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半導体を「つくって学べる」高専へ——母校・釧路高専から日本の半導体産業を支える技術者を

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釧路高専で電子回路や半導体の面白さに触れ、豊橋技術科学大学への進学を経て、母校の教員となった井戸川槙之介先生。現在取り組んでいる神経信号測定用の集積回路の研究や、釧路高専における半導体作製教育、学生の挑戦を後押しする教育への思いなど、さまざまなお話を伺いました。

身近なものの分解から、電子回路の世界へ

―釧路高専へ進学したきっかけを教えてください。

祖父が大工関係の仕事をしていたため、最初は木工に親しむようになりました。また、身近なものを分解するのも好きで、小さなおもちゃから掃除機のような大きな家電まで分解し、中の基板を見て「どうして動くのだろう」と調べるうちに、電子工作への興味が広がりました。

釧路高専を知ったのは中学生の頃です。実家から近く、先輩の進学先や進路指導でも話を聞く中で、自分がやりたいことと学べる内容が一致している環境だと思いました。両親や先生からも、5年一貫で学べ、就職と大学進学の両方を目指せると勧められ、進学を決めました。

―印象に残っている授業を教えてください。

4年次に、5~6人のグループで「電子ストラックアウト」を製作しました。木材でフレームを組み、ボールが当たった的に応じて得点が表示されるよう、電子回路やプログラムも自分たちでつくりました。

▲製作した電子ストラックアウト

高専祭で披露した際には、子どもたちが楽しんでくれたことがうれしく、ものづくりには人を喜ばせる力があると実感しました。一方、幅広い年代の人が楽しめるものをつくる難しさも学びました。

―授業以外では、どのようなことに熱中していましたか。

軽音楽部に所属し、ギターを弾いていました。音楽とものづくりの両方が好きだったので、ギターアンプや音色を変えるエフェクターも自作していました。当時はインターネットで簡単に調べられる環境ではなかったため、図書館の雑誌を読み、先生や技術職員の方に相談しながら製作しました。完成した機材は、練習や高専祭のライブで実際に使っていました。

―現在につながる恩師との出会いもあったのでしょうか。

高専5年次に所属した研究室の坂口直志先生です。先生から電子回路の面白さや半導体の魅力を教えていただき、卒業研究では、環境に配慮した特殊な太陽電池について研究しました。

坂口先生から教わったのは、まず自分の手を動かし、挑戦することです。「何もせずに後悔するより、挑戦して失敗したほうがいい」という考え方は、現在の研究や学生指導にもつながっています。

高専から豊橋技科大へ。研究をやり遂げ、母校へ戻る

―卒業後は、豊橋技術科学大学へ編入学されています。

半導体の設計から製造まで経験できる環境に惹かれ、豊橋技科大を選びました。授業料などが免除される特別推薦での編入試験に合格できたことも、編入学の後押しになりました。

豊橋技科大は学生の8~9割が高専出身です。高専出身者は専門科目や実験・実習に強く、大学の基礎的な専門科目は復習に近い感覚で学ぶことができました。一方、一般教養や英語に関しては普通高校から進学した学生が強く、自分とは異なる強みを持つ仲間に囲まれ刺激を受けました。

―大学で実際に半導体を作製したことで、理解が深まったそうですね。

高専では簡単な太陽電池をつくりましたが、集積回路の作製は経験していませんでした。高学年で半導体について学んだときも、数式が何を表しているのか、十分に理解できない部分がありました。

それが、大学で実際に半導体の集積回路をつくり、特性を評価したことで、高専で学んだ数式と目の前の現象が初めて結びついたんです。この経験が、現在の高専での半導体作製教育の原点になっています。

▲研究の相棒だった半導体装置

―神経信号を測定する半導体の研究には、どのように出会ったのでしょうか。

豊橋技科大の編入試験で、興味のある研究室について聞かれた際、「医療に関わる半導体を研究したい」と答えたことが始まりです。

今もですが、当時もまだ脳の機能について解明されていないことが多くありました。生命科学や医療に関する話を聞く中で、半導体の技術を使えば、病気の治療や患者さんの生活を支えるデバイスをつくれるのではないかと考えるようになりました。その思いから、神経信号を測定する電極や集積回路の研究を始めました。

▲大学生の頃に作製していた神経電極

―学部卒業後は大学院へ進み、博士号も取得されたのち、母校・釧路高専の教員になられました。

豊橋技科大は学部から修士までを見据えた教育課程だったため、自然な流れで大学院に進みました。博士後期課程への進学を決めたのは、研究を中途半端な状態で終わらせず、医療用半導体デバイスについてさらに深く学びたいと考えたからです。

その後の進路としては半導体企業への就職や大学に残る道も検討しましたが、研究だけでなく人に教えることも好きだったため、将来は母校や北海道内の高専で教員になれればと考えていました。もともと高専生の頃から、友人に勉強を教えたり、小・中学生向けの出前授業に参加したりする中で、高専教員として働くことに興味を持っていたんです。

そして、ちょうど大学院修了のタイミングで、恩師の坂口先生から、退職に伴う後任として母校へ戻らないかと声をかけていただきました。自分に務まるのか不安もありましたが、「何もせずに後悔するより、挑戦して失敗したほうがいい」という先生の教えにも背中を押され、着任を決めました。

―教員として、最初はどのようなことに苦労しましたか。

自分が理解していることをそのまま説明しても、学生に伝わるとは限りません。理解度の異なる30~40人の学生に、どの水準で、どう説明すべきか悩みました。そこで、演習や実験を増やし、実際の現象から理論を学べる授業を心がけました。

