進学者のキャリア大学等研究員

ロボコンに魅せられて研究・開発へ。レスキューや月面掘削などのロボットを通じて、幸せな世界を

SHARE

この記事のタイトルとURLをコピーしました
公開日
取材日
ロボコンに魅せられて研究・開発へ。レスキューや月面掘削などのロボットを通じて、幸せな世界をのサムネイル画像

福井工業大学が2023年4月に設立した「FUT 未来ロボティクスセンター」のセンター長を務める、岩野優樹先生は、高専時代から現在に至るまで、ずっとロボットの研究開発を続けています。岩野先生が思うロボットの魅力や未来について伺いました。

ロボットは、いかにシンプルにつくるか

―ロボットの研究を志すきっかけは何だったのでしょうか。

中学2年生の頃に、たまたまテレビで放送されていた『NHK高専ロボコン』の大会を観たことです。その年は、どのチームが2カ所の台座にダンボール箱をより多く、高く積み上げられるかを競う対決でした。

小さい頃は漠然と科学者になりたいという夢を持っていたのですが、アイデアとチームワークを駆使して実際にロボットをつくり、動かしている様子を観たのは初めてで、衝撃を受けました。「こんな世界があるなら、自分もやってみたい」——そう思い、大阪府立高専(現・大阪公立大学高専)に進学を決め、それからずっとロボットのことを考え続けています。

小学校3年生のころに書いた文集
▲小学校3年生のころに書いた文集にて

―実際に高専に入学し、ロボコンに参加してみていかがでしたか。

楽しさ半分、辛さ半分といったところでしょうか。テレビでは、キラキラと輝く世界に映っていましたが、実際はうまくいかないことのほうが多くて、「どうして設計通りに動かないんだろう」と悩んでばかりでしたね。それでも、思い描いていたものが形になった瞬間はたまらなくうれしく、その魅力にとりつかれるように、毎年参加しました。

4年生までは初戦で敗退していたので、「次こそは勝ちたい」という気持ちもモチベーションのひとつになっていたと思います。そして、5年生のときは大学編入を希望していたので、担任の先生から「勉強をしなさい!」と言われていましたが、どうしてもロボコンに出たくて、夏休みもバレないように電気を消してこっそり製作していたほどです(笑)

そんなラストイヤーは全国ベスト8まで進出。それまでが挫折の連続だっただけに、感動もひとしおでした。しかし、あと一歩のところで負けてしまい、「あのときこうしていれば良かったのでは」と、しばらくは悔しさをひきずりました。まさに、ロボコンに捧げた高専生活でしたね。

高専ロボコンの全国大会に出場されている岩野先生
▲高専ロボコンの全国大会に出場されている岩野先生

―大学でもロボットの研究をされていたのですか。

福祉ロボットを開発する研究室に所属していました。例えば、高齢者の方が椅子に座ったまま楽に移動できるような座椅子の研究開発です。ゲームセンターによくある「エアホッケー」は、盤上にある小さな穴から噴き出す空気の力で、プラスチックの円盤を浮き上がらせて遊びます。その原理を活用し、座椅子の底から空気を出して移動できるような機器を開発していました。

あと、プライベートでも災害救助を題材としたレスキューロボットコンテストに参加していました。高専時代の恩師である大阪公立大学高専の金田忠裕先生がコンテストの実行委員をしていたことで声をかけていただき、高専の先輩や後輩を集め、週末もロボットづくりに勤しむ日々でした。

レスキューロボットコンテストに参加されている岩野先生
▲レスキューロボットコンテストに参加されている岩野先生

―ロボットをつくるうえで気をつけていることはありますか。

できるだけシンプルにすることです。ロボットは部品が増えるごとに構造が複雑になり、コストが膨大にかかってしまいます。また、故障するリスクも増え、メンテナンスの手間も生じる恐れがあります。

加えて、部品を多くすればするほど機体も大きく重くなり、実用化が難しくなる可能性もあることから、同じ動きを実現するにしても、もっとシンプルな機構にできないか?と常に考えるようにしています。

