旭川高専を卒業後、専攻科に進まれ、現在はホンダテクノフォートに勤務されている髙橋謙斗さん。夢をかなえることができたのは「逆算思考」だったとのこと。F1がきっかけで高専に進学したという髙橋さんに、高専時代の出来事や仕事への思いを伺いました。
「24時間耐久レース」で高専を知る
―旭川高専に進学されたきっかけを教えてください。
車とバイクが好きだった両親の影響で、家で車やバイクをいじっている父の手伝いをするうちに、「車に携わりたい」「レーサーになりたい」が将来の夢になりました。
小学生のとき、十勝であった「24時間耐久レース」に両親と一緒に見に行ったところ、そこにホンダ関係者の方がたくさんいたのを覚えています。参加されていた方に「どうすればホンダで働けますか?」と聞いたときに、高専の存在を教えてくれました。
ちょうどF1にハマっており、空気の中を車が高速で走る原理が分かる「流体力学」を学びたいと思いました。当時は小学校5年生だったので、「どうすれば高専に入学できるか」を考えて、中学時代は勉強に力を入れましたね。
―旭川高専に進学されてみて、いかがでしたか。
流体力学は面白かったですが、苦手分野でもありました(笑) 空気抵抗などがあるので、流体独特の「1+1=2」にならない考え方を理解するのが難しく、「もう少し頑張っておけばよかった」と今でも後悔しています。
流体力学が専門でした宇野直嗣先生の勧めもあり、一度だけ「CADコンテスト」にも出場しました。滑り台の上から3Dプリンターでつくった10cmほどの車を滑らせて、どれぐらいの距離を滑走できるかを競うコンテストだったのですが、成績はあまり良くなかったです(笑)
ノウハウのない状態で出場したので、固定概念にこだわりすぎていたと思います。エネルギーロスを少なくする方法や、トンネルの中の状態を解析するなど、他のチームはこだわっていたので、そこは心残りですね。でも、いい経験になりました!
-高専生のころは、ダンスチームのインストラクターをされていたらしいですね!
地元のダンスチームに幼い頃から所属していたので、高専生のときはインストラクターをしていました。僕が高専に通っていることは、教え子の中でもけっこう有名だったんです。
当時は金髪だったので、保護者の方から「やんちゃしているんじゃないか」と思われていたかもしれませんが(笑)、高専の話をすると「うちの子も通わせたい」と言ってきてくれて、よく相談に乗っていましたね。
それから練習終わりに、中学生に勉強を教えるようになりました。教え子が5人ほど高専に入ってきてくれたので、嬉しかったです!
早くからの情報収集が実を結び、専攻科に進学
-卒業研究は、何をされたのですか。
旭川は米づくりが盛んなので、精米するときに出る「籾殻(もみがら)」を使って新しい燃料をつくるという固形燃料の研究をしました。将来、自動車メーカーでエンジンの開発に携わりたいと思っていたのが理由です。所属していたのは、当時、燃焼工学が学べた立田節雄先生の研究室でした。
籾殻を高圧圧縮して固形燃料をつくっていくのですが、燃やしてもほとんど形が変わらず灰になるんですよ。すると空気の通りが悪くなって燃えなくなるので、その改善は難しかったです。
また硫黄成分が多く、煙突に粘着物質がついてしまうので、「籾殻は燃やしてはいけないんじゃないか」と相方と話し合ったりもしました(笑) でも、身近にあるものをどうにか再利用しようと考えを巡らせたのは楽しかったです。
-専攻科に進まれたきっかけを教えてください。
実は、知り合いの社長さんから経営側からの「高専の印象」をよく聞いていました。またそれとは別に、実際に企業に就職した同級生の話を聞いたときに、「大卒同等の『学士』は持っていたほうがいい」と判断したんです。
それは、経営者目線からすると「高専卒は大卒よりも技術があり、しかも人件費がかからず使いやすい」という話でした。一方で就職した同級生は「大卒以上の技術や仕事量は求められるのに、給料が安くて不満」という内容でした。
その2つの視点を踏まえて、大卒同等の『学士』が得られ、かつ高専卒もアピールできる専攻科一択で進学を決めました。
僕の場合は、相談できる環境が整っていたので進路に迷うことは少なかったのですが、もしそのような環境がないのであれば、自分が行きたい会社に卒業生を輩出している大学に編入するのも良いと思います。
自由応募だと、その企業が高専を理解してくれているかは分からないので、大学のネームバリューをお借りして、行きたい会社に就職していたかもしれません。どちらにせよ、情報収集は大切なので、それは早いうちからやっていて良かったと思います。
