九州大学や国立機関でエネルギーに関する研究に従事したのち、地元でもある山口県の宇部高専 電気工学科 准教授に着任された吉田雅史先生に、これまでの歩みついてインタビューしました。吉田先生が専門とする核融合発電の研究の魅力に迫ります。
エネルギーに興味を持ち、九州大学へ
―幼少期はどのように過ごしていましたか?
自然に恵まれた環境だったので、いつも外で遊びまわっていました。何かきっかけがあって現在の研究に進んだわけではないのですが、なんとなく理科は好きでしたね。小学生からサッカーをしていたので、中学ではサッカー部に入り練習三昧の日々でした。
地元の高校では、理系に進みました。また、中学から一緒だった友達に声を掛けられたのがきっかけで、器械体操部に入部。1年間のうち360日は筋トレに励み、練習の成果もあって、インターハイにも出場することができました。
授業と部活で忙しい毎日を送りましたが、部活の引退後に待っていたのが進路選択です。大学ではエネルギーを専門にしたかったのですが、どの大学を選べばいいのか当時はあまりわかっていませんでした。そんな中、九州大学には「エネルギー科学科」があったので「ここに行こう!」と決めて受験。合格して希望通りに進学しました。
余談ですが、大学で入った部活動は、サッカーでも器械体操でもなく、社交ダンス部です。規模が大きな部活動で、男女合わせて50名ほどの大所帯。ほぼ全員が初心者でゼロからのスタートだったので、みんなで楽しく練習に励みました。
—大学ではどのような研究をされたのでしょうか?
人々の暮らしは、火力や水力、原子力などさまざまなエネルギーに支えられていますが、私が研究しているのは、「再生可能エネルギー」を越えた、さらに先のエネルギーと考えられている「フュージョン」や「核融合」と呼ばれる分野です。
次世代のエネルギー「核融合発電」のメリットと課題
—研究について詳しく教えてください。
原子が割れる際に発生するエネルギーを利用したのが原子力発電ですが、先ほどお話した「核融合」は、小さなエネルギー同士がくっつく時に生まれるエネルギーのことで、実用化に向けて長年研究が続けられてきました。
この方法は制御するのが難しいのですが、社会問題となっている高レベルの放射性廃棄物の保管量が少なくて済むのがメリットです。また、現行の原子力発電の場合は、不具合が生じた場合に発電機が暴走する可能性があるのですが、核融合のエネルギーを使う場合はその心配がいりません。
さらに、ウランではなく海水から燃料を取り出せるので、将来の発電方法のひとつとして有力視されてきました。
核融合発電をするためには、プラズマ状態をつくり、プラズマの温度を上げる必要があります。身近な例を挙げると蛍光灯もプラズマの1種で、温度は1万℃ほどです。ところが、核融合発電をするためには1億℃まで上げる必要があります。プラズマを温める手法について世界中の学者たちが研究を進めていて、私もその1人なんです。
—スケールが大きくて想像するのが難しいのですが、具体的にはどんな加熱方法なのでしょうか。
例えば、お風呂の浴槽だと、お湯がぬるくなったら、「追い炊き」機能を使いますよね。その他、電子レンジのような機械で一気にお湯を温める方法もありますが、私の場合は、そのお風呂に熱いお湯を注ぎ足すような加熱方法を研究しています。100℃のお湯に1000℃のお湯を入れるような感じでしょうか。
数十年前までは数秒単位の間しか加熱によって温度を保てなかったのですが、近年では世界中で研究が進み、100秒くらいは加熱できそうだとわかってきました。1時間、1日、1週間と継続して温度を保てる加熱方法を模索していくのが、研究の目下のテーマです。
—難しい点、またはカギとなるポイントを教えてください。
1億℃ともなれば、並大抵の方法では一気に温度を上げることはできません。そのため、これまでの方法とはまったく別の方法でもアプローチを続けている状態ですので、それらの研究を同時に進めるのがものすごく大変です。しかし見方を変えれば、現在進行中の世界最先端の技術に携わっているということ。なかでも日本はその分野の先進国なので、研究は魅力的で楽しく、やりがいにもつながります。
「意志あるところに道あり」——今を楽しんでほしい!
