富山高専の国際ビジネス学科を卒業後、現在は埼玉大学にご在籍の青木大介さん。高専では5年間、クラスで男子学生1人という異例の経験をされたそうです。「常に全力」がモットーの青木さんに、高専時代の思い出や、卒業研究のお話、大学での生活を伺いました。
男女比が1:40⁉ 異例のクラスで過ごした5年間
―青木さんが富山高専に進学されたきっかけを教えてください。
小学校の時に、両親と一緒にカナダ出身の方が開催している英会話スクールに毎週通っていました。そこで英語を学んで語学に興味を持ったことが、今の人生の原点です。先生が陽気な方だったので、勉強というよりは会話をするために行っている感覚が強かったですね。また、当時から経営者への漠然とした憧れもありました。
高専の存在は、中学生の時、仲の良い友達が「高専のオープンキャンパスに行く」と言ったことをきっかけに知りました。当時の担任の先生が「人と違うことはいいことなんだよ」と教えてくれたこともあり、普通科とは違う高専のカリキュラムに惹かれましたね。秋季オープンキャンパスに参加して、「ここなら自分のやってみたいことが学べる」と感じ、国際ビジネス学科に入学しようと決めました。
―実際に進学されてみて、いかがでしたか。
高専に入って良かったことは、唯一無二の経験ができたことです。私が在籍していたクラスの男女比はなんと1:40で、5年間男子1人という状態で学生生活を送りました。全国どこを探しても、このようなことが起きている教室はほとんどないと思います(笑)
そういう状態だったので、地元の友達からは「羨ましいな」と言われていたんですが、正直そういったことは全然なくて。知り合いもいなかったですし、本当にゼロから高専生活が始まりました。
最初の2日間ぐらいは全然喋れなくて、中国語の体験授業の「ニイハオ」で初めて女子と話しました。でも、すぐ打ち解けて、バレンタインでは毎年机に山盛りチョコレートをもらっていましたね。卒業する頃にはちょっと減っていましたが、やっぱりそれは嬉しかったです(笑) 当時のクラスメイトとは今でも付き合いがありますし、本当に最高の仲間です。
授業内容は、期待通りでした。自分が学びたいことを、普通科では体験できない専門的な内容で学べる毎日に喜びを感じました。語学に重きを置いているカリキュラムだったので、学びたいことと一致していましたし、第二外国語で選択した中国語の授業では、新しい言語を学べてすごく楽しかったですね。
当時は、15歳の時点で専門分野を絞ることは自分の可能性を狭めているのではないか、という気持ちもありましたが、今振り返ってみると、結果的には良い選択だったと思います。
-卒業研究はどのようなことをされたのですか。
筋トレに毎日励んでいたので、ジムの経営について調べたいという理由で、経営学を学べる宮重ゼミに所属しました。でも、実際の卒論テーマを決めるのが、僕は少し遅かったんですよね。夏のゼミ合宿で提出した論文の出来があまり良くなくて、銭湯で宮重先生といろいろ語り合って、ようやく研究分野が決まりました。
卒業研究は、BOP層向けCSV事業を行う企業が企業価値と地域価値を向上させるプロセスを明らかにする研究をしました。企業が環境保護や社会貢献活動の一環として、植林やCO2を減らす取り組みなどをしますよね。その活動をCSR(Corporate Social Responsibility)と呼ぶのですが、これは事業そのものとは関係のない、あくまで慈善活動にすぎません。そこに着目して、「CSRをビジネスにしてしまおう」というのがCSV(Creating Shared Value)なんです。
もともとは、私の母から勧められて聴講した富山大学の公開講演で、CSVという話題を知ったことがきっかけです。「元々ビジネスではないところをビジネスにした」という考え方に惹かれましたね。
中でも僕はBOP(Bottom of the Pyramid)と呼ばれる、いわゆる貧困層・新興国を対象としたCSV事業をテーマにしました。例えば、ある会社では、ガーナで安全で高品質なシリアルの原材料の供給源を確保しており、おかげで収益性の高い商品を生産しています。この会社が現地で資源を買うことで生産量が上がり、農家の方は裕福になりますし、同時に企業価値も上げています。そういった例を挙げながら、CSVのプロセスや、どうやって企業価値を上げているのかに注目して研究しました。
