母校でもある小山工業高等専門学校で、電気電子創造工学科教授として勤務されている鈴木真ノ介先生。小山高専ひとすじの鈴木先生に、高専時代の過ごし方やその後の足跡をインタビューし、高専の先輩としてのメッセージをいただきました。
理工系志望で小山高専へ進学
―子どもの頃は、どのようにして過ごしていましたか?
小さい頃は外で遊ぶのも好きでしたが、プラレールやダイヤブロックで遊ぶのが特に好きでした。プラレールでは自由に線路をつなぎ合わせ、ブロックではお城や宇宙船などをつくるキットがあったので買ってもらい、組み立てていくんです。幼稚園の頃にはテレビアニメシリーズ『機動戦士ガンダム』の放送が始まり、かなり興味を持ちましたね。
父はその様子を見てガンプラ(ガンダムのプラモデル)を買ってきてくれ、親子でつくりました。さらに、初代ファミコンが小学校低学年の時に発売されて、ゲームの世界にも深く魅了されていました。その頃からすでに、「将来はロボットを動かしたり、ゲームをつくったりする仕事に就きたい」と考えていましたね。
実は、私の父は小山高専の1期生なんです。父から強く勧められたことはありませんでしたが、何度も校舎に遊びに行っていたので、少なからず影響を受けたと思います。化学系が専門だった父は、「エンジニアは肌に合わない」と、貿易会社の営業職に就いた変わり者でした。
中3の夏休みに学校見学に行き、オープンキャンパスの説明を聞いて進学を決意しました。今はコロナ禍で休止中ですが、小山高専では代々、先生ではなく高専の上級生が学校の説明をするんですよ。先輩の姿を見て将来の自分の姿を想像し、専門的な勉強がしっかりできる環境だとわかったので、進学先は高専一本に絞りました。
―どんな高専生活でしたか?
高専では1年生から専門授業を受けます。数学の授業は、普通高校の約1.5~2倍のスピードで進んでいくので、最初はペースをつかむのが大変でしたが、もともと好きな科目だったので半年後には慣れました。
普通科の高校に進学した友人と夏休みに会うと、みんなの話題はファッションが中心。対して、高専生はバイクやクルマの話ばかりでした(笑)。「高専は普通の高校とは雰囲気が違うなぁ」と、高専のユニークさを実感したのを覚えています。
硬式テニス部に所属し、当時は熱心に部活動をしていました。1年生の時は、それ程まじめにやりませんでしたが、1年生の春休みの合宿を機に熱心に打ち込むようになり、3年でレギュラーに。5年生の大会まで練習を続けました。全国大会を目指したのはいい思い出ですね。
スキーを本格的に始めたのもこのころですね。県北の友達のうちに泊まらせてもらって、毎週のように行っていました。もちろん、勉強もしっかりしていましたよ。過去の栄光ですが、成績優秀賞も5年間コンプリートしましたから(笑)。その後、推薦で千葉大学に編入しました。
人生初めての挫折が、今では糧に
―千葉大学では、どのように過ごされましたか?
高専からの編入だと、3年次に履修する実験が免除になるので、比較的時間がありました。強豪のテニスサークルに入り、3年次は半分以上テニスをしていたと思います(笑)。他の学部の友人もたくさんできました。飲み会は皆勤賞(笑)。キャンパスライフをかなり楽しみましたね。4年になると、それぞれの研究室に配属されますが、私はロボットを思い通りに動かす「制御」の分野が希望だったので、その路線で研究室を探しました。
「制御の研究でドクターまで」と考えていましたが、ある時、先生から「制御でこのまま進むのは至難の技。別のテーマを考える」と言われ、電磁界や超音波のアプリケーションとしての医工学を専門とすることになりました。
当時は、ペースメーカーやウェアラブルデバイスが世の中で広がり始めていた時期。誰もしていないことに挑戦する意義は大いにあったのですが、新しい研究テーマなので先輩からの引き継ぎもなく、ゼロからのスタートでかなり苦労しました。
当然、成果も上がりにくいので、どこか劣等感を抱き続けていました。それまでは自分でテーマを選び、それなりに成果を上げられていたのに……。悔しさや挫折を味わったのは人生で初めてだったので、メンタル的にもかなり追い込まれていた時期です。
状況が変わったのは、ドクター1年目の終わりごろ。先生と話していた時にふと我にかえり、意識を切り替えることができました。すると不思議なことに、それまでずっと日の目をみなかったことが、自分でもわかるほど成果が出はじめたんです。理工学系のコンペでの受賞や研究費採択が続き、大きな賞金を手にすることもできました。
研究室の先生は、手取り足取り指導するタイプではなく、「自分で考えよう」というタイプでした。でも、もし私が一方的に課題やテーマを与えられていたり、先輩から研究を引き継いだりしていたら、同じ結果にはならなかったはずです。
先生の唯一とも言える教えは、「投稿論文はすべて英語で書きなさい」ということ。英語でないと、多くの人に読んでもらえないからです。執筆は大変ですが、その指導も時間がかかるはずで、そこまでしてくださる先生はごくまれです。今思うと、自分にとって大きな力になってくださったと感謝しています。
父と自身の母校で
―ご自身の出身校・小山高専で教鞭をとるお気持ちはいかがですか?
