民間企業の研究員として11年勤めたのちに、和歌山工業高等専門学校 物質工学科(現・生物応用化学科)に着任された綱島克彦先生。研究員時代から続けられているという「イオン液体」の研究のほか、和歌山の地域性を加味した地域貢献としての「メタンハイドレート」の研究など、エネルギー資源の研究に力を注ぐ、綱島先生の取り組みについて伺いました。
高専という教育機関をはじめて知った、研究員時代
―和歌山高専に赴任される前は、民間企業にお勤めだったそうですね。

東京工業大学でドクターを取得し、その後「日本化学工業」という会社に11年勤めました。基本的には研究員として働いていましたが、工場勤務なども経験しましたね。それから研究にもっと取り組みたいと思い、アカデミックポストを目指して和歌山高専に赴任したという経緯です。

私は福岡県の生まれで、小学生の頃に埼玉県に移ってからはずっと所沢で育ったんですが、埼玉には高専がないんです。そのこともあって高専の存在自体、知らなかったんですが、大学院時代の恩師である東京工業大学名誉教授の野中勉先生が鶴岡高専の校長に赴任することになり、そこで初めて高専について知ったんです。校長に赴任後、鶴岡高専にお邪魔させていただく機会があり、その際に「こんな教育機関もあるんだ」と関心を抱いたのを覚えています。
―和歌山高専に着任され、最初の印象はどんなものでしたか?

教員としてのキャリアも初めてでしたが、和歌山県に来ること自体も初めてのことで、最初は生活面で驚くことばかりでしたね。まず言葉が違う。学生と接する中でも、みんな和歌山弁で話すので、その勢いについて行けるか不安を感じていました。ほとんど関西弁に近い方言なんですが、関東から来たものにとっては、押され気味でした。
でも学生はみんな良い子たちばかりで、挨拶もできるし、元気もある。研究にも熱心で、10代の子たちと触れ合うのは初めてのことでしたが、とてもはつらつとした若者に囲まれているなと感じました。
「イオン液体」と「メタンハイドレート」の2つの研究テーマ
―研究員時代から現在までの、研究内容について教えてください。

電気化学の分野で学位を取得したんですが、会社に勤めていた際はまったく別の分野の製品を担当していました。入社して5~6年してから、会社で「イオン液体」というものの開発に着手し始め、そこから大学院時代に学んだことが活かせるようになってきましたね。
ただ会社で研究を進めていると、どうしても製品化・事業化するフェーズになり、研究自体に重きを置くことが難しくなってくるのが正直なところです。ですがこの「イオン液体」の開発・研究を進める中で、もっとこういう「イオン液体」をつくりたいとか、こんな「イオン液体」を新たに提案したいという思いが大きくなり、アカデミックポストを目指しました。和歌山に来てからも、この研究は続けています。
現在研究室では、この「イオン液体」を用いた蓄電池電解質や燃料電池触媒の開発のほか、和歌山に来てからは「メタンハイドレート」の研究にも取り組み始めています。
―「メタンハイドレート」といえば、新しいエネルギーとして注目されていますね。

そうですね。化学構造が似ている「イオン液体」からヒントを得て始めた研究なんですが、和歌山にいるからこそ取り組み始めたテーマでもあるんです。
「メタンハイドレート」は、天然ガスの主成分「メタンガス」が水分子と結びつくことでできた氷状の物質です。火を近づけると燃えるため、「燃える氷」と呼ばれることもある物質なんですが、実は日本の周辺海域に大量にあり、和歌山県沖の海底にも存在していることが分かっているんです。和歌山高専はすぐ目の前に海がある立地ということもあり、学生と一緒に調査船に乗って調査研究に参加させてもらうほか、地域の小中学生に「メタンハイドレート」についての出前授業を行うなど、地域に根差した研究のひとつとして取り組んでいます。

日本近海に存在している「メタンハイドレート」は、日本の消費エネルギーの100年分はあるといわれており、経済産業省が主体となって調査や研究が進められています。海底何千メートルといったかなり深いところに埋まっている物質なので、簡単に取りに行くことは難しいのですが、私の研究室では県の水産試験場が出している調査船に乗り、魚群探知機の超音波を使って観測しに行くなど、調査をメインに活動しています。

―出前授業では、どういったことに取り組まれているんですか?
「メタンハイドレート」のサンプルを使って、触ってもらうとか、燃やしてみて観察してもらうなどして、新しいエネルギーについて学んでもらっていますね。見た目がドライアイスのようなんですが、その固形が燃える様子は子どもたちから見たら興味深いようで、みんな喜んでいます。学生にも講座の手伝いをしてもらっているのですが、非常に評判が良いんです。子どもたちにとっては高専生に親近感が湧くようで、学生に質問したりしながら楽しんでいます。また学生はシャイな子が多いんですが、こういう取り組みに参加すると、殻を破って活躍してくれたりするんで、学生の成長にも繋がっていると思います。
―先生は、地域共同テクノセンター長の校務にも就かれているそうですね。

先ほどの公開講座の依頼を受けて学生を派遣するほか、地元企業からの共同研究の打診や技術相談を受ける窓口のような組織で、センター長をやらせてもらっています。地域とのパイプ役ですね。
高専は地域に根ざした立ち位置だと思うので、地域に貢献することも大事な要素だと思うんです。私の研究でいうと、「イオン液体」の研究は学術的な貢献のために取り組み、「メタンハイドレート」の研究は、和歌山が期待するエネルギー資源なので、県に対する地域貢献という位置づけで取り組んでいるイメージですね。
私自身、教育と研究をあまり切り離して考えてはいないんです。学生と一緒に研究しているので、研究活動自体が学生教育の一環なんだというのをすごく実感しますね。研究テーマ自体は少しずつ変遷していくと思うんですが、「学生と一緒に良い研究に取り組んで、少しずつ自信を付けながら成長してほしい」という思いは、これからも変わらないと思います。
綱島 克彦氏
Katsuhiko Tsunashima
- 和歌山工業高等専門学校 生物応用化学科 教授

1998年3月 東京工業大学大学院 総合理工学研究科 電子化学専攻 博士課程 修了
1998年4月 日本化学工業株式会社 研究員
2009年4月 和歌山工業高等専門学校 物質工学科 准教授
2013年4月~2014年3月 アルゴンヌ国立研究所 客員研究員
2015年4月 同 教授
2017年4月 和歌山工業高等専門学校 生物応用化学科 教授
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