インタビュー

高専にいただけでは知らなかった世界を、学生たちに伝えていく

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学生時代は育志賞など多くの賞を受賞し、東京大学でポスドクとして研究を追求された後、現在は母校である香川高専 電気情報工学科の助教となられた北村 大地先生。これまでのキャリアや「音源分離」の研究について迫ります。

夢につなぐ思い、選択の連続

-高専に進学したきっかけを教えてください。

高専サイエンスフェスタ会場にて、エレキギターの友人とギターを弾く高専時代の北村先生
バンドをしていた頃(写真左)

「大学受験が無い」という理由で高専へ進学を決めました(笑)。高専に入学し、3歳年上の姉がエレキベースを始めた影響で、僕もエレキギターを購入したんですが、そこからギターに夢中になり、高専ではバンドを組んでいました。電気回路や電子回路の知識を生かして、自分でギターの音を変えるエフェクターも作っていましたね。最初は接触不良で全く音が出なかったのも、今ではいい思い出です。

2年生の時点で専攻科に進学することは決めており、3年生になる頃には、将来、楽器にまつわる電気電子情報分野のメーカーに就職したいと思うようになりました。

-専攻科や大学院ではどのような研究をされたのでしょう?

国際会議にて、発表したポスターとともに
修士2年で、初めて国際会議でポスター発表した時の写真(ギリシャのサントリーニ島にて)

「楽器物理音響」に関するテーマで研究に取り組んでいました。弦振動を数式で解いて実際のギターで測定すると、見事に一致するというものです。難しい分野でしたが、「楽器物理音響」の研究をされている先生のゼミに所属できたことは、とても幸運で、興味深く研究に取り組めました。先生とは今でも親交が続いています。

専攻科1年の後半で、第一志望のメーカーの就職セミナーに参加しました。でも、当時の募集職種は技術営業や販促がほとんどで、設計となると修士卒しかいないと言われて。現実を思い知らされた瞬間でしたね。そこからは就職活動続ける気になれず、奈良先端科学技術大学院大学へ進学を決めました。

北村先生の自撮り。同じ研究室の友人らとともに
修士2年の頃、同じ研究室の友人らとのスナップ写真

進学先についてあまり深くは考えていませんでしたが、結果的には猿渡洋先生という恩師に出会えて非常に運が良かったと思います。研究室では、音響信号処理の研究を行っていました。

修士1年の11月に再び就職活動を始め、積極的に進めている友達と一緒に自己分析や企業研究などをしてみたものの、どうしても身が入らない状況でした。周りは大手企業かどうか、給与はどうか、安定性はどうかの話ばかりしていたのですが、僕はそんなことよりも、その企業に入ってどんなことができるのかが知りたかった。そこが全くわからないまま就職活動はできないと判断しました。

かなり悩み続けて、ある日ふと思いついたのが「高専の教員」でした。学生時代に見ていた教員の方たちの姿はよく覚えていて、大変そうにしながらも、どこか楽しそうに仕事をされていました。仕事内容も雰囲気も、全て自分に当てはめて容易に想像することができました。

そこで、すぐに就職活動は中止して、高専の教員に必要な資格である博士号の取得を目指し、博士課程への進学を決意。結果的に大学院での就職活動歴はたったの2カ月です(笑) 。諸事情で博士課程は奈良先端大ではなく総合研究大学院大学に進学しました。ここでも、音響信号処理分野でご活躍されていた小野順貴先生という恩師に出会えました。

-そこから本格的に教育の道を目指されることになるわけですね。

「第7回 日本学術振興会育志賞授賞式」の看板の前で、ご両親とともに
博士3年の3月、育志賞の授賞式後に両親と

ええ。でも、次は大学教員という選択肢も見えてきたんです。現在も続けている音源分離の研究テーマに出会い、先生の懇切丁寧なご指導のもと、大きな賞をたくさんいただきました。特に、博士修了直前にいただいた育志賞では、授賞式で秋篠宮文仁親王と紀子様にもお会いでき、研究内容を直接お話しすることもできました。

このまま大学教員となり研究第一線を歩むのか。高専教員となり、若い世代の教育に従事するのか。幾度となく迷い、先生方に引き止められたこともありましたが、結局は高専を選びました。進学したからこそ見ることができた世界を学生たちにも伝えたいという思いが強くなったんです。

そして、たまたま母校の出身学科の教員公募がネットに公開され、最後の最後まで幸運が続き、今があります。もう一生分の運を使い果たしたかもしれません(笑)。

学生が能動的に学べるスタイルを目指して

-教員として仕事をはじめた1年目のお話をお聞かせください。

学生がPCを操作しているのを暖かくみまもる作業着姿の北村先生
研究室の学生との写真

高専教員となっての最初の授業は、忘れもしない3年生の論理回路でした。中間試験で「これくらいは解けてほしい」と思い、少し難しい問題を出したところクラス平均点が欠点を下回るという、とんでもないスコアを出してしまったんです。

