大島商船高専を卒業後、株式会社ニコンでエンジニアとしての勤務を経て、製造業向け外観検査AIソリューションを手がける株式会社MENOUを立ち上げた西本励照さん。ものづくりが当たり前の環境だったという幼少期から、高専時代の学び、製造現場で感じた危機感、そして創業に至るまで、さまざまなお話を伺いました。
「人が楽できる」ために始めたものづくり
―高専へ進学したきっかけを教えてください。
中学時代から数学が好きで、ものづくりにも強い興味があったことから、高専への進学を決めました。
数学に惹かれていた理由は、「身の回りの現象を数式で表現できる」という面白さでした。物理現象だけでなく、人の考え方や行動も数式的に整理できるのではないかと感じ、「世の中のことはすべて数式で解ける」と思うほど、数学そのものに魅力を感じていました。
また、幼少期からものづくりが身近にある環境で育ったことも大きかったと思います。父はガレージで船の修理や電気製品の改造などを趣味で行っていて、その姿を小さい頃から日常的に見ていました。
父はいわゆる「技術オタク」のような人で、何かが壊れれば買い替えるのではなく、自ら直す。必要なものがあれば工夫してつくっていました。その影響もあり、ものづくりは私にとって幼い頃から自然に親しんできたものでした。
―初めて自分で何かをつくった経験は覚えていますか。
小さい頃から、親戚のみかん農家で収穫を手伝う機会がありました。収穫したみかんはコンテナに入れるのですが、1箱20kgくらいあるんです。まだ子どもだった私が自力で運ぶのはかなり大変だったので、滑車や車輪をつけた運搬用の道具を自分でつくりました。
今振り返ると、「楽をしたい」というのが原動力でしたね(笑)。そういった幼少期の思い出もあり、昔から「技術は人の生活を楽にするものだ」という感覚はずっと持っています。
―実際に高専へ進学してみて、どんな印象でしたか。
思っていた以上に数学の比率が高く、「好きなことに触れられている」という実感がありました。また、高専の学びは単なる知識の暗記ではなく、「これを実現したいから、この理論が必要になる」という形で、実際の応用と結びついていたのが面白かったです。もともと“勉強のための勉強”にはあまり興味が持てないタイプだったのですが、高専では自然と前向きに学ぶことができました。
また、実験や実習を通じて、学んだことが実際にモノとして動く経験ができたことも印象に残っています。単なる知識ではなく「使える技術」として理解できたことは、その後のエンジニアの基礎になっています。
―卒業研究では、ソフトウェア領域に挑戦されたそうですね。
卒業研究では、電子機械工学科に所属しながら、あえてソフトウェア領域に挑戦し、Androidアプリの開発に取り組みました。
最初は「ハードウェアが専門の中、あえて別の領域に挑戦する面白さ」からでしたが、実際に取り組むうちに、「ものづくりはひとつの技術だけでは成り立たない」ということを強く感じるようになりました。さまざまな分野を理解し、それらを組み合わせて価値を生むことの重要性を、高専時代から実感できたことは大きかったと思います。

現場で気づいた検査自動化の本質。MENOU創業へ
―高専卒業後は、株式会社ニコンへ入社されています。
卒業後は大手光学機器メーカーのニコンに入社し、エンジニアとしてキャリアをスタートしました。当時、ニコンは半導体露光装置分野で世界トップクラスの技術を持ち、最先端技術に触れられる環境に魅力を感じていました。
―入社後は、どのようなお仕事を担当されていたのでしょうか。
最初に配属されたのは、半導体露光装置向けの電源制御装置を開発する部署で、電力を安定化させるための基板設計などを担当していました。ただ、実際の業務は繰り返し作業も多く、その繰り返し作業を自分自身や先輩方のためにも「もっと楽にできないか」と考えるようになり、CAD設計を自動化するソフトウェアツールを独自に開発しました。
すると、そのツールが社内で評価され、入社から3年ほど経った頃、新規事業として立ち上がった画像検査装置のプロジェクトへ参画することになりました。もともと、「人がやらなくていい作業は自動化したい」という考えが強く、そうした発想は当時から一貫して持っていたと思います。
―そうして、製造業の課題を強く感じるようになったのですね。
そうですね。当初は「日本の製造業は進んでいる」というイメージを持っていたのですが、実際の現場では、人が手作業で確認し、目視で検査を行うなど、想像以上にアナログな工程が残っていました。
そんな中で課題を感じたのが「品質検査」でした。検査は、製品ごとの特徴や過去の経験、現場の感覚に支えられている部分が大きく、単純に装置を入れれば自動化できるものではありません。実際、現場には導入されたものの、検査基準に合わず使われなくなった装置も少なくありませんでした。
どれだけ技術的に優れた装置でも、現場のノウハウを反映できなければ使い続けてもらえない。「つくる側」が考える自動化と、「使う側」が本当に必要としている検査との間に、大きなギャップがあると感じました。
―そこから、どのように起業へつながっていったのでしょうか。
製造現場を見れば見るほど、「このままでは日本のものづくりの強みである品質が失われてしまう」という危機感が強くなっていきました。
大きな転機になったのは、子どもが生まれたことです。私一人の思いだけなら「今の日本の製造業を何とかしたい」という思いだけだったかもしれません。ですが、子どもたちが大人になる頃に、日本のものづくりに何が残っているのかを考えると、この世界に誇る日本の品質や技術を次の世代に繋がなければいけないと感じるようになりました。
検査を単なる自動化の対象ではなく、現場に蓄積されたノウハウを残し、品質を未来へ継承するための仕組みとして捉え直したのです。その持続可能な仕組みを自分たちの手でつくりたいと考え、株式会社MENOUを創業しました。

