富山高専の専攻科を修了し、現在は物流会社で仕事をしている太田恵利香さん。ロシア語を専門的に学べる点が決め手となり、高専への進学を決めたのだそうです。高専で培った英語力を生かして仕事をする太田さんに、高専時代の思い出や、仕事のやりがいについて伺いました。
ロシア語を扱う警察官になることを夢見る
―太田さんが富山高専に進学されたきっかけを教えてください。
世間的にはあまりなじみがないかもしれませんが、富山県は長らくロシアと友好関係にあり、貿易や人的往来が盛んに行われてきました。私の住んでいるところも、海沿いの道路標識にロシア語表記があったぐらいです。そのぐらいロシア語が身近だったので、「ロシア語を学びたい」という気持ちがありました。
同時に、ご近所さんが警察官だったことから、漠然と警察官に対するあこがれもありました。それで富山県警の採用ページを見ていたところ、ロシア語を専門とする国際捜査官という職種を見つけたんです。「警察官になればロシア語を生かして活躍できる」と、その夢に向けて、ロシア語を専門的に学ぶことができる富山高専の国際流通学科(現:国際ビジネス学科)に進学しました。
―高専に進学されていかがでしたか。
最初に驚いたのは、英語の授業がすべて英語だったことですね(笑) カナダ出身の先生で、日本語もペラペラだったのですが、私たち国際流通学科の学生に対しては必ず英語で会話していました。私は元々英語が苦手で、TOEICも400点ぐらいだったのですが、卒業する頃は600点を超えましたし、数年前に受けた時は700点を超えたので、高専時代に基礎ができたことは本当に良かったです。
第二外国語はロシア語を選択しました。文字も文法も、日本語とはまったく違うので本当に大変でしたが、卒業する頃には喋れるようになりたいというモチベーションで続けました。
留学にも何度か行っています。3年生の時にはオーストラリアに1か月留学に行きました。初めてホームステイを経験したのですが、ホストファミリーの家の庭に野生のワラビーがいたのは衝撃的でしたね。オーストラリアでは日常の光景だそうで、ホストファミリーは全然気にしてなかったのですが、私はずっとそわそわしていました(笑)
4年生のときにはロシアに1か月留学をしました。思い出に残っているのは、ウラジオストクのカフェに行ってエスプレッソを頼んだときです。その時はエスプレッソがどういうものかをわかっておらず、コーヒーのつもりで飲んだらすごく苦くて、とても飲めたものではありませんでした(笑)
―高専時代はどのような部活に所属していたのですか。
部活はテニス部と茶道部に入りました。中学の頃はソフトテニス部だったので、ある程度の経験もありましたし、硬式にチャレンジしてみようと思いました。女子テニス部は人数も少なく和気あいあいとしていましたね。
茶道部では、小さい頃から祖母の影響でお茶を習っていたこともあって入部しました。学祭のときには茶道部みんなで着物を着てお茶会を開きました。習い事の茶道は、比較的参加者の年齢層が高かったので、学校で同年代の子たちとお茶をできるのはすごく楽しかったですね。
習っていた茶道では、6年ほど前にお茶名をいただけたので、とてもうれしかったです。お茶名をいただいた際には、転職してお茶の道に進もうかと一瞬迷ったぐらいでした。
恩師の言葉がきっかけで専攻科へ進学
―卒業研究はどのようなことをされたのですか。
卒業研究では、「CSRと企業の持続的発展の関係」というテーマで研究しました。「CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)」に注目が集まっており、CSRの実践が企業の持続的発展に貢献することを明らかにしました。当時の指導教員である宮重先生のゼミは毎年合宿を行っているのですが、その時の企業へのインタビュー内容も交えて、CSRが企業の持続的発展に貢献するプロセスの仮説を検証しました。
宮重ゼミはディスカッションがもう付きまとってくるのですが、私はそれが本当に苦手で(笑) 最初の頃は論理的思考が何かも分からず、とてもつらい時間でした。
自分では論理的思考が身に付いたという実感はなかったのですが、専攻科を修了してから宮重先生に「論文を掲載していいですか?」という話をいただいたことがあって、その時に「自分が思っていたよりは、うまく論文も書けていたのかな」とも思いました。
―その後、専攻科に進学された経緯を教えてください。
警察官になる夢があったので、警察官採用試験を受けたんです。ですが、面接で落ちてしまい、それが叶わなくなりました。
時期的にも精神的にも、次の進路を決めるに決められず、途方に暮れていたところ、宮重先生が「専攻科の二次募集があるよ」と教えてくださいました。気持ちとしてもしんどかったのですが、さしあたり次の進路を決めて、気持ちを切り替えることができたので、宮重先生には本当に感謝しています。
