福島高専の物質工学科(現:化学・バイオ工学科)を卒業後、東京工業大学の生命理工学院へ3年次編入学された小林基晃さん。高専時代の寮生活の思い出や、編入試験の勉強方法を伺いました。また、東工大での研究活動や将来の展望、将来の夢に向けて的確に行動していく小林さんが持つ「強さ」の秘訣について、インタビューを通して迫ります。
父の勧めで高専へ。化学の道を突き進む
―まず、福島高専の物質工学科に進学されたきっかけについて教えてください。
父親が茨城高専の化学科出身ということもあり、高専の存在を幼少期から知っていました。中学生の頃からロボコンの見学や高専が主催している公開講座に参加するなど、早くから高専の雰囲気に触れていた記憶があります。実験がすごく楽しかったことを今でも覚えています。
理系の分野へ進みたいと漠然と思っていたことや、大学編入試験を複数校受験できるメリットを教えてもらっていたため、普通高校ではなく、高専を選びました。当時は高専に対する魅力というより、化学を学べることに魅力を感じていたんです。福島高専では出願時に第2希望の学科まで記入できる制度がありましたが、私は第1希望の物質工学科だけを記入しました。もし物質工学科に進めなかった場合は、普通高校へ進学するつもりでしたね。
高専で過ごした時間はとても楽しく、濃密でした。そんな私の姿を間近で見ていたこともあってか、弟2人も福島高専へ進学しています。
―高専時代は寮生活をしていたんですね。
実家は福島高専のあるいわき市にありましたが、5年間寮に在籍していました。「通学時間の短縮や集団生活を学ぶために」と両親が勧めてくれたんです。
「高専生活で1番の思い出は?」と聞かれたら、「寮生活での経験」と即答できるくらい、本当に楽しかったです。時には先輩方に厳しくご指導いただくときもありましたが、今思うと貴重な経験だったと思います。
寮生活では、学科や専攻が異なる同学年の学友と常に一緒にいました。三食を共にして、お風呂も部屋も同じなので、もはや家族同然の存在でしたね。テスト前にはみんなでエナジードリンクを飲んで、徹夜して教科書の内容を頭に詰め込んだり、レポートを協力して完成させたり、時には先輩が教えてくれたり……どれも思い出深いです。それこそ一生モノの財産になりました。
1年生から編入を意識。仲間と協力した受験勉強
―福島高専を卒業後は、東京工業大学の生命理工学院へ編入学されています。
入学当初から国立大学への編入学を決めていました。高専在学時に祖父が大腸がんになったのですが、声掛けをすることしかできず、自身の無力さを身をもって感じたんです。これが後々がん等の医薬品の開発や治療法の研究を行いたいと考え始めたきっかけになりました。
進学するのであれば、世界でも競争力のある大学で、自分の興味をとことん突き詰められる場所へ行きたいと思いました。新しい環境に身を置きたいという思いが強かったので、専攻科や就職は考えませんでした。当時、自分の担当教員だった先生が他の大学に移られたことも理由の1つだったと思います。結果的に、いくつかの大学から合格をいただき、ご縁のあった東京工業大学へ進学を決断しました。
―編入試験の準備はいつから始められましたか?
編入勉強を本格的にしていたわけではないですが、編入試験は情報戦な側面が大きいので、1年生の頃から意識的に情報収集を行っていました。
当時5年生の先輩で東工大に進学予定の方が自身と同じ学科に3人いらっしゃったので、その方々にアポをとって、編入についてお聞きしました。また、ZENPENという大学編入を目指す高専生のための支援団体があるのですが、そこが開催している東京オンサイトでの編入学説明会にも参加していましたね。
編入学に関する情報は、クローズドの場合が多いんです。当時、福島高専は他の高専と比較して編入学がそれほど盛んではなかったので、自分から情報を取りに行くことを意識していました。1年生でここまで行動しているのは私と友人ぐらいでしたが、早いうちに情報を取りに行くに越したことはないと思います。
本格的に準備を始めたのは3年生の終わり頃です。4年生の夏に部活を引退し、編入試験の勉強に本腰を入れ始めました。数学、化学、英語を重点的に、1年生の教科書から復習することで基礎固めを行いました。それに加えて、編入試験の問題は難易度が高いので、編入試験用の問題集を解きながら、わからない問題は先生や友達に聞いて、その都度教えてもらっていました。
革新的な医薬品をつくり、1人でも多くの人を救いたい
―実際に東工大へ進学してみて、いかがでしたか?