教えることは好きだったので、授業は私自身も楽しんでいます。意識しているのは、教えすぎないこと。手取り足取り指導すると何も考えないのがクセになってしまうので、考える余地を残すよう心掛けています。まずは自分で気づき、考える力を養ってもらいたい。その思考力や「自力で何とかする力」を教えるのが、高専の教員の役目だと考えています。
専門は電磁界や超音波の応用ですが、そのノウハウやこれまでの高専教員としての知見を活かして、現在はICTを効果的に活用した教育教材の開発を進めています。
AR技術を使い、スマホなどの端末でデジタル教科書をカスタマイズできる「A-txt(アクティブ・テキスト)」は代表的なプロダクト。端末をかざすと、デジタルコンテンツの貼り付けや英文の読み上げが可能となり、指導や学習を助けてくれます。
YouTubeの紹介動画もあるので、ぜひチェックしてみてください。なおこのA-txtは、私の研究室のOBが立ち上げた合同会社コベリンとのコラボレーションです。OBと卒業後もつながって仕事ができるのはうれしい限りです。
●YouTube A-txt(アクティブ・テキスト)紹介動画:https://youtu.be/hVw7r0Lxyx8
●AppsStore 配信ページ:https://apps.apple.com/us/app/a-txt/id1555217638
●Google Play 配信ページ:https://play.google.com/store/apps/details?id=com.covelline.ActiveText_Unity
現在は学内のサーバーで使えるだけですが、将来的には一般ユーザーも使えるようにクラウド化を試みています。この研究が進めば、誰でも手軽にARを応用できるようになります。私が想像しないような使い道を、学生たちが見つけてくれたらうれしいですね。
―高専生やこれから高専を目指す方へ、メッセージをお願いします。
高専もグローバル化が進み、英語をはじめとした外国語の重要性が説かれていますが、まずは母国語で自分の考えをしっかり伝えることが基本。そのためには、本を読むのが最も有効です。堅苦しい本でなくとも、まずはラノベでもいいんです。書物を読めば、知識や教養だけでなく人物の暮らしぶりや背景から、その人の気持ちを想像することができる。こうした想像力は、生きていくうえで大切な要素です。
子どものころから読書は好きでしたが、学生時代は田中芳樹さんや水野良さん、栗本薫さんといった、今で言うラノベもかなり読み、読書が趣味の一つとなっています。もともと歴史も好きだったので、司馬遼太郎さんや新田次郎さんあたりもかなり読みました。
今は池井戸潤さん、東野圭吾さん、知念実希人さん、同じ千葉大出身の海堂尊さんあたりがお気に入りです。皆さんスリリングな構成と展開で読者を楽しませてくれるとともに、自分の人生観に非常に有益な情報を提供してくれています。続きが気になって午前3時ごろに早起きして読んでしまうこともあります(笑)。
また、もともとマンガも好きで、家には小説だけでなく、かなりの量のマンガもあります。ドラゴンボールやキン肉マン、キャプテン翼、北斗の拳、スラムダンクあたりの伝説的な名著もそろっていますし、ドラゴン桜やサラリーマン金太郎、横山光輝さんの三国志をはじめとする中国歴史ものなど、大人になってから買いそろえたものもあります。
最近では、世間や自分の子どもの影響もあり、世間で話題の『鬼滅の刃』は、全巻買って読みました。それから、息子とは『ドラクエ』や『ファイアーエムブレム』をはじめ、ゲームでも一緒に遊んでいます。息子が攻略本を読んで、私に指示を出す。ある意味グループワークでPBLを進めています(笑)。
最近は、ストーリーやテクノロジー的にも非常に奥の深い漫画やゲームがたくさんあるので、自分の子どもたちにも学生たちにも、気になるものがあればぜひ積極的に手に取ってみてほしいですね。できれば、ただ単に楽しむだけでなく、その裏側にあるクリエイターの苦悩や努力も想像してもらいたいです。
あとは「失敗してもいいから、とりあえず挑戦してみる!」。失敗に慣れていないと、いざ失敗した時に対応できないし、思考が限定的になってしまうからです。私自身、ドクターの1年で経験した挫折がなければ、今の自分はありません。相手への伝え方をかなり考えた時期もあり、「失敗を自覚すること」と「その失敗をいかにして次につなげるか」が大事なのだとわかりました。とにかく時間やチャンスを無駄にせず、次につなげていくことですね。
成功・失敗にかかわらず、それを無駄にするかどうかはその人自身です。人生を「瞬時値」で一喜一憂するのではなく、平均値・実効値として高めていけることが理想ですね。「瞬時値」「平均値」「実効値」ってわかりますか? こういうのが日常会話に出てくると、真の高専生・高専教員に近づいたって感じがしますね。
鈴木 真ノ介氏
Shin-nosuke Suzuki
- 小山工業高等専門学校 電気電子創造工学科 教授、校長補佐(専攻科長)
高専機構本部 教育参事併任(令和4年3月末まで)
1996年3月 小山工業高等専門学校 電気工学科 卒業
1996年4月 千葉大学 工学部 電気電子工学科 編入学
1998年3月 千葉大学 工学部 電気電子工学科 卒業
1998年4月 千葉大学大学院 自然科学研究科 博士前期課程 電子機械科学専攻 入学
2000年3月 千葉大学大学院 自然科学研究科 博士前期課程 電子機械科学専攻 修了
2000年4月 千葉大学大学院 自然科学研究科 博士後期課程 人工システム科学専攻 進学
2003年3月 千葉大学大学院 自然科学研究科 博士後期課程 人工システム科学専攻 修了、博士(工学) 取得
2003年4月 小山工業高等専門学校 電気情報工学科 助手 着任
2018年4月 小山工業高等専門学校 電気電子創造工学科 教授 現在に至る
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