高専教員として、ロボコンに携わる

―そこから高専教員を志したきっかけを教えてください。

大学院まで進み、将来何がしたいかと本格的に考えたときに、「高専ロボコンの指導教員になりたい」と思ったからです。ベスト8まで進んだのに負けてしまった悔しさを、まだ消化できなかった自分がいたのでしょうね。指導教員になり、自分が果たせなかった夢を学生たちに託したいと思いました。

神戸大学大学院の博士課程のころの岩野先生
▲神戸大学大学院の博士課程のころの岩野先生(右)

教員になってみると、「自分でつくる」のと「学生に教える」のとではまったく違い、思っていた以上に難しさを感じました。指導は大切ですが、アドバイスをしすぎると学生のためにならないので、その塩梅に苦労しました。ロボコンの指導教員は9年間務めたのですが、結局、全国大会への出場は叶いませんでした。

ただ、2014年からは「高専ロボコンの出場経験と指導経験をぜひ活かしてほしい」と声をかけていただき、高専ロボコンのルール策定や大会運営を行う競技専門委員という仕事に携わらせてもらっています。

高専教員時代、地域の小学校教員へロボット講座を行う岩野先生
▲高専教員時代、地域の小学校教員へロボット講座を行う岩野先生

―その後、福井工業大学に勤められるまでの経緯を教えてください。

2019年に、イギリスのサウサンプトン大学に在外研究員という形で派遣していただいたのですが、毎日が研究漬けで、ものすごく充実していました。もちろん、高専の教員が嫌だったわけではありません。ただ、心のどこかで、教員として頑張ろうとすればするほど、研究と距離ができている感覚がありました。

サウサンプトン大学の在外研究員だったころの岩野先生
▲サウサンプトン大学の在外研究員だったころの岩野先生

帰国してから日に日にその思いは強くなり「もっと研究に時間を費やしたい」と思っていたときに、福井工業大学が教員を募集していると知り、思い切って環境を変えてみることにしました。高専の教員もやりがいはありましたが、今は好きなロボットの研究に多くの時間を費やせています。

現在の研究は天職——ロボット開発について

―現在の研究内容を教えてください。

「人の負担を軽減し、人々を幸せにするロボットの開発」をコンセプトに、草刈ロボットやレスキューロボット、最近では月面で掘削するロボットの研究開発を行っています。「ロボットの研究開発」というと難しいことをしないといけないと考えてしまう学生も多いのですが、身近な困りごとが研究のテーマになることはよくあります。

例えば草刈ロボットは、テニス部の学生から「コートの周囲に生い茂っている雑草に困っている」という話を聞いたのが研究のきっかけでした。そこから2種の草刈ロボットを開発し、数年前までは長野県農政部や県下の企業とさまざまな実証実験に取り組んでいました。現在も実用化に向けて研究を進めているところです。

現在開発中の草刈ロボット
▲現在開発中の草刈ロボット

レスキューロボットの研究開発は、レスキューロボットコンテストの経験が土台にあります。実際に、災害時に要救助者を収容する無人ロボット「Robo-Q」を開発し、消防庁に実践配備されています。しかし、大災害が続発する現代においては、もっと簡単に導入できるロボットも必要だと考えています。そこで現在は、消防隊員などが使えるツールとして「救助支援型担架ロボット」の開発を進めています。

現在開発中の救助支援型担架ロボット
▲現在開発中の救助支援型担架ロボット

月面掘削ロボットについては、月面のレゴリス地盤を掘削する新たな機構を備えたロボットです。最近は建築土木工学科の先生とも協力し、「アルテミス計画」といった将来的な月面移住の際に必要な住居建築の基礎工事を行う掘削ロボットの開発にも励んでいます。

現在開発中の月面掘削ロボット
▲現在開発中の月面掘削ロボット

―先生が思うロボットの魅力はどこにありますか。

福井工業大学で学生たちと研究開発を進める中で、改めて「自分自身の手を動かすことが好きだ」と気づきました。私はやはりロボットをつくることに何よりの喜びを感じます。ですから、頭の中で思い描いていたものが形になり、うまく動作したときの感激が何よりのロボット開発の魅力だと感じます。

