大学卒業後、工業高校での教員経験を経て、岐阜工業高等専門学校の教授となった冨田睦雄先生。学生時代の進路選択から高専教員の道を志したきっかけや、現在の研究、モータの世界の魅力について伺いました。
電気電子情報の講義の合間に、図書館で古典の読書
―先生の学生時代について教えてください。
小中学校の時から理科が好きな少年でした。テレビゲームは一切買ってもらえなかったのですが、電子ブロックや科学の本は与えてくれて、さまざまな電子回路の実験をして喜んでいたのを覚えています。
夏休みの自由研究では、友達とリニアモーターカーの模型をつくりました。国鉄(今のJR)の宮崎実験線のリニアモーターが話題になっていた頃です。「車体には永久磁石を積むとして、推進のために線路に設置する磁石はどうすべきか……」「永久磁石では、NとSが引き合う位置で止まってしまうし……」と、現在の研究テーマに近い思考で試行錯誤したのですが上手くいかず、機械的な工作は下手だと自覚して諦めてしまいました。
一方で電気電子情報分野と同じくらい好きだったのが社会科です。歴史や地理、公民に関する記事を読み漁っては喜んで学習していました。理系も文系も楽しくて、高校は普通科の高校に進みます。
―高校での進路選択は、どのように決断されたのでしょう。
私が進学した高校では、理系を選んでも文系を選んでも「数学Ⅲ」の履修が必須でした。それまでの私は数学があまり好きではなかったのですが、ある時の実力テストでいくつもの補助線が突然ふっと降ってきたように見えて、数学が急におもしろくなりましたね。
理系の進学先を探して、電気電子情報分野を深く学びたいと思うようになったのは高校3年生の時です。学校祭の出し物で当時放送していたテレビ番組『世界一周双六ゲーム』の真似をして「日本一周双六ゲーム」を企画しました。
そのとき、「電子サイコロや各チームのコマが進む様子を、テレビのように実現するにはどうすればいいのか」「電気電子回路や『マイコン』を勉強するとできるのだろうか」と思い悩んだ経験から、電気電子情報分野を幅広く学べる三重大学に進んだんです。
―大学での学生生活についてお聞かせください。
専門分野の電気電子情報は、基礎学習から理解が深まり、気づけば理系科目の中で1番好きな分野になっていました。
しかし、法学や社会科学に関する本を読むのも止められず……。講義と講義の間に時間があれば、図書館に通って古典と歴史の本を読んだり、「宗教学」を履修して夢中に聴講したりしていましたね。大学を卒業したら、進路を変更して社会科学関係の大学院に行こうかと考えていたほどです。
ある時は「やっぱり電気電子情報関係が好きだな」という思いが強く、またある時は、「いや、社会科学や古典、歴史を勉強したい」と葛藤。進路に迷走してしまいました。転機が訪れたのは高学年になって電気電子情報の専門科目が増え、確実に単位をとっていかなければいけない状況になってからです。
数名で図書館に集まって宿題を解いたり、テスト前になると予想問題をつくって解いたりし始めて、さらには周りの友人たちに予想問題を配って解き方を教えるようにもなりました。まだまだ人に教えるということすらよく分かっていなかったのですが、次第に楽しくなって、「自分は電気電子情報関係の教員になりたい」と思うようになりましたね。
大学の恩師に相談すると、「大学院に進んで高専の教員を目指してみては」と勧められました。とてもありがたいお言葉をいただいたのですが、当時は「大学を出たら働いて、家計を楽にするもの」と信じていたのでお断りし、工業高校の教員として静岡で働くこととなります。
工業高校の教員から、高専の教員へ
―工業高校での教員生活はいかがでしたか。
いざ教え始めると、「教えるには、教えることの10倍は知っていないとうまくいかない」と習い、それを実感することになります。特に感じたのは実験や演習の授業でした。大学でも見たことがなかった機器を駆使して、生徒たちがリニアモーターカーの模型や信号機の模型などをつくっていくのを見て、理論を実践的に学ぶことの重要性を認識しましたね。
4年ほど経った頃には、導くのではなく、覚えるように教えるスタイルに物足りなさを感じ始めます。自分の研究能力が足りないことも自覚するようになり、研究能力を身につけたい、そして、「理論を実践的に学んで覚えるだけではなく、なぜそうなるのかという導出から教える」高専教員になりたいと思い依願退職を決意。大学院受験を考え始めました。
将来、何の保証も無いのに高校教員という公務員を辞職すること、うまくいったとしても27歳という5年遅れで大学院の修士課程に進学すること。どちらもお金のことも含め、親不孝なことだと思い、自分の将来を考えても大変重い決断でした。
しかし、この時にはもう、高専教員になる夢を捨てられず、進学を選んだのです。何事もそう簡単には諦めないことを心に刻んで、院試のために毎日6時間勉強し、名古屋大学大学院に進学することができました。
―大学院ではどのような研究をされていたのでしょう。
工業高校時代に誘導モータの実験をしていたこともあって、大学院ではモータ制御の研究に携わりたいと思っていました。運よく研究テーマに恵まれ、希望通りの研究ができたのは嬉しかったですね。研究が思うように進まず辛い時期もありましたが、諦めず取り組んだことで32歳の時に学位を取得。念願の高専教員になることができました。
―工業高校の教員から高専の教員になって、感じたことがあれば教えてください。
高専の強みは、実践的に学ぶこと。これは工業高校と同じです。しかし、高専は理論を導くことから5年間かけてじっくりと学ぶシステムで、工業高校よりも深い学びが得られる環境だと感じました。
また、高専では入学時から「これをやりたい!」と夢を抱いている学生が多く、勉強や研究に対するモチベーションが高い印象です。卒業後も就職ばかりでなく、専攻科や大学への進学も積極的なので、学生の進路相談の際にも次へのステップを見せるような指導を心がけています。
学会で発表しないと、もったいない!