とにかく研究環境が抜群に良いです。一流の研究設備と潤沢な研究資金のおかげで、存分に研究活動に打ち込めています。先生方も研究に熱心に取り組まれており、講義以外でも丁寧に質問に答えていただいています。
また、国籍を問わず、高い志をもった優秀な方々にたくさん出会うことができました。編入同期、研究室同期、トライアスロン部のメンバー、就活支援団体の同期など、高専時代からさらに人間関係の幅が広がりました。
東工大は、「理系科目だけでしょ?」と思われがちですが、今後の研究者に必要とされるリベラルアーツ教育にも力を入れており、教養科目から専門科目まで大変充実しています。
入学前は勉強についていけるか不安でしたが、高専で培った知識や経験を生かして、何とか頑張っています。基礎学力ではやはり学部生に劣ってしまう部分もあると思いますが、案外、その環境に身を置いてしまえば適応できるということを学びました。
―現在の研究内容を教えてください。
ドラックデリバリーシステム(DDS)に関する研究を行っています。簡単にいうと、副作用を抑えて薬の効き目を最大化するための研究です。この研究を生かして、がんに対するナノ医薬品の創製に取り組んでいます。
具体的には、近年注目されている核酸医薬品を取り扱っています。核酸を保護し、適切な場所で最大限の薬効をもたらすことを目的としています。コロナワクチンにも応用されているモダリティ(医薬品のつくられ方の基盤技術の方法や、それに基づく医薬品の分類のこと)です。
昨年は2回、今年に入っても2回ほど国内外の学会(ASEAN-日本国際ライフサイエンス&テクノロジーシンポジウム@タイ、第39回 日本DDS学会学術集会@千葉)に参加し、ポスター発表を行う機会を頂きました。そこでは、分野の最先端で活躍されている方々の貴重な講演を聞き、研究レベルの高さや諸先輩方の活躍を間近で感じることができました。
研究は必ず結果が出るわけではないので、どうしてもモチベーションが上下してしまいますが、「とにかくやってみよう」という気持ちで取り組むことが継続の秘訣です。
―将来の展望について教えてください。
がんに苦しむ患者様に一日でも早く革新的な医薬品を届ける、この一助を担うことが将来の目標です。この想いを軸にして就職活動を行い、来年の春から製薬会社へ入社予定です。
博士進学も視野に入れていましたが、一度会社を通して社会を経験してみたいと考え、このような決断に至りました。将来的にはグローバルスタンダードの博士号、MBA(経営学修士号)やMOT(技術経営修士号)の取得も視野に入れています。卒業後も日々鍛錬し続けたいです。
直近の課題としては、やはり英語力だと感じています。今年は合わせて1か月ほど英語圏に滞在することができました。日常で困ることはあまりないですが、やはりビジネスレベルにはまだまだ至っておりません。私も含めて高専生は一般的に英語が苦手な人が多いですが、どこの業界やどの職種でも4技能含めた英語の重要性はますます増大するとも感じております。
私の現状が、CEFRにおいてB1-B2の間くらいなので、個人的な目標としては、今年度中にB2上限、将来的にC1レベルまで達成することを念頭に置いております。授業のみならず、留学や課外活動、資格試験を利用して日々研鑽することが重要だと思います。
―最後に、現役の高専生や編入学を目指す高専生に向けてメッセージをお願いします。
私は、高専出身の方はもとより、普通高校や他大学の友達、多国籍的な研究室メンバーから日々良い刺激をいただいております。周りの人の考えや意見を自分のものとして吸収できるように、まずはたくさんの人と関わってください。私自身、そういう方々の支援があったからこそ、ここまで来られたと思います。周囲の人を積極的に頼ってください。
現在、進路に迷っている高専生の方がいるのであれば、高専に入学した当初の目的は何だったのか、今自分は何をしたくて、将来どうなっていたいのか、それらを逆算して考えれば、進むべき道が自ずと見えてくるのではないでしょうか。自分の軸を持って日々を送ることが大切だと思います。
ただ、人生の岐路における選択をすべて間違いなく選ぶのは難しいです。自分の人生、そのストーリーの主人公はあなたですから、過去の自分が決めた道が正しかったと証明するためにも、今を全力で生きて、それを正解にできるように頑張りましょう!
小林 基晃氏
Kobayashi Motoaki
- 東京工業大学 生命理工学院 生命理工系 ライフエンジニアリングコース
2020年 福島工業高等専門学校 物質工学科(現:化学・バイオ工学科) 卒業
2022年 東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系 卒業
2022年 東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系 ライフエンジニアリングコース 入学
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