進学者のキャリア大学等研究員

「好き」がすべてのエネルギー。研究と教育の両面で制御工学の未来を照らし、豊かな社会へ

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「好き」がすべてのエネルギー。研究と教育の両面で制御工学の未来を照らし、豊かな社会へのサムネイル画像

舞鶴高専を卒業し、現在は大阪大学大学院 工学研究科 機械工学専攻で准教授を務める南裕樹先生。近年は、制御工学を中高生に広める活動にも力を入れています。こうした取り組みを進めるためのパワーの源になっているのは「人に教えることが好き」「制御工学が好き」という、南先生の熱い気持ちでした。

ロボットは、決してつくるだけではなかった

―進学先に高専を選んだ理由を教えてください。

小学5年生の頃に「高専ロボコン」をテレビで観たことがきっかけです。もともとミニ四駆をつくったり、捨てられた家電を分解したりと、ものづくりには興味がありました。

小学6年生のころの南先生
▲小学6年生のころの南先生。幼稚園の頃からドラえもんが好きだったそうです

また、家の近くの工事現場でユンボが動く様子を見て、「いつか自分も機械を動かしてみたい」という漠然とした憧れも抱いていましたから、高専生がロボットを自分たちで製作・操作している姿に衝撃を受けたんです。

以来、「工学の勉強をしたい」という思いは増すばかりで、中学1年生の頃にはすでに「卒業後は普通高校ではなくて高専に行く」と決めていました。3年生の夏にはオープンキャンパスにも足を運び、そこで「ロボットのことを学びたいなら電子制御工学科がいい」とアドバイスを受け、舞鶴高専を選びました。

―実際に高専に入学して、いかがでしたか。

刺激的な毎日でした。周囲の同級生が非常に優秀で、みんなと一緒に勉強をするのが本当に楽しかったですね。また、それまで小学校や中学校の先生しか知らなかったので、独特な空気感を持つ高専の先生方の姿にもたくさんの影響をもらったように思います。

親元を離れての寮生活や100分授業など、初めてのことだらけの5年間でした。

高専生のころ、ご友人と卒業旅行へ行った際の写真
▲高専生のころ、ご友人と卒業旅行へ。後ろの車は、高専4年生から専攻科2年生の4年間乗っていた愛車です。

―ロボコンには参加したのでしょうか。

もちろんです。ただ、いざやってみると思っていた以上に大変でした。みんなと一緒に協力してひとつのことに向かうのは、そう簡単ではないのだと実感しましたね。

同時に、ロボットをつくるにはセンスがいることを痛感し、「自分にはメカニズムを考えるのは向いていないようだ」と気づきました。動かし方をプログラムで決めるなど、ロボットの動きをデザインし、知能化していく制御工学の道に進もうと決めたのは、この経験があったからだと思います。

制御工学を教えてくれた川田昌克先生(現・北九州高専 教授)と
▲制御工学を教えてくれた川田昌克先生(左、現・北九州高専 教授)と。川田先生が執筆された教科書で制御工学を勉強しました。20年ぶりに改訂されたときの記念写真です

「ロボット=つくること」としか考えられていなかった自分に、動かし方を理論的に考える分野もあるのだと教えてくれたのが高専だったというわけです。まさに、ここが人生の転換期でした。

多分野を渡り歩ける「制御理論」

―大学院に編入したのは、制御工学をさらに研究したかったからですか。

「研究を突き詰めたい」という気持ちはもちろんありました。しかし、最大の動機は「高専の教員になるために博士号をとりたい」です。当時の自分には先生方のような生き方が理想でしたし、同級生に勉強を教えるのも得意でした。

ただ、高専は推薦で入学しましたし、在学中も成績が良いほうだったので、実はほとんど受験勉強をしないまま挑んでしまい……。案の定、最初の編入試験は惨敗でした(笑)

これが、人生の中で初めて味わう挫折だったかもしれません。その年は気を取り直して専攻科に進み、リベンジして、無事に京都大学大学院への進学を果たしました。しかし、この失敗があったからこそ、改めて自分が何をしたいかじっくり考える機会をもらえたと思っています。