-専攻科では、どのような研究をされたのですか。
近赤外線レーザーを用いて、非接触でストレス強度を測る研究をしました。人の手首の静脈に近赤外線レーザーを当てて、返ってくる光のエネルギーを分析することで、ストレス強度を評価する方法です。ストレスがかかると脈拍が速くなったり、ヘモグロビンの数値が大きく変わったりするんですよ。
あと、ストレスを感じると脳に運ばれる酸素が少なくなるので、頭が回らなくなるなどといった仕組みも理解することができました。
研究が進めば、装置を小型化して車へ搭載したり、ウェアラブルデバイスなどへアプローチしたりできる研究だったので、楽しかったですね。
夢をかなえ、憧れの人と一緒に仕事をする
―その後、ホンダテクノフォートに就職されました。
入社後は栃木にある、車の耐久性や部品のテストをする部署に配属されました。テスト治具をつくったり、車を加工したりする機会がかなりの頻度であったので、高専の実習は非常に役立ちましたね。
材料力学はもう少し高専生のときに勉強していれば良かったです。開発やテストをやっているときに、材料力学でしか聞かなかったような言葉が出てきまして、慌てて高専時代の教科書を見直しましたね(笑)
今は北海道に異動で戻ってきて、運行管理の仕事をしています。内容としては、テストチームの方々が安全に走行できるように、テストコースを維持管理する仕事です。
実は、僕がホンダを目指すきっかけとなった「24時間耐久レース」でチーム代表を務められていた本田技研工業の古橋譲さんと、一緒に仕事をさせていただいています(取材当時)。当時の写真を見せて、「こんなに大きくなりました!」と報告すると、覚えてくださっていて、とても嬉しかったです!
会社の中でもレジェンドな方なので、本当に憧れを隠すのが精一杯です(笑) 小学生の頃から諦めずに夢を追いかけて良かったと思います。
―髙橋さんの今後のご展望をおしえてください。
職場では最年少になるので、「次の世代を担う」という責任感やプレッシャーは感じています。世界一安全なコースをテストチームに提供できるようにしていきたいですし、技術と人間性を兼ね備えた人になりたいし、そういった方を育てていきたいという思いもあります。
僕の座右の銘は「最後に笑うのは自分」なんです。これは、僕だけ楽をして自分だけ笑えばいいということではなく、「みんなを笑顔にさせてから、最後に自分が笑いたい」という意味で使っています。
気遣いや思いやりという人間性は最低限必要ですし、自分ファーストではなく、相手のために何かできるか考えられる人が、どの分野においても大切なのかなと思いますね。
―現役の高専生にメッセージをお願いします。
5年間もいると目標を見失うときが必ず来ると思うんですよ。僕も在学中は「このまま就職していいのかな」「いろんな世界を見なくていいのかな」と思うことがありました。そうなったときには、高専に入った目的を思い出してほしいですね。
実は今、研究室時代の後輩から声を掛けられて、学生フォーミュラの走行練習に第三者目線でアドバイスする機会をいただいています。自分の世代でそのプロジェクトをやりたかったなと思うぐらい、今の高専生が羨ましいですね(笑)
そうやって先輩後輩の垣根を越えて、社会人になった今も「高専」という共通項を持って、プロジェクトにお声がけいただけるのは、とてもありがたいです。「高専」という2文字だけで全国どこでも友達ができるのは、高専の良さだと改めて感じています。
あとは、やりたいことを明確化して逆算する方法をおススメしたいです。僕がもし、在学中にやりたいことが見つからなかったとしたら、将来の選択肢を広げるためにも、自分が行ける一番難しい大学にチャレンジしていたと思いますね。
将来的に「これがやりたい」となっても、大卒じゃないと就職できない企業は正直あります。やりたいことがまだ見つかっていない学生さんは、自分の進路の幅を広げるためにも授業をしっかり受けて、進学も就職も選べる状態をつくっておくといいと思いますよ!
髙橋 謙斗氏
Kento Takahashi
- 株式会社ホンダテクノフォート PG・試作事業室 Senior Staff
2014年 旭川工業高等専門学校 機械システム工学科 卒業
2016年 旭川工業高等専門学校 専攻科 生産システム工学専攻 修了
2016年より現職
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