高専教員教員

「まだ誰も知らない菌」を探して。チーズの熟成からプラスチック分解まで、微生物の可能性を探る

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「まだ誰も知らない菌」を探して。チーズの熟成からプラスチック分解まで、微生物の可能性を探るのサムネイル画像

小山高専・物質工学科の髙屋朋彰先生は、微生物研究を軸に、チーズの熟成を助ける乳酸菌の探索から、新属新種の乳酸菌の発見、さらにはプラスチックを分解する微生物の評価技術の開発まで、幅広く取り組まれています。幼い頃から生き物が好きだったというその探究心の原点と、研究・教育への思いを伺いました。

恐竜から昆虫、そして微生物へ

幼い頃から理系分野に興味をお持ちだったとのことですが、そのルーツについて教えてください。

昔から生き物が好きで、小さい頃は親に博物館やつくばの万博に連れて行ってもらった記憶があります。恐竜博士に憧れて、プテラノドンの木組みの模型を買ってもらって家でつくったり、裏山や空き地に友達とよく虫取りに行ったりしていました。

今でもよく覚えているのは、小学校低学年の頃にビニール袋で蜂を捕まえようとして刺されてしまったことです。痛かったことよりも、そのあと刺されたはずのビニール袋に水を入れても漏れなかったことが不思議で、強く印象に残っています。

他にも、家の自分の机の引き出しにカマキリの卵を入れていたら孵化してパニックになったことや、手のひらでダンゴムシを転がしていたらその場で子どもが生まれたこともありました(笑)。生まれたときからもうカマキリの形をしているんだ、ダンゴムシの形をして動くんだ、という驚きや感動を感じていましたね。

中学校の担任の先生との出会いも大きかったと伺いました。

はい。中学校の担任の先生が理科の先生で、とにかく授業が面白かったんです。先生独自のバッジとメダルの制度があって、いい回答をするとバッジがもらえて、難問に正解するとメダルがもらえるシステムでした。バッジはもらえるチャンスも多いのですが、メダルは年に2〜3人しかもらえないようになっていて、「なんとしてもメダルをもらってやろう」とますます理科にのめり込んでいきました。

授業の工夫も印象的でした。天文分野の単元では、ぬいぐるみを使って「冬にこのぬいぐるみがこっちを向いているときに東の空に見えるのはこれだ」と説明してくれたんです。未だにその説明を覚えているくらい、印象に残る授業でした。実家の机には、今でもそのときもらったメダルとバッジが飾ってあります。

▲中学生時代の髙屋先生。当時マレーシアとシンガポールに短期留学した際の一枚。お世話になったホストファミリーと、一緒に留学した方々と一緒に

高校を卒業して大学の工学部に進まれ、そこで微生物研究に出会われたそうですね。

はい。高校では生物を選択していなかったので、むしろ化学や物理、数学に興味が向いていた時期でもありました。大学選びの頃、テレビでリニアモーターカーの特集をみて面白そうだと思い、超電導を学べる新潟大学の機能材料工学科に進学しました。

私の進学先はさまざまな分野の先生が所属する学科だったので、有機化学や材料、生物系の授業も受けることができました。その中で谷口正之先生の授業を受けたとき、「微生物を使って工業に使う原料をつくれる」「廃棄物を微生物で有用なものに変換できる」という話を聞いて、これは面白いと思ったんです。

それまで微生物といえば発酵食品に関するイメージしかなかったので、そういう着眼点があるのか、と衝撃を受けました。高校の頃はいったん生物から離れかけていただけに、「生き物でものづくりができる」という部分に引きつけられて、谷口先生の研究室に進むことにしました。

▲大学時代の髙屋先生(左)、谷口正之先生(中央)、石山洋平さん(右)。石山さんは当時の研究室の後輩で、現在は株式会社ミヤトウ野草研究所に勤務し、髙屋先生と菌の培養や特許取得で連携しています

大学時代には200単位以上を取得されたとお聞きし、驚きました。

入学前から教員免許を取ろうと決めていたんです。もともと理科の免許を考えていましたが、他学部の実験科目をとても多くとらなくてはならず、現実的に難しくて。それなら数学も好きだし、数学の免許を取ろうと切り替えて、1年生の頃から週18コマくらい授業を入れていました。2年生までに工学部の単位をほぼ終わらせて、3年生のときは週3〜4日教育学部に行って、4年生のときには自分の出身高校にお願いして教育実習をさせていただきました。最終的に、高等学校教諭一種免許(工業)と中学校教諭二種免許状(数学)を取得しました。