このまま普通に授業をしているようでは駄目だと気付かされ、その日の内に即席でWebページを立ち上げました。授業ノートや演習問題を全てダウンロードできるようにして、学生のみんなが自主的に勉強できるように促す作戦です。

いまは授業内容に関わるYouTube動画をみんなに案内したり、Web上で動く回路シミュレータで論理回路を作って学生にURLで共有したり、トランジスタ回路の信号増幅の例としてエレキギターでロックな増幅音を演奏して聞かせたり、あの手この手を使って学生に興味を持ってもらおうと模索しています。

僕も高専時代は夏休みの宿題が8/31に終わらない派だったし(笑)、何も与えられないとサボってしまう気持ちはすごくわかるので、多少強引にでもレールを敷いて、学生が勉強に取り組む姿勢が作れるように心がけています。

―北村先生は、他にも独自の教育手法を取り入れられていると伺いました。

コロナ禍の影響もあって、2020年は中間や期末などの定期試験を廃止した授業設計を試みました。

これは、毎回の授業で30分の小テストを実施し、その合計点が試験の点になるというものです。学生には事前に30分のオンデマンドの授業動画を見てもらい、当日にそれを踏まえての授業を実施。その後すぐに小テストとなります。

長時間、受動的な説明のみで動画を視聴したり授業を受けたりすることは、学生にとって過酷です。短時間で集中して授業に取り組める時間配分で、学習内容を定着させるための試みでもありました。結果的に成績に反映されたかは疑問が残りますが、集中して授業に取り組んでくれる学生が増えた実感はあります。今後も教材のブラッシュアップをし、このスタイルを継続予定です。

-現在の研究分野ついて教えてください。

四方を凸凹した壁に囲まれた無響室で、音声の収録実験をする様子
無響室での音声収録実験

「音源分離」の研究を博士課程からずっと続けています。「音源分離」とは、複数の人の音声や音楽における楽器やパートなど、複数の「音源」が混ざった信号から、混ざる前の個々の音源を推定する技術です。

例えば、「Google Home」や「Alexa」などのスマートスピーカーが、きちんと音声を認識してくれないことがありますよね。テレビの音が横から鳴っていたり洗い物をしながら起動させたりすると、ノイズが入り認識精度が下がります。それをプログラミングで前段処理して、人間の声だけを綺麗に分離させる技術です。

この技術は、補聴器の雑音除去、音楽信号の自動採譜やリミックス、音を対象とした異常検知など、あらゆる音響システムの前段処理に利用できます。

日本は音響の研究が非常に強くて、世界を牽引してきた歴史を持つ国です。音源分離も同様で、音声の認識精度の向上は世界レベルで格段に進歩してきているのですが、音楽の芸術的価値を損なわないような性能などとなると、まだまだ進歩させなければならない技術だと考えています。

新たな学びの場を創造し続ける

-最後に、今後の展望をお聞かせください。

作業着姿の北村先生。ホワイトボードに書いた、実験の説明をしている
実験における説明の写真

近年は、自分の研究の興味を広げたいという思いがあり、音以外の信号処理(画像・動画・生体信号等)の研究にも着手し始めています。音響信号処理での専門知識を他分野にも生かせると信じて、学生とともに日々勉強中です。

また、教育については、学生が自分専用のPCを持つというスタイル「BYOD(bring your own device)」が本校でも導入できればと青写真を描いています。これがスタンダードになれば、さらに新しい授業スタイルを実現できるようになります。

例えば数学系の科目であっても、黒板を前に全員がPCを出し、学生各自が手元でプログラムを組んで関数の形を視覚的に確認しながら理解することができます。高専間でも積極的に情報交換をしながら、学生たちの学びの場をより良いものにしていきたいですね。

北村 大地
Daichi Kitamura

  • 香川高等専門学校 電気情報工学科 助教

2010年 香川高等専門学校本科卒業(入学時は高松工業高等専門学校)
2012年 香川高等専門学校専攻科卒業
2014年 奈良先端科学技術大学院大学修了
2017年 総合研究大学院大学修了
2017年4月〜2018年3月 東京大学大学院情報理工学系研究科の特任助教に着任
2017年4月〜2017年9月 東洋大学ライフデザイン学部人間環境デザイン学科の非常勤講師
2018年4月 香川高等専門学校電気情報工学科 助教に着任。現在に至る

北村 大地氏の写真

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