 阿南工業高等専門学校 電気工学科 卒業
1998年3月 徳島大学 工学部 電気電子工学科 卒業
2000年3月 徳島大学大学院 工学研究科 博士前期課程 電気電子工学専攻 修了
2001年8月 香港理工大学 リハビリテーションサイエンス学科 留学(~2002年8月まで)
2003年3月 徳島大学大学院 工学研究科 博士後期課程 機能システム工学専攻 修了
2003年4月 神戸市立工業高等専門学校 電子工学科 助手
2004年4月 同 講師
2007年4月 同 准教授
2020年4月 同 教授
2026年4月より現職
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