教員免許とは直接関係ない農学部や理学部の授業も聴講させてもらっていて、気づいたら卒業時の単位が200単位を超えていました。せっかく総合大学に入ったんだから、学べるものは学ぼうという気持ちでしたね。高校から始めた弓道部に大学でも入部して続けていたので、充実した学生生活でした。

▲大学時代に所属していた弓道部にて(髙屋先生:右)

新属新種の乳酸菌を発見。「まだ誰も知らない」を知る喜び

現在の研究内容について教えてください。

大きく分けて3つの柱があります。1つ目が「乳製品の熟成に役立つ微生物の探索と利用」、2つ目が「新属新種の乳酸菌の発見と機能の解明」、3つ目が「ポリマー分解微生物の迅速評価法の開発」です。

微生物というのは、おおまかに言えば、目に見えないくらい小さな生き物の総称です。麹カビ、乳酸菌、納豆菌など、食品に関わるものだけでも本当にたくさんの種類がいます。

たくさんいるというだけでなく、DNA分析の技術が進んだことで「この環境にはこれだけの種類の菌がいる」ということはわかるようになってきました。ただ、実際にその菌を捕まえて培養して利用できる状態にできているのは、全体の1%にも満たないといわれています。他の微生物がいないと増えないものがいたり、増えるのに長い時間がかかるものがいたりと、さまざまな理由があるんです。

チーズの熟成に関わる研究の背景を教えてください。

小山高専に着任したとき、栃木県が全国第2位の生乳生産量を誇る酪農県だと知って、自分の専門を生かして地域に貢献したいと思いました。きっかけは那須ナチュラルチーズ研究会さんから「オリジナルのチーズに使える菌を探してほしい」というご依頼を受けたことでした。実は、日本のチーズ作りの現場では、チーズ作りに欠かせないスターター(乳酸菌などの微生物)のほとんどが輸入品なんです。菌が決まってしまっていると、品質は安定しますが、輸入チーズとの差別化が難しい状況になります。

日本には味噌や醤油など豊かな発酵食品の文化があるので、その中には、まだチーズには使われていないけど「牛乳のタンパクを分解して早く美味しくする」能力を持つ乳酸菌がいるんじゃないか、という発想で探索を始めました。今は全国の研究機関とも連携しながら、国産チーズ開発のためのスターターの開発を進めています。

新属新種の乳酸菌の発見についても教えてください。

これは企業との共同研究がきっかけです。新潟県妙高市の株式会社ミヤトウ野草研究所さんが「培養がなかなかうまく進まない珍しい菌がいる」というご相談をくださって、培養方法の研究から始まりました。最初は既存の属の中の新種と考えていたのですが、査読で「新属の可能性があるので、遺伝子情報をさらに詳細に解析してください」という指摘をいただいて、改めて全ゲノムを調べなおしたところ、既存の属とは異なり、新しい属として立ち上げなければならないことがわかりました。

属種というのは、人間でいえば「ホモ・サピエンス」の「ホモ」が属、「サピエンス」が種にあたります。発見された乳酸菌は新種であるだけでなく新属でもあった、つまりその一つ上の括りから新しかったのです。

名前は「フィロドゥルチラクトバチルス・ミョウコネンシス」——甘い環境から見つかったので「甘いものが好きな乳酸菌」という意味のラテン語を属名に、妙高の企業との共同研究だったので「妙高の」という意味のラテン語を種名にして名付けました。今はその機能を解明する研究を進めているところです。

▲髙屋先生が企業との共同研究で発見した、乳酸菌WR16-4T株(フィロドゥルチラクトバチルス・ミョウコネンシス)の電子顕微鏡写真(20,000倍)

プラスチックを分解する微生物の評価法の研究についても聞かせてください。

ポスドク時代に新潟大学の田中孝明先生のもとで生分解性プラスチックを活用する研究をしていたことが礎になっています。現在の研究の目的は、「どの微生物がどのプラスチックを、どのくらいの速さで分解できるか」を迅速に評価する方法をつくることです。

