福井高専をご卒業後、長岡技科大に進学された岐阜高専の角野晴彦(すみのはるひこ)先生。「正月も下水処理場で研究していた(笑)」と語られるほど、コツコツ続けられた角野先生の研究は、実用化まであと一歩。高専時代の思い出や、研究のお話、教育についての思いなどを伺いました。
福井弁のギャップに戸惑った高専時代
-福井高専に進学を決めたきっかけは?
中3の時の担任の紹介で、高専の存在を知りました。中学校の時は高校に行く意味が分からずに「早く就職したい」と思っていたのですが(笑)、職業につながる勉強ができること、受験時期も早かったことなどから受験を決めた記憶があります。
入学してからは寮生活でしたが、県外の出身だったので、福井弁のギャップがすごくて(笑)。同級生や先輩の会話が聞き取れないことが多々ありましたね。5年生は20歳ですから、寮の玄関でタバコを吸いながらスポーツ新聞を読んでいる姿を見て、「ずいぶん大人っぽいな」と衝撃を受けました。
部活はバスケ部に所属しており、3年生の秋からはキャプテンも任されました。野球部以外は高校の大会に出られなかった時代だったので、大会の思い出などはないのですが、先輩にはとてもよく面倒を見てもらいましたね。
寮生活では上下関係がそれなりにあった時代ですが、理不尽な頼みごとのあったときは同じバスケ部の先輩が守ってくれたり(笑)、休みの日には車でドライブやキャンプに連れて行ってもらいました。もちろんバスケも楽しかったですが、1年生の時から先輩に名前を憶えてもらっていて、とても優しく接していただきました。
今は岐阜高専で教壇に立っていますが、実はバスケ部先輩のお子さんが岐阜高専にいたんですよ。学科は違いますがお子さんもバスケをしていて、不思議なご縁でとても嬉しいですね。
-研究はどのようなことをされたのですか。
高専の勉強が大変なことは覚悟していましたが、はじめは相当難しかった記憶があります。高専に入学してすぐ「最小二乗法」の計算でしたね…。勉強といっても、屋内ばかりでなく、学校の中に杭で囲まれた区画があるのですが、そこで測量の実習をしたりしました。
卒論では「雪がどうやって溶けるか」を研究したのですが、上手くデータが取れなくて(笑)。雪の中に色んなセンサーが刺さっているのですが、原因不明で上手く計れなかったんです。途中から解析にテーマを変えた記憶がありますね(笑)。
大学までのつもりが、大学院進学を決意
-その後、長岡技科大に編入されていらっしゃるんですね。
4年次のインターンシップで、電力会社に行ったときに、初めて他高専の学生や大学生たちを知って、「自分が井の中の蛙だった」ことを知りました。そういったこともあって、勉強は嫌いじゃなかったですし、推薦がもらえそうな成績はあったので進学を決意しました。ちなみに福井高専の辻野和彦先生はクラスのトップの成績だったんですよ!
-長岡技科大では、どのような研究をされたんですか?
今の研究にもつながる水処理の研究を始めました。ターゲットは開発途上国で、安くて簡単に下水処理ができるよう研究を進めました。数学で勝負する能力はないと自負していましたし(笑)、「計算は賢い人にやってもらおう!」という考えだったので、「賢い人がやらないような、めんどくさい、手間のかかる実験をする」が研究テーマを選ぶ理由でしたね(笑)。
実際の下水処理場という現場での地道な実験だったんですが、結果が出たら嬉しかったですし、指導教員の原田秀樹先生が外部発表を重視する方だったので、他大学と勝負するのは面白かったですね。企業と共同研究もしていましたし、現場で毎日実験を行っていたので、実際に「研究で水をきれいにしている」という実感もありました。
実は4年生卒業後に就職すると決めていたのですが、原田先生に「2年後は、どんな就職先でもかなえてやる!(たぶん、どんな就職試験にも挑めるようにしてやる、という意)」と言われて、修士に進んだんです。勉強は嫌いじゃなかったですし、教授に言われて舞い上がっちゃいましたね(笑)。
-修士修了後、企業に就職されているのですね。
何社か勤めたんですが、ちょっとしっくりこなくて。それに、就職氷河期と不景気で環境関連の仕事も少なかったですね。今後のことを考えていた時に、原田先生から電話をいただきました。「くすぶっている場合じゃないから」と、当時呉高専で勤務されていた山口隆司先生を紹介してくださったんです。
山口先生は大きなプロジェクトに携わっており、そこの研究員として一緒に研究することになりました。それが実証規模の下水処理実験施設の建設・検証で、共同研究先の企業と一緒に進めました。
