2024年3月21日(木)、22日(金)に山口県宇部市のときわ公園サッカー場にて、【2024東京エネシスカップ第1回全国高専サッカー地域選抜大会】が開催されました。「第1回」と名付けられている通り、本大会は地域別で選抜されたチーム同士で戦うという初の試みです。その様子と今後について取材しました。
サッカーを通した高専生同士の交流と、その後のレベルアップ
前日が雨ということもあり天候が心配されましたが、1日目・2日目ともに晴れとなった本大会。出場した選抜チームは九州、中国、関西、北信越の計4チームで、総当たり戦(リーグ戦)方式で開催されました。4地域から約80名の選抜選手が参加しており、技術面もさることながら、それ以外での交流も期待されます。
そもそも、本大会はどういった経緯で開催されたのでしょうか。一般社団法人 全国高等専門学校サッカー連盟 理事長の長水先生(福井高専 一般科目教室 教授)にお話を伺いました。
長水先生:これまでは各地域からメンバーを選抜して海外遠征を行っていたのですが、コロナ禍で中止となり、延期が続いていました。それでも、やはりサッカーをしている高専生に何か交流の機会を与えたいと考えた結果、地域対抗戦のアイデアが生まれたんです。
そのアイデアのもと、2023年には先行して九州地域選抜と中国地域選抜で対抗戦を実施。そこでの高専生のモチベーションの高さを実感したことから、株式会社東京エネシスの特別協賛のもと、本大会の実現にいたりました。
長水先生:人間教育というと平べったく聞こえるかもしれませんが、学生が成長していく環境を整えることが今回の大会の目的でした。このような地域別の選抜チームで対戦することで、他高専の技術やトレーニングメニューを知ることができますし、勝ち負け以外の部分でも学ぶことがあると思います。それを自身の高専に持ち帰って、還元してほしいですね。
また、今回の大会の実現には、先ほども記載しました東京エネシスの特別協賛が大きく関わっています。各選抜チームのユニフォーム制作や宿泊なども特別協賛だからこそ可能になったほか、ボールの提供、15名前後の社員の方の当日参加と、積極的に大会をサポートしていました。
なぜ今回の大会の特別協賛となったのか、東京エネシス 人事部長の岩倉さんにもお話を伺いしました。
岩倉さん:当社の社員が高専にお伺いする機会があるのですが、授業に取り組む姿勢や、自分で考えることができる技術者になれるよう成長している点に、エンジニアリング会社として以前から非常に親和性を感じていました。ですので、ぜひ高専生を応援したいという気持ちが湧き上がり、今回の大会に特別協賛という形で関わらせていただいたんです。
勉強・研究面で日々頑張っている高専生を、サッカーの側面からサポートすることを決めた東京エネシス。サッカーも頑張る高専生を選抜で集め、全国大会とは異なるもう1つの活躍の場を設けたいという先生方の熱意が、特別協賛につながったそうです。
そんな本大会に対する手ごたえについて、岩倉さんは以下のようにお話ししています。ちなみに、岩倉さんにお話を伺ったのは、1日目の2試合が終わったタイミングでした。
岩倉さん:楽しんで、はつらつとプレーされているように感じます。途中出場でも、アップを指示されると笑顔で準備して、その後ピッチに飛び出しているところを見ると、この場があることを喜んでいただけているのかなと思います。
高専で本当に頑張っている学生が地域選抜として、ライバル関係だった方と同じチームで勝利を目指すことで、高専全体のサッカーレベルが上がることにつながると良いですね。そこで仲間を増やして、また高専での勉強・研究に励んでいただける機会に本大会がなれるよう、今後も尽力したいです。
全国高専サッカー地域選抜大会は今後も参加地域を少しずつ増やし、2028年には9地域すべて(北海道、東北、関東、東海、北信越、関西、中国、四国、九州沖縄)が参加する大会を目指しています。そして、東京エネシスは今後も同大会に特別協賛していく予定とのことです。
全国大会に加わった新たな試合。学生たちの心境は?
