徳山高専専攻科をご卒業後、愛媛大学大学院に進学し、現在は東京大学大学院に在学中の山根達郎さん。恩師の誘いによるデザコンへの参加で、成績が一気に伸びたとのこと。高専時代のお話や恩師との思い出、現在の研究についてなど、お話を伺いました。
海田先生の授業で「構造力学」に興味が
-徳山高専に進学を決めたきっかけは?
最初に徳山高専を知ったのは、中学校で開催された学校説明会でした。しかし、その時はすぐに「行ってみたい!」とはならず(笑)、オープンキャンパスに参加して進学を決意しました。
もともと家を建てることに憧れを抱いていたので、土木建築工学科に進学しました。しかし低学年から始まる専門の授業は難しくて(笑)。ただ、その中で海田 辰将(かいた たつまさ)先生の構造力学の授業が、とても楽しかったんです。
「小さい橋の模型をつくってみよう」というグループワークがあったんですが、ダンボールで作った橋が実際にどのくらいの強度があるのか競い合って。構造力学の知識は全然なかったのですが、純粋に楽しかったんですよね。
4年生になると構造力学をしっかり勉強した状態で、海田先生の授業でデザコンのテーマに挑戦しました。タワーを作って振動台に載せ、「振動にどれくらい耐えうるか」を競い合いました。他のグループが強度より軽さを求める中、僕たちは強度に重点を置いてつくった記憶がありますね。
「デザコン」がきっかけで、専攻科へ進学
-その後デザコンに参加されているのですね。
海田先生から指示があったらしく(笑)、デザコンをやっている学生に声を掛けられて、3年生から参加しました。
それがやり始めたらすごく楽しくて!つくるものが1mほどの橋なので、手先の器用さも求められるのですが、「集中して製作すれば結果として表れる」ことが楽しくて、放課後もずっと製作に励んでいました。
構造力学として最適なものを突き詰めると、どの高専も同じようなデザインになるんです。でも、徳山高専は「強度があるのは前提として、目を引くようなオリジナリティがある橋をつくろう」と取り組みました。「他の高専が考えなさそうなアイデアを出して、実際につくってみて、失敗して、壊して、つくり直して」を何度もしましたね。
4年生から専攻科卒業まではチームリーダーも経験しました。でもあまりメンバーに気を配れるタイプではなくて(笑)。専攻科に入ると少しはリーダーシップを取れるようにはなった気がしましたが、もっと後輩に対して出来ることがあったなと、今でも反省しています。
人が乗れる「ダヴィンチの橋」を製作し、イベントで展示
-専攻科に進むきっかけは、なんだったんですか。
デザコンがきっかけなんですよ。僕は3年生から始めたので不完全燃焼で。もし1年生から始めていたら満足していたかもしれませんが、「もっとやりたい!」と思い、迷わず専攻科に進みました。
高専に入学したときは、土木と建築の違いが分かっていなくて、「家を建てたいから建築に」と思っていましたが、「橋も面白いじゃん!」と気付き、専攻科では土木専攻に変更しました。
専攻科では「ダヴィンチの橋」の製作もしました。普通は割り箸でつくったりするのですが、「人が乗れるものをつくりたい!」と海田先生に相談すると、「材料はこちらで買うから頑張って!」と言われて(笑)。
さすがに何度もつくり直せないので、先に強度計算をして必要な材料を揃えていただきました。木材に切り込みを入れて組み合わせて製作したのですが、下にブランコをつけて子どもたちが遊べるようにしました。その後、周南市で行われたイベントに何度か展示され、実際に遊んでもらいました。
-専攻科では、どのような研究をされたんですか。
本科では「橋の構造解析」を研究したので、専攻科ではその延長線上の研究を行いました。徳山高専の専攻科は、2カ月間の長期インターンシップのカリキュラムがあります。そこで、最初の1カ月は広島市の建設コンサルタント会社に、次の1カ月は広島大学の研究室に行きました。進学と就職、それぞれの見識を広めたかったんですよね。
実際の橋にトラックを乗せて「橋にどれくらい力がかかったり、橋がたわんだりするか」を実験したのですが、これは広島大学の研究室や建設コンサルタント会社など、たくさんの学校や企業の方にお世話になった大掛かりな研究でした。
