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災害時に、誰も取り残さない。通信デバイス「アドフォン」で社会実装を目指す沖縄高専「Neighbors Net」

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災害時に、誰も取り残さない。通信デバイス「アドフォン」で社会実装を目指す沖縄高専「Neighbors Net」のサムネイル画像

国立高専機構と月刊高専が主催した「第3回高専起業家サミット」のスタートアップ部門で最優秀賞を受賞した、沖縄高専の「Neighbors Net」。同チームが開発しているのは、災害によって4G/5Gなどの公衆通信網が途絶した状況でも、端末同士で情報を届けられる通信デバイス「アドフォン」です。

今回は、情報通信システム工学科5年生で、代表の神谷智喜さん、広報・AI活用担当の藤川修平さん、開発担当の大城和彦さんに、アドフォンの仕組みや開発の過程、事業化にかける思いを伺いました。

台風による通信途絶を原点に、「アドフォン」を開発

―まずは「アドフォン」について教えてください。

神谷さん:アドフォンは、基地局が被災して既存の通信インフラが使えなくなった状況でも、端末同士をつないで情報を届けられる通信デバイスです。スマートフォンと接続し、端末同士が直接つながるアドホック・メッシュネットワークを形成することで、安否確認や被災情報を共有します。

第3回高専起業家サミットでは、南海トラフ地震の被災想定地域を中心に、自治体への導入・普及を目指す事業プランを発表しました。災害時の自助・共助を通信面から支えることを目指しています。

―「Neighbors Net」というチーム名には、どのような意味が込められているのでしょうか。

神谷さん:住民同士がメッシュ状につながり、通信範囲を広げていくアドフォンの特徴にちなみ、「隣人同士(Neighbors)がネットワーク(Net)でつながる」という意味を込めました。

Neighbors Netのみなさん
▲Neighbors Netのみなさん(右から2番目:神谷さん、3番目:大城さん、4番目:藤川さん)

―開発のきっかけは、2023年に沖縄を襲った台風6号だったそうですね。

大城さん:当時、那覇では1週間以上停電し、途中から通信も途絶えました。インターネットから情報を得られず、復旧の見通しも分からない状況でした。台風時は夏休みでしたが、沖縄高専は周囲を山に囲まれており、離島出身の学生や留学生などは寮に残っていました。そうした学生は、さらに厳しい状況だったと思います。

藤川さん:沖縄の広い範囲で停電や通信障害が起き、私たちにとっても他人事ではありませんでした。ヒアリング先からも、通信が途絶えると、離れた施設の状況把握や全体の統括が難しくなると伺いました。

神谷さん:2024年の能登半島地震でも、通信途絶によって孤立地域の被害把握や情報提供が難しかったと聞いています。そのため、災害時に住民同士がつながれる代替手段が必要だと考えました。

―アドフォンの前身となった、ヘルメット型通信デバイス「コメット」について教えてください。

コメット
▲コメット

神谷さん:コメットは、ヘルメットに通信モジュール、液晶ディスプレイ、カメラを搭載し、5つのボタンで20種類の定型文を送信できる仕組みでした。

大城さん:メッセージを受信すると通知音が鳴り、ヘルメット側面のディスプレイに内容が表示されます。ただ、確認にはヘルメットを脱ぐ必要があり、使い勝手に課題がありました。

コメットのディスプレイ
▲コメットのディスプレイ

藤川さん:メッシュネットワークのアイデアや技術は先輩たちから引き継ぎましたが、社会実装にはコストやサイズが壁となりました。コメットは、小型コンピュータのRaspberry Piやカメラ、ディスプレイなどが必要で、開発費は約10万円。サイズも大きく、このままでは広く普及させるのは難しいと感じました。

そこで4年生のとき、スマートフォンのディスプレイやカメラをそのまま活用し、外付けデバイスの機能を通信に絞る案が生まれました。本体を小型化し、試作段階の原価を約1万2,000円まで下げたことで、現在のアドフォンにつながりました。

―スマートフォン接続型へ移行する際、どのような苦労がありましたか。

神谷さん:小型化するには、複数の機能や通信モジュールを連携させながら、用途に適した構成を考える必要があります。どのモジュールを使えば最適なのか、一つずつ試していきました。

