大島商船をご卒業後、大学院へ進学、一般企業を経て大島商船に戻ってこられた川原秀夫先生。学生時代から環境問題への意識が高く、数々の研究を進められています。商船時代の思い出や研究について、後輩への思いなどを伺いました。
「エンジンの音」に魅了された商船時代
-大島商船に、進学を決めたきっかけは?
もともと父が航海士で、小さい頃から漠然と「船に乗ってみたい」という気持ちがありました。父から「航海士より機関士の方が、船乗り以外の展開もある」とアドバイスされ、大島商船の機関学科に入学しました。
入学当初はエンジンに興味はありませんでしたが、学んでいくうちにエンジンの「音」に魅せられるようになりました。実技の時にエンジンを分解して組み上げるのですが、初めて組み上げたエンジンが動いた時の喜びは今でも覚えています。回転数を上げた時の音の変化など、エンジン好きの友達が話す「魅力」が分かるようになってきましたね。
-卒研では、どのような研究をされたのですか。
商船では三原伊文(よしふみ)先生の研究室に配属され、「船のエンジンの排気ガスの成分の計測」を卒業研究のテーマにしました。当時、自動車の排気ガスは細かく規制がありましたが、船舶では規制がまだなかったんです。今後、船舶でも同じ流れになるだろうと思い、テーマに選びました。
本校の練習船を使って、動いている船のエンジンの排気ガス成分の計測を行いました。波や風の状態でエンジンの状態も変わってくるので、条件設定には苦労しましたね。
運行時間などで制約があり、最初は乗組員の方から反対もありました。でも、私たちが実際に船に乗り込み、一生懸命研究している姿を見て、協力をしていただいたけることになって。あの時は本当に嬉しかったですね。
-部活は、野球部だったそうですね。
1年時から野球部に入部し、3年生の時にはキャプテンも任されました。熱血応援の中、甲子園や高専大会で試合が出来たことは、とても良い思い出です。少ない練習時間の中でどうやって効率的に練習するかを、チームのみんなで考えて実践していきました。
上下関係が厳しくて、寮ではお風呂の時間や食事のマナーなど細かく決められていたので、その辺は苦労しましたね(笑)。
研究は「知ったかぶり」ではなく、謙虚さが大切
-商船ご卒業後、長岡技科大に編入されているのですね。
エンジンに興味を持つようになってから、「エンジンの運転管理をするのではなく、エンジンの開発がしたい!」と思うようになりました。もっと機械についての勉強を深めたいと思い、4年生から大学進学に向けての勉強を始めました。
長岡技科大では「ポンプのシール」について研究しました。モーターに羽根がついており、モーターの軸とポンプの軸が直結されているのですが、「モーターで羽根を回転させて、ポンプで水を送り出す」という仕組みになっています。
モーターで羽根を回転させると、軸に沿って水が漏れてくるので、「シール」という部品で液漏れを防止するんですね。実はシールにはくぼみがついており、そのくぼみで圧力が変化するので、そこにセンサーを取り付けて圧力の変化がどう変わるのかを研究しました。軸自体の回転とともにセンサーも回転するので、センサーを正確に測定することには苦労しましたね。
最初は「エンジンの研究をしたかったのに、なぜポンプの研究なんだ」と思っていました(笑)。ただ、機械はいろいろな部品が組み合わさって動くものです。エンジンにはたくさんのポンプが使われています。「ポンプはエンジンに全く関係がないもの」ではなく、「必ずエンジンのどこかにつながっているんだ」ということが分かるようになってきて、それがモチベーションになりましたね。
-先生はその後、技科大の大学院に進まれているのですね。
商船の時は「船のエンジンを運転する、メンテナンスする」など「広く浅く」の教育を受け、大学では「一つの学問を突き詰める」という「狭く深く」を経験しました。エンジンの開発に進みたかったので、大学編入時から大学院への進学を決めていました。
工業高専ではなく商船高専からの編入だったので、「工業系の知識が若干劣っている」という自覚があり、足りない部分を補う勉強はかなりしましたね。知ったかぶりをせず、「知らないから教えてくれ」という謙虚さが良かったのかもしれません。物事はすべて積み重ねですから。コツコツやる姿勢は今でも役に立っています。
逆に商船で電気や計測の知識は学んでいましたから、そこは大いに役立ちました。実験装置をつくるとき、電気の知識は必要ですからね。
修士の時は、ポンプのシール実験装置をつくりました。スタートの実験だったので、自分で図面を書き、先生と一緒に業者の方と打ち合わせもしました。業者の方に「思いが強いのはわかるが、組み立て側の立場に立って考えたことはある?」と言われ、大きな気付きもいただきましたね。実は、今でも長岡技科大でその実験装置が使われているんですよ。
「学生を惹き付ける」ための授業中の工夫とは
-川原先生はどういったご経緯で、母校の高専に勤務することになったのですか?
