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第34回高専プロコンをレポート。こだわり抜いて検討・開発した高専生たちの姿

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第34回高専プロコンをレポート。こだわり抜いて検討・開発した高専生たちの姿のサムネイル画像

2023年10月14日(土)と15日(日)、福井県鯖江市のサンドーム福井で【第34回全国高等専門学校プログラミングコンテスト】の本選が開催されました。「みせよっさ∞の可能性」と題し、全国の高専生が一堂に会した本大会の模様をレポートします。

課題部門-高専生が考える「オンラインで生み出す新しい楽しみ」-

課題・自由部門では、1日目にプレゼンテーション審査、2日目にデモンストレーション・マニュアル審査が行われました。

課題部門のテーマは「オンラインで生み出す新しい楽しみ」。新型感染症の流行により、オンライン会議やリモートワークなど、私たちの生活とオンラインが密接に結びつくようになりました。当部門では、そのような状況下だからこそ楽しめる作品が、高専生の確かな実力とフレッシュな発想によって開発されていました。

プレゼンテーション審査の各チームの発表時間は8分、質疑応答は4分(海外チームは6分)の構成です。

課題部門の発表の様子。学生がスライドを使って説明している。
▲課題部門の発表の様子

22チームが本選に参加した中、課題部門の最優秀賞を受賞したのは、熊本高専八代キャンパスの「転生将棋-新感覚中盤トレーニング-」です。「色んな人に将棋を楽しんでもらいたい、転生将棋がその手助けになれば」というチームの想いで生まれた、将棋の中盤戦を楽しんで学べるアプリ。将棋の中盤戦を学べる練習法がないという課題も開発背景にあったようです。

審査委員からは、中盤を「練習する」ためのシステムなのか、中盤を「楽しむ」ためのシステムなのか、作品の推しポイントをもっと伝えるようにとの意見はあったものの、開発者の「中盤を学べば将棋をもっと楽しむことができる」という将棋に対する愛がうかがえる作品でした。

また、阿南高専の「CYBER WARS-セキュリティ初学者の夜明け-」は、サイバー攻撃を防ぐセキュリティ学習を対戦方式で学べるアプリ。脆弱性のあるwebサイトを舞台に、プレイヤー同士の攻防を通して、セキュリティ知識を身に付けていくというものです。ゲーム感覚で楽しめるからこそ、セキュリティ学習の入り口に最適であると言えるでしょう。

プレゼンテーションを行う阿南高専の学生。前方に立ってスライドを使って説明している。
▲プレゼンテーションを行う阿南高専の学生

審査員からは「この学習をすることで攻撃面も学べるというデメリットもあるのでは?」という意見も。しかし、それに対して学生が「攻撃性を知らないと守れないと思った」と回答をしており、そういった議論が見えるところも、プレゼンテーション審査の魅力のひとつです。

自由部門-若きエンジニアから生まれた独創的な作品たち-

課題部門のプレゼンテーション審査が行われている一方、別室では自由部門に出場している24チーム(1チーム辞退)のプレゼンテーション審査が行われていました。

自由部門は、その名の通り「自由なテーマで独創的な作品」がテーマとなっています。ChatGPTに代表される生成型AIを利用している作品が多い印象でした。

自由部門の発表の様子。学生がスライドを使って説明している。
▲自由部門の発表の様子

自由部門で最優秀賞を受賞したのは、香川高専詫間キャンパスの「わんもあ-砂と鏡で創るもう一つの世界-」。現代人が忘れかけている「わびさび」をもう一度見つめ直すためのシステムです。長い時を経て少しずつ風化していく様子を、デジタルの中で時を操作することで感じることができるもので、沢山の仕掛けが施された作品であり、「わびさび」という着眼点のおもしろさも感じるものでした。

審査委員からは、なぜ「わびさび」というテーマにしたのか? 今よりもミニマルな仕様にしようとするとどこを残すか? など、チームのこだわりに関する質問も課題部門と同じようにありました。

「わんもあ-砂と鏡で創るもう一つの世界-」についての概要が書かれたリーフレット。
▲「わんもあ-砂と鏡で創るもう一つの世界-」についての概要が書かれたリーフレット。香川高専詫間キャンパスのブースにて配布されていました

プレゼンテーション審査で指摘を受けた部分に関しては、「翌日のデモンストレーション審査までに直します!」と意気込んでいた学生もおり、プレゼンテーション審査は幕を閉じました。

1日目の反省を生かし、2日目のデモンストレーション審査に臨む

2日目のデモンストレーション審査では、審査員が複数チームに分かれ、順番に各高専のブースを回っていく形式です。審査員が回ってくるまで、会場からは緊張感が伝わり、審査が終わったブースの学生はほっと胸を撫でおろす姿も。

審査が始まってもシステムが立ち上がらないなど、予期せぬトラブルが起こったチームもありましたが、実際に作品を目の当たりにして、審査員の方々の興味も伝わってきました。

学生から説明を受けている審査員の方々。
▲学生から説明を受けている審査員の方々

1日目のプレゼンテーション審査では学生への質疑応答は審査委員のみに限られていましたが、デモンストレーション審査では一般の人も各ブースで学生と話すことができます。

自由部門の松江高専「WashBoard-学生寮の洗濯管理をスマートに-」は、学生寮で発生した洗濯に対する不満を解決するための洗濯管理アプリで、他高専の学生から「自分の寮にも欲しい」との声が聞こえました。こうした高専生同士の関わりも、プロコンの魅力の1つと言えるでしょう。

