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「前例がない」を覆し続ける——ローラーコースタープロジェクト 有志6名の、3年目の挑戦!

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小山高専の機械工学科・電気電子創造工学科・建築学科のメンバーが集まる、ローラーコースタープロジェクト。2020年から活動を開始し、2023年度には、ものづくりの楽しさを広めたいという目標から、Craft Team「STARSS(スターズ)」を結成しました。現在もSTARSSの活動の1つとして、ローラーコースタープロジェクトに取り組んでいます。参加されている学生6名と、それを支えた先生方に、プロジェクトの全貌について伺いました。

それぞれの思いを胸に、プロジェクトに参加

―ローラーコースタープロジェクトとは、どのようなプロジェクトですか?

中村さん(機械工学科4年生、チームリーダー):ローラーコースタープロジェクトは、小山高専の文化祭(工陵祭)で、「お客様をコースターに乗せて楽しんでいただくこと」を目標に始まったプロジェクトで、2020年から開始し、今年で4年目です。メンバーは有志で集まっていて、学年・学科関係なく集めています。

▲中村さん

―メンバーの皆さんがこのプロジェクトに参加されたきっかけを教えてください。

中村さん:2020年の工陵祭で、1年1組のクラスみんなの意見として、「アトラクションをやってみよう」という話になりました。そこで川田がCADでローラーコースターの設計をしてきて、「本気でやるんだな」と分かり、僕と渡辺がついていく形になりましたね。

川田さん(建築学科4年生): 1年目のローラーコースターは、「クラスのメンバーがいればできるんじゃね?」と思い、図面をつくって持っていったのを覚えています。

▲川田さん

中村さん:そして、2021年からは有志で集まり、ローラーコースター「ALPS(アルプス)」を製作することにしました。しかし、工陵祭サイドから乗車許可が出ず、一般の方々を乗せることができませんでした。

▲【動画】小山高専2年生がローラーコースター作ってみた!

中村さん:それでリベンジしようと集まったのが、今回の6名のメンバーです。そして、2022年度の工陵祭で製作した3度目のローラーコースター「Eagle(イーグル)」で、ついに一般の方々を対象とした有人運行を実現することができました。

渡辺さん(建築学科4年生): 2020年度は「本当にできるのか」と思っていたんですが、川田がCADで設計図をつくって見せてくれたので、「これはやるしかない!」と思って。2年目、3年目も「参加するしかないでしょ!」となりましたね(笑)

▲渡辺さん

川田さん:1年目のときのローラーコースター製作で感謝されたので、リベンジも含めて、2年目、3年目と続けることができました。

舘野さん(電気電子創造工学科4年生):僕は1年目から参加しているのですが、中心メンバーになったのは3年目のEagleからです。電気系の技術が必要になったので、僕に声がかかりました。

▲舘野さん

村岡さん(機械工学科4年生):2年目のALPSを実際に工陵祭で見て、「これをつくっている同級生がいるんだ」と本当に驚きました。「僕も参加したい」と思いましたね。

▲村岡さん

夘月さん(電気電子創造工学科3年生):僕は2年生になってInstagramでローラーコースタープロジェクトを知って、そこからしょうた先輩(川田さん)にDMを送ったのが、このプロジェクトに参加したきっかけです。

▲夘月さん

「前例がないから難しい」を乗り越えた情熱

―2022年度の「Eagle」製作秘話を教えてください。

中村さん:企画全体として「人を乗せる」という目標があるので、学校側に話を通すことに1番苦労しました。安全性や場所の確保、作業要員の確保などが大変でしたね。

川田さん:1番苦労したのは2年目だと思います。先生方の信頼がマイナスからのスタートでしたので、2年目のALPSのときは先生方から「前例がないから難しい」とずっと言われ続けていたんです。

ものづくりセンターでの作業前の様子
▲ものづくりセンターでの作業前の様子(左から中村さん、村岡さん、渡辺さん、川田さん、夘月さん)

中村さん:でも2年目が終わるときに、「よくやり切ったよ」と言っていただけて。その苦労を乗り越えた経験が3年目に繋がっていきました。

川田さん:僕が担当した設計セクションでは、2年目からCADソフトを変えたんですよ。ただ、そのCADソフトは海外のソフトだったので、メンバーの誰も使ったことがなくて。調べながら、教え合いながら、手探りでやっていきました。

川田さん:また、ローラーコースターは大きいので、群馬県の僕の実家で製作し、学校で組み立てる流れにしたのですが、分解しても強度が保てるように構造面を考えることが難しかったです。同時に、安全性を先生方に認めてもらうために、たくさん資料をつくりました。

夘月さん:組み立てでは、100本分の木材をカットする際、1mmでも狂っちゃうと全体の設計が変わっちゃうので、それが大変でしたね。

電動丸鋸の使い方を教える川田さんと、教わる渡辺さん
電動丸鋸の使い方を教える川田さんと、教わる渡辺さん

川田さん:1mmでも狂ったらやり直しって言っていました。

中村さん:本当に心が狂いそうでした(笑)

