2016年に富山高専を卒業し、現在は株式会社リクルートで人事の仕事に携わっている大辻彩加さん。現在の道が拓けたのは、高専で出会った「経営学」がきっかけでした。「自分らしく生きたい」と願う大辻さんのこれまでや、高専生へのメッセージを伺いました。
「最短ルート」を求めて高専へ
―どんな幼少期を送られましたか。
父が週末になると海外ドラマをよく観ていたので、私もそれに影響を受け、幼い頃から海外映画やドラマを好んでいました。
海外の作品で描かれる女性の多くは自立している印象が強く、特に携帯電話を片手にキャリーケースを引いて颯爽と街中を歩く女性たちがすごく格好良くて、「いつかこんなふうになりたい」と、漠然とした憧れを抱いていたのを覚えています。
―高専の存在を知ったきっかけは何でしたか。
海外の作品が好きだったことや、年の離れた兄がいて英語に触れる機会が人より多かったことなどから、早い段階から語学を武器にできる仕事に就きたいと思っていました。
高専の存在を知ったのは、中学1年の頃です。家庭教師の先生が富山高専の国際流通学科(現・国際ビジネス学科)の出身で、「こういう進学もできるよ」と教えていただきました。高校といえば普通高校しか頭になかったので、それ以外の選択肢があることに驚きましたね。
―高専進学への決定打は何でしたか。
高専は「くさび型教育」といって、まずは一般教養を多めに、ゆくゆくは専門科目を中心とした教育プログラムが組まれています。両親が共働きだったこともあり、私の中ではビジネスの世界で仕事をすることが大前提だったため、興味のある語学とビジネス科目を中心に勉強ができる点に強く惹かれました。
また、私は昔から目的志向が強く、やりたいことがあったら何の道草もせずに、最短ルートで描いたビジョンに向かいたいと常々考えていました。ですので、高専は就職率が高く、5年間通った後に仕事に就くキャリアパスが明確にあるのが魅力的だったんです。
高専に行くと決めてからは、推薦入学のほうが受験勉強をする時間を他のことに使えると思い、中学校生活でも推薦の条件を満たすことは意識していました。
「経営学」に出会い、今までの悩みに答えが
―実際に高専に入学してみていかがでしたか。
自分の考えの甘さを思い知りました。私の「最短ルートで行きたい」は、言い換えれば「楽をしたい」なんです。でも、クラスメイトの多くは熾烈な受験戦争を勝ち抜いたり、一般の進学校と天秤にかけて高専に行くことを決断したりと、ストイックな人たちばかりでした。
最初に衝撃を受けたのは、国語の授業です。一般教養があれば答えられる質問を先生からされたときに、私は答えに迷ってしまいました。ところが、前の席に座っていた友人はすらすらと自分の考えを発表したんです。
「5年間を高専で過ごしたら就職ができる」と思っていましたが、このままではダメだと感じました。世に出ていくためには幅広くしっかり学ばなければと、かなりの時間を勉強に費やしたと思います。
よく「高専は授業時間が長くて大変そう」などと言われますが、当時の私にとってはそれが当たり前だったので、勉強をすることを辛いと思ったことはなかったです。
―富山高専では、どんなゼミを選択されたのですか。
経営学を教えてくださる宮重徹也先生のゼミです。幼い頃から、団体の中でリーダーをすることが多かったものの、組織のメンバーをうまく巻き込むことができず、1人で抱えることが多くありました。そのため、「どうやったら上手く組織を運営できるか」「一人ひとりがやりがいを持ってコトに向かうには、リーダーとしてどうあるべきか」と考えることが多かったと思います。
高専入学後、宮重先生の授業で経営学を学んでいく中で、「自分が機械的な組織運営をしようとしていたために、メンバーのモチベーションを削いでしまっていたのか?」だとか、「一人ひとりモチベーションが異なる中で、あのとき自分は一律に扱っていたのではないか。だから上手くいかなかったのではないか?」など、組織運営やリーダーとしてのあり方に関する失敗要因を学んでいたように思います。
それと同時に、自分にとってかなり実用的な学問だと、面白さを感じていきました。授業の1つではなく、「もっと経営学を深く学んで行きたい」と思い、宮重ゼミを選択しました。
―在学中はどんな研究をしたのでしょうか。
「カルビー社がシリアル食品市場において後発優位を実現した理由」についてです。
これまで「シリアル」といえば子どもが食べる朝食のイメージが強かったと思いますが、カルビーがフルーツ入りのグラノーラを発売したところ、たちまち「健康に気を使う大人たち」にまでターゲットが広がりました。このように、一気にシリアル食品市場で頭角を現していたのを以前から面白く思っていたのです。
もともとカルビーの商品が好きだったのもあり、研究は非常に楽しく取り組めました。また、高専4年の頃に読んだ『イノベーションのジレンマ』(著:クレイトン・クリステンセン、監修:玉田俊平太、訳:伊豆原弓、翔泳社、2001)という本で「先発優位と後発優位」について学んでいたため、興味関心がつながったのだと思います。
―その後、大学に進学した理由を教えてください。
「このまま社会に出るのは早すぎる」と思ったからです。経営学を知れば知るほど楽しく、もっと突き詰めて学びたいという思いが強くなり、高専4年の頃に決意しました。
