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ロボット工学の技術で生活を便利にしたい。「しくみ」を明らかにして「本当に使えるもの」の実現を目指して

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ロボット工学の技術で生活を便利にしたい。「しくみ」を明らかにして「本当に使えるもの」の実現を目指してのサムネイル画像

メカトロニクスの技術を活用して、福祉などの他分野でも活躍する方法を研究し社会実装を目指す、和歌山工業高等専門学校の津田尚明先生。研究の傍ら、子どもたちが科学の世界を体験できる公開講座を開催されています。そんな津田先生の取り組みをについて伺いました。

人間主体の動作をロボットが支える技術の探求

―先生が取り組んでいる研究について教えてください。

PCなどの装置の前で、松葉づえをつく。実験の様子。
松葉杖歩行見守り付き添いロボット:松葉杖歩行に付き添って自動走行し、歩行動作が不適切ならアドバイスしてくれる

わかりやすく言うと、「ロボット技術で生活を便利にするための研究」をしています。特に、「人間の身体動作を補助する方法」を、これまで探求してきました。具体的には「松葉杖歩行訓練」を補助する装置や「書道の運筆訓練」を補助する装置の開発です。

松葉杖を使って歩いている人を見て、「使いづらそうだな」と日頃から感じていたんです。調べてみると、けがなどで松葉杖を一時的に使う人の中には間違った使い方をしてしまう人がいることが分かり、それで起こりうる二次的な事故やけがを予防したいと考えるようになりました。

書道については、書道教室では筆を持つ生徒の手を先生が上から握って指導しますが、言葉で習うよりもポイントを体で覚えたほうが、感覚やニュアンスが伝わりやすいですよね。そんな「手導き」での松葉杖の使い方と書道の運筆訓練を、センサやモータなどのロボット技術で代行したいと考えたんです。

いくつかのコードがつながった装置を右手首に巻いて、習字の大筆を持ち、「左」という文字を書いている様子。
書道の運筆訓練装置:筆の動きを計測し、不適切なら手首を圧迫して矯正してくれる

ただロボットに全てを委ねるのではなく、あくまで主体は「人間」で、きっかけを与えることにとどめて動作の修正を促すことが大切です。人間が動作を習得する「しくみ」が明らかになれば、実用化できると思っています。まだ基礎研究の段階ですが、身近に指導者がいない環境でもロボットの力でかなうことも増えてくるはず。将来的にはスポーツのトレーニングにも役立てたいですね。

夢の選択肢を広げる機会を、学生とともに運営

―先生がロボット工学に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか。

昭和62年度開催の和歌山市こども科学賞表彰式で、症状を持ち無表情の津田先生
小学生の時に“こま”の自由研究で受賞

小学校低学年の頃、科学に関するイベント(現在の「青少年のための科学の祭典・和歌山大会」)などに参加したんです。何かを混ぜると色が変わったり、電池を入れるとモータが動いて車が走ったりと、変化のわかりやすい実験に惹かれました。

実行委員長として、和歌山大会の青少年のための科学の祭典にて挨拶する津田先生
青少年のための科学の祭典・和歌山大会の実行委員長として開会式で挨拶

夏休みの自由研究では、「どんな形の“こま”がよく回るのか」という研究をしたこともあります。そんな経験が私を科学の世界へ目覚めさせてくれたわけですが、今では講座の運営側に携わり、年に5回から10回ほど子ども向けの公開講座を開催したり、前述の「青少年のための科学の祭典・和歌山大会」の実行委員(2013・2014年度は実行委員長)をさせて頂いたりして、子どもが科学の世界へ目覚めるきっかけを広める活動をしています。

子ども向けの公開講座は、小学校高学年向けの講座ではロボットの「しくみ」を、中学生向けの講座ではロボット工学に必要な数学や物理など、高校で初めて学ぶ内容を先行体験してもらっています。ロボット工学の本質、つまり「しくみ」に触れて欲しいと思っているからです。

講座を始めて15年ほど経ちますが、そのうち中学生向けの講座への参加者は100名を超え、なんとその半分が和歌山高専に入学してくれているんです(ロボットの「しくみ」をテーマとする公開講座の取り組み,日本ロボット学会誌, Vol.36, No.7, 2018. )。新入生の中で講座に参加してくれた子の顔を見つけるとやはり嬉しいですし、ロボットや高専の魅力が伝わったんだと思うとやりがいを感じますね。