専攻科生のころの南先生。ご友人と、京都の寺社仏閣巡りへ
▲専攻科生のころの南先生。ご友人と大学院入試合格祈願のため、京都の寺社仏閣巡り

―今の研究分野について教えてください。

ものの動きをデザインする「制御工学」です。制御とは、機械を意のままに操って自律的な動作を可能にすることです。

一般的に、高性能なデバイスやリッチな情報があれば高精度な制御を実現することができますが、リソースの少ないデバイスや少ない情報しか使えない場面では高精度な制御の実現が難しくなります。そこで、私はこの限界を突破して、「少ないリソース下で良い制御をするための制御理論」の研究をしています。

制御理論とは制御工学の一分野で、「ものの動きを数式で記述し、その数式を使ってものの特徴を調べたり、ものの動かし方を決めたりする学問」のこと。これまで、On/Offのような離散的な値で動く制御システムのための制御手法を提案し、ロボット制御への応用を検討してきました。

大阪大学石川・南研究室の集合写真
▲大阪大学石川・南研究室の集合写真。30名近いメンバーと一緒に、制御・ロボット・AIの研究を進めています

―先生が感じる「制御理論」の魅力は、どこにありますか。

1番は、自分の思ったとおりに動かせる点です。また、制御理論は数学モデルに落とし込んで考えると、どんな操作や入力をしていくべきなのかが一目瞭然です。これが、非常に気持ちいい。透明感があり、実に明快で、研究を進めるのが楽しいんです。

また、数学モデルを使えたら何でも制御理論の範疇ですから、生物や経済、医療など、世の中の様々なものが対象になります。つまり、たくさんの分野を横断できるということです。数多の業界に入っていけるし、制御理論という武器を使ってどこまでも道を開拓できる。これほど面白いものはないと思っています。

―研究分野で今後目指したいことはありますか。

新しいシステムをデザインするための方法論を体系化していきたいと考えています。そのひとつが「モノと環境の境界を曖昧にする制御理論」です。

自動車を例に考えてみましょう。制御理論を用いれば自動車そのものを賢くすることはもちろん可能です。ところが、コンピュータのメモリやリソースには限りがあるため、「さらに性能を高めたい」と思っても、このままでは無理がある。そこで、自動車を取り巻く環境に焦点を当ててみるのです。

例えば道路などの交通インフラを賢くする研究ができれば、自動車(モノ)と環境の相互作用によってさらに全体の性能があがっていきます。このように、これまではロボットの外側にあった環境そのものに知能を埋め込み、モノと環境の境界を曖昧にしていくことが、さらに豊かな生活につながるのではないかと考えています。

未来に託す制御のバトン

―大学院を卒業してから、現職に至るまでの道のりを教えてください。

博士後期課程2年生の頃、母校・舞鶴高専の恩師が退職することになり、教員公募が出たんです。課程修了まではあと1年ありましたが、幸い博士論文の条件を満たしていたため期間短縮修了をし、目指していた教職に就きました。

高専での授業風景
▲高専での授業風景。南先生はロボット工学や制御工学の講義と実験を担当されました
舞鶴高専の教員のみなさんと
▲舞鶴高専の教員のみなさんと。仲の良い同世代の同僚がたくさんいらっしゃり、毎晩食事に出かけていたそうです

高専の仕事にやりがいは感じていましたが、結婚によって自分のライフステージが変化したこと、大学から声をかけていただく機会が増えたこともあり、「今度は中ではなく外から高専を応援しよう」と決意。そして、京都大学で任期付きの大学教員として働き始めました。

その後、奈良先端科学技術大学院の助教を経て、現在に至ります。大学ではよりいっそう研究に没頭する時間が増えました。もちろん、高専の大学説明会で話をしたり、非常勤講師を務めたりなど、今も高専との関わりはあります。2019年、2022年には高専ロボコンの近畿地区大会の解説も担当しました。

