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ガン細胞から多年生海藻まで。「環境系」という新たな研究テーマがもたらす学びの面白さを伝える

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宇部高専の物質工学科で准教授を務める小林和香子先生。ライフワークとしてガン細胞の研究を続けながら、海藻の再生技術という新領域に踏み出したそうです。2021年の取材以降、2度目のインタビューとしてお話を伺いました。

多年生海藻の研究で藻場再生を目指す

―前回取材から現在に至るまでで、大きく変わったことを教えてください。

ガン細胞の研究は、今も私の研究の一番の柱として続けています。ガンで怖いのは「転移」です。転移さえ止められれば、ガンで人が亡くなることはないとも言われています。その分子メカニズムの解明に向けて5年間取り組んできた中で少しずつ良い結果が積み上がり、近く論文にまとめる予定です。

前回ご紹介した昆虫の研究に代わり、近年新たに始めたのが環境系の研究です。同学科の杉本憲司先生がDNAを扱う環境研究を始める際、分子生物学が専門の私にサポートを依頼されたことがきっかけで、昨年から本格的に研究をスタートしました。

そしてその頃、私の研究室に配属された学生が「植物の研究がしたい」と言ってきたのです。植物を扱ったことがなかった私が杉本先生に相談すると、「海の植物(海藻)ならできますよ」と一つテーマをいただき、小林研として初めて環境系の研究を立ち上げました。

現在取り組んでいるテーマは「フリー配偶体」と呼ばれる技術の確立です。簡単に言えば、海藻の赤ちゃんを試験管の中で育てる技術です。ワカメのような1年生海藻ではすでに確立されていますが、クロメのような多年生海藻ではまだ確立されていません。

▲採取したクロメ

―なぜ「多年生海藻」のフリー配偶体が重要なのでしょうか。

温暖化や食害の影響で、藻場は全国的に減っています。魚の住処になり、CO₂を吸収する「ブルーカーボン」の役割も担う藻場の再生は、漁業や環境保全において喫緊の課題となっています。

ワカメは1年で枯れてしまいますが、研究対象としているクロメなどの多年生海藻は、何年もかけて成長し続けるので環境保全に有利に働きます。多年生であれば毎年育て続けられるので、毎年移植を繰り返すことで藻場を着実に回復させていけると考えています。

稲の田植えに例えるなら、ある程度大きく育てた苗を田んぼに植えるように、食害のリスクを回避できる大きさまで研究室内で育てた海藻を海に持っていく。その仕組みを実現することが目標です。

―現在の研究状況を教えてください。

まずは「フリー配偶体ができるかどうか」を確かめる段階です。雌雄に分けた配偶体を顕微鏡で観察しながら育て、受精させて芽が出るかどうかを確認しています。ワカメと比べてフリー配偶体ができる確率が低いのですが、その原因はまだわかっていません。光の照度や水温など生育環境の違いが影響しているのではないかと仮説を立て、条件を変えながら実験を重ねています。

▲ワカメの配偶体。オス(左)は細胞が小さく分岐が多いのに対し、メス(右)は細胞が大きく分岐が少ない

また、配偶子(精子・卵子にあたるもの)を取り出せる時期が、ワカメは3月頃、クロメは9月下旬〜10月頃と異なるため、その時期を逃さないスケジュール管理も重要です。年に一度のチャンスなので、集中して作業を進める必要があります。

▲クロメを小さく切り、光を当てることで遊走子(べん毛をもって泳ぐ胞子)を放出させている様子

研究は基本的には室内が中心ですが、フィールドワークとして、岩国や、その近くの大島まで海藻を採りに行くこともあります。採取した場所に戻す形でのリリースを基本とし、将来的に技術が確立できれば、各地の海藻から配偶体をつくり、それぞれの海域に移植するという展開も視野に入れています。技術が一度確立されれば、応用の幅は一気に広がるはずだと見込んでいます。

「映える」実験で探求心を刺激

―教育面での変化を教えてください。

以前は高学年中心に授業を担当していましたが、今は低学年が中心です。「基礎生物」「生化学Ⅰ」の座学に加え、1年生と3年生の実験を担当しています。

座学では、学生が経験してきた体内変化を例に挙げながら、「身体の中で起きていること」への興味を引き出すようにしています。医学部大学院出身という経歴を生かして、病気の話や性教育に関する内容も織り交ぜるなど、身近なテーマはやはり反応が良いですね。

接し方も高学年とは変えています。高学年は大人として対等に接しますが、低学年にはもう少しキリッとした姿勢で臨んでいます。授業中に怖いと思われることもあるようですが、それは安全管理を最優先にしているから。普段は話しやすいタイプなので安心してください(笑)

―実験については、何を重要視されているのでしょうか。

1年生の実験では、「まず実験を楽しいと思ってもらうこと」を最優先にしています。キーワードは「映え」。色が次々と変わる反応の実験や、鮮やかなガラス玉をつくる実験など、目で見て楽しい体験を通じて興味を引き出す工夫をしています。