―公開講座には、高専の学生も運営に携わっているそうですね。

2名掛けのテーブルセットに、小学生と保護者が座り、前方のスライドで説明する2人の学生の講座を受ける
学生2名が講師を務めた小学生向けの公開講座

学生には、講師やその補助を担当してもらっています。子どもや保護者に内容を理解してもらうには、相手の立場に合った表現で伝えなければなりません。そういった状況は社会に出てからも必ず遭遇します。

学生たちの中には、学校での学びが将来どのように役立つのかを想像できずに悩んでいる人も多くいて、この講座はそのギャップを埋めるチャンスだと思っています。学校での学びを試したり、専門外の人がどう考えているか知ったりする場であり、臨機応変に対応できる力を蓄えてもらいたいです。

大きな白い板に不定期な黒の曲線。機械を置いて、奨学生と学生が楽しく実験している様子
小学生向け公開講座で学生が説明

高専に限った話ではありませんが、なんとなく進学し、なんとなく就職する学生も少なからずいます。学生が学外の多くのことに携わる中で世の中の「しくみ」を知り、さまざまな職種があることや大学院への進学・研究者・海外への道など、たくさんある未来への選択肢を見つける機会を提供したいと思っています。希望する学生には学会発表も経験してもらって、同じ分野の多くの人と関わってもらっています。

国際会議で学生4名と記念撮影する津田先生
学生達が国際会議で発表

―先生の研究室には、いろんな人との接点がたくさんあるんですね。

そうですね。面白い取り組みでいうと、2007年に和歌山県日高川町の依頼で、神社のお祭りで使う文楽人形の動作を取り入れたロボットを学生と一年がかりで製作しました。

人間国宝である文楽人形遣いの桐竹勘十郎さんにアドバイスを頂きながら、地域の方と一緒に取り組んだのですが、人形がより人間らしく見える表現や一連の動作の解説にうなずくことばかり。まったく知らない領域に触れ、学生とともに多くの人たちに関わることができ、社会実装を意識する良い経験になりました。

赤・青・黄色などのビビットな法被を着たロボットに皆が注目している様子
国立文楽劇場でロボットの動作のアドバイスを受ける

実社会で「本当に使えること」の実現に向けて

―研究や学生との関わりの中でどんなことを大切にしていますか。

私がカナダでの在外研究員を終えて一年ぶりに帰国した日に、東日本大震災が起きました。乗っていた成田空港行きの飛行機がダイバート(目的地以外の空港等に着陸すること)し、予定より一日遅れて帰宅したんです。

無機質なラボで立って打ち合わせをする津田先生
Waterloo大学の研究室での打ち合わせ

発電所の機能を停止させてしまうような想定以上の地震と津波を目の当たりにして、工学技術の更なる発展が必要だということを痛感しました。

10年経った今も当時のことが心に深く残っていますが、基礎研究とともに、暮らしの中で「本当に使えること」を目指す研究の重要性を、強く感じました。物事にはそれが起きる「しくみ」があることを意識しながら、人間の身体動作訓練を補助する方法についても、実現をゴールに置いて学生と一緒に少しずつ進めたいと思っています。

―今後どんなことにチャレンジしたいですか?

高専は、学生だけでなく教職員もいろんなことに挑戦できる場所です。恵まれた環境を十分に生かし、ロボット技術で生活を便利にする研究を続けたいと思います。あわよくば、動作教示の研究を通して、ロボットのようにプログラム通りにはいかない、日によって変わる人間の感情や考え方といった「人間の謎」、すなわち人間の「しくみ」を解いていきたいですね。

会場の屋外で、みんなでそろってポーズを撮る。
2020年度県高校バレーボール選手権大会(ベスト8):顧問を務めるバレーボール部は「高専らしさ」を意識しながら活動しています

津田 尚明
Naoaki Tsuda

  • 和歌山工業高等専門学校 知能機械工学科 准教授

津田 尚明氏の写真

1995年 智辯学園和歌山中学高等学校 卒業
1999年 三重大学 工学部 機械工学科 卒業
2001年 三重大学大学院 工学研究科 博士前期(修士)課程 機械工学専攻 修了
2004年 三重大学大学院 工学研究科 博士後期(博士)課程 システム工学専攻 修了
2005年 和歌山工業高等専門学校 知能機械工学科 助手・助教
2010年 カナダ国Waterloo大学 客員研究員
2011年 和歌山工業高等専門学校 知能機械工学科 准教授

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