高専ロボコン(2022年)の解説席からの風景
▲高専ロボコン(2022年)の解説席からの風景。ロボコニスト、指導教員を経て、2019年に解説員として戻ってきました。2022年の解説は2度目

―現在は教育活動にも力を入れていると聞きました。詳しくお聞かせください。

「自分が勉強してきたことを伝えたい」「制御工学を多くの未来ある子どもたちに知ってもらいたい」という思いで、大阪大学に着任してから積極的に教育分野で活動するようになりました。

ここ数年で教科書を3冊ほど執筆したり、「Girls in Control」という10~15歳の女子を対象としたプログラミング教室の運営をサポートしたりしています。また、2年ほど前には「一般社団法人みんなの制御塾」を設立しました。

目的は、制御工学やロボット工学、AIをたくさんの人に知ってもらう活動をすることです。ロボットプログラミング教室を開催したり、中学や高校で「理系選択の可能性」や「GIGAスクール構想(※)の先」といった内容の講演をしたりしています。

※2019年に文部科学省が打ち出した、全国の児童生徒一人ひとりに1台の端末等を与えつつ、高速大容量の通信ネットワーク環境を一体的に学校へ整備する構想。GIGAは、Global and Innovation Gateway for Allの略

ロボットプログラミング教室の様子
▲ロボットプログラミング教室の様子。小中高校生に制御工学の面白さを伝える活動をしています

私自身、幼少期の頃からものづくりに興味があったものの、地元は田舎で、周りにロボットやプログラミングに触れる機会がありませんでした。身近に経験できる場所があるのとないのとでは、大きな差が生まれます。だからこそ、このような取り組みを始めたのです。最近は、コロナ禍をきっかけにYouTuberデビューも果たしました。

▲南先生のYouTubeより「Pythonで学ぶ制御工学 Part1」

ありがたいことに、こうした活動の一部が評価され、2022年には計測自動制御学会の教育貢献賞をいただきました。私は制御工学が大好きですし、1人でも多くの人が制御工学への理解を深め、扱えるようになれば、世の中はさらに豊かになっていくと信じています。

―高専生へのメッセージをお願いします。

自分が学生だった頃と比較して、近年の高専生の技術力は非常に高く、様々なことにチャレンジしている印象を抱いています。高専は実験・実習を大切にしているので、5年間その環境で鍛えられた高専生は手を動かすことが得意で、作成するレポートのクオリティも高い。これは、大きな武器だと思います。

高専ロボコンの指導教員を担当した舞鶴高専時代の写真
▲舞鶴高専の教員のころは、高専ロボコンの指導教員を担当。2010年は全国大会にも引率しました

まだ10代の皆さんには、これからいろいろなことが待ち受けているでしょう。何か失敗をしたり挫折を経験したりするたびに、「環境が良くない」と、不満をもらすこともあるかもしれません。そんなときには、「制御できるのは他人ではなく自分」だと思ってください。

他人にばかり改善を求めるのではなく、まずは自分自身を変える努力をしてみる。すると、物事の見え方が変わるかもしれません。そういう心構えで、失敗をおそれずにどんどんチャレンジしていきましょう!

南 裕樹
Yuki Minami

  • 大阪大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 准教授

南 裕樹氏の写真

2003年3月 舞鶴工業高等専門学校 電子制御工学科 卒業
2005年3月 舞鶴工業高等専門学校 専攻科 電気・制御システム工学専攻 修了
2007年3月 京都大学大学院 情報学研究科 システム科学専攻 修士課程 修了
2009年3月 京都大学大学院 情報学研究科 システム科学専攻 博士後期課程 期間短縮修了、博士(情報学)
2009年4月 舞鶴工業高等専門学校 電子制御工学科 助教
2013年4月 京都大学大学院 情報学研究科 システム科学専攻 特定研究員
2013年7月 同 数理工学専攻 特定助教
2014年10月 奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 助教
2017年1月 大阪大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 特任講師
2017年4月 同 講師
2019年3月より現職

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