藤川さん:当初は小型のマイコンモジュール「M5」を試しましたが、利用できるライブラリが少なく、開発に時間がかかりました。そのため、再びRaspberry Piを使う構成へ切り替え、開発を一から見直しました。

また、パソコン向けのマップ機能やAIをスマートフォンアプリに統合する作業にも苦労しました。現在はJavaScriptのフレームワーク「React Native」を使い、被災情報をマップ上にリアルタイム表示するアプリを開発しています。

開発の様子
▲開発の様子

「誰も取り残さない」を支える、アドフォンの通信技術

―アドフォンでは、端末間の無線通信にLPWA(Low Power Wide Area)を採用しています。その理由と、実際の通信距離を教えてください。

藤川さん:アドフォンは、低消費電力かつ広範囲で通信できる無線技術LPWAの一種であるLoRa通信を使用しています。私たちが掲げているのは「誰も取り残さない」というコンセプトです。離れた場所にいる人にも情報を届け、1人でも多くの命を救うために、LoRaを選びました。

大城さん:データシート上では半径10km程度の通信が可能ですが、実証実験では、開けた場所で直線距離約3km、障害物がある場所では約1kmでした。1km以内に別のアドフォンがある環境をつくるために、個人が持つだけでなく、自動販売機や公衆電話、自動車などにも設置し、人がいない場所でも通信網を維持することを考えています。

―スマートフォンとアドフォンは、どのように接続するのでしょうか。

藤川さん:当初は有線接続を考えていましたが、ケーブルがかさばり、移動中に引っかかって外れる可能性がありました。そこで現在は、Bluetooth接続を採用しています。

1台のアドフォンには、最大7台のスマートフォンを接続できます。例えば小学校にアドフォンを設置した場合、7人グループで情報共有しながら避難する使い方も想定しています。

―アドフォン用のアプリには、どのような機能がありますか。

藤川さん:主な機能は、チャット、マップ、カメラの3つです。チャットは、LINEのユーザーインターフェースを参考にしています。

当初はコマンドを入力して操作する画面でしたが、それでは技術に詳しい人しか使えません。災害時に初めて触れる人でも迷わず使えるよう、多くの人が使い慣れたアプリに近い操作方法へ変更しました。

防災関係者から「子どもが使えれば、大人も使える」とアドバイスをいただき、名護市内の児童養護施設で、子どもたちにアプリを使ってもらう検証も行いました。スマートフォンと接続するだけですぐに使える、直感的な設計を重視しています。

児童養護施設でのヒアリングの様子
▲児童養護施設でのヒアリングの様子

―カメラとAIは、どのように活用するのでしょうか。

藤川さん:LoRaは長距離通信に向いている一方、大容量の画像を送ることは難しいという課題があります。そこで、画像そのものではなく、画像が持つ「意味情報」を送れないかと考えました。

スマートフォンで撮影した画像を端末内のAIが解析し、「川が氾濫している」「建物が倒壊している」「避難者が何人いる」といった情報をテキスト化します。その情報をGPSによる位置情報とともに送信し、マップ上に表示する仕組みです。どこが危険なのか、反対にどの地域の状況がまだ分かっていないのかを視覚的に確認できます。

防災科学技術研究所の方へのヒアリングでは、災害対応の現場が求めているのは、画像そのものよりも必要な情報の集約だと分かりました。AIが一定の基準で解析した情報を集めることで、被害状況を客観的に把握し、救助や物資配分の判断に役立てたいと考えています。

―安否や位置情報など重要な情報を扱ううえで、セキュリティやデマにはどのように対策していますか。

藤川さん:アドフォンの通信には、暗号化と復号に公開鍵と秘密鍵を使う「公開鍵暗号方式」を採用しています。情報が複数の端末を経由しても、第三者に内容を読み取られないようにする仕組みです。

デマ対策としては、投稿の信頼性を示す「信頼度スコア」をアプリに搭載しています。投稿された情報に対して、現地の他の利用者が「同意ボタン」を押すと情報の信頼度が上がり、より上位に表示されます。行政から発信された情報には、一般の投稿より大きな信頼度の重みを付けました。発信元と複数の人による確認を組み合わせ、情報の信頼度を可視化することが大切だと考えています。