―現在の研究テーマについて教えてください。
大学院の時の研究テーマを引き継いで、「同期モータの高効率制御」及び「高効率同期モータの開発」に関する研究をしています。具体的には、電気自動車やハイブリッドカーの駆動用モータや、エアコンの室外機に用いられている技術で、モータの動力を効率的かつ省エネルギーに稼働させ、エネルギー効率を高める研究です。
よく「モータって古い技術だよね」と言われます。何も知らない人が見ると、ただ回っているだけだと思われるのですが、深く研究すると小型化や静音化に向けた改善課題が次々に出てきて複雑です。でも、そこにおもしろさがあって、私は電気電子情報やモータに取り憑かれたんだと思います。
大事なのは、「何事もそう簡単に諦めない」こと。壁に当たっても簡単に諦めずに臨んだことは、きっと自らの課題探索能力や研究開発能力に生きると思い、学生たちにも伝えています。成果がすぐに求められがちな世界ですが、「Never give up!」が成功への1番の近道なんですよ。
―学生指導で力を入れている活動はありますか?
本科5年生や専攻科の学生とともに得た成果を、積極的に公の場で発表してもらうことに力を入れています。主に参加しているのは、電気学会に関係する全国規模の学会や、IEEE(米国電気電子学会)の関係する国際会議、高専パワエレフォーラムなどです。
高専生は1年生から何らかテーマを決めて研究結果をプレゼンテーションする訓練をしているので、そもそも一定のレベルがあります。しかし、学会がどんな場所かもわからないまま卒業する学生も多く、それはとてももったいないことだと思うのです。
国内外の学会になるべく連れ出し、公の場で発表することで、プレゼンテーション能力の向上につながるだけではなく、自分の研究をより深く理解できたり、分かっていたつもりのことが実はよく分かっていなかったことが分かったりします。今後の研究に役立つヒントを得てほしいと思っていますね。
―最後に、学生に向けてメッセージをお願いします。
自分はお手本とは言えない進路の決め方でしたが、納得できるまで十分に迷っていいと思っています。私は大学時代、少しでも興味のある授業の単位は全部取っていました。これは、とにかくできるだけ広い知識を吸収したかったからです。今になって点と点が線でつながるような化学反応が起きていることも多くあり、あの頃貪欲に学んでいて良かったと思う毎日です。
将来のための素養を身につけるのが学生時代。迷っている人はどんな分野でも、興味があるかどうかで考えて勉強してみてください。そして早い段階で「電気に興味があるかも」と気づけたなら、すぐに専門分野の世界に飛び込める高専へ来てくださいね。
冨田 睦雄氏
Mutuwo Tomita
- 岐阜工業高等専門学校 電気情報工学科 教授
1984年 愛知県立旭丘高等学校 卒業
1988年 三重大学 工学部 電気工学科 卒業
1995年 名古屋大学大学院 工学研究科 博士前期課程 電気工学、電気工学第2及び電子工学専攻修了
1998年 名古屋大学大学院 工学研究科 博士後期課程 電気工学専攻 修了
1988年4月 静岡県立公立学校教員採用 静岡県立浜松城北工業高等学校 電気科 教諭
1992年4月 静岡県立引佐高等学校 産業技術科 教諭
1993年3月 静岡県立公立学校教員 依願退職
1998年 岐阜工業高等専門学校 電気工学科 助手
1999年 岐阜工業高等専門学校 電気工学科 講師
2003年 岐阜工業高等専門学校 電気情報工学科 助教授
2007年 岐阜工業高等専門学校 電気情報工学科 准教授
2013年より現職
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