
産業技術総合研究所で、MEMSセンサの研究を行っている森田伸友さん。北九州高専から九州大学・大学院に進み、いったんは企業へ就職後、やっぱり研究を続けたいと博士課程へ。研究の道を選んだ理由とは?
日本最大級の研究所で行う、最先端の研究
―産業技術総合研究所(産総研)とは、どのような所ですか?

産総研とは、日本最大級の公的研究機関で、国内に11カ所の拠点があります。「エネルギー・環境」「生命工学」「情報・人間工学」「材料・化学」「エレクトロニクス・製造」「地質調査」「計量標準」という7つの領域に分かれて研究を行っており、研究者は2,300名くらい所属していますね。
産総研では、産総研単独の研究だけでなく、大学や企業との共同研究や受託研究など様々な体制で研究を行っています。
みなさんの身近なところでいうと、火山が爆発したり地震が起きたときに、テレビに専門家の人が出てくるじゃないですか? 普段あまり気にされることはないかと思いますが、専門家の人の所属に注目して頂くと、「産業技術総合研究所」の名前を頻繁に目にすることができます。
―研究内容について教えてください。

左)マイクロエンコーダ。ナノメーターレベルの移動距離測定が可能。右)血流量センサ。レーザーを使い体内の血流量を見ることができる。
MEMS(メムス)センサの研究を行っています。正式には、「Micro Electro Mechanical Systems」と言うんですが、このセンサの特徴は、「米粒よりも小さい」というところなんです。
小さいと、どんな機械にも入れることが出来るので、例えばスマホには数十個ものMEMSを搭載することで、あのコンパクトなサイズのまま、音をだしたり拾ったり、向きに合わせて画面を回転させたり、高速にデータ通信ができるようになっています。私はこれを医療の分野に発展させているところです。
COVID-19で重症化すると「エクモ」という機械を使用しますよね。そのエクモで光センサを使って血栓が体内にあるかどうかを確認できるよう、基礎研究を始めたところです。血栓が体内に入り込んでしまうと重篤な状況になりかねないので、光センサを使って、いち早く気づくことで、医療に役立てることができるのではないかと考えています。
高専から大学・院、企業就職を経て、再び研究の道へ
―高専時代のことを教えてください。

私は、北九州高専の制御情報工学科出身です。高専を選んだ理由は、理科と数学が好きで、国語と英語が嫌いだったから(笑)。中学時代の塾で高専を知って、「英語の授業少ない、国語の授業少ない、ロボコンやってるんや、決定!」って感じでした。
高専では、ロボット制御について研究をしており、専門的な機械についての基礎を学べたと思っています。でも、そういえば結局ロボコンには参加しませんでしたね(笑)。
高専時代に頑張ったことは、勉強というより部活かもしれません(笑)。最初はこれまでやってなかったことをやろうと思い、バトミントン部に入りました。高専大会で15連覇していた強い部活で、私も北九州北部の新人の部で優勝できましたし、とても楽しかったです。
でも、ある時からバレーボール部とバドミントン部の練習が同じ体育館になったんです。実は小中学校ではバレーボールをやっており、毎日横で見ているとやりたくなってきて、バレーボール部に入りました。

高体連ではキャプテンを務めたんですが、キャプテンって、なんでも全部自分で決めないといけないと思い込んでしまって、後輩や同級生に相談できず自分を追い込んでしまい、結構つらかったですね。今となっては、良い人生経験だったと思えますが(笑)。
高専生へのアドバイスとしては、「授業はちゃんと受けておきなさい」ってことでしょうか。どうせ授業は受けなきゃいけないんだから、その時間はしっかり勉強しておいた方が良いかと(笑)。よく「学校で勉強したことは、社会では役に立たない」なんて言う大人がいますけど、高専生に関しては十分役立つ機会があると思いますね。
―大学・院を経て、最初は企業に就職されたんですね?

