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高専教員を経て気づいた「学生が主体となって学べる環境」の大切さ。プログラミング学習で学生を支援できるように

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広島工業大学でプログラミングの学習支援の研究をされている松本慎平先生。実は、教員としてのスタートは高専でした。松本先生の研究内容や教育に対する思いを聞いていく中で見えてきた、高専の魅力を掘り下げます。

「考える力」を養える高専の素晴らしさ

―松本先生が高専と関係を持つまでの経緯を教えてください。

私は普通科の高校を卒業し、経営情報を学ぶために県立広島大学に進学しました。そこでさまざまな先生方と出会う中で「教育関係を仕事にするのも楽しいかもしれない」と思い、国家公務員の資格を取得して文部科学省に就職します。

そして、当時の国立高専はまだ文科省の管轄にありました。そういうこともあって、弓削商船高専の文部科学技官として働くことになったのが、高専と関係を持ったきっかけです。

働いてみると非常にやりがいを感じましたね。その後、独立行政法人となった高専でも教員を続けたいと思い、大阪大学で博士号をとり、大分高専に採用していただきました。

―高専の教員は、どんな点でやりがいを感じましたか?

高専は「ものづくり」を通して実用的なスキルや知識を若い段階から学習できるシステムが構築されています。一般的な普通科の高校でも実用的な知識は学べるものの、それが将来何につながるのかイメージしにくい生徒は多いと思うんです。なぜなら、どうしても「テストで数字をとるための勉強」になってしまうから。私自身も、高校生の頃は何のために学ぶのかがわからず、あまり勉強に興味を持てないタイプでした。

しかし、高専はまず学生の主体性を重んじ、自分たちで考える力を養うことを大切にしているように思います。高専教員になって初めて高専のこうした教育システムを知り、感銘を受けました。

高専教員のころ、ゼミ合宿での写真
▲高専教員のころ、ゼミの合宿にて

―高専生にはどのような印象を持っていますか?

何事に対しても興味関心を持って取り組む、好奇心旺盛な学生が多い印象です。学位を持っている研究者が指導しているのも大きいと思います。研究者は、自分の研究に熱い思いで打ち込み、そこで得た知識を学生に教えてくれる。だから、授業も普通科の高校とは違ってマニュアルがありません。こうした点が、学生に良い影響を与えているように思います。

今はネット社会なので、知識を集めようと思えば集められる時代です。だからこそ「なぜ勉強するのか」「どうやって勉強するのか」など、自分の頭で考える能力を身につけるべきだと考えています。高専の教育は、まさにその力を養える環境が備わっていますので、学生にとってとても素晴らしい環境だと思いますね。

そして、学生の努力が結果になって表れると、やはりうれしいです。私は知識を教えることよりも、やる気を起こしたり興味を持ってもらったりすることに重きを置いて教育していました。勉強がやりたくなる仕掛けを考えるのが教員の仕事だと思っていますし、こうした考えは今の研究につながる部分でもあります。

誰もが勉強に興味を持てるようになる研究

―現在の研究内容を教えてください。

プログラミングの学習支援に関する研究です。私が構築したシステムでは、プログラミングを進める上で必要な構文が選択肢などで提示され、学生が問題を解く過程を見えるようにしています。そして、システム内でログが「支援を要する」と判断したら、指導者に注意が喚起され、学生は適切なアドバイスを受けられるという仕組みです。1番の特徴は、解答内容だけに主眼を置いた、よくある学習教材とは異なる点ですね。

研究で開発しているプログラミング学習支援システム「Hello C」
▲研究で開発しているプログラミング学習支援システム「Hello C」。研究成果はコチラで公開中です

実は、どんなに成績が優秀な学生であっても、プログラミングを理解できない人は一定層いるんです。このことを「仕方がない」と言う人もいますし、「教育水準にかかわらず、プログラミングのセンスがない人もいる」と決定づけている研究論文もあります。

しかし、「本当にそれでいいのだろうか」と、疑問を感じずにはいられませんでした。システムをうまく利用すれば、そうした学生たちを支援できるのではないか。その課題を解決できれば、社会的な意義も大きいのではないか。そんな考えから始めた研究です。

2015年にエンジニアコミュニティにて、研究成果を展示した様子
▲2015年にエンジニアコミュニティにて展示した研究成果(VRを用いた技能訓練システム)

―研究で今後見据えていることは何ですか?