海の中や土の中でどれくらいの期間で分解するかを評価するのに数か月~年単位の長い期間がかかることもあります。それではサイクルが長すぎてなかなか研究が進まない。そこで、プラスチックの分解性をもっと短い期間で評価できる手法の確立を目指しています。現在は分解されやすい生分解性プラスチックを使って実験系の構築を進めているところで、その手法が使えるとわかれば、今度は「生分解性ではない」とされているプラスチックを分解できる菌を探す研究にも応用していきたいと考えています。

虫取り網を手に、学生と一緒に校内を歩く

研究のやりがいはどのようなところに感じますか。

自分で仮説を立てて実験を計画して、仮説を裏付ける結果が出たときは本当に嬉しいです。たとえ仮説通りの結果が出なくても、次にどうアプローチするか考えるのも楽しいですね。

思いつきで試してみることもあって、ほとんどはうまくいかないのですが、たまに本当にうまくいくことがあります。今研究している菌の培養条件を探るときも、いろいろな飲み物を使って試していたのですが、近所のスーパーでたまたま買ったものが、思いがけずうまくいったことがありました。「あのとき隣に並んでいたものも買ってよかった」と思いましたね(笑)。

一番強く感じるのは、自分の研究テーマについて「世界でいちばん最初に詳しく知るのは自分」という感覚です。他の誰も知らないことを知ることができる。そのワクワク感は、研究を続けるうえで大きな原動力になっています。

今後の目標として、昆虫の中の微生物にも着目されているとのことですね。

はい、今は学生と一緒に虫取りをしています。自分が発見した新しい菌の仲間を調べていくと、蜂や蝶から多く見つかっているという報告があって、それなら蜂や蝶だけでなくそれ以外の虫にはいないのか、あるいはそれらを食べる生き物の中にはいないのか、と考え始めたら止まらなくなってしまいました(笑)。実際に虫取り網を持って学内を歩いて、花や木に来ている虫を捕まえています。

学生と一緒に虫取りとは、とてもユニークですね。教育や学生と接するうえで大切にしていることはありますか。

「やらされている」のではなく、主体的に「やりたい」と思って学んでほしい、というのが一番の思いです。ただ、それを教えるのはなかなか難しくて。自分が振り返ってみると、中学でも、大学でも、やはり「この人の授業は面白い」と感じさせてくれる先生との出会いに恵まれていたと思います。そして面白く教えられるのは、先生自身が面白いと思っているからこそだと思うんです。

だから自分としては、自分が実際に興味を持って取り組んでいることをなるべく見せるようにしています。「面白くないならやらなくていい」ではなくて、「やってみたら面白いかもよ」という方向で背中を押す感じでしょうか。もし自分の研究に興味を持ってくれなくても、何か別のことで「面白い」と感じられるものを提供できればいいなと思っています。

▲研究室の専攻科生たちと一緒に国際会議で発表した際の一枚

最後に、高専生へのメッセージをお願いします。

高専に赴任して15年ほど経ちますが、この数年で本当に変わったなと感じることは、1〜2年生のうちから「こういう研究がしたい」「学会で発表してみたい」と相談してくる学生が増えてきたこと、それどころか「自分の研究を海外で発表したい」という学生までいることです。総じてチャレンジ精神のある子が増えてきた印象があって、それは嬉しいことだと思っています。

高専は、自分でスケジュール管理をして責任を取ることができれば、興味のあることに自由に取り組みやすい環境だと思います。私自身、大学時代に農学部や理学部の授業も聴講していたことが、今の研究にもつながっていますし、何が将来役に立つかは本当にわかりません。だからこそ、興味あることだけじゃなく、いろんなことを学んでおいてほしいですね。そして、そういう学生たちが活躍できるようにサポートするのが、自分の仕事だと思っています。

髙屋 朋彰
Tomoaki Kouya

  • 小山工業高等専門学校 物質工学科 准教授

髙屋 朋彰氏の写真

2003年3月 新潟大学 工学部 機能材料工学科 卒業
2005年3月 新潟大学大学院 自然科学研究科 博士前期課程 生産システム専攻 修了
2008年3月 新潟大学大学院 自然科学研究科 博士後期課程 材料生産システム専攻 修了
2008年4月 新潟大学 自然科学系附置地域連携フードサイエンス・センター 特任助教
2010年4月 新潟大学 ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー 研究機関研究員
2010年10月 小山工業高等専門学校 物質工学科 助教
2013年9月〜11月 在外研究員(Technological and Higher Education Institute of Hong Kong)
2017年4月 小山工業高等専門学校 物質工学科 講師
2020年4月より現職

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