山口先生は常にご配慮くださっていて、「論文を書いて、チャンスがあればパーマネントの就職試験に応募しろ!」と背中を押してくださいました。それで岐阜高専の公募を見つけて、ご縁をいただき今に至ります。
メインの研究である「電子産業排水の処理」とは
-現在の研究を教えてください。
現在も排水処理の研究を続けています。今のメインは「電子産業排水の処理」ですね。電子産業では洗浄にたくさんの有機溶媒を使用します。その処理の研究です。
排水処理は「好気処理」と「嫌気処理」に大きく分けられますが、「好気処理」は水の中で酸素を使い、有機物を分解します。人間の呼吸と一緒で、二酸化炭素に分解することで有機物が除去されるのですが、除去された約半分は汚泥(増殖した微生物)が出てしまうことと、水の中で酸素を送ること、これら2つのためにたくさんのお金が必要になります。
これに対し「嫌気処理」では、酸素を使わずに有機物を分解します。お酒を造るときと仕組みに近いのですが、メタンにまで分解することで有機物が除去されます。分解速度が「好気処理」よりも遅かったのですが今は改善されていますし、酸素を使わず汚泥があまり出ないことが特徴です。
研究自体はほぼ完成していて、今はここで出ている成果をどう社会に役立てるかというフェーズです。実用化まであと一歩なので、あとは一緒に研究してくださる企業を探している最中ですね。
「魔法のエネルギー」に頼らず「社会」を変える意識を
-他にも教育に関する研究をされているのですね。
教育の研究としては、エンジニアリングデザインの研究や課題解決型授業の開発などもやっています。「カーボンニュートラル」などは「循環型社会」の一環ですが、なぜ「社会」という言葉が入っているか考えたことがありますか?
「一部の天才が魔法のエネルギーを開発してくれて、それが生活を豊かにしてくれる」と期待している方もいらっしゃると思いますが、技術革新以前に「今の社会」が変わっていかなければならないんです。「今から育つ学生のために、社会を考えるきっかけをつくりたい」と、小中学生に向けた教育方法(出前授業)を開発しています。
エンジニアリングデザインでは各高専に向けてアンケートを行い、「学生の性格・意識に関する教育意識の重要性は上がっている」という結果が出ました。さらに「授業以外に育成される」という結果も出ています。
働き先をいくつも変えながらキャリアを上げ難い日本では、はじめの就職先がすごく大切です。なので、授業では自分のキャリアを描けるような内容を取り入れています。例えば、授業として、学生が企業フェスに参加して、粗品集めに加えて、社会人にインタビューをさせています。こんな取り組みで、将来を考えるきっかけをつくったりもしているんですよ。
-高専を目指す中学生にメッセージをお願いします。
直接的でも間接的でも、とにかく外に出てほしいですね。外に出ないと、他の大学生や高校生と差があるかどうかが分からないじゃないですか。授業、部活、せいぜいアルバイトがすべてになってしまいますから、例えば資格試験にでも挑めば同じ土俵の上に立つことができますよね。
また高校生と違って高専3年次はチャンスです。受験勉強の代わりにやりたい勉強をすることができますし、早めにインターンシップに行ったり海外に行ったり、カバン1つで思い出をつくることもできます。上手くいくと高専生しかできない良い経験ができると思います。
私は高専に入ってすごく良かったと思っています。ただ、「狭いところにずっといると芽が出ない、芽が出ているか見えない」というのは、ある意味高専の弱点です。やりたいことがあったら、どうすれば芽が出るか考えてチャレンジすると伸びやすいですよ!
角野 晴彦氏
Haruhiko Sumino
- 岐阜工業高等専門学校 環境都市工学科 教授
1995年 福井工業高等専門学校 土木工学科 卒業
1997年 長岡技術科学大学 工学部 建設工学課程 卒業
1999年 長岡技術科学大学大学院 工学研究科 修士課程 建設工学専攻 修了
1999〜2004年 建設会社、設計会社、公的研究機関
2004年4月 岐阜工業高等専門学校 環境都市工学科 助手、2005年 同 助教、2008年 同 講師、2011年 同 准教授
2021年より現職
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