松江高専のブースにて、学生が「WashBoard-学生寮の洗濯管理をスマートに-」のアプリを説明している様子。
▲松江高専のブースにて、学生がアプリを説明している様子

また、鳥羽商船高専は、課題部門では「FishCam-遊漁船業のオンライン安全確認・釣果共有システム-」を、自由部門では「ぱどろーる-安心・安全なカヤック支援システム-」を開発。どちらも水上でのアクティビティに関する作品で、地域の課題であったことと、校内で実証実験ができることも開発背景にあったという意見を伺うことができました。

鳥羽商船高専のブースにて「FishCam-遊漁船業のオンライン安全確認・釣果共有システム-」を説明し、実際にアプリを操作している学生。
▲実際にアプリを操作している鳥羽商船高専「FishCam-遊漁船業のオンライン安全確認・釣果共有システム-」の学生

開発者の「好き」が凝縮された作品や、身近な問題を解決するための作品など、エンジニアの熱い想いが伝わってきた課題・自由部門。審査員からは、ユーザーの定義や、実証した際に起こりうる課題点など、一歩踏み込んだ質問が飛び交いましたが、その質問に学生が答えている姿は、立派なエンジニアそのもの。閉会式では、本大会で審査委員長を務める京都橘大学の大場みち子教授が「作品のこだわりや作り込みを総合的に評価しているため、それらをしっかりアピールすることが大事」と講評されていました。

当日のデモンストレーションの様子。会場に人がたくさん集まっている。
▲当日のデモンストレーションの様子

競技部門-さまざまな戦略とスタイルが交錯-

競技部門は各高専のチームがコンピュータを用いてゲームを行うことで勝敗を決める方式です。課題部門や自由部門と異なり、明確に優劣がつく点が大きな特徴と言えます。今回は、予選を通過した全国高専の55チーム(同時開催のNAPROCK国際大会出場チームを含めると60チーム)が参加しました。

今回のゲームは「決戦! n乗谷城」。簡単に言えば陣取り合戦のようなもので、各チームが自分の「職人」をフィールド内で動かし、城壁を築くことで陣地をつくるゲームです。また、フィールドにはあらかじめ「城」が配置されており、陣地の中に城があれば高ポイントとなります。また、職人によって相手の城壁を解体することも可能です。

対決でチームごとに2人もしくは3人がテーブルに座り、パソコンを開いてゲームを行っている様子。
▲対決ではチームごとに2人もしくは3人がテーブルに座り、パソコンを開いてゲームを行います

ゲームに勝つには、最良解の探索方法や、そのスピード・精度など、コンピュータプログラム(システム)をいかに完成度高く制作しているかが重要と言えるでしょう。また、問題の入力やネットワーク通信などがスムーズに行えるかという、システム外の部分も問われます。

実際、ゲームを進めていくと、システムが全然動かないチームが少ないながらもありました。全チーム問題なくシステムが動いてゲームができるようになったのはベスト16以降。会場のボルテージもそのあたりから上がっていきました。

会場では戦局の様子や得点の動きが映し出されていた。
▲会場では戦局の様子や得点の動きが映し出されており、ライブ感がありました

今回の「決戦! n乗谷城」で特筆すべき点の1つは、チームによって何を最良解とするのかが異なっていたことです。「とにかく城を囲んで陣地にする」「とにかく大きな陣地をつくる」「相手の動きを妨害しながら、陣地を少しずつつくる」など、チーム戦略の違いが盤面にもはっきり表れていました。

結果、優勝したのは主管校である福井高専のチーム「蟹高専」です。このチームは「とにかく城を囲んで陣地にする」戦略をとっていました。決勝戦後のインタビューでは、「人力(人間が一部の操作を担うこと)を駆使しながらシステムも動かしていた」とコメント。実は福井高専だけでなく、ベスト4のチームはすべて、程度の差はあれど人力とシステムの共存でした。昨今のプログラミングのトレンドを反映した形と言えます。

福井高専「蟹高専」の優勝が決まった瞬間。福井高専の学生がガッツポーズをしている。
▲福井高専「蟹高専」の優勝が決まった瞬間

そんな中、ベスト8の徳山高専「そこにAIはあるんか?」は合同会社DMM.comによる企業賞を受賞しました。DMM.comからのコメントでは、「自分が戦うにしても人間を介在させるだろうなと思っていましたが、徳山高専さんはベスト8のチームの中で唯一、人間が介在しないシステムで戦っていたと思います。それがカッコいいなと思いました」とお話しされており、プログラミングの意地を見せつけた、チーム名にふさわしい戦いぶりが評価されました。

課題部門、自由部門、競技部門と、ともにレベルの高い発表・戦いとなった第34回高専プロコン。閉会式では、来年度の課題テーマが「ICTを活用した環境問題の解決」だと発表されました。すでに、第35回高専プロコンが動き始めています。

 

◎イベント情報
【第34回全国高等専門学校プログラミングコンテスト】本選
日時:2023年10月14日(土)~15日(日)
会場:サンドーム福井
主催:一般社団法人 全国高等専門学校連合会
共催:特定非営利活動法人 高専プロコン交流育成協会(NAPROCK)
主管校:福井工業高等専門学校
HP:https://www.procon.gr.jp/?page_id=78840

【第35回全国高等専門学校プログラミングコンテスト】本選
日時:2024年10月19日(土)~20日(日)
会場:なら100年会館
主管校:奈良工業高等専門学校
HP:https://www.procon.gr.jp/

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