国立高専機構と月刊高専が主催した「第3回 高専起業家サミット」のプロトタイプ部門で優秀賞を受賞した、大分高専のチーム「MiMiCs」。大分の特産品「もちとうきび」と放置竹林の竹を組み合わせた生分解性パッケージ「安心サインエコパック」で、食品ロスの削減に挑んでいます。
リーダーでプレゼンターの岩本瀬璃(いわもと せり)(サムネイル左)さんと、資料・Web作成を担当する成清嵩憲(なりきよ たかのり)(サムネイル中央)さん(ともに情報工学科4年)に、お話を伺いました。
素材そのものが「表示装置」になるパッケージ
―受賞された事業プランの内容を教えてください。
岩本さん:大分の在来作物で特産品である「もちとうきび」と、県内に広がる放置竹林の竹を組み合わせた生分解性パッケージ「安心サインエコパック」です。
特徴は2つありまして、1つは素材そのものが土に還ることです。もう1つは、もちとうきびに豊富に含まれるアントシアニンがpHに応じて色が変わる性質なので、パックの中に入れた食品の状態がパッケージの色で分かることです。賞味期限の日付だけで捨てられていた食品を「まだ食べられるかどうか」で判断できるようにして、食品ロスを減らすことを狙っています。
竹はセルロースナノファイバー(CNF)としてパッケージの強度を出す役割を担っています。
―プランを考えた背景には何があったのでしょうか。
岩本さん:きっかけは2つ重なっています。1つは、担当教員の森田昌孝先生の研究を通じて、大分のもちとうきびが作り手の減少で消えかけていると知ったことです。何とかできないかと考えるうちに、アントシアニンが豊富だという特徴に行き着きました。
もう1つは通学路です。毎日通る道に竹が生えていて、手入れされないまま放置竹林になっていました。調べたら竹はCNFに使えると分かり、この2つが結びついて生分解性パッケージという形になったんです。
―放置竹林は、大分県ではどの程度問題になっているのですか。
岩本さん:県民の課題として広く浸透しているとは言えないと思います。ただ、大分県のみならず、鹿児島県や福岡県など九州の多くの県は竹林面積が全国でも上位です。竹は根が浅いので、増えると土砂崩れのリスクが上がりますし、成長が早いため生態系にも影響します。認知度は低いけれど、確かに課題としてある——そういう存在です。
成清さん:私の地元はとても田舎なので、竹林は「どこにでもあるもの」という印象でした。岩本さんから今回のプランを聞いて、初めて問題点に気づかされましたね。もちとうきびの存在も、このプランで初めて知りました。「安心サインエコパック」で2つの地域課題を同時に解決できるのは、すごいことだと思いました。
―「賞味期限は過ぎているけれど、まだ食べられる」ことをパックの色で示すとのことですが、安全性の面はどう考えていますか。
岩本さん:実際に商品化して販売するとなった場合は、販売の前にデータの裏付けをしっかり取って、根拠として示せるものをつくり、消費者の方々に安心なものを届けることが大切だと考えています。今はpHによる色変化だけで考えていますが、プロダクトが完成した先で、ほかの判断材料を組み込むこともできればと思っています。
―プランはどのように練っていったのですか。
岩本さん:「思いついたらつくる、つくったら聞く」を繰り返しました。まず竹が実際にどれだけあるのかを調べて原料が足りるかを確認し、プロトタイプで色変化が本当に起きるかを自分の目で見て、その上で地域のスーパー等のバイヤーさまに「これは使えるか」を直接伺いました。あわせて、EUのPPWR規則(包装・包装廃棄物規則)を調べ、規制の方向性としても追い風があることを確認しました。
―一番苦労したのが、そのヒアリングだったそうですね。
岩本さん:技術やアイデアを考えることより、バイヤーさまへ「話を聞かせてください」とアポを取る作業のほうが、圧倒的に大変でした。メールは30件ほど送りましたが、返信がない方が当たり前で。電話も5〜6件かけました。実際にお会いできたのは3件ほどです。それでも、会ってくださった方の一言が、プランを一番動かしてくれました。
―たとえば、どんな言葉があったのでしょうか。
岩本さん:一番はコストです。生分解性の素材は環境には良いけれど、現状では値段が高い。それが私たちのプロダクトのネックだと、はっきり教えていただきました。あとは「アントシアニンで色が変わったパッケージに食品が入っていたら、美味しく見えるのか」という視点です。現場の方が何を大事にして商品を導入するのかは、机の上では分からないことばかりでした。
逆に、自分たちが当たり前だと思っていたことに、価値を見出してもらえた瞬間もありました。「地産地消で、しかも地元の学生がつくっていることには、価値があるんだよ」とおっしゃってくださったことがありましたが、「地元の学生がつくること」は、当事者の私たちには見えていなかった価値でした。
ビジネスコンテストに取り組んだ理由
―成清さんは、岩本さんからお話を聞いて、MiMiCsに参加されました。
成清さん:はい。岩本さんから「こういうアイデアを思いついたよ」と連絡があって、そこからみんなでサミット応募を目指して意見を練って、スライドをつくって——その一連の流れが楽しかったですね。
私が初めて参加したビジネスコンテストは「おおいた学生ビジネスプランコンテスト2025」でした。他のチームの面白いビジネスプランを聞けたり、自分たちの発表で実際に奨励賞をいただけたりして、「ビジネスコンテストってこういうものなんだ。面白いな」と思い出に残っています。