「自己満足」で終わらせない。法人化と社会実装の先へ

―いつ頃から事業化を意識するようになったのでしょうか。

神谷さん:最初は形にすることを優先し、ビジネスとして成立させる視点までは持てていませんでした。ただ、現在のアドフォンを開発する頃から、各自が調べた知識を持ち寄り、コンテストやイベントでの意見も取り入れながら事業プランを磨いていきました。

大城さん:ものづくりは楽しいことですが、そこで満足すると社会では使われません。実用性について指摘を受ける中で、「自己満足で終わらせてはいけない」と考え、社会実装を意識するようになりました。

藤川さん:開発者が感じる価値と、利用者が感じる価値は同じとは限りません。現在のアドフォンの原価は約1万2,000円ですが、もし専用基板を自分たちで製造できれば約3,000円まで下げられる可能性があります。利用者の立場で価格と価値を考えるようになりました。

また、これまでコンテストで賞や賞金をいただき、行政や企業の方々にも応援していただきました。それなのにアイデアだけで終われば、何もしなかったことと同じです。支援してくださった方々に応えるためにも、社会実装までやり切りたいです。

▲第3回高専起業家サミットでの、藤川さんのピッチの様子

―第3回高専起業家サミットで、スタートアップ部門の最優秀賞に選ばれたときは、どのような気持ちでしたか。

神谷さん:アドフォンに取り組み始めてから、初めての最優秀賞でした。可能性を認めていただけたと感じ、社会実装に向けて進み続ける大きな後押しになりました。

大城さん:技術にもビジネスプランにも課題が残り、本当に実現できるのかという不安がありました。それだけに受賞は誇らしく、寄せていただいた期待に応えたいという気持ちが強くなりました。

藤川さん:私にとって、コンテストで初めていただいた賞でした。最優秀賞そのもの以上に、「このチームで勝てた」という喜びと、メンバーへの感謝が大きかったです。これからもチームで、期待に応えられる製品を実現したいと思いました。

第3回高専起業家サミットで最優秀賞を受賞し、コメントをする藤川さん
▲第3回高専起業家サミットで最優秀賞を受賞し、コメントをする藤川さん。後列手前から神谷さん、大城さん

―起業家サミット以降、事業化に向けてどのような進展がありましたか。

神谷さん:その後、DCON(全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト)2026本選でも企業評価額4億円で2位となり、応援してくださる方や、協力いただける企業・関係者とのつながりが広がりました。

現在は、5年生6名と3年生1名で、それぞれの進路と並行しながら起業準備を進めています。私が代表を務め、今年秋頃の法人登記を目指しています。

―アドフォンを今後どのようなプロダクトへ育てていきたいですか。

神谷さん:今後は気象情報と連携し、マップ上に天気や災害リスクを表示するほか、イベント会場でトランシーバーの代わりに使うことも考えています。平時から利用されることで、災害時にも自然に使える状態をつくりたいです。社会課題の解決と事業としての成長を両立できる形を探っていきます。

大城さん:事業を継続するには、利益を生み出すことも欠かせません。一方で、「災害による犠牲者を少しでも減らしたい」という目標は変わりません。その両方を実現したいです。

藤川さん:まずは、現在のプロトタイプを実際に提供できる製品として完成させたいです。行政や企業、教育機関と協力し、導入した方から「ありがとう」と言っていただけるものを目指します。

―アドフォンの社会実装に向けて、自治体や企業の方へ伝えたいことはありますか。

神谷さん:今後1~2年間は、自治体の総合防災訓練などで、通信の安定性に加え、避難行動や情報集約にアドフォンをどう組み込めるかを検証したいです。

実証実験の場を提供してくださる自治体や、技術開発・製品化で連携いただける企業、教育機関のみなさまに、ぜひご協力いただければと思っています。さまざまな立場の方からの意見を取り入れながら、災害時でも安心して人と人がつながれる社会の実現を一緒に目指していけたらと思います。

◇

○公式HP(Rewave)
https://adren-lp.vercel.app/

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