村岡さん:ローラーコースターの土台では塩ビ(塩化ビニル)パイプを使用しているんですけど、大きなカーブをつくるところは、予め熱しておいた砂を入れて、型に入れて自重で曲げていくんです。誤差はヒートガンを使って修正しました。

中村さん:塩ビパイプは、温度が上がらないと曲がらないんですよね。なかなか火力が上がらなかったんですけど、そこは川田のおばあちゃんが知恵を貸してくれて、火力を上げることができました。

舘野さん:僕は電装系を担当したのですが、電動ウィンチ(※)用の回路を自分の家でつくったあと、夏休みの期間中に川田の家に住み込んで、カート本体に実装するための回路や、電源ケーブルの実装をしました。

※ワイヤーで巻き取ることで、重いものを吊り上げたり牽引したりする装置

電子部品のハンダ付を行う舘野さん
電子部品のハンダ付を行う舘野さん

川田さん:舘野は本当に「電気の達人」でしたね(笑)

村岡さん:学校のものづくりセンターでカート製作もしました。学生のみでは行うことが難しい作業なので、先生に監督者として見ていただきながらの作業でしたね。最終的にものづくりセンターでの作業が100時間を超えました(笑)

カート作成のために溶接を行う村岡さん
カート作成のために溶接を行う村岡さん

中村さん:金属加工は学生だけじゃできないので、高専のものづくりセンターで出来たのは大きかったです。

村岡さん:また、カートの試験走行で僕が乗った際、後ろの回転軸のボルトが曲がってしまって、試験走行が続行不可能になってしまったことがあります。そこから川田と話して、設計から見直し。具体的にはボルトの径を少し大きくして強度を上げることで対策しました。

川田さん:僕たちの想定よりも大きい力がその部分に加わってしまったので、すごく勉強になりましたね。

カートの足回りや軸の様子を観察する中村さんと夘月さん
カートの足回りや軸の様子を観察する中村さん(左)と夘月さん

こだわりを反映して、バージョンアップ

-予算面で工夫されたことがあれば教えてください。

渡辺さん:会計は、2021年から僕が担当しました。木材の高騰化もあり、予算立てでは苦労しましたね。また、ボルトの破損や追加注文で、最終的に予算はかなりオーバーしました。

川田さん:僕のこだわりが結構強く、「どうせならいいもの使おうよ」と言っていたので、けっこうみんなに指摘されていましたね(笑)

舘野さん:それで僕に追加注文があったのね(笑) 急に「電源用のブレーカーボードが欲しい」って言われたので、そこから「コースターの見た目をもっと良くするためには」と考えました。

川田さん:最終的に買い出しに連れて行ってもらえなくなりましたもん(笑) でも、ちゃんとバージョンアップもできて、結果的にいいものができました。

―作業中にお互いの成長を感じる瞬間などはありましたか?

夘月さん:僕はみなさんの1年後輩なので、初めて使う工具も多く、すごく勉強になりました! 先輩方はプロでしたね。

川田さん:僕らから見てもすごく成長しているよね。先輩たちに交じっても、遜色なく話せるし。

中村さん:いい意味で後輩感がないですし、ムードメーカーとして活躍してくれました。

小山高専ものづくりセンターで、ボール盤に穴をあける様子
▲ボール盤で穴あけ(小山高専 ものづくりセンターにて)

先生方のサポートで乗り越えることができた「難所」

―先生方とのコミュニケーションはいかがでしたか?

中村さん:学校側とやり取りするとき、一学生という立場だと声が通りにくいんですけど、先生方にしっかりサポートしていただけました。先生方がいなかったら成り立たなかったです。企業さんやOBの方もたくさんつないでいただいて、助けていただきました。

先生方にサポートをしてもらっている様子
▲山下先生(左から2番目)、大和先生(1番左)もサポート

山下先生(機械工学科教授)人を乗せるには危険も伴いますので、不安はあったのですが、学校側への説明や、安全性の確保を考えて、なんとかその方向性で夢を実現させてあげたいと思いましたね。

大和先生(建築学科准教授)学生には「チャレンジしなさい」と、日頃から話していたんですよ。まさにその「チャレンジが来た」と思いました。

山下先生:自分たちで考えて動いているので、ほとんど何も口出ししなくてもやってくれていました。非常に学生を誇りに思っています。大学生にも引けをとらないと、個人的には思いますね。

大和先生:社会に出てからもこれだけ情熱をかけて、いろんな分野のメンバーが本気で意見をぶつけ合って、ひとつのプロジェクトに取り組むことはそんなにできることではありません。いろいろな壁を乗り越えながら、最終的につくってしまっているという情熱に、最終的には動かされたのが実情です。