―成清さんは、チームでどんな役割を担っているのですか。
成清さん:企業の方にお見せする資料や、各種コンテストに提出する書類の作成などを担当しました。最近は、これまでの活動記録をまとめたポートフォリオサイトも制作中です。プレゼンのスライドは、デザインが得意な岩本さんがつくっています。
―岩本さんのスライド作成でのこだわりは何ですか。
岩本さん:「1スライド1メッセージ」を守り、情報を盛り込みすぎないことを一番意識しています。これは高専で学んだ考え方です。また、AIに任せると情報を詰め込みすぎてしまう気がして、スライドは自分の手でつくっています。
―そのスライドを用いたサミットでのピッチは、いかがでしたか。
岩本さん:ピッチを聞いてくださった方から評価の言葉をいただき、嬉しかったです。何度もビジネスコンテストを経験して、場数を重ねてきたからこそだと思いました。
ピッチで意識しているのは、プレゼンだけですべてを説明するのではなく、プレゼン後の質疑応答も含めてすべてを説明することです。そのための事前準備はしっかり行っていました。
実は、私がビジネスコンテストにきちんと取り組みたいと思った理由の一つに、奨学金の面接に落ちてしまった経験があります。あのとき、自分の伝え方が悪かったんだと感じていました。どんなに良い中身でも、伝え方が悪ければ伝わらない。だから、伝え方を改善したくて、ビジネスコンテストに参加してきました。自分の伝え方が変わってきたと実感できたことが、一番うれしい成長です。

―サミットではポスター発表もありました。感想を教えてください。
岩本さん:ピッチと違って一対一で話す時間が長いので、いろいろな方から質問をいただけました。印象的だったのは、AIで生成したパックのプロトタイプ画像を見て、中に入っている食品がプラン内容だと思われたことです。自分たちが当たり前だと思って説明を飛ばしていた部分に気づかされましたし、その場でプランや資料がブラッシュアップされていく感覚がありました。
また、ピッチを聞いてポスター発表にいらっしゃった方もいらっしゃり、とても嬉しかったです。
成清さん:CNFを添加したもちとうきびの生地の画像を見た方から「どんな触感なんですか」と質問されたのが印象に残っています。固まっているCNFや、色の変化が見えるサンプルも用意していたので、目の前で実物を見せる伝え方の有効性を実感しました。
あとは、他校の学生さんから「チームメンバーが揃っていていいね」と言われたことも印象的でしたね。仲間の大切さを実感しましたし、岩本さんに誘ってもらえたからこそ、私はサミットに参加できたんだなと嬉しく思いました。

停滞のほうが怖い
―専攻は情報工学科で、「素材系」は専門外だったと思いますが、高専での学びはどう生きましたか。
岩本さん:学びは別のところで生きました。一つはデータで判断する癖です。「放置竹林が問題らしい」で止めず、県内に実際どれだけあるかを数字で調べました。バイヤーさまへのヒアリングも、今思えば要件定義と同じで、相手が本当に必要としている条件を聞き出す作業でした。
もう一つは、安心サインエコパックを「情報を出すもの」として捉えたことです。賞味期限は印字された時点で固定ですが、色が変わるパッケージは中の状態をその都度出力してくれます。「素材そのものが表示装置になっている」という考え方が生まれたのは、情報工学科だったからかもしれません。
逆に新しく学んだのは、技術の外側です。PPWR規則のような海外の規制、チームでの役割分担、協力企業探しなど、技術が良いだけでは事業にならないと、身をもって知りました。
―今後の展望を教えてください。
岩本さん:学生のうちに、地元にいるうちに、形にしたいというのが一番の思いです。
しかし、現在はメンバー全員が4年生で、大学への編入学試験の準備期のため、チームで話し合って意図的にペースを落としているんです。起業したい気持ちははっきりありますが、チームを壊してまで急ぐものではないと考えています。来年の夏に試験が終わったら再始動して、止まっている協力企業探しを本格化させたいです。
―最後に、起業を考えている現役の高専生へメッセージをお願いします。
成清さん:私は岩本さんに誘ってもらったことで、起業に興味がある人たちの輪に入り、その熱量の高さを知ることができた側です。その立場で言いますと、サミットなどを通じて仲間と一緒に大分から福岡や東京に出て、本来関わるはずのなかった他校の学生さんと話せたことが、一番の財産でした。
挑戦には、起業したいという自分の気持ちか、誘ってくれる仲間か、何かしらのきっかけが必要だと思います。私は後者でした。そのきっかけを逃さないでほしいです。
岩本さん:「失敗を恐れるな」ではなく、その場にとどまることを恐れてほしいです。私自身、高専1~2年生の頃、夏休みに何をしたかと聞かれても、答えられるものが何もありませんでした。それが悔しく、奨学金面接の件もあったので、何か挑戦をしようとビジネスコンテストに参加するようになりました。
私たちは、通学路の竹を見て「調べてみよう」と動いたところからすべてが始まりました。失敗したら何かが残りますが、動かなければ何も起きないまま時間だけが過ぎます。停滞のほうが怖いです。
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