実在する古い橋を使っての研究だったのですが、当時の資料が無く、部材の形状には分からないところばかりでした。寸法が分からない部材は考えられる寸法を仮定して、シミュレーションで出た値と実際の値が一致するか検討しました。
完璧に同じ値にはなりませんでしたが、近い値は出すことが出来て。ズレている部分の原因を考察することは大変でしたね。また「リーダーシップをとる」という点でも勉強になった部分が多く、やりがいのある研究でした。
AIを使って「橋梁の維持管理」の研究を続ける
-その後、愛媛大学の大学院に進学されているのですね。
実は本科の1~2年の頃は本当に成績が悪くて、留年スレスレだったんです(笑)。それを海田先生がデザコンに迎え入れてくださって、構造力学や研究の面白さを伝えてくれたので、そこから成績が一気に伸びました。
「教える先生で、学生の成績はかなり変わる」を実体験として経験し、「大学や高専で先生がしたい!」と思い始めました。海田先生に相談したところ、海田先生が前任でいらっしゃった愛媛大学を進学先として紹介していただいたんです。
実際に愛媛大学の研究室に見学に行くと、先生のお人柄や明るい研究室の雰囲気がよくて。学生と積極的にコミュニケーションを取ってくださる先生だったので、進学を決意しました。そのまま愛媛大学で博士課程を修了する予定でしたが、先生の異動があったので、現在は東大で研究を進めています。
-現在は、どのような研究をされているのですか。
「橋梁の維持管理」という点では変わっていませんが、現在はAIを使って橋の損傷を調べる研究をしています。例えば、コンクリートの表面のひび割れや損傷をAIに学習させて検出させる研究などです。あとは三次元モデルにAIを使って検出した損傷を反映する研究も進めていますね。
土木業界は人手不足の業界なので、「AIを使って、人がやっていた作業を楽にしよう」というのが研究の目的なんです。AIの発展は目まぐるしいので、キャッチアップしつつ、「走りながら考えて」日々研究を進めています。
「先生と積極的なコミュニケーション」がオススメ
-今後の展望と、高専生へのメッセージをお願いします。
早いうちから専門的なことを学べるのは高専のメリットだと思います。「高専生が当たり前のように知っていることでも大学生は知らない」ということも、多々あるんです。応用的なこともしっかり学べるのは高専の良さだと思いますね。
逆に大学進学は高専では学べないこともたくさん学ぶことができ、刺激が多いですよ。大学は高専に比べてできる研究のスケールも大きいですし、人との出会いもたくさんあります。
やはり今でも「先生になりたい」という気持ちは変わっていません。大学や高専の教員には「教育を主に柱にする先生」と「研究を主に柱にする先生」がいると思います。僕は「学生への教育を大切にする先生」になりたいんです。
海田先生が「もともと優秀な学生を、優秀な学生のまま送り出すことよりも、そうではない学生を引き上げて、立派な学生として送り出すことが教員の面白いところだ」と仰っていました。僕も海田先生の影響を受けている学生の1人ですし、そういうことができる先生になりたいと思いますね。
学生のみなさん。学生と積極的にコミュニケーションを取ってくれる先生がいれば、自分から話しかけにいくことをオススメします。先生からいろいろな紹介をいただけることもありますし、悩みの解決にもなると思います。ぜひ授業以外でも積極的なコミュニケーションを図ってみてください!
山根 達郎氏
Tatsuro Yamane
- 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 博士後期課程
2016年 徳山工業高等専門学校 土木建築工学科 卒業
2018年 徳山工業高等専門学校 環境建設工学専攻 卒業
2020年 愛媛大学大学院 理工学研究科 博士前期課程 修了
2020年~現在 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 博士後期課程
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