
『月刊高専』第一回目の「高専教員取材」に登場いただいた、小山高専の加藤岳仁先生。昨年度の科学技術振興機構「創発的研究支援事業」に採択され、“塗る太陽電池”の研究を進められています。2021年6月29日(火)「創発研究者意見交換会」にて文部科学省の萩生田大臣と対談された内容や、今後の展開についてお話を伺いました。
長期で研究者を支援する「創発的研究支援事業」
―「創発的研究支援事業」とは、どういったものでしょうか?

文部科学省が推進している、科学技術振興機構(JST)の事業の一貫で、研究者がより自由で挑戦的な研究ができるよう、最長10年間、研究費が支援される制度です。通常の科学研究費補助金は、3~4年間のものが多いので、10年という長期間の支援が受けられるシステムは日本にはなかなかありません。
「創発的研究支援事業」は、既存の枠組みにとらわれない自由で挑戦的・融合的で多様な研究、例えばタイムマシンを作るとか、普通では笑われるかもしれないような研究を、審査して採択するんです。“破壊的イノベーションにつながるシーズの創出を目指す”とのことなので、例えるなら「三振かホームランか?どうなるかわからないけど、とにかくフルスイングで!」っていう感じですかね(笑)。
昨年度が第一期で、約2,500名の研究者が応募して250名ほどが選ばれました。一期生ということで周りの期待も大きく、文部科学省の萩生田大臣も注目してくださっています。今回は大臣から、研究者とぜひ面談したいということでお話があり、面談者10人の中に私も選んでいただきました。
―面談者はわずか10人だったんですね。選ばれた経緯はご存知ですか?

直接お尋ねしたわけではないので私の予想ですが、大臣が高専を推してくださってるからではないでしょうか(笑)。「創発的研究」に採択された高専研究者が私だけだったので、たまたま私が今回の対談メンバーに選ばれたんだと思います。
産業界のトップには、最終学歴は大学や大学院だけど、実は高専卒という方が多いそうなんです。また、高専というカリキュラムは、世界でも珍しく、いろいろな国が高専のシステムを取り入れようとしています。高専での学びが、国の産業を盛り上げていくことにつながるからと、大臣も高専に期待されているのではないでしょうか。
研究者の環境整備と、次世代への取り組み
―対談では、大臣や参加者の方と、どんなお話をされたんですか?

高専の活躍をどんどん社会に発信してほしいと言われました。そういえば『月刊高専』って、まさに、それをされてますよね(笑)。それから、私もユニットサブリーダーとして参画している高専GEAR5.0プロジェクトも、そこに重点を置いていますね。
また、面談者の半分が女性だったので、女性科学者やリケジョを増やすにはどうしたらいいかとか、いろいろな話をしましたよ。
女性の科学者が少ないのは、小さな頃から知らず識らずのうちに「男の子の興味あるものは車、女の子はお人形」というように、大人が分けてしまっている影響があるので、幼児教育から見直さないといけないという話をしました。また、育児をしながら研究を続ける環境が十分ではないので、女性科学者を増やすには、そういった環境を整えることも不可欠だという話もでましたね。

それと、いま子どもたちの「理科離れ」が言われていますが、私は、われわれ大人が「理科のおもしろさ」をしっかり伝えないといけないと思っています。大臣も、「スペシャリストだからこそわかる、理科のおもしろさ」を伝える取り組みを、国を挙げてやっていくと言われていました。
例えば、小学校では、理科の授業を専門家じゃない先生がしますよね。高専教員・大学の研究者は、教員免許をもっていない人がほとんどですが、理科のスペシャリストとして、臨時で免許を発行して理科の授業をしてもらうのはどうかと、大臣がおっしゃっていました。面談者のみんなで「いいね、いいね!」って盛り上がりましたよ(笑)。
―次世代の研究者に向けた取り組みですね。他にはどのようなお話を?

日本の研究者が、研究しやすい環境を作るためには、どうしたらいいかという話もしました。「創発的研究支援事業」は、長期的かつ、ある程度まとまった金額を支援していただけるんですが、その目的は研究者の環境を整備することにもあります。研究者の所属機関が、きちんと環境を整備して研究に専念できるようにサポートすると、所属機関に対しても支援金が出るようになっているんです。
高専の先生は、担任や部活の引率・寮の宿直などもあって、なかなか研究に専念することが難しいのが現状です。でも、この「創発的研究」をきっかけに、研究に特化した仕事が普通になってくると、高専の先生も、もっともっと研究に力を入れられるのではないでしょうか。
今ある常識も、高専教員像も、ガラッと変えたい
―先生の、今後の目標を教えてください。

最終的な私の目標は、途上国でも手軽に電気を使える世の中にすることですが、この「創発的研究」では、インクに科学技術を集約させて、たった1回塗るだけで電気をつくれるようにしたいと思っています。
今の「塗布型太陽電池」は、プラス極の電極を塗って、発電層を塗って、さらにマイナスの電極を塗る…というように、3回の塗装が必要です。途上国の子どもが簡単にできるかと言われると、雨が降ればダメになるし、まだまだ難しいと思うんです。
1回サッと塗るだけで、電極も発電層も自己配列して、電池が無数に配列するように自己組織化できれば、世界はガラッと変わるんです!この技術で、今ある常識を変えるのが「創発的研究」の目標ですね。
高専全体でいうと私はまだ若手…いや、もう中堅かな(笑)、そんな私がいろいろなことをやって、いい方向にいけば、きっと若い先生たちの刺激になると思うんです。小山高専の雰囲気も少しずつ変わってきているので、自分なりにやれることをやれるだけやって見せて、今までの「高専教員像」を切り崩していきたいと思っています。
加藤 岳仁氏
Takehito Kato
- 小山工業高等専門学校 機械工学科・複合工学専攻 教授

2007年 九州工業大学大学院 生命体工学研究科 博士後期課程 修了。住友化学株式会社 入社、筑波開発研究所 勤務
2012年 小山工業高等専門学校 機械工学科・複合工学専攻科 助教、2013年 同 講師、2016年 同 准教授、2021年 同 教授
2019年 NPO法人エナジーエデュケーション 理事長
小山工業高等専門学校の記事



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