さらに、自分が開発したロボットが誰かに喜ばれたり、幸せをもたらしたりすると、たまらなくうれしい。まさに、現在の仕事は天職だと思います。

福井工業大学の岩野研究室のみなさんとの集合写真
▲福井工業大学の岩野研究室のみなさんとの集合写真(後列1番右:岩野先生)

―今後の目標を教えてください。

今年4月に「FUT未来ロボティクスセンター」を設立し、センター長に就任しました。ここでは、地域から宇宙に至る困りごとを解決するものづくりを実践しつつ、未来を見据えた後人の教育も目指しています。

福井工業大学 掛下知行学長とUT未来ロボティクスセンターの記者会見に出席
▲FUT未来ロボティクスセンターの記者会見に出席(右:岩野先生、左:福井工業大学 掛下知行学長)

現に、さっそく他学科の先生や地域の方々からさまざまな相談がよせられ、悩みが解決できないか学生たちと共に研究を進めているところです。ロボット技術には、日常の小さな悩みから社会課題までをも解決できる無限の可能性が広がっています。たくさんの人々の生活に役立つものづくりを、これからも続けていきたいと考えています。

また、最近は小中学生のプログラミング教育を支援する教材の開発や実践にも取り組んでいます。今後、世の中の技術がさらに進歩することは間違いありません。そんな中で、ロボットの開発やメンテナンスをする職業はますます需要が出てくるはずです。1人でも多くの人にロボット分野に興味を持ってもらえる活動は、今後も力を入れたいことの1つです。

―高専生へメッセージをお願いします。

高専教員時代の岩野先生
▲高専教員だったころの岩野先生

高専生は、とにかく手が動きます。大学生は熾烈な受験戦争を乗り越えてきたこともあり、まず考えてから行動する学生が多い印象です。

一方で、高専生は、1年次から数多くの実習で実践的な技術を身につけつつ、高学年になるにつれて専門知識をより深めていくスタイルなので、少し考えてすぐ行動、不具合があればすぐ原因を突き止めて修正という風に、どんどん開発を進めていくことができる人材が育ちます。これは、エンジニア教育の理想の形だと思っています。様々な企業や大学の先生方から高く評価されている点が何よりの証です。

また、ロボコンなどの各種コンテストに参加すると専門的な技術が飛躍的に向上しますし、大学では4年生にならないと行わない卒業研究も5年次に経験できます。高専にはチャレンジできる機会が数多くあるので、様々な事を経験しながら超一流のエンジニアを目指してがんばって下さい。

岩野 優樹
Yuki Iwano

  • 福井工業大学 工学部 機械工学科 教授
    未来ロボティクスセンター センター長

岩野 優樹氏の写真

1998年 大阪府立工業高等専門学校(現・大阪公立大学工業高等専門学校) 機械工学科 卒業
2000年 滋賀県立大学 工学部 機械システム工学科 卒業
2002年 滋賀県立大学大学院 工学研究科 機械システム工学専攻 修士課程 修了
2005年 神戸大学大学院 自然科学研究科 システム機能科学専攻 博士後期課程 修了
2005年 大阪府立工業高等専門学校 総合工学システム学科 システムデザインコース助手
2006年 明石工業高等専門学校 機械工学科 講師
2009年 同 准教授
2019年 サウサンプトン大学(英国) 在外研究員
2022年より現職

SHARE

この記事のタイトルとURLをコピーしました

大阪公立大学工業高等専門学校の記事

大切なのは「双方向でのコミュニケーション」。学生の積極性を育てる、杉浦先生の授業方針とは。
「ティーチング・ポートフォリオ」先駆け校としての取り組みと、地域貢献としての理科教育に尽力
スライド上限は16枚! 大切にしている「守破離」の教育方針とは

アクセス数ランキング

最新の記事

交流会
月刊高専主催「高専教員×企業交流会」。具体的な質問も飛び交っていた当日の様子をレポート
アイキャッチ画像
研究職からプロアドベンチャーレーサーに転身! 「自分の選んだ道こそが正解」と胸を張って言える人生に
宮下様
高専は何でも学びになるし、人間としての厚みが出る。「自立して挑戦する」という心意気