専攻科では、インターンシップで北アイルランドに行ったことが思い出に残っています。現地の企業で働くのかと思っていたのですが、学校で授業を受けて企業見学に行くというスケジュールでした。いろんな高専からの参加者がいたので、他高専の話が聞けたのが面白かったですね。
飛行機でロンドンまで行って、ハリーポッターで出てくるキングス・クロス駅の「9と4分の3番線」も見ることができました。
自信につながった、初担当の大規模海外展示会
―専攻科を卒業後はどのようなお仕事を経験されたのですか。
卒業後、日清工業株式会社に入社しました。この会社は工作機械を製造しており、私は営業アシスタントとして勤務しました。お客様が機械の完成時に海外から訪れる際には、検査の立ち会いや観光のアテンドを行い、取扱説明書の翻訳や機械の現地納入立会い、そして海外展示会の出展準備など、さまざまな業務を担当しました。高専で学んだ英語と物流に関する授業が、仕事の中で非常に役立ちました。
2社目は株式会社アクト・インターナショナルに入社しました。前職での海外展示会の仕事がとても楽しく、「もっと展示会の仕事がしたい」と考えて、転職しました。アクト・インターナショナルは海外展示会の日本事務局をしている会社だったので、自分のやりたいことにぴったり当てはまったんです。
社員数が8名の小規模な会社だったため、営業をメインにしながらも、総務や経理といったさまざまな業務も経験しました。1週間に1~2回は東京ビッグサイトや幕張メッセで展示会の営業活動を行い、2ヶ月に1度は海外出張があり、非常に充実した日々を過ごしていました。
特に印象に残っているのは、初めて担当したタイで4日間にわたって開催された「Manufacturing Expo」というタイ最大規模の製造業展示会です。出展企業を集めるところから始めて、すべてが初めての経験だらけでしたが、大成功を収めたときには本当に嬉しくて、達成感で力が抜けました。
しかし、コロナの影響で展示会が全く機能しなくなり、これをきっかけに現在の会社へと転職することになりました。
―現在はどのようなお仕事をされているのですか。
現在は丸紅ロジスティクス株式会社でカスタマーサービスの業務に携わっています。主に輸入業務を担当しており、書類の確認から通関の手配、さらに配送手配までを行っています。担当している商品は自転車など、私たちの日常に身近なものが多いため、「日常生活品はこうやって日本に流通するのか」と、仕事を通じて多くのことを学んでいます。
業務では専門用語が多く使われますが、高専時代に授業で聞いたことがあるものも多く、知識として持っていたのが役に立ちました。
―今後の目標について教えてください。
高専時代に宮重先生から「チャンスの神様は前髪しかないから、通り過ぎてしまったら掴めないんだよ」という言葉を教えていただいたのですが、実際、2社目の面接を受けて、その場で内定をいただいたときに悩むことなく即答で受けたのは、この言葉のおかげだと思っています。その瞬間こそが、まさにチャンスの神様の前髪を掴んだときでした。結果として、海外を飛び回る充実した経験ができ、現在の東京での仕事のスピード感にも対応できるようになりました。
これからも、仕事でもプライベートでも、あらゆることにチャンスを見出しながら取り組んでいくことで、新たなチャンスを掴んでいければと思っています。
―現役の高専生にメッセージをお願いします。
高専に進学することは、一般的な選択肢ではないかもしれません。そのため、高専に入学した時点で、皆さんはある程度自分の将来の方向性を決めていると思います。大学受験がない分、自分に使える時間が多くなりますから、その時間を、自分が本当にやりたいことのために有効に使ってほしいと思います。
また、「高専出身」という経歴は、面接の場でも非常に話題になりますし、そこで学んだことは将来に大いに役立ちます。私自身、高専時代はテスト前に最低限しか勉強しておらず、「もっとしっかり勉強しておけばよかった」と後悔することもあります。現役の皆さんは、将来そのような思いをしないように、勉強も趣味も、今しかないこの時間を全力で楽しんでください!
太田 恵利香氏
Erika Ota
- 丸紅ロジスティクス株式会社 国際事業本部 フォワーディング第三事業部 国際第四営業所
2013年3月 富山商船高等専門学校 国際流通学科(現:富山高等専門学校 国際ビジネス学科)卒業
2015年3月 富山高等専門学校 専攻科 国際ビジネス学専攻 修了
2015年4月 日清工業株式会社 海外営業アシスタント
2018年10月 株式会社アクト・インターナショナル 営業・総務・経理
2021年11月より現職
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