―高専教員になるまでは、どのような道を歩まれたのでしょうか。
大学院時代は就職するよりも研究を続けたい気持ちが強かったので、ご縁もあって日本原子力研究開発機構(現:量子科学技術研究開発機構)に所属できたのは幸いでした。また、研究会での出会いがきっかけで山口大学へ赴任することになり、宇部高専の隣の敷地の研究室へ。このタイミングで地元の山口へ戻ったのも意外でしたが、まさか自分が高専の教員になるとは、高校生時代には夢にも思っていませんでした。
ただ、大学院以降の研究では自分より年下の学生と話す機会が増えたので、その頃から「教える」ことに関心を持っていたと思います。私自身は高専出身ではありませんが、高校は男子校だったので環境としては似ていて、違和感なく馴染めました。赴任してまだ1年ほどですが、もう何年もいるみたいです(笑)
—高専での授業や研究についてはいかがですか?
今年は4・5年生の電力や高電圧に関する授業を担当しています。電気工学科の中でもこの分野は難易度が高く、不安を抱えている学生も多いのですが、将来どこかで役立って自分の道を切り拓く知識になるかもしれないので、ぜひ前向きに取り組んでもらえるとうれしいです。伝える側としては、板書を大きく書き、高専生たちの反応を見ながらゆっくり教えるよう心掛けています。
また、今年の10月からはゼミで4年生8人、5年生6人と一緒に研究を進めています。しかし、今年からのスタートですので、装置も資料も受け継ぐものがなく、すべて自分たちで整えていかないといけません。大変な道のりですが、コミュニケーションを取りながら自由に楽しく積極的に研究を進めてもらいたいです。
―高専でのその他の活動や、プライベートについて教えてください。
陸上部の顧問を務めていますが、陸上の経験がないので、引率などのサポートがメインです。授業、研究、陸上部とかなり充実した毎日を送っています。そのため、これと言った趣味は設けていないのですが、娘たちと遊ぶ時間が癒しのひとときです。上から4歳、2歳、0歳で、みんな女の子。元気でかわいいですよ。
あと、3年生の担任も受け持っています。コロナ禍の制限が少しずつ緩和されてきたので、クラスマッチや高専祭など行事が少しずつ活発になってきました。
また、2泊3日の工場見学である研修旅行も久しぶりに再開しましたね。大阪では関西電力やパナソニックといった大手企業の工場を見学させていただき、普段はなかなか見ることのできない現場を間近で見て、高専生たちも多くを学んだようです。
―最後に、現役の高専生や未来の高専生にメッセージをお願いします。
「意志あるところに道あり」という言葉の通り、志を持っていれば、どんな道を進んだとしてもきっと良い出会いがあるはずです。10代の早い段階で将来の目標や夢を見つけるのは、必ずしも簡単ではないと思います。わからないことが多いかもしれませんが、とにかく今を思いっきり楽しんでください。後悔せずに自分が選んだ道で、いつかやりたいことが見つかればいいなと思います。
高専は思いやりのある優しい学生が多いので、困った時に手を差しのべてくれる先輩がたくさんいます。現在は男子学生の割合が大きいですが、エネルギー関連の分野は女性の研究者も増えている分野なので、興味があればぜひ門をたたいてみてください。
吉田 雅史氏
Masafumi Yoshida
- 宇部工業高等専門学校 電気工学科 准教授
2006年3月 九州大学 工学部 エネルギー科学科 卒業
2008年3月 九州大学大学院 総合理工学府 先端エネルギー理工学専攻 修士課程 修了
2010年4月~2011年3月 九州大学 日本学術研究員(DC2)
2011年3月 九州大学大学院 総合理工学府 先端エネルギー理工学専攻 博士課程 修了
2011年4月 九州大学 日本学術研究員(PD)
2012年4月 日本原子力研究開発機構 核融合研究開発部門 JT-60NBI開発グループ 博士研究員
2015年4月 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 核融合研究開発部門 ITERプロジェクト部 NB加熱開発グループ 任期付研究員
2016年4月 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 核融合エネルギー研究開発部門 ITERプロジェクト部 NB加熱開発グループ 任期制常務職員
2016年10月 山口大学大学院 創成科学研究科 助教
2021年9月より現職
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