富山高専の国際ビジネス学科に進学し、3年次には憧れだった海外留学を経験した竹丸葵さん。その後、南山大学でサステナビリティや社会課題について学び、自分にとっての「幸せ」や「暮らし方」について考えを深めてきました。現在は2児の母として家庭を営みながら、イベントの企画・運営や創作活動にも取り組む竹丸さんに、高専で広がった世界と、今の暮らしにつながる学びについて伺いました。
カナダ留学で多様な価値観に触れた高専生活
—富山高専の国際ビジネス学科に進学した理由を教えてください。
幼い頃から好奇心が強く、「どうしてそうなるのだろう」「違う場所ではどうなのだろう」と考えることが多い子どもでした。知らない世界に触れてみたいという気持ちが強く、その延長線上に海外留学への憧れがありました。
中学2年生の頃に自分の将来や進路について考え始めたのですが、当時は自分が何をやりたいのか、何のために勉強をしているのかがよく分からなかったんです。そんなとき、中学校の担任の先生が勧めてくれたのが富山高専でした。進学校に通っていた勉強漬けの姉の姿を見て、あまり楽しそうではないと感じていたこともあり、校則が自由で留学の機会もある高専に魅力を感じたのがきっかけです。
当時の私は、富山の小さなコミュニティの中で生きていました。同じ年齢、同じ性別、同じ地域で育った人たちに囲まれた狭い世界しか知らず、関わったことのある大人も自分の親と学校の先生だけでした。だからこそ、高校生のうちに留学できる高専に行けば、自分の知らない「当たり前」に出会えるのではないか、もっと広い世界を見てワクワクできるのではないかという期待がありました。
―高専時代の思い出について教えてください。
海外留学が実現したのは3年生の頃です。カナダのバンクーバー近くにあるナナイモに1年間滞在。たくさんの自然公園があり、バスに乗るだけでも隣の人が気さくに話しかけてくるような、とても温かい場所でした。

最初の3カ月間は、英語の基礎力をしっかりと固めるため、朝9時から15時くらいまで英語の授業を受けていました。その後、英語のスキル別にクラスが分かれ、さまざまな国から来た留学生や現地の学生たちと一緒に授業を受けました。
富山高専の同じクラスからは12名が留学していました。ただ、私だけ友人たちとホームステイの家が離れていて、そのおかげでホストファミリーのご夫婦や赤ちゃんと多くの時間を過ごすことができたと感じています。いろいろな場所に連れて行ってもらったなかでも、ホストファミリーの家から徒歩5分の場所にあるきれいな湖のハイキングコースが特に大好きでした。

現地で強く実感したのは、英語を話すために必要なのは、語彙力そのものよりも、話そうとする意欲や堂々としたスタンスだということです。また、日本では当たり前だと思っていたことが当たり前ではないことを知り、自分自身や社会を客観的に見る視点を得られました。帰国する時にはずっとカナダにいたいと思ったほど、今でも大切な思い出です。
—留学前後で何か意識などが変わるようなことはありましたか。
留学中は、自分が日本や地元である富山のことについて全く何も知らないことを痛感していました。それがとても恥ずかしく感じられて、「もっと日本について、富山について知りたい」と思ったのです。
そこで、同じクラスの友だちと一緒に、地元の方々と関わりながら地域の魅力を発見し、そこで得た情報を発信する冊子作りの活動も行いました。4年次、5年次には自分の裁量で自由に使える時間がたくさんあったので、地域で生きる面白い大人たちとたくさん話をすることができました。高専の自由な環境が、自分たちの学校外での能動的な活動にもつながったと感じています。

思い出は他にもあります。キャンパスが海辺まで徒歩圏内という素晴らしい立地だったので、お昼休みや放課後に海辺で語りあったりしていました。立山連峰と海が重なって見える光景は、今でも鮮明に覚えています。

地域活動と大学で広がった、社会を見る視点
—高専卒業後、大学に進学された理由を聞かせてください。
卒業を控えた時期、自分が人生で本当にやりたいことも決まっておらず、自分のこともよく分かっていない状態だったため、そのまま就職活動をすることには抵抗がありました。「自分はどんな風に暮らしたいのか」をじっくりと考え、自分で人生の選択をしたいと考えたのです。
当時、貧困問題や地球環境のことに強い興味を持っていたので、このテーマについてもっと深く学ぶために大学進学を決めました。南山大学を選んだのは、新設学部だった国際教養学部があったからです。実際に見学へ行ったとき、学生たちがいきいきとディスカッションしている姿を見て心が決まりました。
―研究内容について教えてください。
高専時代に所属したのは経営学のゼミです。企業経営のテクニックだけでなく、「人はなぜ働くのか」「良い組織とは何か」といった本質的な問いに興味を持っていました。卒業研究では、「継続的越境学習が、働くことへのモチベーション向上にどのように寄与するのか」について研究しました。
大学では、持続可能性(サステナビリティ)をテーマに、多様な分野から社会課題について考察しました。特に面白かったのは、一つの問題をさまざまな角度から捉える授業です。例えば、「なぜコンゴは豊かな資源を持ちながら貧困状態にあるのか」という問いに対して、単純な経済問題としてではなく、歴史的背景や国際政治、世界の権力構造などを含めて学びました。

