インタビュー

高専生が「ちくわ」でギネス記録を樹立! 工学的なものづくりで地域を活性化

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国際大会に幾度となく出場し入賞までした、卵殻膜を使った燃料電池の開発のほか、ギネス世界記録を樹立させた、世界一長いちくわをつくる取り組みなど、私たちの身近なものを活用した研究で、多くの実績を残してきた米子工業高等専門学校の谷藤尚貴先生。学生の好奇心を刺激するさまざま取り組みの軌跡を伺いました。

高専卒業生との出会いから興味を抱いた、高専教員への道

卒業後さまざまな企業や研究所を経て、米子高専に赴任したきっかけは何だったのでしょうか。

大学に入学する際に、自分の知恵で何かを提案できるような仕事に就きたいと思い、20歳くらいの時には発明家になりたいと思っていました。そのうち、発明家のような仕事ができる職種は何かなと考えた結果、研究職を目指していましたね。

カメラの前でポーズをとるボディビル部だったころの谷藤先生
ボディビル部員だった大学時代

その後、株式会社豊田中央研究所に勤めていた際、奈良高専の専攻科から入社した人がいたんです。当時豊田中研は、大学院の修士以上の人が大半を占める会社だったので、そのなかに周りより2年若い状態で入社しているということなんですが、仕事がバリバリできるんですよ!

その人に会って、「高専ってこんなに研究ができるんだ」と初めて高専を意識したんです。当時は大学のアカデミックポストだけに絞って仕事探をしていたのですが、この出会いが高専教員に興味を持ったきっかけになりました。

2008年 米子高専 赴任当時の谷藤先生
2008年 米子高専赴任当時

卵殻膜を使った燃料電池の開発で国際大会に出場

-高専では卵の殻を使った研究を行っているそうですね。

リチウム二次電池についての研究のほか、高専に赴任してからは、卵の殻を使ったエネルギーデバイスの研究にも取り組んでいます。卵の殻の利活用研究は、もともとは2008年の全国高等専門学校デザインコンペティション(通称:デザコン)への出場をきっかけに始まった研究でした。

デザコンでは「廃材を用いた水の浄化」というテーマがあり、活性炭を使わずに水をきれいにする水質浄化剤をつくりましょうというものでした。さまざまな材料を試していくなかで、ある学生が「卵の殻がいける」っていうのを見つけたんです。そこで大会には卵の殻で勝負し、学科としては外部発表の場において初めて入賞を果たすことができました。

卵殻膜被覆の実験の様子。
左のアボカド果肉片は卵殻膜が被覆されており、卵殻膜に有色成分が沈着。右の未処理アボカド果肉片は果肉片自体に有色成分が沈着している。
卵殻膜被覆における5時間後のアボカド果肉片の変化(左:卵殻膜被覆、右:未処理)

この経験を機に、顧問をしていたB&C(Biology and Chemistry)研究同好会で「卵殻の吸着現象を材料として応用する研究」として引き継ぎ、今も内容を進化・発展させて研究を続けています。

-卵の殻の研究は、その後どういった発展をしたのですか?

デザコンをきっかけにおもしろい研究ができたことや、学生が思いのほか熱心に取り組んでくれたことがうれしくて、これは無駄にしたくないなと思ったんです。なにか学生に勲章を与えたいなと考えたときに、この卵の殻を使って太陽電池をつくれないかと思いつきました。

その研究過程や成果がよく、活動を始めた初年度に出場した高校化学グランドコンテストで最優秀賞に相当する文部科学大臣賞を受賞することができたんです。いきなり出場して優勝したので反響も大きく、学生も驚いて号泣していましたね。

でもいきなり優勝したので天狗になってはいけないと思い、せっかくなら世界を目指そう!ということで、ISEF(インテル国際学生科学フェア)という、高校生・高専生を対象とした世界最大の科学コンテストに応募。でも1年目は入賞できず、悔しさが残りました。4年目にして再びISEFに出場。これまでなかなか国内の大会を突破することができなかったので、世界大会への熱が年々高まり、学生も熱意と根性で活動していましたね。

国際大会にて、ブースに展示されたポスターを前に、右手で持ったスティックで場所を指しながら説明する学生の様子。
学生の国際大会発表の様子

これまで3回に渡って世界大会に出場し、2016年はグランドアワード2等賞を、2019年にはグランドアワード3等賞をそれぞれ受賞することができました。

世界一長いちくわで、ギネス世界記録を樹立!?

