沼津高専の大川政志先生は、高校生のころに化学のおもしろさと出会ってから今日に至るまで、約40年間ずっと化学とともに人生を歩んでいます。その傍らでは趣味を存分に楽しむ一面も。研究をはじめ、大川先生を突き動かす原動力についてお話を伺いました。
導かれるように研究者の道へ
―化学に興味を持ったのは、いつごろでしょうか?
中学生のころは「実験って楽しいな」というレベルでした。本格的に化学を学びたいと思ったのは高校生のころ。有機化学の授業を受けた際に「組み合わせ次第で性質が変わるなんて、おもしろい!」と感じたことがきっかけです。
大学の進学先も化学が学べるところに絞り、北海道大学を選びました。旧帝大なのに化学のみで受験ができる点、学科は入学後(2年次以降)に決まるという点にも魅力を感じましたね。
―理学部の化学科に進学したのはなぜですか?
当初は農学部や薬学部に進学したいと思っていたのですが、人気が高くて……(笑) 理学部化学科を選んだのは、たまたま受けた教授の講義がおもしろかったからという理由です。
また、進学時は有機化学や生物化学を究めたいと思っていたのですが、生物化学がどうしても苦手で、実は早々に挫折しました。大学生活の中で唯一再履修したのが生物化学というほどです。
そして、これまた先生方の講義や研究内容に興味が湧き、すぐに無機化学の道へとシフトして現在に至ります。
―大学在学時は、将来の夢は具体的に描いていましたか?
「何かになりたい」というより、「研究をずっと続けたい」という思いが強かったですね。当時の私には「企業の研究職に就いたら、企業のための研究しかできなくなるのではないか」という危惧があったんです。それよりも、もっと自分の気になることを突き詰めるほうが性に合っていると思いました。
ですので、大学院に進むのも私にとっては必然でした。いよいよ博士課程が修了するというときに「教員採用試験を受けて教員になろうか」と思ったこともあったのですが、教授の紹介で愛媛大学の助手に就任。振り返ってみると、先生との出会いによって、導かれるように研究者の道を歩んでいます。
0から1を生み出すおもしろさ
―研究に対するモチベーションはどこにありますか?
誰もやっていないことや誰も解明していないものを見つけるのが好きです。そして、自分が気になったらとことん追求する。これが何よりのモチベーションです。
1から10を生み出すのが工学部だとすれば、0から1をつくるのが理学部。私の研究の「1」が、工学部の方々の研究と組み合わさって何らかに発展していけば、これほどうれしいことはありません。
―そこから高専教員になられたきっかけを教えてください。
これもまた、先生の導きです。特任講師をしていたころに沼津高専の教員募集があることを教えていただき、トントン拍子に進みました。実は、中学生のころに沼津高専へ見学に行ったことがあり、どんなところかは知っていました。
同級生で高専の教員になった人もいましたし、助手として働いていたころは高専生をインターンで受け入れていたので、高専生たちとの関わり方や高専で働くことは、早い段階でイメージできていました。
―現在の研究内容は何でしょうか?
大きなテーマは酸化物の酸や塩基で、それらの構造や機能を調べ続けています。具体的には、「イモゴライト」というナノチューブ形状の粘土鉱物を触媒として利用するための「イモゴライトナノチューブ化合物の化学的修飾と触媒としての応用」や、さまざまなゼオライト(※)の細孔のサイズの変化を調べる「分子動力学シミュレーションによるゼオライト細孔の熱的変化の調査」などです。
※粘土鉱物の一種であり、規則的な管状細孔と空洞を持つ含水アルミノケイ酸塩。細孔による分子ふるい効果に加え、イオン交換能や触媒能、吸着能などの特性を持っていることが特徴で、脱臭、水質の改善、土壌の改質のほか、工業触媒などにも使用されている。
ゼオライトは、今後、薄膜化して細孔内部を拡散する粒子のシミュレーションを行う予定です。また、高専の教員になってからは「堅果(どんぐり)デンプンの有効利用法の探索」にも力を入れています。堅果の種類によってデンプンの結晶が変わる性質を生かして、何かに活用できないかという研究です。今後も静岡県東部の各地で堅果の採集を続け、網羅的に変化を調べていくつもりです。
好きなことがあるから、人生が豊かになる
―研究以外に興味があるものを教えてください。
たくさんあります。星を観ること、音楽鑑賞、観劇、写真、お酒……挙げるときりがないくらいです。特に星は幼少期に皆既月食を見てからずっと好きで、今も天文部の顧問を10年以上務めています。
ライブや舞台は、夜行バスに乗って日本中さまざまなところに観に行くので「フットワークが軽い」と言われることもありますが、ただ好きなことに全力投球しているだけです。研究と同じですね。決して若くはないですし、体力の限界を感じることも増えましたが、まだまだやめられません。好きなことがあると人生が豊かになるので、これからも大事にしていきたいです。
―最後に、学生にメッセージをお願いします。
ぜひ、本をたくさん読んでください。助手をしていたころから感じていたのは、読書をしない学生ほど、論文を書くのが苦手だということ。言葉を知らなかったり語彙が少なかったりすると、どんなに勉強ができても論文を読みやすくまとめる力はつきませんし、相手とのコミュニケーションがとりにくくなります。社会に出ていくうえで、文章力や読解力は絶対に欠かせません。
私が読書の大切さを知ったのも高校に入ってからだったので、みなさんは今からでも間に合うはず。できれば少し背伸びをした大人向けの本を読み、たくさんの力を養ってほしいです。
そして、興味をもったものがあれば、とりあえず挑戦してみることも忘れずに。そこから道は拓けます。勉強ひと筋ではなく、何か好きなものを見つけて、さらに実りある学生生活を送ってください。
大川 政志氏
Masashi Ookawa
- 沼津工業高等専門学校 物質工学科 教授
1986年3月 神奈川県立小田原高等学校 卒業
1990年3月 北海道大学 理学部 化学科 卒業
1992年3月 北海道大学 大学院理学研究科 修士課程 化学専攻 修了
1995年6月 北海道大学 大学院理学研究科 博士後期課程 化学専攻 単位取得退学
1995年7月 愛媛大学 工学部 応用化学科 助手
2006年4月 愛媛大学 大学院理工学研究科 物質生命工学専攻 応用化学コース 助手
2007年4月 同 助教
2007年8月 同 特任講師
2008年4月 沼津工業高等専門学校 物質工学科 准教授
2015年7月より現職
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