実は、最初のうちは経営学の道に進むか、得意だった語学の道に進むかとても悩みました。でも、高専4年の4月から8月にかけてカナダに留学をした際に、「私にとっての英語は手段だ」と感じたのです。
「1度きりの人生で何をしたいのだろうか」と自分の目的を改めて考えたときに、経営学を追求したほうが様々な道が思い描けるのではないかと思い、神戸大学の経営学部に進みました。
自分の心境の変化を、つぶさに読み取る
―就職活動では何を基準にしましたか。
大学では後輩のキャリアを支援する団体に所属し、後輩の面談をしたり人事的な業務を担当したりしていたため、人的心理管理や人事の仕事には興味を持っていました。
ただ、入社してすぐに希望の仕事ができるとも限りませんし、就職先を選ぶうえでは会社にも業種にも大きなこだわりはなかったです。それよりも「自分らしく生きるにはどんな会社がいいか」「社会のみんなが心地よく生活できる世の中にするにはどんな仕事がいいか」をメインに考え、色々な会社の経営理念に注目していました。
そんな中、株式会社リクルートが、個(個人)をあるがままに生かす「個の尊重」を経営理念としていることを知りました。リクルートは他にも「Follow Your Heart 一人ひとりが、自分に素直に、自分で決める、自分らしい人生。」などを経営理念として掲げていて、会社として社員の働き方を考えるのはもちろん、事業を通してそれを社会に提供しようとしている姿勢に感銘を受けたのを覚えています。
ここで働けたら自分らしく生き続けられるのではないかと思いましたし、OB・OG訪問でもより会社への理解が深まったので入社を志望しました。
―入社後はどんな仕事を経験したのでしょうか。
「新卒採用部」に配属され、3年間、自社の新卒採用を担いました。採用した方が入社後に活躍する可能性を拓く支援をするのはやりがいのある仕事です。でも、他社の採用支援もできるようになりたいと思い、手挙げ制で異動する社内制度(キャリアウェブ制度)を使って1年ほど営業職を経験することにしました。部内表彰も連続していただくようになり、異動後半年くらいで後輩の育成を考え、上司に提案をするようになったりしていました。
そして、営業成績ができて時間に余裕が生まれたとき、ふいに考えたことが、「自分の部署だけでなく他の部署も含め、リクルートに新たに入ってくるメンバーが入社後にそのポテンシャルを生かして活躍いただき、現場に還元されるためにはどうしたら良いか」でした。
そのときに「自分はやはり人事的な目線で組織に関わりたい人なんだ」と感じ、再び社内制度を使って今度は人事部へ異動することにしました。それが、現在所属している「人材・組織開発室」です。
現組織では、オンボーディンググループに所属しており、リクルートへの新卒・中途入社者を対象としたオンボーディング支援を行っています。新たに組織に入ってきた方々が、会社や実際に働く職場、職種などに馴染み、活躍していってもらえるような施策・研修の企画を行っています。
―やりがいを感じる瞬間を教えてください。
実は、オンボーディンググループ自体出来上がって間もない組織なんですよね。オンボーディング組織として何にオーナーシップを持ち、どこまで踏み込んで価値をつくっていくかもまだ明文化・共通認識化されていない、そんな中で異動してきました。
私はこの状況自体大変な一方で、とてもワクワクしています。組織として価値を磨いていくためにどんな仕組みが必要か、メンバー同士はどんな関係性であるべきか、どんな情報をどれくらいの頻度で共有できているとよいかなどを意見し合うことで、組織をつくるところから関わっている感覚が持てていて、それがやりがいです。これまでの知識や自分の得意分野が生かされている感覚があります。
―最後に、高専生へメッセージをお願いします。
「なぜ高専に入学したのか、今もなお居続けるのはなぜか、今後も居続けるとしたらその理由は何か?」という問いをお伝えできればと思います。
答えを考える中で、入学してからの自分の心境の変化に気付いたり、高専だからこそ堪能したい機会が具体的になったり、逆に、高専ではできないことが何かを考えるきっかけになると、今後の進路を見つめる機会になるかもしれません。
メッセージを問いにしたのは、人生は1回きりなので、自分が考える意味やその考え方を大事に、自分らしく生きていってほしいからです。私は、幼い頃から自分の心と向き合う機会が多く、周りからしたら「ちょっと変わった子」に映っていたかもしれません。
でも、そうやって向き合い、考え続けてきたからこそ、自分らしく生きる道を模索できているのではないかと思っています。また、時間は有限です。できるだけ後悔してほしくないので、今ある環境に目を向けて、そこでできることを思いきり満喫してほしいと願っています。
大辻 彩加氏
Ayaka Otsuji
- 株式会社リクルート 人材・組織開発室 人材・組織開発部 オンボーディンググループ
2016年3月 富山高等専門学校 国際ビジネス学科 卒業
2018年3月 神戸大学 経営学部 卒業
2018年4月 株式会社リクルート 人材開発室 新卒採用部
2021年4月 株式会社リクルート Division統括本部 HR本部 HRエージェントDivision EMC営業部
2022年4月より現職
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