また、経済学についても従来の経済指標だけで社会の豊かさを測るのではなく、人々の暮らしや幸福度、地域の実情に目を向ける開発経済学などを学ぶ機会がありました。授業では英語でのプレゼンテーションやディスカッションも多く、自分とは異なる考え方に触れながら議論する経験はとても刺激的でした。
大学に進学して良かったことは、「正解を覚える」のではなく、「問いを深める」ことの面白さを知れたことです。さまざまな分野の知識がつながることで、世界の見え方が大きく広がったように感じています。
「幸せ」とは自分の意思で選択できること
—竹丸さんの生き方に大きな影響を与えた「出会い」や「学び」について教えてください。
高専では、ゼミを選択する前にいろいろな先生方に「先生にとって幸せとは何ですか?」という質問を投げかけて回っていました。
多くの先生方が回答に戸惑う中で、経営学を教える宮重先生は私の目を真っ直ぐに見て、「幸せとは、誰かに決められるものではなく、自分の意思で選択することである」と迷いなく答えてくださったんです。その言葉を聞いた時、「宮重先生は心から信頼できる方だ!」と思い、宮重先生のゼミに所属しました。
高専では、研究の進め方や論理的な思考法をしっかりと学べました。その研究の基礎力があったおかげで、大学での学びがとてもスムーズでした。自分が学びたかった地球環境の課題にもしっかりと向き合うことができ、高専とはまた異なる刺激的な環境の中で、自分の視野をさらに広げることができたと感じています。
また、大学時代は日本中を旅しながら、自分が会いたい人を訪ね続けました。仕事や所属する団体よりも、私が大切だと思うのは「生き方」「暮らし方」そのものです。私が憧れる暮らしを実現している方々を訪ね歩き、世界のエコビレッジについての探究も行う中で、多様な生き方や価値観に触れることができました。
―現在の暮らしについて教えてください。
大学卒業後は企業への就職ではなく、結婚・出産という道を選びました。高専時代、大学時代を経て私は、継続的越境学習とモチベーションの関係について研究し、人が主体的に生きるためには、自己理解やメタ認知能力が重要であることを学びました。そして研究を進める中で、その土台は幼少期の体験によって形づくられ、無意識の中に蓄積されていくのではないかと考えるようになりました。
この学びを通して、人がよりよく生きるための基盤は、社会に出てから形成されるものだけではなく、家庭や日々の暮らしの中で育まれるものだという価値観を持つようになりました。そのため私は、自ら家庭を築き、子どもの成長や家族との関わりを通してその問いを実践的に探究したいと考えたのです。
現在は、2児の母として家庭を運営しながら、イベントの企画や運営、創作活動などを進めています。日々の暮らしの中でも、高専・大学時代に学んだ組織論やモチベーション理論、持続可能性を追究する視点は大いに生かされています。夫婦関係や親子関係も一つの小さな組織として捉え、それぞれが主体性を持ちながら心地よく過ごせる関係性づくりを意識しています。

これからも、自分自身の暮らしの中で学び続けながら、その経験をイベントや創作活動など、さまざまな形で表現していきたいです。そして、関わる人が少し前向きになれたり、自分らしい選択を考えるきっかけになったりするような場をつくっていけたらと思っています。
—現役高専生や、これからの進路に悩む若い世代へメッセージをお願いします。
高専という場所は、中学を出たばかりの若い時期から、多様な価値観や広い世界に触れるチャンスをくれる場所の一つの選択肢として良いと思います。富山の小さなコミュニティにいた私が、カナダの大自然の中で多様な人々と出会い、地元に戻って地域の魅力を再発見し、大学生活を通して、地球規模の視点から自分の暮らしや生き方を探求することができたのも、高専での環境が一つのよきご縁を育む場所であったからだと思っています。
学生時代は、将来の進路や正解を早く見つけなければならないような気持ちになることもあると思います。でも、今振り返ると、本当に大切だったのは「答え」よりも「問い」でした。自分がなぜ気になるのか、なぜ心が動くのか、なぜ違和感を覚えるのか。その小さな問いを大切にしていると、進学や就職、結婚や子育てなど人生の選択が変わっても、不思議と一本の線でつながっていきます。
皆さんに伝えたいのは、自分の人生の選択に自信を持ってほしいということです。何が正解かではなく、「自分の意思で選択すること」そのものが、皆さんの幸せにつながります。どんな道に進むとしても、高専で学んだ論理的な強みや、自分で考えて動いた経験は必ず皆さんを支えてくれます。そして、「問い」を立て、自らの意思で選択して生きることは、将来の自分を支える大切な財産になるはずです。
竹丸 葵氏
Aoi Takemaru
- フリーランス

2019年3月 富山高等専門学校 国際ビジネス学科 卒業
2021年3月 南山大学 国際教養学部 国際教養学科 卒業
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