宮重先生から卒論の書き方や論理構成の仕方を教わっていたので、論文を書くことに関しては全然苦労しませんでした。ただ、書き始めが遅かったので、宮重先生からは「まだ深掘りできるよ」という評価をいただきました。大学でもこの研究を続ける予定ですが、宮重先生が過程を十分に評価してくださったことは嬉しかったですね。
将来に向けて、何をするべきか。祖父から代々受け継いでいる教え
-進学先に埼玉大学を選ばれた理由を教えてください。
高専で卒業研究をしているときに、埼玉大学の水村典弘教授の論文を拝見し、「この先生の授業を受けてみたい」と思ったことがきっかけです。加えて、勉強だけでなく、真剣に取り組んでいる筋トレにも引き続き注力したいと思い、学業面と生活面の両立を考えた時に、埼玉大学への進学がベストだと考えました。
進学してよかったことは、行動範囲が広がったことです。関東圏の大学ということもあり、企業説明会やいろんな方たちと会うためにもすぐに東京に行けますし、筋トレなど自分が好きなことに打ち込むことができています。現在はジムでバイトをしつつ、ジムに毎日行きながら、大学で研究活動を続け、就職活動も行っているので、この三つのバランスが取れています。
私は「人からやらされている」と思いながら行動すると、他責思考になってしまうので、自分から動いて責任を取ることが好きなんです。私が継続している筋トレや、英語についてもそうなのですが、やっぱり毎日の努力を怠るとすぐに衰えてしまう。進学して、主体的に動けるフィールドが広がったので、これまで築き上げてきた筋肉のように、私自身も成長し続けたいですね。
-今後の進路や目標について教えてください。
就職先は営業・コンサルに重きを置いていて、幼少期から続けている英語や、現在の研究成果なども生かせる外資系のメーカーの営業職に就きたいと思っています。そこに向けて、インターンにも積極的に参加しています。
直近のインターンでは、グループディスカッションをしたのですが、企業が必要としている論理的な思考や、リーダーシップ力、課題解決力や提案力などは全て宮重ゼミで学んだので、感覚としてはただアウトプットするだけなんです。経験が生きていると思いますね。
私は「今どれだけ頑張っていても、結局は将来どこに住んでいて、どういう暮らしをしているのかが大切」という、祖父から代々受け継いでいる教えを重視しているんです。将来に向けてやるべきことはたくさんありますが、長期的な目で見て、そこに向けて何をするべきかということは常に考えるようにしています。
あとは負けず嫌いなので、やっぱり何にしろ1位を取りに行きたい気持ちがあります。先述のグループディスカッションでも1位を取りましたし、「勝負は勝たなきゃ意味がない」と思っているので、今後も「今、何をするべきか」を常に考え、全力で勝ちに行く姿勢で頑張りたいです。
―現役の高専生にメッセージをお願いします。
高専の勉強は教科が多いので、どうしても「テストのための勉強」になってしまう学生が多いと思います。ですが、テストで高い点を取るための勉強ではなく、実際に身に付けることを念頭に置いて勉強すると、将来きっと自分の役に立つと思います。
また、高専は5年間同じ場所で学ぶので、外に出たとき、「周りとしてきたことが違うのではないか」「自分のレベルは周りと比べてどうなんだろう」と不安に思うことがあるかもしれません。
ですが、大学で授業を受けていると、高専の授業は比較しても遜色がないレベルだと感じます。特に高専で専門的に学んできた分野を大学で研究する際、既に一定の知識のある高専生は、大学生よりも実力を発揮できる場面もあると思います。自信をもって、大学でより高度な研究に挑戦してほしいですね。
大学編入などの受験期になると、クラスの雰囲気が重くなりがちです。SNSではいろいろな情報が発信され、自信を失ってしまうこともあるかと思います。ですが、その都度焦っていては物事に集中できません。他者と比較することはやめて、自分がしてきたことを信じて、焦らずに自分の人生を進めてください。
青木 大介氏
Daisuke Aoki
- 埼玉大学 経済学部 3年
2024年3月 富山工業高等専門学校 国際ビジネス学科 卒業
2024年4月 埼玉大学 経済学部 入学
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