高専教員技術職員

自己研鑽した技術力であらゆる研究を支える! 高専に「技術職員」が存在する確かな意義

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母校の米子高専で、技術職員として18年間勤めている山脇貴士先生。幼い頃から金属や溶接に興味があり、在学中はロボコンに打ち込んだといいます。インタビューを通じて見えてきたのは、そんな山脇先生の技術職員としての誇りでした。

ロボコンのために高専へ! 高校の併願はせず

―高専に入学したきっかけを教えてください。

実家の敷地内で父が鉄工所を経営していたので、金属や溶接など、ものづくりが身近にありました。この環境が当たり前だったので、実験や工作など手を動かすことは自然と好きになっていたように思います。

剣道着を着て、屋外で写真に写る山脇先生
▲中学生時代の山脇先生。剣道部に所属していました

高専の存在を知ったのは、小学3、4年の頃にテレビで「高専ロボコン」の試合を見たことがきっかけです。様々な形をしたロボットが自由自在に動く様子に心を奪われ、自分も絶対に参加したいと思うようになりました。中学に上がり、本格的に高校進学を考える時期になっても、その思いは変わらないどころか強くなる一方で、「高専に行けないなら意味がない」と、普通高校の併願はせずに受験に挑みました。

仮にすべりどめの高校に受かったとしても、そこでは「ロボコン=自分のやりたいこと」ができない。だったらいっそ浪人したほうがいいと本気で思っていたのです。合格したときは安心しました。

―実際に高専に入学してみていかがでしたか。

勉強はやはり難しく、ついていくのに必死でしたが「ロボコンをやるためには頑張らなければ」という一心で食らいついていました。

「米子高専 A」のプラカードを持つ学生の隣で写真に写る、高専時代の山脇先生
▲高専生時代、ロボコン中国地区大会の試合前の舞台裏にて

ロボコンには1年時から製作メンバーの一員として参加し、実際に自分が加工した部品を使ってロボットが動いている様子を見たときには、心から嬉しかったのを覚えています。しかし、それと同時に「ロボコンを応援する」と「ロボコンに参加する」のでは、見え方がまったく違うことも実感しました。

作業時間が膨大で、試作を重ねてもうまくいかないことがほとんど。仲間内で意見がぶつかりあうシーンも多く、ものづくりの裏側にはたくさんの苦労があるのだということを知った瞬間でした。

―参加したロボコンでは、良い成績を残せたのでしょうか。

高専ロボコンは地区大会を経て全国大会への出場が決まります。全国大会に出場した2年時と3年時に、それぞれ準優勝と技術賞をいただきました。ただ、いずれも自分は製作メンバーの一人なだけで、実際に設計をしたり操作をしたりしたのは優秀な先輩方です。全国大会は、先輩に連れて行っていただいたという感覚でした。

ロボットとロボコンのチームの皆さまと写真に写る山脇先生
▲高専生時代、ロボコンシーズン終了後、チームの方々と

そして、そんな素晴らしい先輩方の姿を見ながら自分の学年が上がるにつれ、「自分には設計は向いていないのではないか」と気づき始めました。部品を加工するのは得意でしたが、それらを組み合わせてロボットにするためには……と全体図を考えようとすると、途端に苦手意識が働いたのです。

しかし、上級生は設計をし、下級生の製作メンバーに指示をするのがロボコンの通例。設計がなかなか進まない私のせいで作業が遅れてしまうこともあり、苦い思いもたくさんしました。ただ、見方を変えれば自分の強みや特技に気づけたとも言えます。

また、技術職員となった現在では設計に対する苦手意識はなくなりましたが、それができたのは、学生時分に自分の弱点に気付けたおかげで「努力して克服しなければ」と意識できたからだと思っています。

技術職員は「天職」

―高専卒業後の進路はどのように考えましたか。

高専に入学した際は「ロボコンに参加したい」という一心だったので、卒業後のことは特に考えていませんでした。強いて言うならば「安定した給与がもらえる仕事に就きたい」と思っていましたね。父の鉄工所は下請け仕事が多く、発注の増減で収入に大きな波があったので、子どもながらに「大変そうだな」と感じていたからです。

そして、地方公務員試験を受けようと思っていたときに「米子高専の技術職員にならないか」と、先生から声をかけられました。前任の技術職員の方が急遽退職することになり、適切な人材を探しているというのです。自分の人生プランにはまったくなかった選択肢で、お話をいただいたときには戸惑いました。

ただ、考えを巡らせているうちに、「技術職員なら自分がこれまでに培った経験が活かせるし、公務員よりも向いているのではないか」と思い至り、引き受けることにしました。自分自身、学生時代には技術職員の方にお世話になることが多く、仕事への解像度が高かったことも決め手だったと思います。

米子高専の教職員の皆さま
▲米子高専の体育祭にて。リレーに出場する教職員チーム。山脇先生(前列右から2番目)とご一緒に、角田先生(前列左端)、藤井先生(後列左端)、礒山先生(後列左から2番目)のお姿も

―実際に技術職員として働くようになり、いかがですか。

技術職員には、学生の実験や実習、卒業研究などにおける技術面での指導や、教員の方々の研究を技術面でサポートするといった役割があります。今現在、私が主体となって取り組んでいる研究はないのですが、自分以外の人を手伝うことを嫌だと感じたことは一度もありません。

