学年違いで同じ鹿児島高専を卒業し、専攻科、大学院に進学。その後、偶然にも同じ「トヨタ車体研究所」に就職された今別府太樹さんと久冨あすかさん。2人だからこそ感じる、社会に出てからの高専生の強みや魅力について伺いました。
高専での経験は確実に社会で活かされている
―お2人は同じ鹿児島高専のご卒業ということで、面識は以前からあったのですか。
今別府さん:4歳差なので、在学年が被っている年は確かにあるのですが、学年が違うと交流がそこまでないからか、それまで面識はありませんでした。ただ、久冨さんと同グループになったときの衝撃はよく覚えています。上司に物怖じせずに自分の考えをハキハキと伝える姿は今でも忘れられません。「すごい人がきたな」と思いました(笑)
久冨さん:今別府さんと話すようになったのは、半年ほど前に同じグループに所属するようになったためです。そのときに母校が同じだと判明して「なるほど」と思いました。高専の卒業生って、会話の端々からなんとなく感じ取れるんですよね。
今別府さん:高専生は、本音で話す人が多い印象です。クラス替えがありませんし、専攻科まで入れると7年間を同じ場所で同じ学友と過ごすので、本音で意見を交わさないとコミュニケーションが成立しなくなるんです。こうした経験があるからか、会話をしていると「この人は高専っぽいな」というのは確かにわかるかもしれません。
―現在の仕事について教えてください。
今別府さん:「デジタルエンジニアリング部 工場戦略G」のチームリーダーを担当しています。工場に出向き、現場の人と直接会話をする中で課題を抽出・整理し、社内のITエンジニアと協力して改善提案を行い、工場のDXを推進するのが主な業務です。
今別府さん:昨年まではトヨタ系の車両のボデー骨格の設計業務を9年間行っていました。異動して10カ月なので成果はまだまだですが、やはり現場の方から「ありがとう」と言われると、頑張ってよかったなと感じます。
久冨さん:私は「デジタルエンジニアリング部 アドミシステムG」のチームリーダーで、主に工場のDXを行っています。特に、産学連携による大学との共同研究がメインです。
今別府さん:私が現場から拾い上げた意見をもとに構想を描き、久冨さんが技術を使ってITシステムに落とし込むという感じですね。
久冨さん:はい。私はコミュニケーション能力が低くて、自分から現場に行ってもうまくヒアリングができないので、その部分を今別府さんが進めてくださるのは非常に心強いですし、今別府さんのコミュニケーション能力の高さには驚かされてばかりです。
―就職して、高専生で良かったと感じることはありますか。
今別府さん:粘り強くあきらめない精神を身に付けられたことです。高専では5年生(20歳)から自分の研究テーマを与えられ、専攻科も含めると通常の大学生より2年多く研究に取り組みます。自分の予想した結果が得られないときは、何が間違っているのか自分の頭で考え、対策を実行し、ダメならまた考える。このサイクルを通じて精神的にも鍛えられたので、社会に出ても多少の困難ではあきらめることはなかったと思います。
今別府さん:久冨さんも同じ環境で過ごしたからか、メンタルが似ているため、2人で仕事の話をするときはやりやすいですね。お互いに納得がいくまで話し合っています。
久冨さん:確かに。私も今別府さんと似ていて、行動力の高さが身に付いたことです。問題にぶつかったとき、できない理由を探すより、できる方法を先に探す習慣は高専出身ならではだと思います。「即戦力を育てる」という校風と、若いうちから専門的な知識を学べるのは、本当に高専の良いところです。
両親が高専進学の背中を押してくれた
―お2人は、なぜ高専を選んだのでしょうか。
今別府さん:数学や図工が得意だったので、両親から勧められました。私自身、将来はものづくりに関わる仕事に就きたいと思っていたので、そのための勉強ができる高専は最適でした。
久冨さん:私は幼い頃からパソコンで遊ぶのが大好きで、時間があればずっとかじりついていました。そんな姿を見た両親から「そんなに好きなら、高専が向いているんじゃないか」と言われたのが、小学5年生のときです。
ちょうどテレビ番組で高専の特集を見たこともあり「絶対に高専に行く!」と、その頃から高専への進学を夢見ていました。
―高専での1番の思い出を教えてください。
今別府さん:とことん課題に没頭したことでしょうか。自分の予想した結果が出ないと何度もやり直すのは本当にしんどかったですが、今ではいい思い出です。でも、その経験が今の自分につながっていることは間違いありません。
久冨さん:4年生で体験した工場実習です。先生がそのとき話題になっている場所やものを見せてくださるのが高専の工場実習で、私の年はスーパーコンピュータの「京」や「GSユアサの工場」を訪ねました。それまで製品のことは知っていても、実際につくられている現場を見るのは初めてで、「自分はまだ狭い世界しか知らない“井の中の蛙”なんだ」ということを自覚した瞬間でした。
