捨てるはずの焼酎かすや下水汚泥できのこやトマトをつくる、循環型社会のモデルが鹿児島高専から生み出されています。研究費や外部資金の獲得の実績を多数持つ、山内正仁教授にお話を伺いました。
最初はいやいや始めた研究だった
―廃棄物に目を付けたきっかけは何だったのでしょうか。
助手として鹿児島高専に着任し、7年くらいはほとんど研究をしていませんでした(笑)。他の先生と分担したことはありましたが、自分が第一著者になる論文は出していなかったんです。高専教員は部活の顧問と授業さえやっておけばいい、なんてことを思っていました。
ところが2000年に専攻科を設置することになり、先輩教授から「君も博士号を取らないと万年助手だよ」と言われて。慌てましたね。
博士号を取得するには論文が必要です。大学では廃水の生物処理を研究していましたが、すでに世界中で取り扱われている。「ちょっと変わった、新しいことをやらないと専攻科の開設に間に合わない」と思いました。
地元の特産物を使ってなんとかできれば目を引くのではないか、と鹿児島名物である焼酎に注目し、焼酎かすと新聞古紙で紙をつくる研究を始めたんです。
当時、焼酎かすの多くは海洋投棄されていました。工場によっては1日200トン以上排出されていて、陸上での処理や利用に困っていたんです。焼酎かすにはサツマイモ繊維が含まれている。紙漉きができるのではないかと思いつきました。
焼酎かすは窒素やカリウムを多く含み、肥料効果があります。この紙を育苗用のポットに活用すれば土壌に還元され、ゴミも発生しない。産業廃棄物が減って農作物にも良い影響があって、一石二鳥です。
メディアでもすごく取り上げられて、助手なのに西日本新聞の一面にも載せていただきました。全国放送の情報番組に出たこともあります。
この研究で論文をどっと書きました。1年で4~5本書いたんじゃないかな。助成金が申請できるようになって、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の環境対策・資源利用技術分野の即効型助成事業にも高専教員で1人だけ採択されましたね。
そのころは研究設備をほとんどそろえていなくて、近くにある鹿児島県工業技術センターまで行って機械を借りていたんです。NEDOの職員さんが僕を見て「環境を整備しなさい」とアドバイスをくれました。せっかく助成金を手に入れたんだから、いろんな機材を購入しなさい、と。
言葉通りに機材に投資したら、研究の幅が広がってさらに論文が書けるようになりました。大学の恩師とは卒業後連絡を取っていなかったのですが、お声がけいただいて。先生の水処理技術と育苗用ポットづくりを組み合わせた研究で、経済産業省の地域新生コンソーシアム研究開発事業に採択され1億2500万円の助成金を獲得しました。
焼酎かす、つまり発酵残渣はドロッとした状態で排出されます。育苗用ポットを作ると、固形分はすべて紙(繊維)にトラップされ、液体のみが残るわけです。そのろ液をメタン発酵させて、メタンガスのエネルギーでポットを乾燥させる循環モデルをつくりあげました。
焼酎かすから始まる循環型社会
―最初はポットを作製する研究だったんですね。どうして食材そのものも手掛けるようになったのですか?
作製したポットでトマトの栽培試験をしているとき、側面からきのこが生えているのを見つけました。「もしかしてきのこの栽培にも応用できるのでは」と考え、調べてみたんです。すると、きのこの栽培には豊富なカリウムが必要だとわかりました。また焼酎かすが使える、と踏んだんです。
きのこを収穫したあとの菌床は、乳牛の餌に活用しました。乳牛はカリウムを取りすぎると病気にかかりやすくなるため、畜産農家は低カリウムの餌を求めていたんです。
さらに家畜の排せつ物で堆肥をつくり、イモを育てる。そのイモで焼酎をつくると焼酎かすが出て……と、循環のモデルが完成しました。この研究は環境省の循環型社会形成科学研究費(現在の環境研究総合推進費)を獲得しています。
奄美大島では黒糖焼酎かすと発酵バガス(サトウキビの搾りかすを発酵処理したもの)でキクラゲを栽培しました。日本国内のキクラゲの年間消費量は約2万5000~2万6000トンあると言われています。しかし流通しているキクラゲのほとんどは輸入品。国産品が求められていました。
キクラゲは温暖な気候で育つので、日本での栽培方法が確立していなかったんですね。そこで発酵バガスを菌床の材料として使い、黒糖焼酎かすを栄養材とした栽培を始めました。
発酵残渣で調製した培地でつくったキクラゲは血糖抑制効果が高く、β―グルカンも多く含まれるなど、新しい発見もあったんです。この栽培方法は特許を取得しています。
「農専」があってもいい
―様々な分野でご活躍されているんですね。今後やりたいことがあればお教えください。
「農専」が必要だと思っています。「地域に根差した社会実装を……」というのは高専でよく言われること。だけど、地元企業の開発分野と研究がマッチしづらいときもあるんですね。思い通りには地元に貢献できていない印象です。
高専が手伝える分野は工業だけじゃない。農業にも高専の技術が応用できます。農業に重点を置いた高専があっても良いと思うんです。
―農業高校や農大とは違うのでしょうか?
あくまで工学的な知識を持って、農業技術を改善する機関を想定しています。だから「農専」です。
下水汚泥肥料を茶の栽培に利用する研究では、下水汚泥に焼酎粕や孟宗竹などの地域バイオマスを混合し、肥料を調製し、これを施肥して収量を調査しました。その際、ドローンを飛ばして画像処理して収量の計算をしたんです。画像の補正も駆使して立体の茶園を測定する。これは高専でデータ処理の学習があってこそできたことです。
全世界で持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた取り組みが求められる今、工学の分野が関わる範囲は増えると感じています。
山内 正仁氏
Masahito Yamauchi
- 鹿児島工業高等専門学校 都市環境デザイン工学科 教授
1991年 長岡技術科学大学 工学研究科 建設工学専攻 修了。鹿児島工業高等専門学校 都市環境デザイン工学科 入職
2005年 鹿児島大学大学院 連合農学研究科 生物環境保全科学専攻 修了
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