今回の大会について、学生側はどのように感じているのでしょうか。そこで、出場4チームのキャプテンのみなさん(九州キャプテン 北薗さん、中国キャプテン 印藤さん、関西キャプテン 森本さん、北信越キャプテン 清水さん)にお話を伺いました。
―高専サッカー地域別選抜大会が開催されると聞いたとき、どう思いましたか。
森本さん:コロナの前は選抜チームで海外遠征していたことを聞いていたので、今回この大会が開催されると聞いて嬉しかったです。いろいろな高専の人たちと交流できる環境ができて、今もすごく楽しいなと思っています。4年生以降は練習や試合がどうしても限られてくるので、本当に感謝ですね。
北薗さん:中国選抜と九州選抜は去年対抗戦を行っていましたが、それが規模を拡大して、大会として開催されることに良いなと思いました。選抜の枠は20人と狭かったので、そこに選ばれて嬉しい気持ちです。僕は鹿児島高専の学生ですから、それを背負ってしっかりプレーしたいなと思いました。
―どのような戦い方を目指していますか。
印藤さん:ペナルティーエリアの横のポケット(ニアゾーン)を狙って攻撃しようとしています。臨機応変に対応しつつディフェンスラインでちゃんと繋いで、ポケットを狙って裏に蹴っていこうという作戦です。実は中国選抜は2月末に合宿をしていまして、そのときから練習していたのですが、2試合終わった現在は、作戦と異なるスーパーゴールばかりですね(笑)
森本さん:戦術的なところではコーナーでの守備などをミーティングで話しました。攻撃面では優先順位を考えつつ、ゴールを目指す中で裏を抜けるなら抜こうとしましたね。ミスをしても良いからどんどんチャレンジすることを徹底しました。
―今回の大会で嬉しかった点や良かった点は何ですか。
北薗さん:まず第一に、遠征というのが楽しいですね。あと、春休みの期間を使って他の高専の人と仲を深めることができますし、次の大会で会ったときには友達みたいな感じからスタートできるのが良いと思います。九州ではこの大会の約1週間前に「九州高等専門学校U-19サッカー大会(新人戦)」があったので、そこで「頑張って選抜メンバー入りするぞ!」っていう人も増えそうです。
清水さん:僕がいる長野高専のグラウンドは土なので、今回のような人工芝ですと走りやすいですし、転んでも痛くないので本当に嬉しいです。あと、選抜チーム用のユニフォームに東京エネシスさんの名前が入っているのが、プロが着るユニフォームみたいで、すごく気分が高まります。
―サッカーをする高専生にとって、今後この大会はどのような存在になってほしいですか。
清水さん:長野高専の場合はメンバーの頑張り具合にどうしても濃淡があるのですが、このような大会のおかげで「選抜メンバーに入りたい」という気持ちが芽生え、練習のモチベーションになってくれると良いなと思います。それによって各高専のチームとしてのレベルが底上げされ、高専全体のサッカーレベルが上がると嬉しいです。
印藤さん:九州では新人戦があるものの、高専生にとっての大会は全国高専サッカー大会だけなので、試合経験に恵まれず、不完全燃焼で終わる人もいると思うんです。今回の大会で、たくさんの強い人と戦って自身を成長させ、そして全国大会で完全燃焼して終える道筋もできるのではないでしょうか。
取材を通して感じたことは、キャプテン4人全員が、今回の大会の開催を非常に喜んでいたことでした。高専サッカー連盟や東京エネシスが目指した場がつくられていることも感じます。
チーム全体で見ても、自分の試合以外でも他高専の試合を見ながら、誰の何がうまいのか、自分たちならどうするのかなど、トークも活発だったように映りました。宿舎の部屋や大浴場の環境が良かったという声もあり、ピッチ内外ともに高専生同士の交流が促進されていたようです。
気になる優勝チームは? 今後の予定について
1日目が終了した時点では、中国選抜が2勝、九州選抜と関西選抜が1勝1敗、北信越選抜が2敗と、中国選抜が1歩リード。しかし、九州選抜は関西選抜に対し「6-1」で勝利していたこともあり、得失点差では九州選抜がトップでした。