―卒業後は専攻科、大学院へと進んでいますが、それはなぜですか。
久冨さん:工場実習で「もっと広い世界を見たい」と思ったこと、就職は考えていなかったことなど様々な理由がありますが、1番は高専の教員になりたかったからです。そのためには専攻科も知っておかなければと思いました。
大学院に行って博士を取ったのも、教員になるためです。恩師と一緒に働きたいと思っていたので、ことあるごとに情報を収集していました。
今別府さん:私が専攻科に進んだのは、5年生のときに進めていた研究をもっとじっくり深めたいと思ったからです。そして、私も久冨さんと同じように高専の教員になりたくて大学院に行った経緯があります。
ただ、修士1年の頃に、博士号取得までの過酷な道のりを目の当たりにし、「自分にはこれはできない」と思って一般企業への就職を考えるようになりました。ですから、博士まで進んだ久冨さんはそれだけで尊敬の対象です。
久冨さん:私は「教員になりたい」と思いながらも、最終的に今の会社への就職を選んでいます。理由は様々ですが、何より「教員になるにはもっと社会に揉まれて勉強をすることも大事だ」と感じたからです。だから「高専の教員になる」という夢はまだ諦めていません(笑)
今別府さん:いやいや、久冨さんがいなくなると会社が困りますから、全力で阻止しますよ!
人生がやり直せたとしても、また高専を選ぶ
―今後の目標を教えてください。
今別府さん:今の部署では、設計よりも先の工程が見えるようになりました。私の強みは、設計で培った経験を現場に落とし込みながら、トヨタ系の車づくりに幅広く関われることだと思っています。これまで身につけた知識や経験を生かして提案をし、会社に貢献していきたいです。
久冨さん:博士号を持っている人が活躍できる場を設けることです。現在、新たな価値を生む人材として、国も博士人材を育成して増やすべきという動きが出ています。私も博士課程を修了しているので、その経験を生かし、さらに会社を発展させたいと考えています。数年後には「やっぱり博士人材ってすごいね」と思われる組織にしたいですね。
―お2人は、生まれ変わっても高専に進学したいですか。
久冨さん:もちろんです! いつか自分の子どもが生まれたら、絶対に高専に進学してほしいと思うくらいです。
今別府さん:私も高専を選んでいると思います。貴重な経験がたくさんできましたし、今の自分がいるのは高専のおかげだからです。ただ、高専も大学院も男子ばかりの環境だったので、人生を100回やり直せるなら、そのうちの5回は普通高校に進学したい気持ちもあります(笑)
―最後に、高専生へメッセージをお願いします。
今別府さん:スキルを身に付けるのはもちろんですが、自分のスキルを上げるために何かに集中する訓練をしてください。社会人になったら集中しなきゃいけないことだらけです。学生のときにそれができない人は、社会人になっても急にできるようにはなりません。
それから、とことん遊んでください。社会人になったら「お金はあるのに時間がない」状況に陥ります。友達とふざけたことをやって許されるのも、学生のうちだけ。許される範囲で、全力で遊びましょう。
最後に、友達と本気で向き合ってください。一緒に笑って泣いて本気で喧嘩ができる友達は、永遠の宝物です。辛いときに助けてくれるのは、家族と本当の友達だけです。
久冨さん:高専で過ごした日々や学んだことは、必ずどこかで、自分自身を救ってくれます。迷ったときは、大変な道を選んでください。それがあなたの成長に繋がります。無駄な経験などありません。思う存分、後悔なく、自分のやりたいことを突き通してください!
今別府 太樹氏
Daiki Imabeppu
- 株式会社トヨタ車体研究所 デジタルエンジニアリング部 工場戦略G チームリーダー
2010年 鹿児島工業高等専門学校 機械工学科 卒業
2012年 鹿児島工業高等専門学校 専攻科 機械・電子システム工学専攻 修了
2014年 豊橋技術科学大学大学院 機械・システム工学専攻 修士課程 修了
2014年4月より現職
久冨 あすか氏
Asuka Hisatomi
- 株式会社トヨタ車体研究所 デジタルエンジニアリング部 アドミシステムG チームリーダー
2014年 鹿児島工業高等専門学校 情報工学科 卒業
2016年 鹿児島工業高等専門学校 専攻科 電気情報システム工学専攻 修了
2018年 鹿児島大学大学院 理工学研究科 博士前期課程 情報生体システム工学専攻 修了
2021年 鹿児島大学大学院 理工学研究科 博士後期課程 総合理工学専攻 修了
2021年4月より現職
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