やりたい仕事がまだ見つかっていなかったこともあり、一人暮らしもしてみたかったので、本科卒業後は大学への編入を決めました。3年生で進学を決めたんですが、それ以降は 授業も真面目に聞くようになりましたし、5年生の時は人生で一番勉強したかもしれません(笑)。
努力の甲斐あって、九州大学の機械航空工学科に編入学することができました。大学3年生前期では、授業のスピードは速かったものの、高専でやっていた内容だったので、まずはバレー同好会などサークル活動や飲み会などの活動に励みましたね(笑)。
ですが、3年生後期になると、進学ゼミゾーンが終了し(笑)、さすがにサークル活動は控え、試験前は引きこもって勉強するようになりました。その後、大学院に進み、博士課程にいくか就職するか悩みましたが、就職することを選択。ただ、就活の時期は、東日本大震災の直後で、説明会が中止になったり、内定取り消しがニュースになったり、大変な時期でした。

造船業の企業に就職し、機関室関連の仕事をしていましたが、実際に会社に身を置いてみると、実は大学時代に関わってきた研究のほとんどは、まだ世の中にたどり着いてないのだと気づきました。だんだんと「先端の技術を実用化する研究がしたい」と思うようになり、九州大学院の博士課程へ。その研究室で、光センサ[MEMS]の研究をはじめました。
博士課程の時に、文部科学省主催の「トビタテ!留学JAPAN」で、シンガポール国立大学へ半年間、留学させてもらうことができました。海外での研究や生活を経験してみたくて、研究室の先生に相談してシンガポール国立大学の先生を紹介頂き、その研究室は業界でも有名な先生だったので、とてもありがたいお話でした。MEMS研究の盛んなシンガポールでセンサの研究を行わせてもらえて、とても刺激を受けましたね。

この留学を通して、英語力も上がりましたし、異なる文化の国や生活・研究室を体験することができました。多種多様な考え方があるのだなと学べ、ささいなことはどうでもよいと思えるようにもなりましたね(笑)。みなさんもチャンスがあるなら、是非、留学することをお勧めします。

―産総研に入所したきっかけは?
博士課程から引き続き研究がしたいと考えたことと、研究成果を実用化したいと思ったことから、産総研に就職しました。大学時代から産総研の人と付き合いがあったので、具体的な話を聞くことができ、楽しそうに仕事をしている人たちに出会えたことも、大きかったですね。
成功したときの“うれしさ”に、今後も出会っていきたい
―これからの目標をお願いします。
人生を楽しみたいなと思っています。研究にしろ、生活にしろ、ずーっと上手くいくことってないんですよね。そもそも研究って、毎日がチャレンジで自由度は高いものの、ほとんどが失敗するものなんです(笑)。
今やっている研究でも、これまでの研究でも必ずといっていいほど「あれ、センサが動かない、どうしよう」という工程を経由してきました。それでも工夫を続けていくと、ある日突然うまくいったりします。オシロスコープの信号がピコッっと動いてくれるとか。
その時は一人しかいない実験室で「うぉしゃー!」っていいながら、にやにやしています。その瞬間、つらかった思いや苦しかった思いが、すべて楽しい思い出に変わるんです。大変だったけどやってよかったなと思える、やりがいと楽しさを覚える瞬間です。
一生懸命頑張って成功した時のうれしさに、これからの人生でもたくさん出会っていきたいなと思っています。
森田 伸友氏
Nobutomo Morita
- 国立研究開発法人産業技術総合研究所 センシングシステム研究センター センサー情報実装研究チーム

2008年 北九州工業高専専門学校 制御情報工学科 卒業
2010年 九州大学 工学部 機械航空工学科 卒業
2012年 九州大学大学院 システム生命科学府 修了、株式会社新来島どっく 入社
2017年 九州大学大学院 システム生命科学府 博士課程 修了
2017年 産業技術総合研究所 入所
北九州工業高等専門学校の記事

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