学習過程中のログをためている最中なのですが、それらを分析して何らかの傾向をつかめたら「このタイプの学生はこんなつまずき方をしやすい」というカテゴライズができるようになり、より支援しやすくなるのではないかと考えています。

もちろん、このシステムはプログラミングだけではなく、他の科目にも転用できると睨んでいます。研究が進めば、学習障害で苦しむ人の支援にもつなげられるかもしれません。良い勉強方法が見つからずに悩む学生をはじめ、多くの人々をサポートするために、これからも研究を深めていきます。

広島工業大学のオープンキャンパスでの松本先生
▲広島工業大学のオープンキャンパスでの松本先生(2016年)

プログラミングは、あくまで課題解決の手段

―先生が教育に抱く思いを教えてください。

2021年末の卒業式にて、松本研究室の皆さんと
▲2021年末の卒業式にて、松本研究室の集合写真

教育は、これから大きく変わろうとしていると思います。今までは先生が一方的に教えるだけでしたが、今後は学生たちが主体となって考えていく教育にシフトしていくことは間違いありません。

そんな中で教育者がすべきことは、子どもたちの個々の特性に合わせた環境をつくっていくこと。そして、「教員」としてではなく、コーチやプロデューサーのような役割で関わっていくことが、今後は求められるのではないでしょうか。その点で考えても、高専はまさにそうした教育を先進的に取り入れているように思います。

甲奴駅での松本先生
▲広島工業大学では、中山間地域(広島県・甲奴)の課題をテクノロジーで解決することを目的とした地域課題解決実習を実施。甲奴駅で撮影

―プログラミングを仕事にしたい人へ、メッセージをお願いします。

プログラミングといえば理数が得意な人の分野だと思われがちですが、決してそうではないです。だから、数学を勉強していればいいというわけではありません。何かの問題解決の手段に用いるのがプログラミングですので、社会が抱える制度的な問題にしっかり向き合うことが第一だと思っています。

そして「もっとこうしたらいいんじゃないか」とアイデアが見えてきたら、それを技術で解決するためにはどんなプログラミングを構築するのが良いのかを考えてみる。パソコンを触るのももちろん大切ですが、まずは広い視野を持って社会と積極的に関わることから始めてみてください。

2017年に、エンジニアリングハッカソンのスタッフを務めた頃の松本先生
▲エンジニアリングハッカソンのスタッフを務めた松本先生(2017年)

―最後に、高専生へもメッセージをお願いします。

高専では、入学時に「あなたたちは生徒ではなくて学生です」と必ず伝えていると思います。それほど、「主体的な行動」「自立する能動性」が求められているのです。現在の私には高専生との直接的な関わりがありませんが、離れてみてもしみじみと高専の素晴らしさを感じます。

技術が好きで、ものづくりを究めたい人にはきっと最適な場所ですから、ぜひ興味のある人は高専を目指してみてください。

松本 慎平
Shimpei Matsumoto

  • 広島工業大学 情報学部 情報コミュニケーション学科 教授

松本 慎平氏の写真

1998年3月 東山高等学校 卒業
2002年3月 県立広島大学 経営学部 経営情報学科 卒業
2003年4月 弓削商船高等専門学校 実験実習第2係 文部科学技官
2004年3月 県立広島大学 大学院経営情報学研究科 修士課程 修了
2005年4月 大阪大学 大学院工学研究科 環境・エネルギー工学専攻 特任研究員
2007年3月 大阪大学 大学院情報科学研究科 情報数理学専攻 博士後期過程 修了
2007年4月 大分工業高等専門学校 制御情報工学科 助教
2009年4月 同 講師
2013年4月 広島工業大学 情報学部 助教
2010年4月 広島工業大学 大学院工学系研究科(兼任)
2013年10月 広島工業大学 情報学部 知的情報システム学科 准教授
2020年4月 広島工業大学 情報学部 情報コミュニケーション学科 准教授
2021年10月より現職

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