-ギネス記録にチャレンジする取り組みも行っているそうですね。

B&C研究同好会に入った高専1年生の活動がきっかけでした。1年生ではまだ本格的な研究活動ができないので、当時趣味でやっていたちくわづくりに取り組んでもらったんです。

我々がISEFに向けて研究をしている横で、彼もギネス記録に載るちくわをつくる!といって世界を目指していたんですね(笑)。そうしたらおもしろい取り組みだってことで地元紙の取材がきて、NHKの全国ニュースなどでも取り上げられるようになり、注目を集めるコンテンツになったんです。

内容としては、ちくわの支出総額全国1位というちくわ好き鳥取県民の知名度向上に繋げたいということで、長さ40mの世界最長のちくわづくりにチャレンジするという企画でした。一見、高専らしくない企画のようなんですが、実は高専の工学的なものづくりが生きているんです。

40メートルを超える長さのちくわを焼く学生たちの写真
40メートルを超すちくわを焼く学生たち

-興味深い取り組みですね。高専生ならではのちくわづくりとは?

実は長いものをつくるときには、工学的な装置つくりや力学的なことが分かるとできるんですよ。例えばちくわを焼く機材は、高専にある実習工場の旋盤を使って道具をつくっているんです。

ほかにも、ちくわの重みで棒がたわむんですが、そのたわみを微積分の方程式を駆使して解消するなど。そうした力学的、工学的なものづくりでギネス記録をつくるというのは、高専生ならではだなと感じました。

好きな者同士で集まってものづくりをしたらギネス記録になるという「ものづくり力」をコンテンツとして発信できると、次の世代の人材育成にもつながるんじゃないかという思いもありました。米子高専に行ったらギネス記録のコンテンツに取り組めるらしいよって魅力を感じて入学してくれる子もいるんじゃないっていう期待があったんですよね。

そういうこともあり、1回目はちくわ、2回目はきりたんぽ、3回目はつくねで世界一の長さに挑戦と、3年続けました。

2018年のきりたんぽ作り きりたんぽと学生、参加者たちの集合写真
2018年のきりたんぽ作り

3度の成功体験で高専生を導く指導

-世界大会出場のほか、ギネスへのチャレンジも3回経験されていますね。

実は、3という数字にはこだわっているんです。大学院時代に教授から「3日で第一印象が決まり、3カ月で人を信用するかしないかが決まり、3年でひとつの仕事が結実する」という言葉を教えてもらったことがきっかけ。

やっぱり3回実績を出すと、人って信用してくれるんです。ギネスを3回成功すると、また次も成功してくれるという信頼で協賛もつくし、世界大会も3回出ることで、これから来る学生に米子高専だったらまた出場できるんじゃないかっていう信用が生まれる。3回の成功例を見せてあげられれば、信用できる指導者として、学生と信頼関係をつくっていけるのではないかと思っています。

科学普及活動にはいろんな手段がありますが、ちくわやギネスなんて本当にキャッチーな取り組みではないでしょうか。今までにない活動なので、そういうコンテンツから高専というものを知ってもらうのは、新しい層の高専人気を増やす意味で、意義のある活動だと思っています。

谷藤 尚貴
Naoki Tanifuji

  • 米子工業高等専門学校 物質工学科 准教授

1999年 明治大学大学院 農学研究科 農芸化学専攻 修士課程修了。
2002年 東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 博士課程修了、同年 岡山理科大学 理学部 化学科 博士研究員。
2003年 理化学研究所 ユニット研究員。
2004年 JSTさきがけ 博士研究員。
2007年 株式会社 豊田中央研究所 客員研究員。
2008年 米子工業高等専門学校 物質工学科 助教、2011年 同准教授。

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