中村さん:先生方はイベントや作業中に応援に来てくださるんですよ。山下先生は高専から50kmも離れている川田の家まで来ていただいて作業を見守ってくださったり、大和先生はイベント中に夜までずっといてくださったり、お忙しい中いろいろ協力していただいて、本当に感謝してもしきれないです。

群馬のメンバー宅での集合写真
▲メンバー宅(群馬)での集合写真。山下先生(1番下)も

大和先生:土台の部分の安全性は、全く問題なかったですね。現場で微調整しながら、本当につくってしまったというところでしょうか。土台の部分を見た瞬間に「これは大丈夫だな」と言えるぐらいしっかりしていました。

山下先生:安全性に関しては、動かしてみないと分からない部分もありました。ただ、工陵祭ではそのあたりも全てクリアして、学校側からゴーサインをいただけたので、ほっとしましたね。

-そんな中迎えた工陵祭当日の思い出を教えてください。

村岡さん:実は、カートの溶接を完全に終わらせたのが、工陵祭前日の夕方5時でした(笑) ものづくりセンターは5時までしか使えなかったので、本当にギリギリで完成したんです。

中村さん:1日目が終わったあと、カートに「なんか曲がっている?」っていう箇所を見つけました。そこで相談し、みんなで朝早くに集まって、ものづくりセンターで修理・調整。本当に満足いくように動いたのは2日目の午後からでした。それまでは調整の繰り返しでしたね。

工陵祭当日に、現地でカートの調整を行うメンバーのみなさん
▲工陵祭当日。現地でカートの調整を行うメンバーのみなさん

川田さん:こんな感じで本当につくることに精一杯で、運営まで考えられてなかったことも当日の思い出として挙げられます。

中村さん:お客様にはいっぱい並んでいただけたんですけど、運営側の人員が圧倒的に足りなくて、助っ人に手伝ってもらいました。ただ、そんな状況でも2日間の運行で180人以上もの方々を乗せることができたのは嬉しかったですね。お客様や先生方から賞賛のお声をたくさんいただいて、大好評で工陵祭の幕を閉じることがきました。

工陵祭終了後の集合写真
▲工陵祭終了後に集合写真

高専でチームを組めば、困難も乗り越えられる

-みなさんの今後の展望を教えてください。

中村さん:STARSSのコンセプトが「ものづくりの楽しさを広めていく」なので、ローラーコースターに囚われず、いろんな方法でものづくりの楽しさを広めていきたいですね。個人的には、この活動を高専の中だけで終わらせるのはもったいないので、代表として、内外との関わりを増やしていけたらと思います。

川田さん:もっと面白いものをつくりたいです。チームのコンセプトに則って、工具を使う人が増えたり、DIYする人が増えたりと、自分自身で楽しんでモノづくりをしてもらえる人が増えたらという思いで今後も活動していきます。

夘月さん:僕はモノづくりも好きなんですけど、子どもと遊ぶのも好きなので、STARSSでワークショップを開催したいなと思っています。あと、Instagramのフォロワーを1万人にします! 全国放送も目標にしています!

村岡さん:今後製作するカートに関しては、機械科が担当することになったので、知識と技術力を上げて、より安全性の高いものをつくっていけたらと思います。

渡辺さん: Eagleの課題として、対象年齢を中学生以上にせざるを得なかったので、もっといろんな方に楽しんでもらえるように、高専の特色を生かして頑張っていきたいですね! 同時に、「進路がバラバラになっても、またみんなでひとまとまりになって何かしたいね」ってよく話しているので、それが叶えば嬉しいです。

舘野さん:モノづくりの楽しさを広めていくことはみんながやってくれると思うので、僕は自分の技術力や能力を高めていきたいです。「もっといい方法があったんじゃないか?」ってずっと考えていたので。

中村さん:職人魂だな。1番能力持ってるじゃん(笑)

―それでは、読者のみなさんにメッセージをお願いします。

中村さん:困難に思えることでも、仲間たちと正面から向きあって立ち向かえば解決するので、モノづくりやそれ以外のことでも良いので、たくさん体験してほしいです。

企業の方に対しては、僕たちはまだ活動を始めたばかりで、至らぬ点がたくさんありますが、僕たちの活動に感銘を受けた方がいれば、是非一緒に協力いただいて、楽しくモノづくりを広めていけたら嬉しいです。

山下先生:高専に入学して、チームを組めば、プロジェクトが達成できることを彼らは証明してくれたわけですから、高専でモノづくりを楽しんでもらえればと思います。ぜひ高専で待っています。

大和先生:高専では「アントレプレナーシップ(起業家精神)」を活性化させようというプロジェクトが立ち上がっているのですが、STARSSの活動はまさに現在進行形でその事例になりつつあると思っているんです。

高専ならではのプロジェクトですので、ぜひ自分の強みや分野を超えて活動していきたい方には、高専が1番良い環境ですので、ぜひ高専に来てください!

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