最終日の2日目、第1試合だった九州vs北信越では、「2-1」で九州選抜が勝利。これによって、第2試合の関西vs中国で中国選抜は勝利か引き分けとなれば勝ち点が上回り優勝となりますが、負けた場合は九州選抜・中国選抜・関西選抜とで勝ち点が並び、中国選抜が九州選抜の得失点差を上回ることはないため、九州選抜と関西選抜の得失点差によって優勝が決定することになります。
そんな関西vs中国は、1-1で迎えた後半の終盤、関西選抜がゴールを決め2-1と勝ち越しに成功。その瞬間、観客席にいた九州選抜のみなさんが大歓声を上げていました。そのまま試合は進み、「関西2-1中国」で関西選抜が勝利。得失点差によって、九州選抜が見事優勝となりました。
閉会式では優勝チーム、準優勝チームのほか、最優秀選手、優秀選手が表彰。優勝した九州選抜には優勝杯「東京エネシスカップ」が贈呈されました。
また、閉会式では、東京エネシスの眞島社長から挨拶がありました。
眞島社長:初めての選抜大会であり、事前の集合練習も難しい中で、思いもしないような連携プレーができたり、様々な選手の技術に刺激を受けたり、と互いに切磋琢磨することができたと思います。来年度は関西で、さらに4年後には東京で全国の高専選抜大会を開催するという目標を立てています。チームの横のつながりを深め、是非、また来年、第2回大会が行われる関西でお会いしたいです。
眞島社長の挨拶の通り、第2回の高専サッカー地域選抜大会は2024年度に関西で開催されることが決定しており、新たに東海地域と四国地域の選抜チームが加わる予定です。
年々規模が大きくなっていく本大会。今後の高専サッカーがどのように進展していくのか、それが高専全体にどのような影響を与えるのかにも注目です。
○大会情報
【2024東京エネシスカップ第1回全国高専サッカー地域選抜大会】
日程:2024年3月21日(木)、22日(金)
場所:山口・ときわ公園サッカー場(宇部市)
参加チーム:九州地域高専選抜、中国地域高専選抜、関西地域高専選抜、北信越地域高専選抜
特別協賛:株式会社東京エネシス
協賛:ミズノ株式会社、株式会社モルテン
後援:(一社)山口県サッカー協会
主催:(一社)全国高等専門学校サッカー連盟
アクセス数ランキング
- 教え子は高専学会で最優秀学生にも選出! 企業や社会人博士を経たからこそ感じる、学生指導の重要性
- 高知工業高等専門学校 ソーシャルデザイン工学科 教授
近藤 拓也 氏
- 大切なのは初心を貫く柔軟な心。高専で育んだ『個性』は、いつか必ず社会で花開く!
- 株式会社竹中土木 東京本店 工事部 土壌環境グループ 課長
大西 絢子 氏
- 日本初の洋上風力発電所建設を担当! 「地図に残る仕事」を目標に今後も再エネ発電所建設を行う
- 株式会社グリーンパワーインベストメント 石狩湾新港洋上風力発電所
藤田 亮 氏
- 養殖ウニを海なし県で育てる! 海産物の陸上養殖普及に向けて、先生と学生がタッグを組む
- 一関工業高等専門学校 未来創造工学科 化学・バイオ系 教授
渡邊 崇 氏
一関工業高等専門学校 専攻科 システム創造工学専攻1年
上野 裕太郎 氏
- 「ファインバブル」でイノベーションを起こせ! 地域密着型の研究が世界を救う
- 高知工業高等専門学校 ソーシャルデザイン工学科 教授
秦 隆志 氏
- 高専OG初の校長! 15年掛かって戻ることができた、第一線の道でやり遂げたいこと
- 鹿児島工業高等専門学校 校長
上田 悦子 氏
- 英語の先生は、トルクメン語研究の第一人者! 世界の多様な言語を通して、学びの本質に触れてほしい
- 北九州工業高等専門学校 生産デザイン工学科 (一般科目(文系)) 講師
奥 真裕 氏
- 「高専生はかっこいい!尊敬する!」学生に厳しかった安里先生の、考えが変わったきっかけとは
- 新居浜工業高等専門学校 機械工学科 教授
安里 光裕 氏