修士修了後に、民間企業で製品の開発に3年間携わりました。その時に特許も取り、「ものづくりの醍醐味」を強く感じながら働いていたのですが、三原先生にお声がけいただいたことがきっかけで、母校に戻ってきました。
仕事が面白い時期でしたが、母校だったことと、「教えることが好き」ということが最終的な決め手でしたね。
-授業では、どのような工夫をされていますか?
大学院までいろいろな先生の授業を受けてきましたが、「学生を惹き付ける先生」っていますよね。私自身、学生時代は受け身で授業を受けていたほうですから(笑)、「先生が一方的に話をしても学生はつまらない」ということがよく分かります。ですので、出来るだけ学生に飽きさせない工夫はしています。
例えば、身近にある現象を事例として出し、「特別なことではなくて、身近にある話だ」というと学生はよく聞いてくれますし、学生に出来るだけ発言してもらうようにしています。授業中に数分間の小休憩を入れて、リフレッシュの時間をつくると、後半も集中力が続くんですよ。まだまだ試行錯誤中ですが、学生と一緒に、授業をつくっていきたいですね。
「海洋ゴミ」から着想を得て、特許を取得
-現在は、どのような研究をされているのですか。
エンジンの研究ももちろん続けていますが、海洋ゴミの研究もしています。対馬に行ったときに、海岸が見えなくなるぐらいアジアからのゴミが流れついているのを見て、学生と一緒に研究を始めました。
海洋ゴミはいろいろな種類がありますが、その中でも「発泡ポリスチレン」、つまり船に使う「ブイ」に注目をして研究を進めています。発泡ポリスチレンは燃やすと容積が50分の1になるんです。その時に高い発熱性が見られ、「化石燃料に発泡ポリスチレンを混ぜると、化石燃料が削減できるのでは?」と思いました。
さらに減容化だけでなく、「ブイ」は海水に浸っているので塩分が含まれているのですが、燃やすと脱塩効果も確認され、縮んだものは「塩分ゼロ」になることが研究で分かりました。これで特許を取得したんですよ。
現在は、小中学生に向けて「ゴミの再資源化」をキーワードにし、講義を行っています。大人がポイ捨てをする結果、ゴミが溜まって、子どもがその現状を見ているわけじゃないですか。それを繰り返してはいけないと、同時に「モラル」についての教育も行っているんです。
フットワークの良い学生を育てるための取り組みとは
-高専を目指す中学生に、メッセージをお願いします。
とにかく「フットワークの良い学生を育てていきたい」と思っています。口で言うだけではなく、自ら行動できる人を育てていきたいんです。そのためには教員自ら、その姿勢を見せなければならないと思っています。
ひとつの取り組みとして、私のゼミではオープンキャンパスの説明役を学生に任せています。保護者や新入生の目線で話せるのは今の学生ですからね。学生も最初は苦労していますが、回数を重ねるごとに上手く話せるようになります。「失敗してもいいからやらせてみる」ということを大切にしていますし、挑戦できる学生がもっと増えてほしいですね。
川原 秀夫氏
Hideo Kawahara
- 大島商船高等専門学校 商船学科 教授
1989年 大島商船高等専門学校 卒業
1992年 長岡技術科学大学 工学部 創造設計工学課程 卒業
1994年 長岡技術科学大学大学院 機械システム工学専攻 修了
1994年~1997年 三浦工業株式会社 ボイラ事業本部
2004年 山口大学大学院 博士後期課程 設計工学専攻 修了
2004年~2007年 大島商船高等専門学校 商船学科 准教授
2007年~2008年 ルーマニア ブカレスト工科大学 客員研究員
2008年 大島商船高等専門学校 商船学科 准教授
2012年~2013年 久留米工業高等専門学校 機械工学科 准教授
2015年より現職
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