インタビュー

アクティブラーニングを活用した、情報セキュリティ教育の充実を図る取り組みとは?

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進歩の早い情報の分野において、セキュリティ教育に力を注がれている豊田工業高等専門学校 情報工学科 准教授の平野学先生。最新技術をバランスよく取り入れた実践的な学びなど、授業にもさまざまな工夫を取り入れ、学生の学びを刺激する先生に、高専の魅力などを伺いました。

環境にとらわれず、やりたいことに真っ直ぐだった学生時代

―先生ご自身も高専のご出身だそうですね。

旭川高専の卒業生なんです。地元は北海道の十勝です。広大な畑が広がるとても美しい場所ですよ。私が子供の頃からパソコンやプログラミングに興味を持っていることを両親が見ていて、「こんな学校があるよ」と紹介してもらったことがご縁で旭川高専に進学することになりました。

今から30年くらい前、私が中学生のとき当時まだ日本では珍しかったアップルのコンピュータ(マッキントッシュ)を何度も親にお願いして買ってもらい、それを使ってプログラミングして遊んでいるような子どもでした。旭川高専では有馬先生に大変お世話になり、毎日夜遅くまで卒業研究をやらせていただきました。

当時使っていたアップルのコンピューター

高専を出た後は、編入学試験を受けて豊橋技術科学大学に進学しました。北海道から愛知へ移りましたが、北海道の外へ出ることにはあまり抵抗もなく嬉しかったのを覚えています。豊橋技術科学大学では奥山先生の研究室でお世話になりました。この研究室の先輩方にはいまの日本のネットワークやセキュリティの業界で活躍されている方が多く刺激をいただいています。

大学(学部)から大学院へ進学するときに、当時まだ少なかったセキュリティを研究している先生がいらっしゃるということで、新しくできたばかりだった国立の大学院大学(学部のない大学)である奈良先端科学技術大学院大学に進むことにしました。

―進学・就職を経て、豊田高専に赴任されたきっかけは?

奈良先端科学技術大学院大学の修士課程を出たあと、東京で大手電機メーカーに就職したんです。というのも、一度は社会で働くことを経験すべきだろうと考えていたので、数年ですが社会の波に揉まれてきました。就職した2002年頃はITバブルが崩壊した直後で景気も悪かったにも関わらず何とか就職できて幸運でした。会社では尊敬できる上司や先輩、仲間たちに恵まれて、幸いなことに今でも交流が続いています。

ただ、修士課程を出る際に恩師である山口英先生に「博士課程で、いずれ戻ってきたいと思っています」とはっきりと伝えていたこともあって、東京で充実した生活を送っていましたが、お世話になっていた会社を辞めさせていただき、高専で働きながら博士課程で学び続けることにしました。

これまでの進路は、進みたいと思ったところに進学し、就職もかない、順風満帆のようにも見えますが、折々でお世話になった高専、大学、大学院の先生方、会社の上司や仲間がいなければ実現していないことばかりです。あとで振り返ってみると実は狭い世界で、皆さんがどこかでつながっているんですね。これにはびっくりしてしまいます。

K-SECでのトレーニングにより、学生がコンテストで優勝!

―ご研究内容について教えてください。

今は「ランサムウェア」の研究をしています。「ランサムウェア」というのは、よくニュースでも話題になっていますが、感染するとコンピューター上のファイルを暗号化して、身代金(ランサム)としてビットコインなどを請求するプログラムのことです。このランサムウェアを従来のアンチウイルスソフトよりも賢い人工知能を使った方法で検知する研究をしています。従来の手法では難しかったランサムウェアの変異種や新種を検知できるようになります。

ランサムウェア研究の機材

私が高専で働きながら博士号取得を目指した研究をしていた時、大学院の恩師である山口英先生が、日本にできたばかりの内閣サイバーセキュリティセンター(NISC、当時は内閣官房情報セキュリティ対策推進室)の初代の情報セキュリティ補佐官を務めておられました。

先生が仮想化技術を用いてセキュリティを強化する大規模プロジェクトを始められた時、産学官のチームの一員として、日本を代表する大学や企業と並んで豊田高専を入れていただきました。そのときの若い先生方が中心となって開発した日本発のセキュリティに特化したハイパーバイザー(仮想化のためのソフトウェア)が今の研究のベースになっています。

研究は面白くて、論文を投稿すると世界中の研究者からコメントをいただけますし、逆に査読や国際学会を通して世界中の研究者の成果にコメントするなど、お互いの研究がどんどん良くなっていく楽しさがあります。先生が研究している後ろ姿を学生に見てもらいながら、その面白さを学生にも伝えられるようにと情報セキュリティ教育の拡充にも取り組んでいます。

専攻科生2名とオンラインで学会発表をしている様子

とくに高専機構が主導しているK-SEC(サイバーセキュリティ人材育成事業)は大きな役割を果たしていて、全国の高専の先生と一緒にサイバーセキュリティのカリキュラムを作ったり、高専セキュリティコンテストやセミナーなどへ学生と参加したり、教員向けの最新のトレーニングを受けさせていただいたり、数えるときりがありません。私の研究室の学生もK-SECのコンテストやセミナーに参加してスキルを高め、令和2年度の「情報危機管理コンテスト」で文部科学大臣賞を受賞しました。

「情報危機管理コンテスト」文部科学大臣賞の賞状

―情報危機管理コンテストとは?