―創業初期に苦労したことはありましたか。
一番苦しかったのは、「スタートアップ企業への慎重な見方」でした。日本の製造業は、良くも悪くも実績を非常に重視します。そのため、現場担当者が「良い技術だ」と評価しても、最終的な稟議で通らないケースが多かったです。
技術そのものが原因ではない理由で断られてしまう状況は苦しかったですね。ただ、現場のお客さまからは「導入したい」と評価していただけることも多く、その言葉には何度も救われていました。
―MENOUでは、どのようなソリューションを提供されているのでしょうか。
MENOUが重視しているのは、単なる検査の自動化ではありません。私たちは、検査ノウハウをソフトウェア化し、現場に残せるようにするソリューションを提供しています。
多くの検査現場では、「どこをどう見て判断しているのか」を言語化できず、装置化に失敗してしまうケースがあります。ただ、本当に一番検査のことを理解しているのは現場の方々自身です。
そこで私たちは、お客さま自身が検査装置をつくれる仕組みを提供し、現場のノウハウをソフトウェアとして残せるようにしています。単なる自動化ではなく、「品質を継承する仕組み」をつくることが、MENOUの本質です。

―「誰でも使える検査」を実現するうえで、大切にしている考え方はありますか。
「一次情報に触れること」ですね。私たちは、開発者自身が現場へ行き、自分の目で見て、耳で聞くことを重視しています。
最近は生成AIをはじめ技術の進化も速いですが、だからこそ「一次情報以外の価値」はどんどん薄れ、今後は「現場を深く理解している人の価値」がより高まっていくと思っています。
そういう意味では、高専生は実験や実習を通して現場に近い立場で学べる存在です。一次情報に触れられる環境にいるという点で、これからさらに価値が高まっていくのではないかと思います。
日本が誇る品質を未来につなぐために
―日本の製造業における「担い手不足」にも強い課題感を持たれているそうですね。
はい。子どもができたことで、「この子たちが大人になる頃、日本に何が残っているのか」を強く考えるようになりました。
もうひとつ大きかったのが、父の存在です。父は昔からものをつくることが好きで、日本の製造業に誇りを持っていました。私がこの分野で仕事をしていることについても、「日本のものづくりの中で頑張っているお前を誇りに思う」と言ってくれたことがあります。
その父が、以前のようには動けなくなっていく姿を見ているうちに、「父たちの世代が大切にしてきた日本のものづくりを、自分たちの代で終わらせてはいけない」という思いが強くなりました。

©全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト(DCON)
日本の製造業が培ってきた強みは、やはり「品質」にあると思います。そして、その品質を支えてきたのが「検査」です。
検査はこれまでコストセンターと見なされることも多く、十分な投資がされてきませんでした。しかし実際には、検査があるからこそ品質が維持され、日本製品の価値につながっています。だからこそ私たちは、検査を単なる確認作業ではなく、品質を未来へ継承するための仕組みとして残していきたいと考えています。
―創業時からの変化はありますか。
会社の規模が大きくなるにつれて、現在はプロダクト開発そのものより、組織設計や戦略設計に関わる比重が大きくなっています。ただ、自分の中では、やっていることの本質はこれまでとあまり変わりません。理想と現実のギャップを見つけ、それをどう埋めるかを考えて試行錯誤を繰り返すという意味では、ものづくりも経営も同じ感覚ですね。
―今後の目標について教えてください。
仕事としては、やはり「日本のものづくりの品質を未来につなぐこと」です。将来的には、「検査のことならMENOUに相談すればいい」と自然に思ってもらえるような、検査領域のスタンダードになれたらと思っています。
また、父が元気なうちに、「立派になったな」と思ってもらえる状態にはなりたいですね。そして、自分の子どもたちが安心して暮らせる日本を残していきたいと思います。

―なかなかご多忙かと思いますが、プライベートではどのように過ごされていますか。
休日は子育てや余暇を楽しむ傍ら、スマホでコードを書いていることも多いです。仕事は「責任のあるものづくり」ですが、プライベートでは、お金になるかどうかは関係なく、世の中にまだないものを思いつくままにつくるという感覚を楽しんでいます。
―最後に、高専生へのメッセージをお願いします。
今は開発環境やツールも充実して、誰でも比較的簡単にモノをつくれる時代になりました。だからこそ、これからは単にツールを使えるだけでなく、「技術を深く理解した上で使いこなせるか」が重要になります。その点、高専には実験や実習を通して、技術の原理や構造まで含めて学べる環境があります。
最近はDCON2026でメンターを担当しましたが、高専生は本当に柔軟で、成長意欲の高い学生が多いと感じました。

©全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト(DCON)
また、高専は自由度が高い分、自分で考え、意思決定して動くことが求められる環境です。万人に合う環境かと言われると、決してそうではありませんが、「成長したい」「挑戦したい」という強い意思がある人にとっては、すごく良い環境だと思います。
個人的には、高専生こそスタートアップに飛び込んでほしいですね。大手企業だけでなく、若いうちから自分の好きなことに挑戦して成長できる環境に、ぜひ目を向けてほしいと思います。
西本 励照氏
Reiteru Nishimoto
- 株式会社MENOU 代表取締役CEO

2013年3月 大島商船高等専門学校 電子機械工学科 卒業
2013年4月 株式会社ニコン 入社
2019年6月 株式会社MENOU 創業
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