写真や動画を撮ってレポートの結果として使うことを推奨しており、SNSへの投稿もどんどん勧めています。物質工学科の実験が面白いということを学生自身が発信してくれれば、理系科目全般や学校の広報にもつながると思っています。

▲グループワーク学習で学生が作製した、バロット(孵化直前のアヒル)の透明標本

ただし、楽しいだけでは終わりません。実験ノートは毎回17時までに提出といったルールを設けています。提出時間を管理することで予習・復習ができているかも確認できますし、「期日を守る・納期を守る」という社会人に欠かせない習慣を、学生のうちから身につけてほしいと考えているからです。提出が遅れた学生には「いつなら出せそう?」と声をかけて、必ず達成してもらえる仕組みをつくっています。

3年生の実験では微生物・生化学の専門的な内容に進み、遺伝子組換え大腸菌を使ったDNA抽出や酵素活性の測定など、より高度な実験に取り組んでいます。

広く学べば知識はつながっていく

―研究室の運営で心がけていることを教えてください。

研究は「無理やり進めるものではない」という考えから、自主性を重んじる運営を心がけています。学生の様子が気になる時は、まず雑談から入って話しやすい雰囲気をつくり、本人が相談してくるまで待つスタイル。どうしても様子が気になる場合は、周囲の学生に「最近どう?」と聞いて情報を集めることもあります。

現在の研究室には5年生6名、4年生5名、専攻科生1名の計12名が在籍しています。ガン細胞チームと環境系チーム(フリー配偶体)に分かれていますが、どちらにも共通しているのは「生き物のお世話」が必要な研究だということ。夏休み期間中も誰かが出てきてお世話をするのは当たり前で、細胞も海藻も放っておけません。

学生たちは横のつながりが活発で、クラスのグループの垣根を越えて自然と情報共有し合える雰囲気ができています。5年生のうち4名が進学予定(専攻科2名・大学2名)で、進学する学生には「テーマは変えなさい」と伝えています。生物でも無機でも化学でも、広く学んでいれば必ずどこかでつながる——そういう考えからです。

―学生に身につけてほしい力を教えてください。

「継続する力」です。学生時代は、実験は教員が予備実験を済ませた上で設計するので、基本的に成功します。しかし、社会に出てからの研究は違います。イチから手探りで進めていくので、失敗の方が圧倒的に多い。9割9分は失敗、とイメージしておくくらいが正直いいです。それでも条件を変えながら続けていくことが、最終的に成果につながっていきます。

失敗が重なると、途中でやる気をなくしてしまう学生もいますが、そこで声をかけて寄り添うのが私の役割だと思っています。継続する力は、研究だけでなく社会に出てからも必ず役立つはずです。

―研究の上での今後の挑戦について教えてください。

一番の挑戦は、環境系の研究をどこまで発展させられるかです。まだ立ち上げて2年ほどですが、技術を確立して実際に藻場の再生に貢献できる段階まで持っていくことが目標です。ガン研究との両輪を維持しながら、環境系をどこまで大きく育てられるかに今は注力しています。

学生に寄り添う中で、私自身も学び続けています。発酵食品の研究をしたいという学生が来たとき、食品分析には化学系のアプローチが必要で、私が一から有機化学を勉強しなければなりませんでした。学生のやりたいことに応えるために自分も学ぶ——その姿勢は大切にしています。

余談ですが、研究室を出ても「生き物のお世話」は続きます。自宅では、以前の取材でもお話ししたインドホシガメの「錦野さん」が元気に暮らしています。寿命は約50年といわれているので、私より長生きするかもしれませんね。

夏は公園でタンポポの葉を摘んできたり、モロヘイヤを買ったりして食事管理をしています。葉物のいい部分は錦野さんにあげて、私が茎をいただくことも。幼少期に噛まれた経験から毛のある動物は苦手なのですが、噛まないカメや爬虫類は大好きです。ガン細胞もクロメも毛はありませんし、不思議と生き物への愛情は一貫しているようです(笑)

▲錦野さんとお花見

小林 和香子氏
Wakako Kobayashi

  • 宇部工業高等専門学校 物質工学科 准教授

小林 和香子氏の写真

2004年3月 鹿児島県立鹿児島中央高等学校 卒業
2008年3月 鹿児島大学 教育学部 学校教員養成課程 保健体育科 卒業
2010年3月 鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 医科学専攻 修了
2014年3月 鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 先進治療科学専攻 生体機能制御学講座 生化学・分子生物学分野 修了(博士)
2014年4月 鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 生化学・分子生物学分野 助教
2017年4月〜2018年9月 鹿児島学園加治木看護専門学校 非常勤講師
2018年10月 宇部工業高等専門学校 物質工学科 助教
2021年10月より現職

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