毎年開催される「サイバー犯罪に関する白浜シンポジウム」の会場で並行して行われる大学や高専の学生が参加する歴史あるセキュリティコンテストです。文部科学省・経済産業省・警察庁などが後援しています。私の研究室からは過去2回、出場させてもらっています。昨年(令和2年)は、専攻科生2名・本科生1名のチームで参加しました。

内容は平たくいうとロールプレイをするのですが、学生らが仮想企業に勤めるシステムエンジニアや技術者に扮します。そして、リアルタイムでサイバー攻撃が発生し、どのように対処するかという判断を求められます。

さらに、実際にサーバやルータの設定を自分たちで変更するところまで求められるのです。専門家でも対応が難しい課題に対して、短時間でリスク分析をして最適な行動を決定していく「セキュリティインシデントハンドリング能力」を競います。

コロナ禍のため研究室からオンラインで参加した令和2年度「情報危機管理コンテスト」

昨年参加した3名のうち、専攻科生の2名はそれまでに何度もK-SECの講習会を受けており、勉強熱心だったこともあって、文部科学大臣賞という見事な結果を残してくれました。また、参加者の多くが大学院生であるなか、私たちのチームのメンバ1名が本科3年(高校だと3年生)だったのを聞いて皆さんびっくりしていました。学会でもコンテストでもそうなのですが、若い高専の学生はそれだけでも皆さんに注目していただけます。

令和3年の3月には同じ学生たちがICTSC(ICTトラブルシューティングコンテスト)の全国大会で第3位を獲得しました。また、同じ3月にランサムウェアの研究でも学会賞(情報処理学会のコンピュータセキュリティ研究会の第92回CSEC優秀研究賞)をいただいています。

ICTSC(ICTトラブルシューティングコンテスト)全国3位のトロフィー

eラーニング教材を用いた実践的な授業への取り組み

―授業ではさまざまな教材を取り入れた「アクティブラーニング」を行っているそうですね。

高専ですから、もともと手を動かしたいという学生が多いと思うんです。とくにネットワークやセキュリティの分野は進歩が早いため、時代を経ても変化しない基礎理論を中心に据えつつも、実際に現場で必要とされる最新技術をバランスよく組み合わせて、学生の興味を高めるように工夫しています。

たとえば、本科の「情報ネットワーク論」と専攻科の「ネットワークセキュリティ」の授業では、ネットワーク機器で世界最大のシェアを持つ米国Cisco 社が提供する Networking Academy というeラーニング教材と実機演習を取り入れています。

Cisco社のネットワーク教材を用いて実機演習をしている様子

ここでも点がつながるのですが、大学院時代の恩師である山口英先生が 2010年から日本でCisco Networking Academy を普及させるため Training Center Japan の西日本代表を務めておられていて、この教材を教えられる先生(トレーナー)の育成に力を入れておられました。このようなご縁もあって最新の CCNA (Cisco Certified Network Associate) 最新版(version 7)の英語教材の日本語監訳には私も協力させていただいています。

今ではこの Networking Academy は高専機構のK-SECでも導入されています。恩師の山口英先生は2016年に52歳の若さで難病のためご逝去されたのですが、自分が蒔かれた種がこうやって若い人たちに広がっていることを喜んでおられるのではないかなと思っています。

Cisco の教材はルータとスイッチの実機をつかった「ラボ」という体験型演習が含まれており、さらに仮想化や自動化といった最新技術も一通りカバーしているため高専にマッチした教材だと思っています。

Cisco Networking Academy の eラーニング教材

また、昨年度はコロナ禍で一気に社会にクラウドコンピューティングが浸透しました。そこで今年から本科4年の必修科目の実験において、IAサーバを10台つかって、自分たちの手で学内にクラウド基盤を作るグループワークを開始しました。

自分達で学内に構築した IaaS (Infrastructure as a Service) 型のプライベートクラウドに、仮想化とコンテナをつかってグループごとに開発したウェブアプリを配備するアクティブ・ラーニング型の授業です。マイクロソフト社の Teams をコラボレーションツールとして使い、github.com でソースコードを共有させています。

この実験の導入にあたっても、コンテストに参加した学生たちから興味があることを聞いてカリキュラムに取り入れています。このように優秀な学生とお互いに切磋琢磨しながら一緒に授業や研究をできるのが、高専教員のやりがいのひとつだと思います。

―今後の目標について教えてください。

高専の良いところは早くから専門性の高い分野が学べるところですが、その分、普通の高校生や大学生と比べてすこしだけ視野が狭くなりがちです。たとえばセキュリティは法律と技術だけで解決できることは意外と少なくて、個人の倫理観や組織の運用上の工夫で補っていかないといけないことがあります。

そのような難しい局面であっても、それまでに学んできた幅広い教養や歴史文化への深い理解が正しい方向へ導いてくれるかもしれません。そういったことも念頭に置きつつ、これからもサイバーセキュリティやネットワークの授業のアクティブラーニング化に取り組み、優秀な学生を輩出していければと思っています。

地元十勝に広がる田園風景

平野 学
Manabu Hirano

  • 豊田工業高等専門学校 情報工学科 准教授

1998年 旭川工業高等専門学校 電気工学科 卒業
2000年 豊橋技術科学大学 工学部 情報工学課程 卒業
2002年 奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 情報処理学専攻 博士前期課程 修了、2008年 同専攻 博士後期課程 修了
2002年 株式会社東芝 ネットワークサービス&コンテンツ事業統括
2004年 豊田工業高等専門学校 情報工学科 助手(助教)、2009年 同講師、2011年から現在 同准教授
2012年 University of Kent (UK), School of Computing, Visiting Senior Lecturer

平野 学氏の写真

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