私も釧路高専の出身なので、学生が低学年で学んだ内容や学校生活を把握しています。それぞれの理解度や背景を踏まえて教えられることに関しては強みだと思います。

高専を「半導体をつくって学べる」場所へ

―現在取り組んでいる研究について、簡単に教えてください。

脳神経から発せられる、マイクロボルト単位の非常に小さな電気信号を増幅する集積回路の設計・作製・評価を行っています。

現在は基礎研究の段階ですが、将来的には脳から取得した信号を使い、自分の意思でロボットアームや義手、義足などを動かす技術につながる可能性があります。その実現に向け、まずは脳の微弱な信号を正確に取得するためのデバイスを研究中です。

▲設計・作製した、微小信号を測定する集積回路

大学時代には、脳信号を取得するための細い針状の「マイクロニードル電極」と、取得した信号をBluetoothで送る通信ユニットを開発しました。現在は、信号を増幅する集積回路の研究を中心に進めています。この3つを組み合わせ、一つのデバイスとして機能させることを目指しています。

―この研究の、どのようなところに面白さを感じますか。

集積回路は、スイッチ一つの配置や向きによって特性が変わります。同じ題材でも描く人によって絵の雰囲気が変わるように、回路にも設計者の工夫やノウハウが表れるんです。

学生の自由な発想によって、私が考えたものより特性が良くなることもあります。経験を重ねると固定観念にとらわれがちですが、学生の思いがけないアイデアから学べることも、この研究の面白さです。

▲卒業研究でデバイスを作製中の学生

―釧路高専では、半導体を実際につくる教育にも力を入れています。

大学で初めて半導体を作製し、座学の知識と実際の現象が結びついた経験から、釧路高専でも実験・実習の環境づくりを始めました。

▲集積回路を設計・作製する実習の様子

豊橋技科大から装置を譲り受け、足りないものは自作し、着任から約2年で簡単な半導体素子であるダイオードを作製できるようになりました。現在は、半導体素子の基本であるMOSFETを授業でつくり、簡単な集積回路の設計から作製まで学べる環境を整えています。

学生からは「難しいけれど面白い」という声が聞かれます。自分でつくった半導体が実際に動く喜びは、座学だけでは得られないものです。

―北海道内の高専と連携して、半導体人財の育成を進めているそうですね。

北海道の4高専でオンデマンド教材を共同開発し、低学年から半導体の基礎を学べる環境を整えています。その中で釧路高専は、学生が半導体を実際につくるための授業や教材の開発を担っています。

また、「北海道半導体みらい論」という授業の全国展開や、専門分野の異なる高専教員に半導体を学んでもらうリスキリングにも取り組んでいます。

▲北海道半導体みらい論の初回授業の風景

―学生の挑戦を後押しすることも、大切にされています。

実践的な技術者になるには、積極的に挑戦し、失敗から学ぶことが大切です。そのため、学生の「やってみたい」という思いを、できる限り尊重しています。

以前、放射線を学びたいという学生がいました。釧路高専には学べる環境がなかったため、まずは学生自身に調べてもらい、福島高専で学ぶ機会につなげました。そこから「放射線と半導体を組み合わせたい」という目標が生まれ、最終的には放射線を測定する半導体センサーの作製に至りました。学生の挑戦を実現できるよう、必要な道筋を示すことが教員の役割だと考えています。

▲釧路高専の卒業式にて、豊橋技科大に編入学する学生のみなさんとの1枚

―半導体作製教育の今後の目標を教えてください。

現在つくっている半導体でも、製造工程の基礎を学ぶことはできますが、世の中で主流となっているものではありません。そのため、今後は、企業研修や試作で用いられるCMOS集積回路や、より微細なサブミクロン領域のMOSFETを釧路高専で作製できる環境を整えたいです。現在主流の半導体技術に近づくことで、学生はより高度な設計や製造工程を学べるようになると思います。

安全管理が必要なガスの取り扱いや装置の維持費などの課題はありますが、今後5年ほどを目安に実現を目指しています。釧路高専で学んだ学生には、再び盛り上がりを見せる日本の半導体産業を支え、世界で活躍できる技術者になってほしいです。

―最後に、現役の高専生と小・中学生へメッセージをお願いします。

高専生には、さまざまな知識や技術に触れ、失敗を恐れず挑戦してほしいです。一つの分野を極めることも、幅広く学ぶことも、その後の成長につながります。

ものづくりや分解が好きで、「なぜ動くのだろう」と仕組みに興味を持つ小・中学生にとって、高専はぴったりの学校です。電気・電子をはじめ、建築、化学、機械、情報、商船など多様な分野があるので、ぜひ進路の選択肢に入れてみてください。

井戸川 槙之介氏
Shinnosuke Idogawa

  • 釧路工業高等専門学校 創造工学科 エレクトロニクスコース 電子工学分野 准教授

井戸川 槙之介氏の写真

2014年3月 釧路工業高等専門学校 電子工学科 卒業
2016年3月 豊橋技術科学大学 工学部 電気・電子情報工学課程 卒業
2018年3月 豊橋技術科学大学大学院 工学研究科 電気・電子情報工学専攻(博士前期課程) 修了
2021年3月 豊橋技術科学大学大学院 工学研究科 電気・電子情報工学専攻(博士後期課程) 修了
2021年4月 釧路工業高等専門学校 創造工学科 電子工学分野 助教
2023年4月 釧路工業高等専門学校 創造工学科 電子工学分野 講師
2023年10月より現職

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