むしろ、自分が関わったことで先生方の研究が進み、良い結果が出るところを間近で見られるのは非常に喜ばしいです。また、私の指導によって理解を深め、真剣に部品加工に取り組んでいる学生を見られることもモチベーションにつながっています。

長い棒に巻き付けられたちくわの写真を撮る皆さま
▲米子高専の谷藤先生からの依頼を受けて、40メートルを超すちくわ作りに挑戦した時の様子。学生と一緒に、ちくわを焼く装置の設計・開発と、ちくわ試作の技術指導並びに当日の指導を行いました

―今後の目標をお聞かせください。

技術力の研鑽を続けていきたいですね。ここで働いている以上、加工方法などを学生から尋ねられた際に答えられなかったり実演できなかったりするようではやはりつまらない。技術職員が教育現場に存在する意義は、確かな技能を以て技術の紹介・作業の実践を行えることにあるので、技能の習得はそれを確実にするために重要なことだと考えています。

そのため、国家資格である技能士の資格取得に向けた勉強を続けています。現在は1級仕上げ技能士(機械組立仕上げ作業)の資格取得を目指しているところです。資格をとることで箔がつくのはもちろんですが、私は何より、その過程にある勉強時間こそが技術力を高める上で大切だと思っています。

四角い金属の部品
▲技能検定(機械組立仕上げ作業1級)の実技課題。やすりやキサゲ等の手工具を用いて、3時間半以内に各部品を組み上げる課題です
部品を作成する山脇先生
▲上記の課題に取り組む山脇先生。部品を固く組み合わせた蓋と台の中を、ロッドがスムーズに、かつ自重で抜け落ちない程度の固さで摺動するように仕上げています

また、自分自身がロボコン経験者ということもあり、学生たちのロボコン支援にも引き続き力を入れていきたいです。ただし、ロボコンは良い成績を出すことだけが最終目的ではありません。ロボコンを通して加工や設計のやり方、人間関係を学ぶことがテーマですから、あくまでも主体は学生ということを忘れずに、指導を心がけています。

「この人だから仕事を任せたい」と思ってもらうために

―現在はAI技術などが発達し、何事も調べればある程度分かる時代だと思います。それでも技術を磨く理由はどこにあるとお考えですか。

確かに、情報の海であるネットにはあらゆる知識が眠っていて、最短距離で加工方法などの答えを知るには非常に効率的だと思います。しかし、答えにたどり着くまでに得た知識や、知識を得るまでの過程は、その人だけの経験です。ひいては、それが人としてのおもしろさや魅力になるのではないでしょうか。

そして、そうした経験によって人間力が磨かれることで「この人だから話を聞いてみたい」「この人だから仕事を任せたい」と思われるようになるのだと信じています。最短距離で得た答えしか知らないようでは、人として薄っぺらく、魅力的とは言い難いため、それこそAIに聞けば十分ということになってしまうでしょう。「決まった答えが用意されていない問題」へ取り組む気持ちも育たなくなってしまうと思います。

今は失敗を恐れる学生が多く、部品加工がうまくいかないとすぐに答えを求めようとする傾向にあります。それでも私は「経験を通して自分で答えを見つけてほしい」と思うのです。どうか、作業を「こなす」だけではなく「味わう」ことを楽しむ気持ちを持っていてほしいと願っています。

そして、私自身もそれを体現できるよう、これからも自己研鑽を続けていきます。

ロボコンの学生の皆さまに加工講習をしている様子
▲ロボコンの学生に向けて加工講習を行う山脇先生

―高専生にメッセージをお願いします。

どうか失敗を恐れないでください。うまくいったパターンしか経験してこなかった人は、いざ失敗したときの原因究明や原状回復に時間がかかり、途方に暮れてしまいます。大怪我をするような失敗は未然に防ぐ必要がありますが「何度加工をしてもうまくいかない」「材料が大量に駄目になってしまった」といった失敗は、早いうちにたくさん経験すべきだと私は思っています。なぜそうなったのかを考える習慣を身につけることが、人としての成長、技術力の向上につながるからです。

また、高専は技術を専門に学ぶ場ではありますが、だからといって国語などの一般教養がまったく必要ないわけではありません。どんなに高い技能や優れた考えを持っていても、伝える術がなければもったいないですし、文章を読み取ったり、話を聞き取ったりする力がなければ、自分に求められているものが何かを読み解くことができません。

自分の考えをできるだけ人に正確に伝えられるようになるとともに、相手の伝えたいことをできるだけ正確に受け取れるようになるために、表現方法や読解力も、ぜひ身につけてください。

砂浜で釣竿を振る山脇先生
▲趣味の投げ釣りをする山脇先生。仕掛けを自作することもあるそうです

山脇 貴士
Takashi Yamawaki

  • 米子工業高等専門学校 技術教育支援センター 技術専門職員

山脇 貴士氏の写真

2006年3月 米子工業高等専門学校 機械工学科 卒業
2006年4月 米子工業高等専門学校 技術職員
2019年4月より現職

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